5号館を出て

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研究現場の常識は社会の非常識

 K_Tachibana さんの科学コミュニケーションブログで、おもしろい記事を見つけましたというエントリーを見つけました(^^;)。

 研究者でもある市民記者からの投稿によるインターネット新聞JANJANの記事をリンクしています。

 再掲します。突然の1億円~研究現場における高額な機器購入に対する疑問~

 漫画「動物のお医者さん」の中にあるエピソード「獣医学部に突然文部省(当時)から1億円の予算がついたことによる大騒動」を引用しながら、実はそれが現実にも起こっていることなのだと警鐘を鳴らしています。私も特に付け足したり、コメントしたりする必要を感じないほど、この記者さん(山田ともみ)の経験は私が見聞きしたものとまったく同じようなものなので、そのまま引用させてもらいます。

 大学が独立行政法人化した現在、事情は漫画が描かれたころとは同じではない可能性があるが、少なくとも筆者の知る時代には、漫画の世界そのままに、ある日突然1億円のお金を1~2週間以内に何らかの研究用の備品に使いたい、という話が、現場の研究者にとっては本当に突然に持ち上がる、ということは、例えば旧帝大系の医学・生物学系の学部などに数年いれば1度や2度は経験される話であった。

 もちろん予算が付くというのは要求をしているから付くのであって、要求していたものは欲しいものですから、それが買えるということは研究者にとってうれしいことに違いありません。たとえ1~2週間以内に機種を選定せよと言われても、要求額が満額通っていれば困ることはないのですが、要求の60%しか付かなくて希望していた機器が買えないというような時には上のような騒ぎが起こることはあるようです。(残念ながら、私はそのようなうれしい悲鳴を出すような目にあったことはありません。)

 大きな予算がついて、備品の購入ができることは研究にとってうれしいことなのですが、山田さんが書いているように「最新の設備であればあるほど、その機械を常によい状態で使うために安定した高い技術が要求される。・・・・・ハイレベルの研究を支える上で、研究補助者・技官の役割はきわめて高い。・・・・・そういう高額機器をよい状態で長く使用するために必要な技官のいるところなど殆ど無いだろう」という現実は、日本中のあらゆるところが共有している悩みです。

 北海道大学では、そうした状況を克服するために「オープンファシリティ」という、機器を集中管理するとともに学内外の研究者に貸し出すという制度を開始しました。こうした動きは我々のような貧乏研究室にとっては福音ですし、窮して出てきた苦肉の策という側面はありそうですが、税金の無駄遣いをなくするという意味でも有用なものだと思います。

 文科省の側でも「おそらく文部科学省などの役人はお金を使って機器設備を整えれば研究が進むと思っているのではないかと思われる」と言われるような予算の配分を吟味して、本当に日本全体の科学の発展のためにはどうやって貴重な税金を使うべきかを国民の声も聞きながら、常に見直しを繰り返していただければ、と思います。

 さらには、予算の申請から採択まで時間のかかる研究費なども多いわけですので、世の中の変化のスピードが早い今の時代ですから、申請の時とは異なる使用方法が必要になることもままあります。そうしたことに対しても柔軟に再検討をしていただけることが、結局は税金も有効に利用できることになると思いますので、そうしたことについても「改革の継続」をお願いしたいと思います。

 そうでなければなれば、K_Tachibana さんのブログのコメント欄にあったような「某研究会に行ったら、『日本学術振興会21世紀COEの金が入ったが、全然こんな大金(一億数千万)を使う研究じゃないし、出すほうも何を考えているんだか。困ったあげくにごちゃごちゃパソコン類を買い込んでなんとかしたけど、パソコンもこんなにたくさんあってもしょうがないしなぁ』などと主催者がおっしゃっていた」という話など出てこなくなると思います。

 科学者だって、税金は大切にしたいと思っているのです。
Commented at 2005-11-02 22:12 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by stochinai at 2005-11-02 22:24
 いわば内部からの声ですよね。そんなの知ってるよという声も聞こえそうですが、実は我々以外は誰もそんなことは知らないということがたくさんあります。まずは知ってもらうことから始めないと何も動かないと、私も思います。
 私もできるだけ、大学の中のことを表に出す努力を続けたいと思います。
Commented by Amasaki@ at 2005-11-02 23:42 x
はいな、「COEの金もてあまし」コメントをしたAmasakiです。
私は大学とは無縁な人間なのですが、あれはたぶんこちら5号館のある大学と同じ大学の話…(^_^;
Commented by ヤマグ at 2005-11-03 02:12 x
難しいですよね備品の問題。一回、全ての研究室で備品の使われる頻度から、購入備品の実効的な効果とかを計算してみたいなと思っていたりもします。

このまえ、慶応大学で科研費の使い方で問題になったりしていましたが、ある意味、仕方ない面もあるのかなと思います。国が管理しすぎる功罪みたいなものでしょうか?この問題は根が深すぎです。
Commented by inoue0 at 2005-11-03 07:28
 まとめて億単位のお金を使わなくてはいけないという部分に問題がります。試薬はまとめ買いできませんし、スタッフを雇うこともできません。
 おかげで、単価の高い実験機材が妙に充実しちゃうんですね。ラボごとに超伝導NMRが装備されていたりする。無駄もいいところです。
Commented by stochinai at 2005-11-03 13:04
 Amasakiさん、ヤマグさん、inoue0さんは私と同じ「大学の常識」を知っておられる方ですから、この手の話題は日常的に起こっていることとしてスッと共有できてしまいます。しかし、世間の方はたまに事件になって新聞に載っているのを見聞きすることくらいしかありませんので、それは例外的なことだと思っていることでしょう。科学技術のディスコミニケーション状態です。

 K_Tachibanaさんがおっしゃるように、こういう話題がなかなか表に出てこないのは内部情報を報告する人がほとんどいないからです。ジャーナリストがこうした問題をなかなか取り上げないのは、数億円などというお金はいわゆる巨大疑惑から見ると小さすぎることが原因のひとつなのかもしれません。直接には、視聴率や販売数に結びつかないということでしょう。

 現場にいる人間は告発することによって、今後の補助金が採択されなくなることを恐れていることもあるのだと思います。現場を見聞きしている、院生やポスドクも自分の将来を考えるとなかなか動けない。やはり、第3者による監査機関を作って、予算を出す方と使う方の両方を監視する必要があるのだと思います。総務省さん?、お願いします。
Commented by 森田研究員元気MORIMORI at 2018-06-21 17:14 x
研究者をしている森田研究員です。私も理系研究者のはしくれとして思うことは、日本の研究者、それも理系研究者はコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルが著しく低いということ。研究内容そのものは立派でも、それを伝えるスキルが低い研究者が多いのは残念。それが非常識と思われる原因だろう。自分自身も上から目線で偉そうなことを言うほどそういったスキルがあるわけでないので、あまり言い過ぎると単なる傲慢研究員、傲慢研究者になってしまいそうだが、若い研究者は徹底してコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルを高める努力を続けたほうが良いと思う。その点、アメリカの研究者たちのこれらスキルの高さには脱帽で素直に感服する。
Commented by STOCHINAI at 2018-06-21 21:46
それは確かにそのとおりだと思うのですが、それが難しいのでプレゼンはともかくコミュニケーションに関しては本人ではなくコミュニケーターに任せてもいい時代になってきたのではないかと思うこともまた実感なのであります。
by stochinai | 2005-11-02 20:41 | 大学・高等教育 | Comments(8)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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