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北海道の子ども達の学力が低いのは先生に原因があるのか

 一週間ほど前のニュースで北海道の小中学校の学力テストの結果が、全国に比べて低いということが報道されていました。例えば道新は「道教委学力テスト 正答率は全国下回る 小中の4-7割 記述式『苦手』傾向も」という記事を書いています。

 こうした記事では、最後に教員の指導などに問題があるのではないかという結論になるのが「普通」ですが、この記事でも「道教委はこうした結果を、今後の学習指導の改善に役立てる考えだ」と結んでいます。

 しかし、そもそも学力テストの結果(それが必ずしも「学力」だとは私は思いませんが)の差が、学校の学習指導が原因であるということは、論理的につながるものなのでしょうか。

 私の経験では、同じ札幌市でも地域ごとに学力の差があるということを良く見聞きしています。つまり、新興住宅地で一戸建てが多いところの小中学生は「勉強」が良くできて、古くからの地域で密集したアパートなどが多い地域では子ども達が荒れているばかりではなく「学習困難児童・生徒」が多いという話です。

 このことは、今や広く言われている親の収入や親の学歴、親の職業などによって子どもの「学力・学習能力」に大きな差があるということに符合することであり、とても良く納得できます。

 そうだとすると、経済的に落ち込んでいて全国と比べると所得も低く、生活保護世帯の数が大阪府についで2番目に多い北海道の子ども達が学力テストの成績が全国平均よりも低いという結果は、まったく驚くに値しないことなのではないでしょうか。

 つまりこの結果は、北海道の先生の学習指導が特に下手だということの根拠にはまったくならないと考えるのが妥当ということにならないでしょうか。

 今後は学力テストの結果を評価するに当たっては、親の学歴・所得・現職などとの相関を考えた上で、それらによるバイアスを差し引いて解析した上でコメントをしてもらいたいものだと思います。

 学力テストを実施すると聞いた時から悪い予感がしていたのですが、学力テストを実施する側は子どもの「学力低下」を暴き、その原因を教員の能力不足と結論した上で、「教育改革」の道具にするというストーリーを最初から用意していたのではないかと思われます。

 そうでなければ、今や有名になった「東大生の親の所得と学歴が他大学に比べると高い」文部科学省が2004年に発表した「2002年度学生生活調査」によると、国公立大学生と私立大学生では、家庭の年収は約150万円の違いがあるが、国立大学生でも、家庭の年収は全世帯平均(総務省統計局資料)より約200万円多いという結果が示されているにもかかわらず、「北海道の子ども達の学力低下→教員の指導力不足」などという、素人の井戸端論議のような短絡的な結果を拙速に出せるはずはないと思うのです。

 まあ、それにあっさりと乗ってしまうマスコミも情けないのですが、今回は教育委員会だけを責めておきたいと思います。

 ただ、この話には大きなお笑いのような「落ち」があります。北海道の小中学生の「学力」は全国に比べてかなり低いという結果が出て、子ども達の勉強時間も短いという結果は出たのですが、「高校は各教科とも全国とほぼ同じだった」というのです。

 だったら、全然問題ないじゃないですか。教育委員会、残念~!
Commented by inoue0 at 2005-11-09 06:50
>そうでなければ、今や有名になった「東大生の親の所得と学歴が他大学に比べると高い」という結果が示されているにもかかわらず

その話は間違いでした。学生生協による調査によると、他の国立大学と大差なかったそうです。
Commented by stochinai at 2005-11-09 10:55
 ご指摘、ありがとうございます。後ほど、引用部分を改訂したいと思います。
Commented by さなえ at 2005-11-09 18:52
>今や有名になった「東大生の親の所得と学歴が他大学に比べると高い」と私も信じていました。
リンク先をざっとみましたが、理系と文系には分けてありませんね。私立理系と国立理系では授業料の差が大きく、理系はアルバイトもできませんので、分けたデータだと少々異なる結果が出るような気がします。
Commented by stochinai at 2005-11-09 20:15
 理系や医歯学系だとまだまだ私大がはるかに高いと思います。ということは平均で見ていますので、文系に関しては国立よりも私立のほうがはるかに安くなっているのが実態ということでしょうか。
Commented by oyajikamo at 2005-11-10 14:09
いつも興味深く読ませていただいていますが、初めてメールをさせていただきます。

>「高校は各教科とも全国とほぼ同じだった」というのです。

ということは逆に
>経済的に落ち込んでいて全国と比べると所得も低く、生活保護世帯の数が大阪府についで2番目に多い北海道の子ども達が学力テストの成績が全国平均よりも低いという結果は、まったく驚くに値しないことなのではないでしょうか。

という点と矛盾してしまうように思われました。

高校で全国平均になるにも拘らず、小中学校で全国で劣るということは小中固有の何らかの問題がある、という結論が導き出されるように思います。
(では、何が原因かということについては私は全く検討もつかないですが)
Commented by stochinai at 2005-11-10 14:27
 oyajikamoさん、コメントありがとうございます。
>矛盾してしまう
 説明不足だったかもしれません。私が言いたかったことは、おそらく小中学生で塾へ行っている子どもの比率が全国に比べると少ないのではないか、それが学力テストに反映したのではないかということです。塾へ行く子の比率は所得と相関があるだろうと思います。
 それが高校では差がなくなってしまうということは、高校では公立高校しか学力テストをしていないということと関係があるものと思っています。つまり、小中学校で「学力」が低かった子は私立高校へ行き、比較的マシだった子が公立へ行けば、この結果は納得できると思います。
 高校入学にあたって、そういう振り分けをするが良いか悪いかはまた別の問題だと思いますが、、、。
by stochinai | 2005-11-08 22:22 | 教育 | Comments(6)

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