5号館を出て

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早すぎる対応も胡散(うさん)臭い

 ウソと疑惑が飛び交っているこの国では、まともな対応だったとしても胡散臭く感じられるようになってしまったのかもしれません。

 輸入を再開したばかりの米国産牛肉に、日米合意の上除去が義務づけられていた背骨(BSEの原因とされるプリオンが骨の中の脊髄に蓄積)が混入しているのが発見されたことで、政府は発見から数時間後に米国産牛肉の輸入を全面的に禁止することを決めました。昨日の午後、数時間で起こったことです。

 私も基本的にはこの判断を支持したいと思うのですが、あれほどまでに無理をして輸入を再開した経緯があったにもかかわらず、あまりにもあっけないほどの素早い禁止措置になんとなく釈然としないものを感じました。

 例えば、日米政府はアメリカの牛肉処理過程を知っていて、アメリカで売られているものと同じものが日本に送られてくるということも知っていながら、日本に送る肉は特別に注意されているものだということにして輸入を再開をしたということはないのでしょうか。さらに、日本政府お得意の日米密約もあったんじゃないでしょうか。

 背割りという脊髄をノコで縦に切り裂くというアメリカの牛肉処理過程から考えて危険部位の混入は絶対に避けられないことを認識していながら、BSEのプリオンが混入するのはどうでもいいから(避けることはできないから)、ともかく日本向けの牛肉からは証拠になる背骨だけは取り除いて送れ、というふうにアメリカの国内業者を指導していた可能性が高いのではないかというのが、私の推測です。

 アメリカの業者にしてみれば、背割りをしてもいいのだったら脊髄の内容物はたっぷりとどの肉にもかかっているわけですので、そこから背骨を除こうがついていようが同じだと思うはずです。というか、私もそう思います。その上で、理由はどうでも良いから背骨だけ抜いて製品にしてくれ、と言ったところで業者にしてみれば不要な手間が増えるだけのことをやるのに気が進まないことは理解できます。

 アメリカのほうでも、業者が手続きをおろそかにしたとか言って、特定の業者の責任にしてその業者をはずしたら輸出再開したいというようなことを言っているのですが、日本国民の不信感をぬぐうことはできないかもしれません。

 除去する約束の背骨を入れてくるような相手が、20ヶ月以内の若いウシの肉だと言って35ヶ月のウシの肉を送ってこないと、誰が思うでしょう。

 折りしも、耐震偽装事件や、株式偽装取り引き事件、と日本中が嘘つきだらけであるかのような事件で揺れ動いていますので、またまた嘘つきの牛肉偽装かと思うのが普通の反応というものだと思います。

 そう考えると、耐震偽装マンションに対して国が早々に支援を打ち出したということも、何か隠そうとしていることがあることの証拠ではないかとも思えてきます。

 腰が重いと責められる、さりとて早すぎても疑われるし、政府って大変ですよね。でも、そんなに大変なのに、選挙違反をしてまで国の運営をしたがる人が多いのは、やっぱりそこにも隠された甘い汁があるということなんでしょうね。

 正直者はいないんでしょうか。
Commented by ハニーm at 2006-01-22 04:13 x
 難病に対しては、その病(症状)を人為的に「作り出す」ことができれば、原因を解明し、治療薬(方法)の開発に道が開ける、と言う記事を時おり目にします。
 反対に、地雷を作りそれ以上のコストを要する撤去装置を製造することは、どう捉えるべきでしょうか。個々人の犠牲の下、新たな発見や画期的な成果のお陰で人類全体は存続しています。科学技術が「悪」を生み出せば、「善」としての(科学技術の)進歩が不可欠になり、発達することになるのですね。
 京大チームによる細菌の遺伝子改変によるダイオキシン分解の実験成功は、汚染土壌の浄化率向上につながるそうです。素晴らしいこと思いますし、日本人に頑張ってほしいのですが……
Commented by 寒北斗 at 2006-01-22 07:09 x
TBありがとうございました。
「早すぎる対応」と言えば、耐震偽装問題でも国交省が早々に住民救済策を打ち出したのも。総研に関連するSG会というところに当の北川国交省大臣も森前総理も名前を連ねており、何か後ろめたいところがあるせいかと下主の勘ぐりかもしれませんが思ってしまいます。
Commented by KAZE at 2006-01-22 10:59 x
TB有り難うございました。
記事で書いておられる通り、「国民の生命・財産」を守るよりも「金儲け」「業者との癒着」が優先している政治が、多くの問題を生み出していることは間違いないですね。
Commented by ハニーm at 2006-01-22 14:06 x
 今朝、トレーサビリティ(牛肉)の農水省HPをみました。(時間なくチラと眺めただけです。) どこでという産地は気にしても、どのようには見過ごされる点もありそうです。食習慣の違いによる?牛肉の処理方法等については、考えが及びませんでした。
 リスクコミュニケーションのことはまだ良く知りませんが、互いの文化的背景や生活慣習についても認識を深めることが大切と改めて思います。
 人類の安全や福祉、それに発明の改良・改善のための科学技術の進歩が、新たな凶器・兵器になりうるのですから、ますます科学者、技術者の倫理観が厳しく問われることになりますね。
 Costepの講義(遺伝子組み換え作物)で、北大の松井先生が「中立」というお言葉を何度かおっしゃってました。
  政治的・経済的中立は、非常に難しいことだと思います。普通の一般の人々が正しい眼をもつために、科学コミュニケーターも中立であるべきですね。色々話が飛んでしまい、すみません。
Commented by stochinai at 2006-01-23 21:21
 北海道でウシに人工的にBSE症状を誘導できたというニュースがありました。私が最初に感じたのは、そこから新しいBSEが広がらないで欲しいと言うことでした。感染症のモデル実験は、有用かもしれませんかかなり危険だと思います。モデルができたからと言って、すぐに治療法が見つかるというのは「バラ色モデル」に過ぎないかもしれません。

 中立と言うことはとても難しいので、とりあえず私はできるだけ両論あるいは複数論を併記して論ずるように心がけています。そうすると、天の邪鬼のいやなヤツと思われてしまうかもしれませんが、自分の意見を大事にするよりもバランスを大事にするという立場はコミュニケーターとしてけっこういいかな、と思ったりもしています。
by stochinai | 2006-01-21 17:41 | つぶやき | Comments(5)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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