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ワニの「新種」が発見された

 生物学の研究でいまだに多くの人を引きつけるのもののひとつはなんといっても「新種の発見」だと思います。とはいっても、最近発見される新種は目に見えないような小さな生き物や、大きな生き物ではどう見ても同じにしか見えないものが遺伝子DNAを調べてみると別の種が混ざっていたということがわかり種が分けられたというようなものが多く、大型の動物ではっきりと形も違う新種が発見されるということはそうそうありません。そういう状況でありながら、なんとこのたびあの大きなワニ(クロコダイル)の新種が見つかったという論文が発表されました。これが新種として記載されたニューギニアのワニです(フロリダの動物園で飼育されているもの)。

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 ニューギニアにすむこのワニが今まで新種として認識されてこなかったのは別の種だと思われていたからでした。

 ニューギニアの地図がこちらです。

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 見てすぐにわかるように、この島は島全体を貫く山脈によって北と南に分けられていますが、北にも南にも同じ種のニューギニアワニ(Crocodylus novaeguineae)がすんでいると考えられてきました。ところが1980年代に Philip Hall という研究者が山脈に北に住むワニと南に住むワニは生殖行動などが違うことを見出し、これらは別の種なのではないかという論文を書いていました。残念なことに彼はこれらが別の種であると言うことを証明する前に亡くなってしまったのですが、このたび4人の研究者が各地の博物館に収められている51個のニューギニアワニ(Crocodylus novaeguineae)の骨格標本を詳しく調べることで、南のワニと北のワニは形態的にもはっきりと異なる別の種であることを証明したのです。

 詳しく調べられたのは頭骨の標本です。調べるポイントを細かく決めて定量的に比較しました。

 こちらが測定した頭骨の部位です。

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 上が背中側からみたもので、下が腹側(口の中)からみたものです。

 調べてみると、北のワニと南のワニははっきりと違うものだとわかりました。こちらが背中側。

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 そしてこちらが腹側です。

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 3つのうちの一番上が北の集団、下2つが南の集団です。我々素人がみても下の2つは鼻先が丸く太いのがわかりますね。これを詳しく調べた論文がこちらです。

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 オープンアクセスなのでどなたでも全文を読むことができます。

 この論文で今まで1種のニューギニアワニ(Crocodylus novaeguineae)の種内変異とされていた南のワニは新しい名前を与えられました。その名も前にワニが2種類いるのではないかと主張していたHallさんにちなんでホールのニューギニアワニ(Crocodylus halli)という学名です。

 学名に研究者の名前がつけられるということは最近はあまり多くはなくなってきたのですが、このケースのように新種だろうと主張しながら、そのことを証明できずに世を去った研究者に敬意を表して種名に残されるなどという話は、分類学以外ではなかなかない「生物学のいい話」ではないかと思います。

 それとともに、90年前に採集されて世界の博物館で保存されている標本が、現在でも新しい種を記載するための材料になるという博物館と標本というものの貴重性を証明することにもなった研究者の働きにも乾杯したいところです。


【追記:解説記事】












by STOCHINAI | 2019-09-27 23:55 | 生物学 | Comments(0)

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