2006年 01月 22日
実力と評価
ライブドア問題は発生数日にして語り尽くされてしまったような気がします。テレビや新聞の報道を見ている限りは、情報が小出しにされているだけでイライラするかもしれませんが、ネットを丁寧にあさるとほぼ結論に近いものが探し出せると思います。
もちろん、ネットでは虚実取り混ぜた情報が並立的に提示されており、それが膨大な量のマスコミ情報のコピーと極私的感想の中に埋もれているのがインターネットの特質ですので、そこからどうやって確からしいストーリーを取り出していくのかというリテラシーがないと、かえって混沌の中に投げ出されることになってしまいます。今回の「事件」はいわば我々に課せられた練習問題と言えるかもしれません。
そんな中で珍しくテレビのライブ・スタメンの中で爆笑問題の太田光が青臭いとも言える正論を強調していたのが、なんとも新鮮でした。彼が言っていたのは、投資というのは自分が評価して、これならいけるという判断をした会社の株を買うということで、それは株の値段が上がった下がったということとは関係ないだろう、ということです。
私もこれは理念的に正しい定義だと思いますが、株の売買を金儲けのための行うという立場からいうと全然違うのだと思います。株の売買によってできるだけ確実に利益を上げようとする場合には、会社の実力や評価などよりも現実に日々の株価がどういうふうに動いているかが問題で、会社の実力の評価などは二の次、さらに極端にいうとそんなものは関係ないとさえ言えます。
そういう立場で行われる株式取り引きがいわゆるマネー・ゲームで、ホリエモンがやっていたのはまさにこのマネー・ゲームだったのにもかかわらず、マスコミや自民党はついこの間まで、これこそ新しい時代の起業であり企業のあり方だと持ち上げていたということでしょう。今回の事件があっても、その状況が変わるとは思えません。
実は科学の世界でも同じことが起こっています。
今は昔の話になりましたが、科学者はその研究を理解できるほんの一握りの人によってのみ評価されており、暗黙ではありましたが誰がすごくて誰がダメかということは仲間うちでは評価が定まっていた時代がありました。その頃、実力と評価は直結していたと思います。
その頃ももちろん研究者は研究をして、その結果を学会や論文に発表し、その内容を評価できる人によってランキングされていました。論文は、それぞれの研究分野ごとの小さなグループの内部でのみ流通している小さな学術誌や、大学の学部ごとにだしている紀要と呼ばれるものに発表されることも多かったのですが、どんなところで発表されようと世界中にいる同じ分野の研究者には配布されましたので、何も不都合はありませんでした。場合によっては、学会や論文発表をしなくても「あの人はすごい」というような評価を受けている例もありました。
仲間うちで評価が高いからと言ってその人にだけ集中的に研究費が投入されるということもあまりなかったのかもしれません。もともと、研究というものに投入される費用が小さかったので、評価の高い研究者に研究費が傾斜配分されたとしてもたかがしれていたという状況もあったと思います。それが、最近は科学研究が産業に直結するケースも増えてきたこともあり、政府から投入される研究費が増加してきました。
政府としては膨大になってきた研究費を重点的に配分して、効率よく成果を回収したいという考えているようです。そのために評価の高い研究者に研究費を配分することが必要になってきました。しかし、その評価が難しいのです。分野毎に専門家によってきちんと評価ができれば良いのですが、学問分野は気が遠くなるほど多く、さらに日々広がっています。
そういう中で、非専門家である政府などがに研究者の「実力」を客観的に判断する基準として、国際的学術専門誌に掲載された論文を利用するという流れが出てきました。この基準を導入することで、それまで生物学系の論文の発表の場として広く利用されていた各大学独自で出版していた紀要や、多くの国内学会誌は「評価を受けるための」研究発表の場としては適さないという状況になってしまいました。あるものは休刊や廃刊に追い込まれ、そうでなかったとしても「重要な論文」を発表することが避けられるようになっているのが現状です。
これは、研究がその内容(実力)ではなく、それが発表された場の評価(株式相場で言うと株価に当たる)されるということです。このシステムによると、評価の高い雑誌に論文が掲載されることが研究費獲得と結びついてきますから、研究費の欲しい研究者はともかく有名な学術雑誌(NatureやScience)に論文が載ることが至上命題になります。
その結果として起きた不正行為が、韓国のES細胞スキャンダルや日本の論文ねつ造スキャンダルです。バブル長者が株価を操作するために会社の業績を操作するのと同じように、彼らは有名雑誌に掲載されるためにデータを操作したのです。つまり、科学の世界の論文ねつ造は株価の不正操作とよく似た構造をしていると思います。
金に踊らされるという意味においては人間である限り、みな同じなのかもしれません。必要なのは正しくオープンな業績評価システムと、会社であれ研究であれデータ偽造やねつ造などを監視するシステム、それと「人間は金だけではないはずだ」という倫理観を持った人間を育てる教育システムではないかと思いますが、いずれも簡単なことではないですね。
もちろん、ネットでは虚実取り混ぜた情報が並立的に提示されており、それが膨大な量のマスコミ情報のコピーと極私的感想の中に埋もれているのがインターネットの特質ですので、そこからどうやって確からしいストーリーを取り出していくのかというリテラシーがないと、かえって混沌の中に投げ出されることになってしまいます。今回の「事件」はいわば我々に課せられた練習問題と言えるかもしれません。
そんな中で珍しくテレビのライブ・スタメンの中で爆笑問題の太田光が青臭いとも言える正論を強調していたのが、なんとも新鮮でした。彼が言っていたのは、投資というのは自分が評価して、これならいけるという判断をした会社の株を買うということで、それは株の値段が上がった下がったということとは関係ないだろう、ということです。
私もこれは理念的に正しい定義だと思いますが、株の売買を金儲けのための行うという立場からいうと全然違うのだと思います。株の売買によってできるだけ確実に利益を上げようとする場合には、会社の実力や評価などよりも現実に日々の株価がどういうふうに動いているかが問題で、会社の実力の評価などは二の次、さらに極端にいうとそんなものは関係ないとさえ言えます。
そういう立場で行われる株式取り引きがいわゆるマネー・ゲームで、ホリエモンがやっていたのはまさにこのマネー・ゲームだったのにもかかわらず、マスコミや自民党はついこの間まで、これこそ新しい時代の起業であり企業のあり方だと持ち上げていたということでしょう。今回の事件があっても、その状況が変わるとは思えません。
実は科学の世界でも同じことが起こっています。
今は昔の話になりましたが、科学者はその研究を理解できるほんの一握りの人によってのみ評価されており、暗黙ではありましたが誰がすごくて誰がダメかということは仲間うちでは評価が定まっていた時代がありました。その頃、実力と評価は直結していたと思います。
その頃ももちろん研究者は研究をして、その結果を学会や論文に発表し、その内容を評価できる人によってランキングされていました。論文は、それぞれの研究分野ごとの小さなグループの内部でのみ流通している小さな学術誌や、大学の学部ごとにだしている紀要と呼ばれるものに発表されることも多かったのですが、どんなところで発表されようと世界中にいる同じ分野の研究者には配布されましたので、何も不都合はありませんでした。場合によっては、学会や論文発表をしなくても「あの人はすごい」というような評価を受けている例もありました。
仲間うちで評価が高いからと言ってその人にだけ集中的に研究費が投入されるということもあまりなかったのかもしれません。もともと、研究というものに投入される費用が小さかったので、評価の高い研究者に研究費が傾斜配分されたとしてもたかがしれていたという状況もあったと思います。それが、最近は科学研究が産業に直結するケースも増えてきたこともあり、政府から投入される研究費が増加してきました。
政府としては膨大になってきた研究費を重点的に配分して、効率よく成果を回収したいという考えているようです。そのために評価の高い研究者に研究費を配分することが必要になってきました。しかし、その評価が難しいのです。分野毎に専門家によってきちんと評価ができれば良いのですが、学問分野は気が遠くなるほど多く、さらに日々広がっています。
そういう中で、非専門家である政府などがに研究者の「実力」を客観的に判断する基準として、国際的学術専門誌に掲載された論文を利用するという流れが出てきました。この基準を導入することで、それまで生物学系の論文の発表の場として広く利用されていた各大学独自で出版していた紀要や、多くの国内学会誌は「評価を受けるための」研究発表の場としては適さないという状況になってしまいました。あるものは休刊や廃刊に追い込まれ、そうでなかったとしても「重要な論文」を発表することが避けられるようになっているのが現状です。
これは、研究がその内容(実力)ではなく、それが発表された場の評価(株式相場で言うと株価に当たる)されるということです。このシステムによると、評価の高い雑誌に論文が掲載されることが研究費獲得と結びついてきますから、研究費の欲しい研究者はともかく有名な学術雑誌(NatureやScience)に論文が載ることが至上命題になります。
その結果として起きた不正行為が、韓国のES細胞スキャンダルや日本の論文ねつ造スキャンダルです。バブル長者が株価を操作するために会社の業績を操作するのと同じように、彼らは有名雑誌に掲載されるためにデータを操作したのです。つまり、科学の世界の論文ねつ造は株価の不正操作とよく似た構造をしていると思います。
金に踊らされるという意味においては人間である限り、みな同じなのかもしれません。必要なのは正しくオープンな業績評価システムと、会社であれ研究であれデータ偽造やねつ造などを監視するシステム、それと「人間は金だけではないはずだ」という倫理観を持った人間を育てる教育システムではないかと思いますが、いずれも簡単なことではないですね。
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inoue0 at 2006-01-24 10:09
研究費の総額が増えていることは事実なのでしょうが、直接研究に関係しない間接経費、すなわち雑用をしてくれる秘書の給与ですとか、大学内の設備をメンテナンスしてくれる技師の給与は、減らされてますね。秘書の給与は、講座予算が出るようになってる。貧しい研究室には秘書はいません。
講座の構成自体も、かつてのように、教授、助教授、助手2という大講座制から、どんどん減らされています。受け持ち院生の数は増えているのに。
大学教員が、大学設備の管理に走り回っってるなんておかしな話です。モチはモチ屋というやつで、年に数回しか使わない機器をマニュアル見ながらなれない手で操作するのと、毎日使っている技師とでは、効率も、結果の信頼性もぜんぜん違うでしょう。単なる事務仕事だって、秘書より教員がやる方が速いとしても、事務は秘書にやらせて、教員にしかできない教育研究活動をした方が、全体としては効率が上がる。
効率を重視しているようで、実は下げてしまっている部分が多いんじゃないでしょうか。高価な研究機器を購入すればいいってもんじゃないでしょう。
講座の構成自体も、かつてのように、教授、助教授、助手2という大講座制から、どんどん減らされています。受け持ち院生の数は増えているのに。
大学教員が、大学設備の管理に走り回っってるなんておかしな話です。モチはモチ屋というやつで、年に数回しか使わない機器をマニュアル見ながらなれない手で操作するのと、毎日使っている技師とでは、効率も、結果の信頼性もぜんぜん違うでしょう。単なる事務仕事だって、秘書より教員がやる方が速いとしても、事務は秘書にやらせて、教員にしかできない教育研究活動をした方が、全体としては効率が上がる。
効率を重視しているようで、実は下げてしまっている部分が多いんじゃないでしょうか。高価な研究機器を購入すればいいってもんじゃないでしょう。
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stochinai at 2006-01-24 13:50
>効率を重視しているようで、実は下げてしまっている部分が多いんじゃないでしょうか。
まったく同意いたします。それにもかかわらず、高額な機械を買う理由はやっぱり効率化なんですよね。
まったく同意いたします。それにもかかわらず、高額な機械を買う理由はやっぱり効率化なんですよね。
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alchemist
at 2006-01-24 16:46
x
>効率を重視
別に成果の効率を重視しているのではないでしょう。大量のお金を特定の研究室に集めることによって、効率良くばらまけることを重視しているだけではないでしょうか?
常識的なサイズの研究室がもっとも必要としている研究費は1000万程度を5年ほど継続して呉れるものでしょうけど、大規模研究予算なんて殆どその一桁上の億単位で、継続期間は2、3年ですね。10個の研究室を選ぶよりも1個の研究室選ぶ方が手間がかからず効率が良いってだけの配る側の論理だけじゃないのかなあ。
別に成果の効率を重視しているのではないでしょう。大量のお金を特定の研究室に集めることによって、効率良くばらまけることを重視しているだけではないでしょうか?
常識的なサイズの研究室がもっとも必要としている研究費は1000万程度を5年ほど継続して呉れるものでしょうけど、大規模研究予算なんて殆どその一桁上の億単位で、継続期間は2、3年ですね。10個の研究室を選ぶよりも1個の研究室選ぶ方が手間がかからず効率が良いってだけの配る側の論理だけじゃないのかなあ。
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alchemist
at 2006-01-24 16:50
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随分昔、共通一次が発足した頃、受験の負担を減らすってキャッチフレーズが理解できず、ボスに「なぜ、一度合格するために二度も試験を受けなければいけない共通一次の制度が受験の負担を減らすことになるのですか?」と質問した。
ボスは、不思議そうな顔をして「そんなもん、独自の試験を作る手間が少しでも省ければ、大学の入試への負担が減るだろうが」と。あ、受験の負担て、受験生の負担じゃなく大学の負担だったんだと、はじめて気がついた。
効率の重視だって、効率良く成果を上げるかどうかじゃなく、効率良く配るかどうかを問題にしているという視点も必要ではなかろうか。
ボスは、不思議そうな顔をして「そんなもん、独自の試験を作る手間が少しでも省ければ、大学の入試への負担が減るだろうが」と。あ、受験の負担て、受験生の負担じゃなく大学の負担だったんだと、はじめて気がついた。
効率の重視だって、効率良く成果を上げるかどうかじゃなく、効率良く配るかどうかを問題にしているという視点も必要ではなかろうか。
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stochinai at 2006-01-25 01:01
効率的にお金をばらまき、効率的に「成果」を回収できるということですね、確かに。
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inoue0 at 2006-01-25 16:01
多比良(たひら)教授の学生は全員が移籍したそうです。研究費の申請をしてももらえないという状況になっていたから致し方ないが、それにしたって、これはひどい。
ひどいというのは、こういう状況でも職に留まっていられる教授の面の皮の厚さです。実質的に教育研究活動は停止せざるをえないのだから、彼は職務を遂行できないのであって、行政法人東京大学は、もはや彼に給与を払う必要はないのです。
ひどいというのは、こういう状況でも職に留まっていられる教授の面の皮の厚さです。実質的に教育研究活動は停止せざるをえないのだから、彼は職務を遂行できないのであって、行政法人東京大学は、もはや彼に給与を払う必要はないのです。
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stochinai at 2006-01-25 16:39
これは東京大学の責任を問うべき問題だと思います。セクハラなら免職や停職をするくせに、大学としてはそれよりもはるかに重大な研究というものの信用を失わせる行為に対して何もできない(しない)というなら、もはや大学として存在する意味を失っていると思います。
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and
at 2006-01-28 01:47
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>その結果として起きた不正行為が、韓国のES細胞スキャンダルや日本の論文ねつ造スキャンダルです。
後者は確かにそうだけれども、前者は単にそうは片付けられなくて、韓国の文化的背景にまで原因があったりします。
後者は確かにそうだけれども、前者は単にそうは片付けられなくて、韓国の文化的背景にまで原因があったりします。
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stochinai at 2006-01-28 13:16
確かに韓国の場合は、ちょっと複雑な経緯がありましたね。ファン教授を支援するファンクラブ(ダジャレになってしまいます)ができたりしたのは日本では考えられないことだと思いました。
しかし、オリンピック選手並みに研究者が市民に熱狂されるということは、科学者側から見るとある意味でうらやましくないこともない気はします。
しかし、オリンピック選手並みに研究者が市民に熱狂されるということは、科学者側から見るとある意味でうらやましくないこともない気はします。
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alchemist
at 2006-01-30 09:47
x
>ライブドア問題は発生数日にして語り尽くされてしまった
いつ出て来るかと待っていたのですが、どこのジャーナリズムも政党もふれない小さなことがあります。前回の総選挙の後で、堀江氏は自民党の顧問に就任して、自民党の財務を改善する・・・とかいう話で、ニュースになっていました。
私的には、堀江流の金もうけ術を自民党に指南するのかと、半ば納得し、半ば呆れたのですが・・・顧問に就任することを要請した、っていうのは政権政党自身が強く強く堀江氏の生き方に共鳴した証拠じゃないかと愚考するのですが。どうして、誰もふれないんでしょう??
いつ出て来るかと待っていたのですが、どこのジャーナリズムも政党もふれない小さなことがあります。前回の総選挙の後で、堀江氏は自民党の顧問に就任して、自民党の財務を改善する・・・とかいう話で、ニュースになっていました。
私的には、堀江流の金もうけ術を自民党に指南するのかと、半ば納得し、半ば呆れたのですが・・・顧問に就任することを要請した、っていうのは政権政党自身が強く強く堀江氏の生き方に共鳴した証拠じゃないかと愚考するのですが。どうして、誰もふれないんでしょう??
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stochinai at 2006-01-31 13:43
昨日あたりからようやくこの問題にも手が付けられ始めたようですね。ブログを含めて、多くの非ジャーナリストが発言できるようになったネットの環境によって、いろんなことが隠せなくなってきていることは、喜ばしいことだと思います。
by stochinai
| 2006-01-22 23:28
| 科学一般
|
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