5号館を出て

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幼稚園を義務教育にする意味 (文科省否定の追記あり)

 正月1日と2日は新聞も来ず、テレビもほとんどニュースを流さず、さらに新年会や何やでネットニュースのチェックもおろそかになっておりました。我が家は朝日新聞しか購読しておりませんので、どうやら読売だけが書いたと思われる幼稚園を義務教育化するというニュース(?)にはまったく気がついておりませんでした。

 が、これは教育関係に止まらず、少子化問題や公教育をどうするのかという点からみると、やはり結構大きなニュースだと思います。私は八国山だよりさんと地球の片隅の研究室からさんのブログで教えてもらいました。元ネタは読売の記事「幼稚園から義務教育、延長幅1~2年…政府・与党方針」にあります。

 保育園も幼稚園も行かなかった私としては、なんで幼稚園を義務教育化しなければならないのかと、反射的に反発の気持ちが生じてしまうのではありますが、そういう個人的な事情(^^;)を差し置いても、幼稚園を義務教育化することの意味がほとんど理解できないのであります。

 記事によると、まず「幼稚園―小学校の区分による環境の変化が学力のばらつきを招いているため、幼稚園を義務教育に含め、一貫した学習体系を構築するのが狙いだ」とあります。

 私は小学校へ入る前は、ひらがなすら完全には読み書きできる自信もない状態でした(それの、どこが悪いっちゅうんじゃ)。入学式の前に小学校へ行った時に未来の先生(?)に自分の名前を書いてごらんなさいと言われて、苗字まではなんとか書けたものの、緊張していたせいかどうかはさだかではありませんが、名前の「し」の最後を逆に払ってしまって「J」のような字を書いて恥をかいた記憶があり、思い出すたびに今でも冷や汗がでます。

 記憶にはないのですが、おそらく幼稚園に行っていた同級生達はちょっとした漢字までも読み書きできるレベルにまで達していたのだろうと思われます。しかし、ほんの1年か2年早期にそんなことや、足し算などができるようになっているかどうかが、子どもの「学力」なんでしょうか。その差(ばらつき)が一生尾を引くとでもいうのでしょうか。確かに私はいまだに字は下手ですが、読み書きのリテラシーは人並みに追いついたと思っています。

 また例によって、科学的根拠もなく思いつきで出された政策だと確信してしまうのが、次の文です。
 義務教育をめぐっては、近年、小学校低学年で、集団生活になじめない児童が騒いで授業が混乱する「小1問題」が起きている。幼稚園―小学校―中学校と進学するにつれ、指導の内容、難易度などが大きく変わり、成績格差が拡大する問題も指摘されている。

 この指摘の元になる調査データはどこにあるのでしょうか。是非とも示してもらいたいと思います。私の記憶では、小学校1年の頃に騒いでいたのは金持ちで幼稚園に行っていた奴らだという印象があるのですが、これは貧乏人のひがみというものでしょうか(ですね^^;)。いずれにせよ、幼稚園に行ったか行かないかが中学校まで尾を引くという根拠を示さないとこの議論は成立しないと思います。

 相変わらずの迷走的教育政策ですが、記事にある「幼児教育を無償にすることで、少子化対策を強化する面もある」というあたりが、少子化対策に有効な手を打てないで困っている政府・与党(自民・公明)の本音だろうという気がします。

 しかし、少子化対策にしても八国山だよりさんがバッサリ切っておられる通りなのです。
幼児教育を無償にすることが「少子化対策」になるという論理がわからない。
少子化は安心して子供を育てられない社会のシステムの欠陥のゆえではないか。

 まったく、その通りだと思います。さらに、義務教育化することによって、今はある程度柔軟に子どもを預かってくれる保育園が変な法律でしばられて、動きが取れなくなる可能性すら出てきます。ふたたび八国山さん。
すると保育園はいったいどうなるのであろうか。ゼロ歳児から預かってくれ、夜は午後7時まで面倒を見てくれる(息子の通っていた保育園の場合)。小学校では放課後は学童クラブに行っていたがそこは午後5時半が最終だった。幼稚園が義務化されたとして5時半以降の面倒を見てくれるのだろうか。また全員が加入できるのだろうか(学童クラブは必ずしも希望者全員が希望のクラブに入所できるわけではなかった)。

 こうなってくると少子化対策どころか、少子化推進策になってしまう恐れがあることは、現在進行形で子育てをなさっている方にちょっと聞いてみればすぐにわかることだと思います。自民党文教制度調査会や中央教育審議会にはそういう現場の声を吸い上げる仕組みがないんでしょうね。

 地球の片隅の研究室からpopokunkuさんがおっしゃるように「真意が何にあるのかもう少し考えてみる必要がありそう」です。


追記:
 コメント欄にあるように、 osumi1128さんから文科省がこの件に関する否定を公表しています。osumiさん、ありがとうございます。
平成18年1月1日付け読売新聞朝刊の報道(幼稚園から義務教育)について
 もっとも、ここには「政府としてこうした方針を固めた事実はありません」と書いてあるので、元記事の「政府・与党は」とあるところと比較すると「与党」では方針を固めたということは事実なのかもしれません。

 こうなってくると、読売の記事のニュースソース(リーク?)がどういうものなのか気になりますね。
Commented by inoue0 at 2006-01-04 22:55
 場合によっては1年近くも生育歴に差のついている子を同学年で扱うんだからばらつきが出て当然でしょう。7歳児と8歳児ではとてつもなく能力に差があります。
 ばらつきをなくしたいなら、学年をさらに細分化して、半年単位で入学させた方が良いかもしれない。
Commented by 寒北斗 at 2006-01-05 06:31 x
おはようございます。TBありがとうございました。
しかも駄文の引用までしていただいて、恐縮です。
「5号館のつぶやき」さんも保育園にも幼稚園にもいってらっしゃらないのですね。私の生まれ育ったところは半農半漁で、隣んちの猫が何匹子猫を産んだかまでわかるぐらい地域的血縁の強いところでそうしたものは必要なかったのですが、時代的にも。スウェーデンは子供が子供らしくあるためだったかで義務教育は7歳からです(確か)。まだ小さいうちから義務教育にする必要がどこにあるんだろうというのが正直な感想です。
Commented by 花見月 at 2006-01-05 11:14 x
このニュース自体は、唐突で意味不明と思いましたが、実感として、学校で起きる様々な問題の低年齢化が行き着くところまで行っている感はあります。学級崩壊なども、ここ十数年かけて、高学年から中学年、低学年と頻発する学年が下がってきているようです(ママ友ネットワークのお話を聞いていると)。それも、頻度が非常に高くなり、自分の子供が学高校を卒業するまでに、学級崩壊、不登校、いじめなどを経験せずにすます事はないと、来年小学校の娘を持つ私も、覚悟を決めております。
このような絶望的な状況は何とかしてほしい。でも、それが起きている現場「義務教育」をさらに拡大すれば、戦場が拡大するだけのように思います。
Commented by チャイルドサイエンスカフェ at 2006-01-05 12:59 x
わたしも朝日新聞読者なので、ビックリしちゃいました。

あまり裏のとれていない情報なのですが、教育学の先生方を中心に、数年前から「幼少継続」というテーマの研究がなされています。おそらく、このあたりの流れからこういう政策が出てきているのではないかと。

さらに・・・あくまでも個人的な所感ですが、教育の立場から幼児教育を見る、「上からの視点」というのがどうも感じます。教育という言葉の定義をきちんとしないといけないと思いますが、子どもの発達段階を考えると、なぜ4,5歳児に教育という言葉が適当なのか、とても疑問です。
Commented by stochinai at 2006-01-05 13:43
 皆さん、コメントありがとうございます。
 教育問題は本当に難しいと思うのですが、誰でもが経験者であることもあって、100人いると100の意見が飛び出してくるものだと思います。その結果、声の大きい人や、時の権力者の単なる思いつきが国の教育政策を動かすことも良くあるような気がします。
 ここ30年くらいの文科省の迷走ぶりを見ていると、ほんとうにそう思います。それと同時に、その迷走に振り回されて育ってきた、今の中年より若い日本人は全員がそうした思いつき政策の被害者なのではないかと暗澹たる気分になります。
 おそらく50年くらいかけて今のようになってしまった教育を直すには、さらに50年くらいを見通した雄大な教育政策を立てなければならないと、いつも思っています。しかし、今の政治家には6年(参議院議員の任期)以上の政策を求めるのは無理だという説にも納得してしまう今日この頃です。
 どうしたら、いいんでしょうね。
Commented by inoue0 at 2006-01-05 17:21
stochinaiさま。そのような疑問に答えるために教育学者が大学で禄を食んでいるんじゃないのですか?世の中に教育学部がある限り、教育学者は少ないながらもちゃんと存在していて、活発な発言を著書や論文で行っています。
 なのに、彼らの研究は、ほとんど教育政策には取り入れられず、政治家の思いつきや官僚の縄張り争いの結果が教育政策となるのです。
 とくに審議会なんてひどいもので、教室に20年ぐらい入ったこともないような財界人だとか、大学の講義室しか知らない名誉教授たちが好き勝手なことを言っています。
Commented by stochinai at 2006-01-05 17:41
>なのに、彼らの研究は、ほとんど教育政策には取り入れられず
 私ももったいないことだと思うのですが、ひょっとすると大学でやっている教育学などは、政治家の思惑とあまりにも違いすぎて「使えない」ということが理由かもしれません。そうだとすると、政府が大学をつぶしたがる理由のひとつがそこにあると腑に落ちます。
 この状況を突破するためには、国民のみなさんが大学で行われている研究に直接アクセスして、それを盾に政府に要求を突きつけるということも有効なのではないでしょうか。
 そういう方向に学問が開かれていくと理想的だと思いませんか。
Commented by 雪見酒 at 2006-01-05 21:38 x
多少脱線するかもしれません。「幼稚園を義務教育化」で思い出したのが麻生太郎氏が総務大臣だったころに言っていた義務教育9年化です。それも「義務教育の9年間は、幼稚園3年と小学校6年とすべき」です。今回の幼稚園を義務教育化はその足がかりのように感じました。
ご参考までに>http://www.soumu.go.jp/daijin_column/column_041102.html

まあ今回の件については「少子化」と言えば予算が付くのかな、という印象ですが…。
Commented by osumi1128 at 2006-01-05 22:37
明けましておめでとうございます。
ところで、文科省はさっそく、読売新聞の記事を否定する内容のエントリーをHPに掲載しています。
きっと反響が大きかったのでしょうね・・・
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/01/06010501.htm
Commented by stochinai at 2006-01-05 22:40
 そう言えば、昔そんな話もありました。でも、あれは6・3制を3・6制にすることかと思っていたのですが、ご推薦サイトの話はそんなに古くないですね。今回の話の伏線と言えるものかもしれません。
 しかし、幼稚園を義務教育化するとまたまた税金を食い物にする有象無象の業者が大量に湧いて出てきそうですよ。小さい政府はどこいっちゃったんでしょうねえ。
Commented by stochinai at 2006-01-05 22:41
 osumiさん、今年もよろしくお願いします。
 そうでしたか、読売の記事は誰が仕掛けたんでしょう?なんだか、年明け早々、政争のきな臭さが臭いますね。
Commented by ヤマグ at 2006-01-05 22:52 x
幼稚園の義務教育化というのは、現在の子供の95%近くが幼稚園に通うのだから、義務教育として、国から補助すれば良いのではないかという話だと思います。幼児教育が問題と言う話よりも。
実際、日本の幼稚園は料金が高いですね。幼稚園と大学が一番高いといわれていますから。この問題の根底は教育問題ではないような気がします。
保育園は月に56000円で、幼稚園でも30000円ですから、それはそれで結構な額が消費されているわけです。二人幼稚園とか言ったら。保育園なら年間72万ですよ。
様々なものがデフレで価格が下落傾向にあるのに、教育に関するお金はデフレになりません。保育園料金の上限を設定すると、すべての保育園が上限近辺に停滞しますからね。
月1万円で、変な教育はなく、単にしつけだけあって、こどもの安全だけ確保してくれる国立の保育園があったら、間違いなくそこに行かせます。
Commented by rabbitfootmh at 2006-01-05 23:31
親の躾け能力を信用せず、「官制」で子どもを管理しやすいように躾けてしまおう・・・ということでしょうか? できるだけ早く、親の手から子どもを取り上げてしまおう・・・と?
ところで、幼稚園は文科省の管轄ですが、保育所は厚労省の管轄で、これらを簡単に「義務教育」でくくることができるのでしょうか? そのへんから疑問ですね。
Commented by stochinai at 2006-01-06 19:49
 文科省は否定しましたけれども、少なくとも与党(自民・公明)はこのへんのことを考えているでしょうね。
 文科省と厚労省のなわばり争いもいかにもありそうなストーリーで、まだまだ迷走しそうな雲行きだと思います。
Commented by Eishi_Asano_MD at 2006-01-09 08:30 x
はじめまして。幼稚園の義務教育化は考えたことがありませんでした。否定はされているそうですが、強く記憶に残りました。
Commented by inoue0 at 2006-01-09 15:29
 幼稚園と保育園は、「こども園」という名称で統一され、一元管理されることが決定されています。行政上はどういう位置づけになるかはわかりません。
 育児支援に関して、現物給付(サービス供給)がよいのか、金銭給付が良いのかは難しいところです。国民の判断能力を信頼するなら金銭、信頼せずに政府が管理したいなら現物給付になるでしょう。医療は完全に現物給付になってます。病気になったからといって、病人のフトコロに金が入ることはない。
Commented by ぢゅにあ at 2006-01-09 23:34 x
幼稚園、保育所にかかる費用に関してアメリカと比較すると日本は随分恵まれている、というのが私の感想です。
アメリカではデイケア(保育所にあたる)にフルタイムで預けるとなると月$800は下りません。NYなどでは$1200くらいが相場でそれでも1年先から予約待ちです。幼稚園も週3日、1日3時間ほどで月$250です。児童手当や補助金といった福祉援助はほとんどありません。
話はそれますが、子供の定期検診や予防接種のご案内などもなければ、児童医療補助もありません。すべて親の責任で管理し、医療費はすべて個々人の保険でまかないます(低所得者に対するメディケアといった公的保険もありますが)。
日本で子育てを経験し、逆に日本の公的な福祉援助は至れり尽くせりだと感じたくらいです。
ですから育児費の負担に対する社会政策の不備が少子化に関するメジャーファクターであるという考えには少なからず疑問を抱いてます。
結論として、もし幼稚園の義務教育化が少子化対策を意図するものであるならば、全く見当違いでしょう。
Commented by inoue0 at 2006-01-10 18:00
>育児費の負担に対する社会政策の不備が少子化に関するメジャーファクターであるという考えには少なからず疑問を抱いてます。

それは全く同感です。育児とか結婚、出産で、社会支援を得る口実に少子化というキーワードが使われているだけだと思います。
 老人介護と同じ水準の問題として育児の社会支援を考えられないものでしょうかね。
Commented by stochinai at 2006-01-10 20:31
>幼稚園と保育園は、「こども園」という名称で統一され、一元管理されることが決定されています。
 それは、知りませんでした。情報、ありがとうございます。

 またまた、ピントはずれな少子化対策になる可能性もありますが、とりあえず注目・監視していきたいと思います。
by stochinai | 2006-01-04 22:04 | 教育 | Comments(19)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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