5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ

 CoSTEPの開講式に行われた最初の講義、中村元(はじめ)氏による2016年度CoSTEP開講式特別講義「水族館に奇跡を起こす ~科学を「大衆文化」にする逆転の発想~」を聞いてきました。

 終始、関西落語を聞かされている雰囲気でしたが、いたるところに科学技術コミュニケーションの真髄ともいえる殺し文句が散りばめられた「名講義」だったと思います。

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ_c0025115_21310243.jpg

 紹介スライドの優男ぶりとはちょっと違って、登場した中村さんはマフラーこそスライドの写真と同じでしたが、上方芸人そのものという軽妙洒脱なお方でした。

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ_c0025115_21334461.jpg

 プロの手になると思われるくらい素晴らしい写真のスライドで、ご自身が手がけられた「サンシャイン水族館」と「北の大地の水族館」のリフォームとそれがどうしてポピュラリティを得ることのができたのかということに関する種明かしを惜しげもなく披露してくださったのはご本人にはまだまだたくさんの「隠し玉」があることの裏返しの自信だったに違いないと感じられました。

 スライドを使った水族館の紹介はほんの序の口で、本編はここからでした。

 スライドを消し、スクリーンを上げ、黒板を前に話を始められたのです。

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ_c0025115_21401919.jpg

 スライドを使わずに話す人が少なくなった昨今ですが、スライドをまったく使わずに話す方はまだいらっしゃいます。しかし、きれいなスライドを見せてくれた後で黒板を使った授業を始めるというスタイルは新鮮でした。

 話の前半で印象に残った言葉が水族館の魔術師と呼ばれる(かどうかは知りません、私が今名づけました)中村さんが、「私はサカナは嫌いです。サカナのことも大して知ってもいません」ということをしきりと強調されていたことです。

 これはなるほどと思いました。中村さんにとって、水族館は「メディア」にすぎないのだそうで、中村さんの定義によると水族館はメディアであって、その目的は右側に書かれた展示を見せて情報を伝えることなのです。

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ_c0025115_21472069.jpg


 そして左側に書いたのが現在の多くのところが目標としている明らかに「間違った」現在の動物園が掲げている目標です。そして次に出てくるキーワードがこちら。

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ_c0025115_21500757.jpg

 動物園も水族館も人の好奇心を刺激しなければ意味がないが、動物園が好奇心を刺激できるのは小さな子どもまで。一方、水族館は「大人の好奇心」を刺激する存在だといいます。

 そういう分析をしたあとで、動物園と水族館を盛り上げていくための出発点とすべき考え方がこちらです。

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ_c0025115_21533317.jpg

 カスタマーズ起点でいかなければ、つまりお客さんの好みに従わなければ今の動物園・水族館は生き残れないということです。また、動物園はお子様の好奇心を満たすことのできる存在かも知れないが、水族館はお子様には受けない。逆に大人の好奇心を満たすことが期待されている場所だ、という分析です。

 そして水族館に期待されているものは「サカナ」じゃないとまで言い切りました。水族館の魔術師がおっしゃることですからその言葉は重いです。彼の判断はこちら。水族館に期待されているものは、水の塊、水の清涼感、青い色、浮遊感、広がる立体感などを感じることだというのです。サカナはいわばそれらの付属物にすぎません。

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ_c0025115_21560906.jpg

 そして、いよいよ北の大地の水族館が成功した種明かしの核心に迫ります。

 水族館を設計する際には、お客さんの行動パターンの解析を最初にすることこそが大事だとのこと。お客さんは水族館にはいって最初の水槽でもっとも長い時間を過ごすものだから、最初に目玉の水槽を持ってくることを提案しています。多くの水族館は最初に大したことのない小さな水槽を置き、だんだんと盛り上げている展示法をとっているようですが、それは「間違っている」と断言します。

 北の大地の水族館は入るなりメインの展示水槽であるオショロコマの瀧が迫ってくるそうです。

サカナ好きが水族館を作っちゃダメ_c0025115_22025309.jpg

 そして、お客さん視点でどうすれば満足してくれるのか、どうしたらまた来てくれるのか、どうしたらおもしろがってくれるのか、ということを北の大地の水族館をケーススタディにしてノウハウを話してくださいました。

 私なりに得た教訓は、「目玉がないときには自虐ネタで行け」だったような気がします。黒板にも書いてありますが、どんな否定的な要素でもそれを逆転して面白がってもらえるネタにできるというのはまさに「上方芸人」ならではの視点だと思いますが、ネガティブなネタもテレビやインターネットといったメディアを通じて売りに変えて行くことができることを現実に示した中村さんならではの強さを教えていただいた気がします。

 もちろん、この話を真に受けて誰でもどこでも一発逆転が簡単にできると思ったら大間違いではありますが、各所にそのためのヒントが埋め込まれた有意義な初授業だったと思いました。

 CoSTEPの授業として無料で聞かせていただきましたが、これがコンサルタントの講演だったら、お一人様*万円を請求されてもあり得るかなというお得な話でした。

 CoSTEPの新・履修生の方々はまだちょっとピンとこなかった部分があったとしても、何年か後にはズシンと心に響いてくることは間違いないでしょう。最初に講義にこういう上質なものに出会えた皆さんは幸運だったかもしれません。

 今後のご活躍を期待します。頑張ってください。







by STOCHINAI | 2016-05-14 22:27 | CoSTEP | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai