5号館を出て

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寒さを吹き飛ばすようなニュース(トレハロース論文の解釈は誤り)

 今日も昨日と同じくらい極寒の一日でしたが、昨日はまったく見ることのできなかった太陽がときおり顔をのぞかせてくれました。

 いくら寒くても太陽が照りつけてくれると心も体も明るくなります。

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 寒さを吹き飛ばすようなニュースとは昨夜オリンピックで日本選手が3つメダルをとったことではありません。まあ、それはそれでとても明るいニュースではありましたが、私にとっては先月Natureに載っていた論文で一般の人々にもかなりの話題となって広がった「甘味料のトレハロースは危険かもしれない」という噂の根拠となる論文がかなり怪しいものであるということを解説した松永和紀さんの記事に衝撃を受けました。

 もともとの論文は今年の1月3日にオンラインで公表され、18日に正式に出版されたNature誌に出たものです。

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 この論文の日本語の要約も公表されています。

食餌由来のトレハロースがディフィシレ菌流行株の毒力を高める
Nature 553, 7688 | Published: 2018年1月18日 | doi: 10.1038/nature25178
最近、ディフィシレ菌(Clostridium difficile)感染症が増加しており、北米やヨーロッパでは主要な院内病原体の1つになっているが、何がこの出現を引き起こしたのかについてはほとんど分かっていない。今回我々は、2種類のリボタイプ流行株(RT027およびRT078)が低濃度の二糖類トレハロースを代謝する独特の機構を獲得していることを示す。RT027株のトレハロースリプレッサーには単一の点変異が含まれており、それによってこのリボタイプのトレハロース感度が500倍以上に上昇している。さらに、食餌由来のトレハロースは感染マウスモデルで1つのRT027株の毒力を増強させた。RT078株は、トレハロース代謝に関与する4つの遺伝子からなるクラスターを獲得していた。これらの中には低濃度のトレハロースでの増殖に必要かつ十分なPTSパーミアーゼが含まれる。我々は、これら2種類の流行系統が出現する少し前に、トレハロースが食品添加物としてヒトの食物に使用されるようになったことが、それらの流行系統の出現の選択を助け、強毒化に関与したのではないかと考える。

 堅い論文の要約を読んでもよくわからないと思いますが、この論文が出た直後に日刊ゲンダイ・デジタルでこの論文を受けた「解説記事」が書かれています。その冒頭にはこう書かれています。

話題の焦点
英誌がリスク指摘 食品添加物トレハロースは本当に安全か
2018年1月24日>> バックナンバー
 英学術誌ネイチャーの1月18日号に、「トレハロース」の危険性を指摘する論文が掲載され、注目されている。
 最新の研究によると、食品添加物に使われるトレハロースが、クロストリジウム・ディフィシル(CD)腸炎の患者急増を引き起こしているという。米国では2011年に年間50万人が罹患し、2万9000人が死亡。日本ではこれまで問題視されてこなかったが、対岸の火事とも言っていられない。
 実際、10年には埼玉県の病院で入院患者8人がCDに感染し、うち1人が死亡。同年、新潟県の病院でも入院患者21人が院内感染し、うち3人が死亡したという報告がある。感染者は年々増えているというから、気がかりだ。食品添加物の研究歴40年で、「長生きしたければ、原材料表示を確認しなさい!」の著者、小薮浩二郎氏が言う。

 まあ、日刊ゲンダイの記事だけでしたら虚実織り交ぜたものが日夜書かれているのを知っている賢明な読者はそれほど影響を受けないかもしれないですが、この記事が出る前には高名な医学・生物学者である西川伸一さん(NPO法人オール・アバウト・サイエンスジャパン代表理事)がこの論文の詳しい紹介記事を書いており、この記事も含めて日本国内にそれなりのインパクトを与えたように思えます。

 論文紹介:食品に添加されたトレハロースがクロストリジウムの流行の原因だった
 来週発売のNatureに、ちょっと恐ろしい論文が掲載される。普通に食品に添加されているトレハロースが、難治性の腸炎の原因クロストリジウム・ディフィシル(CD)の流行の原因になっているという研究だ。実験の詳しい内容は私自身のブログを参照してもらうことにして、重要なメッセージだけを紹介しておく。
 ・・・
 まとめと感想
 この結果は、流行性のCDは、人間が人工的にトレハロースを添加した食べ物を食べ始めてから起こった病気であることを示し、自然界にあるからと安全だと思ってしまうと、予想できないしっぺ返しが起こることを示す重要な例になったと思う。確かにキノコなどトレハロースを自然に含む食品は多いが、流行の歴史から考えて、トレハロースの食品添加が始まった時期と、流行が一致することから、やはりトレハロースの添加が原因と言っていいだろう。幸い、CDは他の細菌に対する増殖優位性によって毒性を発揮するので、CD腸炎が疑われた時、トレハロースを含まない食事を与えることで回復できる可能性を示唆している。臨床の現場で明日から実施可能なことで、是非この結果を念頭に置いて対応して欲しいと思う。

 とかなり元の論文を信頼した内容になっています。そのこともあってか、先月は識者の間で小さな「トレハロース・パニック」とでもいうべきさざなみが起こっていたようです。私はというと、あまりにも話がうまい謎解きになっていておもしろすぎるのでいつものように静観・スルーしていたのですが本日の松永和紀さんの記事を見て「やっぱりねえ」と思い、寒さが吹き飛んだというわけです。

 松永さんの記事はこちらです。

「トレハロース問題」の真相、「感染症の原因に」論文は矛盾だらけ
ネットに氾濫する不十分情報に注意を
 食品添加物トレハロースが感染症流行の深刻な原因となっている、とする話題が先月、騒がれました。根拠は、科学誌ネイチャーに載った論文。トレハロースが、クロストリジウム-ディフィシレ菌(Clostridium difficile)の強毒化につながっている、とする仮説を提唱する内容で、米国の科学者が執筆しています。
 トレハロースは糖類の一種で、でんぷんの老化防止やたんぱく質の変性防止など、食品の物性改善に働き、日本では和菓子や洋菓子、パン、惣菜等に広く用いられています。とても身近な食品添加物です。それだけに論文への関心は高く、「トレハロースは本当に安全か?」「致死性の感染症の急増原因」などの見出しが夕刊紙やウェブメディアで躍りました。海外でも報道されました。
 しかし、論文にはかなり大きな問題があり、私が見る限り、感染症の原因と言えるような根拠は、崩れ去っています。トレハロースを開発した (株)林原は、反論を始めています。ところが、論文の内容を伝えトレハロースへの不安を煽ったメディアや日本の科学者らの多くは、訂正や追加説明を行っていません。

 ということで、この後に詳しく書かれているのですが、林原に取材をして書かれたものらしく基本的には林原の出しているプレスリリースの内容を踏襲しています。

 林原は世界的なトレハロースの製造販売会社ですから、そこがトレハロースの危険性に対する反論を書いている場合、利益相反からみてかなり厳しく読み解かなければならないとは思いますが、私が読んだ限りでは松永さんのおっしゃっていることがまず正しそうです。

 論文は、強毒タイプのディフィシレ菌がトレハロースを代謝して栄養源にできることを確認し、トレハロースが欧米で食品として認可されて以降、強毒タイプの流行が起きていることから、トレハロースが流行の原因という仮説をたてました。そして、それを確認する実験をさまざま行い、その結果を仮説の根拠として説明しています。が、根拠を一つずつ見てゆくと、実にお粗末なのです。
 (1)時系列、発生地域のつじつまが合わない
 (2)欧米人の摂取量は、極めて少ない
 (3)トレハロース大量摂取国、日本で問題の強毒タイプ菌は見つかっていない
 (4)マウスへの投与試験も、おかしい
 林原は1月24日にプレスリリースを出し、論文の問題点をかいつまんで説明しました。さらに、細かい論証資料を作り、取引先企業等に説明して回っているそうです。
 食品の科学や動物実験についてある程度知識のある人が聞けば、論文の不備はすぐに理解できます。したがって、トレハロースを使っている食品企業は、まったく動じていません。
 しかし、ネットでトレハロースを検索すると、論文を基にした「危ない」情報が氾濫しています。高名な科学者や医師が、ネイチャーの論文だから、とそのまま、記事や個人のブログとして発信しています。
 「添加物が危ない」という情報は、興味を引きアクセス数を稼ぎやすいのです。林原の反論は、ほとんど顧みられておらず、情報は間違ったままです。

 松永さんの結論です。

 トレハロース自体は、天然に大量に存在する物質であり、安全性を確認する研究も相当数行われたうえで使われています。健康な人に直接的なリスクを及ぼすとは考えにくい物質です。
 そんなものが、病原体の増殖、強毒化を促し、結果的に人へのリスクになっているのではないか、というネイチャー論文の着眼点は、非常に刺激的です。しかし、それが正しいとする根拠は、まだほぼない、と言って良いのではないか。
 思い込みに満ちた科学的な妥当性を欠く論文の発表、その妥当性を検討せずに、“危ない”情報だけを垂れ流すメディアや科学者、十分に反論できない企業……。実は、よくあるパターンの話です。たとえば、遺伝子組換えについても、科学的には不備の多い論文が反対運動を展開する科学者によって発表され、一般メディアに「やっぱり危ない」と大きく報じられ、企業や科学者の問題点指摘が顧みられない、ということがしばしば起きています。
 科学論文の報道には、こうした怖さがあります。著名な雑誌への論文掲載だからといって、正しいとは限らない。そんなことを知っていただければ幸いです。

 というわけで、私もこの議論に説得されました。Nature論文の解釈は誤っていると思います。

 かの有名なSTAP細胞事件の元になった論文もNatureに掲載されたことを思い出せば、Natureに載ったからといって信じるに値するものであるということにはまったくなりません。NPO法人「食の安心と安全を科学する会」が行ったファクト・チェックでは、「食品添加物トレハロースが
危険であるということ」について、「言説は、科学的根拠を欠き事実に反する事実に」と断定しました。

 誤った情報に踊らされて二次三次情報を拡散させてしまった方々は責任を持って訂正記事を書きましょう。







by STOCHINAI | 2018-02-13 21:52 | 医療・健康 | Comments(0)

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