5号館を出て

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科学と非科学について

 二つ前のエントリー「文部科学省また失策」には、批判・賛成・お叱り・疑問などなどさまざまのご意見をいただきました。ありがとうございます。もともと、ブログを書くことには、読んでいただいている皆さんと議論をしたいという思いがあってやっていることですので、このように議論が巻き起こるということは本当に嬉しいことです。私自身の意見の変化を含めて、少しでも良い方向へ議論が進んでいくことができると確信しています。

 さて、そのコメントの中でMYさんから、次のようなご質問をいただきました。
教えてください。stochinaiさんは、「似非科学」という言い方を使われているのですが、これとよく似た言い方で「疑似科学」という言い方があると思います。漢字の意味するところから、少し違う意味を持っているような印象もあるのですが、stochinaiさんは意図的に使い分けているのでしょうか。どちらが、好ましいというご意見があるでしょうか。ちなみに、Googleで調べると、疑似科学1,500,000 件、似非科学346,000件がヒットして、疑似科学という言い方が圧倒的に多いようです。

 実を言いますと、科学の周辺にある「非科学」についてはそれほどしっかりと意識して定義された言葉を使い分けているわけではありません。科学のような装いをほどこしているけれども、明らかに科学としての方法論を逸脱していたり、「科学的」議論が行われていにもかかわらず、謙虚なところがなく、断定的に結論を出すことによってしっかりとした科学リテラシーを持たない人々をミスリードするようなものに出会うと、私個人がそれに対して否定的な評価をしているという価値判断を含めて似非科学(エセ科学)と呼ぶことが多いと思います。

 しかし、この使い方が一般的を持った正しいものなのかどうかについてはそれほど自信があるわけではありませんので、今年の10月14日にはこのブログで知り合ったその道の専門家でもある大阪大学サイバーメディアセンターの菊池誠さんをお招きして、CoSTEPで「「ニセ科学に立ち向かう」とうい講義をやっていただくことを口実に、私も勉強させてもらおうと思っております。

#余談になりますが、菊池さんが非常勤で講義にいらしてもらうことになったいきさつは、本ブログのエントリー「インテリジェント・デザイン」のコメント欄にそのすべてがあります。ブログのコメント欄で見ず知らずの方に講義を依頼して、それが成立するなどということは考えてみるとすごいことではないでしょうか。

 さて、その菊池さんのホームページに「『ニセ科学』入門」という、科学と似非科学、ニセ科学、疑似科学、トンデモなどについての非常にわかりやすい論説があります。私も読ませていただいておおむね同感しておりますので、敢えてここでそれを繰り返すことも避けたいと思います。

 ただ、菊池さんもおっしゃっているように、科学と非科学の境界は絶対的なものではありませんし、時代とともにひっくり返ることもあります。今までにも何度もありましたし、これからもないとは言えないと思いますので、常に「現時点で手に入る限りの情報と科学的リテラシーを持って判断する限り」という前提付きの議論の上で、「それは科学的ではない」というものを非科学と判断するのだと思います。

 ただし、同じように非科学的なことでも、人に害を与えるものばかりではなく、逆に有益なものもありますし、多くのものはどちらでもないというようなものだと思います。

 というわけで、私が否定的に似非科学と呼んでいるものは、私から見て被害者がいる、あるいは被害者が出るであろうものをそう呼んでいるとお考えください。菊池さんのおっしゃているニセ科学もほとんど同じような趣旨だと考えられます。

 疑似科学という言葉はほとんど使ったことはありませんが、科学的判断基準からいうと問題があるものの、実害を伴わない場合は疑似科学と呼んで寛容に受け入れ、場合によっては積極的に本当の科学へと発展していけるように我々が協力すべきものであるのかもしれないと思います。

 こういうことを考えているうちに、サイエンスのまわりにパラサイエンスとでも呼ぶべき周辺領域があることを思い出しました。メディカルのまわりにパラメディカルがあるように、サイエンスの活動をサポートしてくれるアマチュア科学というでもいうべき、パラサイエンスの領域を育てて行くことも似非科学などの跳梁を許さないためには必要なことだと思います。

 実はすでに、分類学の方面ではパラサイエンティストとして、パラタクソノミスト(準分類学者)という存在を育てる作業が、我々のCOEで始まっています。

 MYさんの質問に対してはあまり良いお答えにはなりませんでしたが、徒然に書いてみました。
Commented by K_Tachibana at 2006-03-26 19:57 x
インテリジェント・デザインの話,先週のCoSTEPのシンポジウムのときにも話題に出ていましたが,岡橋タッキーさんが説明なしにインテリジェント・デザインとさらっと訳してしまっていたので,気になっていました.さらっと訳せるほど,来ている方々がインテリジェントデザインについて理解しているのか,と.

メルマガ編集でとくにアメリカの科学記事をクリッピングするときにインテリジェントデザイン論争の話がよく出てきます.この間,セントルイスで行われていたAAASのシンポでも話題になっていたようですね.

先の話ですが,阪大の菊池誠さんの話も聞かせてください.私も全体像を俯瞰できていないので.
Commented by renes at 2006-03-26 21:09
> 被害者がいる、あるいは被害者が出るであろうもの

ニセ科学の定義としては、これは分かりやすいですね。
でもこれだと、エビデンスに基づかない、あるいは効果が認められなくなった学説で、医療行為を繰り返す医者もニセ科学を行っている事になりかねないです。
定義というものは難しいです。
Commented by MY at 2006-03-26 23:57 x
stochinaiさん、どうもありがとうございました。この問題が、かなり深いものを持っていることがわかってきました。おりしも日本物理学会では、
3/30に「ニセ科学」をテーマにしたシンポジウムが開かれるようです(そのリンクも参考になるものが多いです)。
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/events/JPSsympo0306.html
Commented by stochinai at 2006-03-27 01:08
 このシンポジウムはずいぶん前に新聞報道されていたようですので、盛り上がることが予想されます。菊池さんも講演される予定です。
Commented by stochinai at 2006-03-27 01:09
 renesさん、時代遅れの医師がエセ科学者だというのは笑えない事実なのではないかと思います。場合によっては犯罪になってしまいます。
Commented by inoue0 at 2006-03-27 03:36
私のblogのこの記事をご覧ください。知識のない老医師が仕事をすると、こういう惨状を招くのです。無免許の「医師」が年収2000万円を稼いでいたという事件もありましたが、こちらは自分の分際を心得ていて、危ない症例をうまく避けていました。藪医者よりもニセ医者の方が安全なんです。
http://inoue0.exblog.jp/2627991/
Commented by inoue0 at 2006-03-27 03:44
菊池誠さんは「不思議現象なぜ信じるのか」という著書があり、心理学的側面から「信じ易いこころ」の分析がなされています。人の心理のバイアスを知っていることは、科学者にとっても決して無駄にはならないでしょう。なぜなら、科学者は、単に、自分の属する研究集団の慣例に無意識にしたがっているだけだからです。
Commented by katsuya at 2006-03-27 23:34 x
言わずもがなの指摘かもしれませんが、「不思議現象なぜ信じるのか」は信州大学人文学部の菊池聡さんの著作ですね。
http://fan.shinshu-u.ac.jp/~cinf/zemi_syokai/kikuchi.html
記事内で話題になっている菊池誠さんとは別の方ですね。

私自身、ネットで多少疑似科学批判をやった経験がありますが、根本主義キリスト教系の「創造科学」のようなものは、自分達の信仰と「進化生物学」の間の不一致に対する一つの反応と解すべきだと思っています。
「インテリジェント・デザイン」について詳しく紹介されているKumicitさんという方のブログの、3月27日付けのエントリ
http://transact.seesaa.net/article/15373969.html
に紹介があるように「進化論を誤解して批判しているのではないのかもしれない」点に他のエセ科学・疑似科学と単純に同列視すべきでない点があるように思っています。
Commented by inoue0 at 2006-03-28 08:36
ああ、どうも、これは失礼しました。似たような名前でしたので。
Commented by Hiroko_Y at 2006-04-01 21:23 x
ニセ科学、特に「水伝」関係はとても興味を持って、というか腹を立ててウォッチしていました。

2月に(富山県)立山の博物館員さんから雪の講義を受け、興味を持っておられそうな方にノートと資料を渡したかったのですが、バタバタしてそのままです。菊池さんの連絡先も探したのですが見つからなかったので。

10月ですか。だいぶ先ですがもうそちらは寒そうですね。
Commented by stochinai at 2006-04-01 23:17
 菊池さんの連絡先は、上のコメントからたどってください。

 それから、10月ならまだなんとか初雪は阻止しておきます(^^)。
by stochinai | 2006-03-26 19:42 | 科学一般 | Comments(11)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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