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トリはどのように歯を失ったか

 本日、一般誌にいっせいに取り上げられていた記事の一つが「恐竜の仲間から進化した現在のトリはいつどうして歯を失ったか」というものです。始祖鳥のような初期のトリはすべて恐竜と同じように歯の生えたくちばしをもっていたのですが、現在のトリにはほぼ例外なく歯がありません。恐竜の仲間から進化してきたというのなら、トリはいつどのように歯を失ったのかが長年の謎となってきたなのだそうです。

 なぜ、そんなに大騒ぎになっているのでしょうか。例えばこちらがBBCの記事です。

 How birds got their beaks - new fossil evidence (トリはどうやってくちばしを進化させたか -- 新しい化石からわかったこと)

トリはどのように歯を失ったか_c0025115_20130670.jpg

 他のサイトでも似たり寄ったりの記事が出ています。

 


 内容はすべてが似たりよったりなのは、記事のソースが本日のNatureに載ったこの論文だからです。

トリはどのように歯を失ったか_c0025115_20233532.jpg

 Natureとしては珍しくこの論文は全文のpdfを読むことができます。こちらにアクセスするととりあえず上のページに飛びますが、すぐに自動的にpdfファイルページに転送されます。オンラインで読むことは可能ですが、普通の方法ではこのpdfファイルをダウンロードすることも印刷することもできないという、いかにもNatureらしい意地悪も仕込まれていますが、読めるだけでもありがたいと思っておきましょう(笑)。

 上の写真でもすぐにわかりますが、8600万年前に北米にいた恐竜からトリへと進化しつつあった動物イクチオルニスのほぼ完璧な頭部の化石が解析されて、この動物は恐竜のような歯の生えたくちばしをもっていただけではなく、上のくちばしの先端部分は現在のトリと同じように歯のないくちばしになっていたことがわかったというものです。

 わかりやすいのがナショジオの記事なので、主にその記事にそって説明していきます。

 上の写真ではちょっとわかりにくいのですがこの動物の最初の化石が発掘されたのはカンサス州で1870年のことでした。それから何度も同じ種と思われる化石が100体くらいも発掘されているのですが、トリの骨は壊れやすいので掘るたびに出てくるのはペチャンコになってなかなか元の姿を想像しにくいものばかりでした。それで今まではこのトリの「想像図」はこんな程度のものに過ぎませんでした。

トリはどのように歯を失ったか_c0025115_20482274.jpg

 それでもくちばしには歯が生えていて、魚を食べていた水鳥の仲間だということはわかっていたそうです。

 それが比較的最近掘り出されたものはほぼ完璧な頭部が発見されたのと、それを旧来の手法で岩から掘り出すのではなくX線のCTスキャンで解析してみると驚くほど完璧な立体に再現された像が浮かび上がってきて、それが今回のNature論文になったというわけです。

 その3DのCG画像がこちらです。

トリはどのように歯を失ったか_c0025115_20365217.jpg

 わかりやすいように色分けされています。

 この3D像でもっとも注目すべきは赤く塗られたくちばしの先の構造です。なんとこの部分には歯がなく、現生のトリと同じようにケラチンでできたトリのくちばしと同じ構造になっているのです。他の部分は歯が生えた恐竜と同じくちばしで、頭骨も恐竜と同じような発達した筋肉を支えるための穴だらけの構造をしています。つまり、この恐竜からトリへと進化する途上の動物はトリと恐竜のモザイク的な骨格をもっていることがわかったのです。

 Nature論文に掲載された系統図を引用しておきます。

トリはどのように歯を失ったか_c0025115_20580447.jpg

 細かいことはひつようないと思いますが、一番下に2つ並んでいるのは現生のトリのくちばし部分で、その上にあるのは北米から出てきた化石の海鳥のくちばしで、その上が今回解析されたイクチオルニスです。一見してわかるように、イクチオルニスで初めて出現した歯のないくちばしがだんだんと発達して上のくちばしを覆いはじめ、さらに進化した状況ではすべてのくちばしから歯がなくなって現在のトリになったというストーリーが明快に示されていると思います。

 新しい化石で小さなものは昔のようにコツコツと岩から掘り出すというようなことをしないでも、はるかに精密な状況を再現できる時代になってきたので、過去に掘り出された化石の骨格も細かいところはこれからどんどん修正されてくる可能性がありそうです。

 今後の研究者の方々のチャレンジに期待しつつ、新しい情報の提供を楽しみに待ちたいと思います。








by STOCHINAI | 2018-05-03 21:18 | 生物学 | Comments(0)

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