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「病に伏せる」性質はどのように進化してきたのか

 ちょっとおもしろそうな論文を紹介します。久しぶりに「ダーウィン医学(進化医学)」ものです、

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 「どうして病気になると体調が悪くなるのか? - これは種を守るための利他行為なのかもしれない」というような論文です。


 ウイルスや細菌、それに寄生虫などの感染を受けるといわゆる「病気」の症状を示すことは広く動物界に認められる一般的現象で、少なくとも甲殻類からヒトにいたる多くの動物で確認されています。

 病気の症状は発熱や貧血といった症状以外にも"sickness behavior"(SB)と呼ばれる精神的な症状を主とする倦怠感、気分的落ち込み、イライラ、不安感、痛み、吐き気それに食べること、飲むこと、社交、性などに対する意欲減退としてほとんどの人が経験したことのあるおなじみのものです。

 こうした病気の症状は感染しているウイルスや細菌、それに寄生虫などが直接に引き起こしているものではなく、我々のからだの免疫システムや神経内分泌系が引き起こしているということは意外と知られていないかもしれません。

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 ヒトを代表とする哺乳類の場合、こうした反応系についてはかなりよくわかっており、マクロファージや樹状細胞といった白血球がウイルスなどの侵入を感知して、インターロイキン(IL)や腫瘍壊死因子(TNF)といったホルモンのような働きをするタンパク質を分泌し、それを神経や血液、リンパ液経由で受け取った中枢がさまざまな病気の症状を自ら作り出すのです。

 結果として生み出される病気の症状ははっきりとウイルスや病原体と戦うための症状である発熱や低鉄血症などと異なり、多くの動物に見られる以上、間違いなく進化的存在意義があるにもかかわらず、どいういう意味があるのかということに関する共通認識(定説)がないのが現状です。

 明らかにこうした症状は、個々の動物が生きていったり子孫を作り出すということに対してはネガティブな効果を持つのですが、選択されて生き残ってきた現在の動物が持っているということは、その欠点を越えるだけの有利な意味があるはずです。

 それはいったいなんなのでしょうか。

 今までの説明の多くでは、病気になった個体にとって体調が不良になることで無駄なエネルギーを使わずにすむことや、外を出歩かないことにより捕食者の攻撃を受けずにすむこと、食欲不振によって栄養不良になることが逆に、寄生しているウイルスや細菌、寄生動物などにも栄養を与えないことで彼らを栄養失調にもすることができるという意味があると説明してきました。

 新しい論文では、感染個体が病気症状を示すことで家族や近親の動物にもメリットがあると説明します。

 予測1:病気の症状をもった動物が同種の動物との接触が避けられる。

 予測2:その結果、種内での病気のまん延が阻止される。

 予測3:そういう性質は血縁淘汰によって、種の中で進化してくる。

 感染個体が病気症状を示すことで種全体が病気でダメージを受けることから逃れられるということはどうやって証明したらよいでしょうか。進化理論はいつもここで難しい検証の試練にあいます。

 しかし、いっくつかの方法でこれらの予測を検証することはできると著者たちは主張します。

 1.致死性の強い病原体ほど強い病気症状を示す。
 2.伝染性の強い病原体ほど強い病気症状を示す。
 3.社会性の強い動物ほど強い病気症状を示す。
 4.対症療法薬を使うと種内への感染の拡がりが早まる。
 5.感染の拡がりは適切な追跡マーカーを使うことで実際に調べられる。
 6.数理モデルを立てることが可能だ。
 7.コンピューターシミュレーションでそのモデルを検証できる。

 と、最後は将来の展望みたいなことを語っていますが、病気の症状については進化医学的に考えることが、その症状の持つ意味の謎が解けるだけではなく、病気のヒトの移動がどうして禁止されるべきなのかとか、どういった病気の症状をどの程度コントロールしていけばよいのか(場合によっては治療すべきではないとか)という医学的対処法に対するアイディアも与えてくれることにはなると思います。逆に、がんなどの感染症以外によって引き起こされる病気症状に関しては、安心して対症療法を行うこともできるとできるということが最後に述べられておりました。

 ダーウィン医学は実際の治療には役に立たないと言われたこともありますが、実は意外と実践的な考えでもあり得るということを再確認できますね。






by STOCHINAI | 2015-10-27 19:54 | ダーウィン医学 | Comments(0)

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