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ジャイアントパンダとレッサーパンダの「親指」

 ジャイアントパンダとレッサーパンダは、ちょっと見にはとても似ているとは思えない動物ですが、笹を食べることと前足に笹をつかむのにとても適している「親指」または「6番目の指」と称される特殊な突起があります。これは指ではなく、手首の骨の一つである種子骨が変化したものだそうで、ジャイアントパンダのほうがレッサーパンダのものよりもずっと発達しています。

 見た目には似ていない2種類の動物ですが、これだけ共通の性質があると同じ仲間(パンダ科)にまとめてしまいたいという気持ちはとても良くわかります。また、ジャイアントパンダはなかなか手に入れることはできませんが、レッサーパンダならどこの動物園にもいますから、「こちらのパンダで我慢してください」ということが言えるという意味においても、2種が同じ仲間であると何かと都合が良いのかもしれません。

 しかし、1月10日付のPNASというアメリカ科学アカデミーの紀要には、とても興味深い論文が載っています。ジャイアントパンダとレッサーパンダの「6番目の指」はもともと別の働きを持っており、共通の祖先の時からあったわけではなく、別々に進化してきたものだというのです。

Evidence of a false thumb in a fossil carnivore clarifies the evolution of pandas. PNAS | January 10, 2006 | vol. 103 | no. 2 | 379-382

 マドリッドの中新世の地層から出てきた骨は、レッサーパンダ(英語ではred pandaと言うようです)と同じレッサーパンダ科の共通祖先から分岐進化してきたものだということがわかったそうです。しかも、骨の解析からそれは肉食だったと結論されており、そのことからレッサーパンダあるいはその祖先は肉食だったと推測されるようです。

 そして、その化石パンダは歯を見れば一目瞭然、肉食獣であることが示されているにもかかわらず、なんと「6番目の指」を持っていたのです。このことから、この化石とレッサーパンダの共通祖先は笹などは食べておらず、肉食であったにもかかわらず「6番目の指」を持っていたと考えられると書いてあります。

 さらに、同じレッサーパンダ科の別の化石動物には「6番目の指」を持っていないものがいることと、ジャイアントパンダは遺伝子などを調べても今やクマ科に入るというコンセンサスが得られていて、クマ科で「6番目の指」を持っているのはジャイアントパンダだけであることから、ジャイアントパンダとレッサーパンダの「6番目の指」は別々に進化してきた「収斂」によるものであると結論されたようです。

 では、レッサーパンダの「6番目の指」はなんのために使われていたかというと、どうやら木に登るために発達していたようで、先祖は樹上生活をする肉食獣だったというのが結論です。

 そして、レッサーパンダはいつしか肉食から草食へと食性を変えるように進化し、笹を食べる今のレッサーパンダになりました。レッサーパンダは今でも木に上ることもあるようですが、笹を食べるようになって笹の枝をつかむのに「6番目の指」を重宝しているということのようです。

 なかなかおもしろい話だと思いませんか。
by stochinai | 2006-01-11 21:07 | 生物学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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