5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

野生チンパンジーにも利き腕があった

 本日からアクセス可能になった新しい号のPNASに小ネタになりそうな論文がありました(August 30, 2005 | vol. 102 | no. 35 | 12634-12638)。

 野生のチンパンジーにも利き腕があることがわかり、それが母親から子供へと受け継がれる傾向にあるというのです。

 今までチンパンジーの利き腕の研究は、飼育された個体の研究しかなく、そもそも野生のチンパンジーには利き腕などというものはないとさえいう議論もあったそうです。

 今回の論文に載っている観察では、多数の野生個体の行動をビデオに撮って観察・解析したもので、データは統計処理もなされており信頼性は高いように思われます。

 その中で、シロアリを木の枝で「釣る」行動は左手を利き腕としている個体が多いことがわかりました。おもしろいことに、木の実を石で割る行動と、木の葉をくしゃくしゃにして水に浸し水を飲む行動は逆に右手を利き腕としている個体が多いそうです。行動の種類によって右手を使う傾向が強かったり、逆の手を使う傾向になったりというのはヒトにもあることだそうで、task-specificな差と呼ばれます。

 シロアリ釣り行動に関しては親子の間で利き腕がどうなっているのかという関係も調べており、右利きの母親から生まれた子は有意に右利きが多いことと、同じ右利きの母親から生まれた子はたとえ父が違っても右利きになる傾向があることも示しています。ということは、遺伝と言うよりは母から子への文化的伝承という可能性が高いということをしめしているのかもしれません(もっともこれは結論されていません)。

 というわけで、野生のチンパンジーにも利き腕があることが証明されたので、「利き腕」というものがヒトとチンパンジーが進化によって分かれたとされる500万年前にはあったのだろうと結論づけています。

 この最後のポイントの真偽はさておき、なかなかおもしろい小論文だと思いました。
Commented by ぢゅにあ at 2005-08-31 22:27 x
日本のテレビ番組で白クマは左利き?という実験をやってました。オリの中から食べ物をとろうとする手は確かにいつも左手でしたよ。どうして利き手があるんでしょう?
Commented by stochinai at 2005-09-01 13:15
 利き手のおもしろいところは、遺伝的に決まっているのではなく、練習(文化)によって、どちらかに固定されていくというところだと思います。だからシロクマでも、世界中のシロクマが左利きではなく、どこそこ動物園の系統のシロクマは右利きだ、というような話が出てくるとおもしろいかもしれません。
 うちのネコを見ている限りは、両方の手を同じように使っているような気がしますが、どうなんでしょうね。
by stochinai | 2005-08-31 20:22 | 生物学 | Comments(2)