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40年間眠っていた卵から孵ったミジンコでわかった短期間での高温耐性獲得

 原著論文には要旨以外のアクセスはできないのですが、興味深い論文が出たようです。実験自体は高校生の生物クラブでもできるような簡単なもので、1955-1965 年頃に泥に埋まってそのまま眠り続けていたミジンコ (Daphnia magna, 和名オオミジンコ) の休眠卵と 1995-2005 年頃にドロ(土をコアで採集)に埋まっていた休眠卵を掘り出し、孵化させて孵ったミジンコ(全部メスで単為発生を繰り返してクローンになる)を増やして高温(30数度)で正常に生き続けることができるかどうかを比べたというものです。

 原典はこちらですが、アクセスにはお金がかかりますので、見られません。(Nature ケチくさい !)

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 近年の温暖化でイギリスの湖の浅いところで生活するミジンコの生息環境温度はどんどん高くなっているのだそうで、そこに住むミジンコがこの40年間で高温環境に適応したのではないかということが研究の動機のようです。

 で、普通の飼育温度よりも4℃高いところで飼ってみて、どのくらい耐性があるかを調べたというのが実験の骨子です。原著全文にアクセスはできないのですが2つの図のサムネイル画像があります。こちらがFig.1です。

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 良くは見えないのですが、青いのが40年間眠っていた卵から孵った個体で、赤いのが最近のものだと思います。そして、上の図が孵して普通の温度でクローン増殖をさせた個体での実験で、下の図が2年間高温条件(+4℃)でクローン増殖を繰り返した個体での結果のように思われます。

 上の図だと青が34℃で赤が36℃くらいの平均値ですが、下では青が37℃赤が37.5℃くらいまで大丈夫で、著者らはこのデータからミジンコは2年間でも十分高温耐性を獲得できる(進化した)と考えているようです。

 もう一つ図があるのですが、こちらは上の図の下の図で高温耐性を獲得したミジンコの個体の大きさを見たもので、最近のものは小さいほうが高温に強いという結果が出ているので、個体サイズと高温耐性に関係があるのかもしれないといいたいのかもしれません。しかし、40年前の卵ではその差が出ていないのはちょっと不思議です。

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(もちろん、本文を読まずにサマリーとこちらの解説記事からの推測なので、ちょっと自信はありません。)


 大きさと言えば、Daphinia magna オオミジンコというくらいですから大きいです。ちなみに解説記事に載っていたmagnaの写真がこちらで。

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 我々が使っている Daphnia pulex ミジンコの写真がこちらです。

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 まあ、宇宙空間にさらしても不可能力を失わなかったというミジンコの耐久卵(休眠卵)ですから、40年前のドロの中から出てきて孵化したといっても特に驚きはないのですが、この実験の発想自体は見習いたいところです。



Commented by alchemist at 2015-05-12 17:53 x
分子生物屋サンお得意の、熱ショックタンパク質の発現パターンはないのでしょうか?
Commented by STOCHINAI at 2015-05-12 18:13
ないみたいですが、中まで見られないので確認はできません。
by STOCHINAI | 2015-05-12 17:49 | 生物学 | Comments(2)

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