5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

北大教授のセクハラ処分

 今朝、読売新聞のサイトで第一報「北大教授にセクハラ諭旨解雇処分通知、本人は否定」を見て、びっくりしました。一方で、2週間ほど前に近いうちに理学部に関係のある重要人物が新聞に載るようなことになるという話を聞いていましたので、これがそれかと妙に納得したのも事実でした。

 渦中の教授は理学部生物学科(動物学)で、私の後輩だった男です。彼は学生の頃から、神経生物学に強い興味と特異な才能を示していたことが、記憶に残っています。私がまだ助手になり立てで動物発生学の実習を教えた時に、彼は動物の発生における細胞相互作用を神経ネットワークとのアナロジーで議論した「レポート」を出してきて、こんなすごい学生もいるのかと衝撃を受けたものです。

 やはり彼は人間の脳に興味があったようで、京大の霊長研の大学院にあっさりとはいり、大学院を出るか出ないかという若さで「知性の脳構造と進化」という意欲的な本を出して、脳科学者のスター誕生ということでもてはやされました。その後、中村桂子さんとか養老孟司さんなどとの交流を通じて、どんどん有名になっていくのを、私はなんだか不思議な気持ちで眺めていました。

 有名にはなってきたものの霊長研の助手時代が結構長かったように記憶していますが、10年ほど前にいきなり北大の医学部文学部に助教授となっって戻ってきた時にはびっくりしました。ほどなく医学部の教授になりましたが、出版界やメディア界で次々と一般向けのわかりやすい発言を繰り返している彼の講義は学生にもかなり人気が高かったようです。(そうでした。すっかり忘れていましたが、戻ってきた時には文学部の心理学でした。

 学生時代の彼は、まさに天才肌の不良といった言動の男で、かなり女性にはもてていたようでしたし、彼のまわりにはいつも女性がいた記憶があります。昔の学生としてはそんなに珍しくもないことですが、酒を飲んで上級生と喧嘩して殴られそうになった(殴られた?)現場を見たこともあります。

 そんな彼でしたが、大学を出た後は著書などで名前を見る以外、会ったことはありませんでした。再会したのは、たまたま彼と私が同じ年に札幌のローカルな財団から研究費をもらうことになった授賞式の席でした。20年ぶりくらいに再会した時の印象は、学生時代のあの無頼な感じがまったく消え失せていて、なんだか気が弱そうで「こいつ、大丈夫かな」と思わせられるほどだったのが、過去の彼を知っているだけに、逆に強烈な印象として残っています。

 その後も、彼はポピュラーサイエンスの執筆活動を盛んに行っており、数年前からは子どもの脳の発達に関して、素人の私がいうのも変なのかもしれませんが、そんなところまで言ってもいいのかというような、例えば「子どもの脳を正しく育てるために、日本のお母さんは子どもを3人産みましょう」といったようなことを書いたりしているのを見て、トンデモの世界に足を突っ込み始めたのかと感じておりました。

 以降、授賞式の時に見たおどおどした男と、出版やメディアで活動するトンデモな男のイメージが重ならないまま、今日に至っています。

 セクハラに関しては最新のニュースで、「セクハラ解雇 北大教授が異議申し立て 大学に『承服できぬ』」ということで、かなり強硬に異議を申し立てているのはいいのですが、セクハラを訴えた女性職員に損害賠償を起こそうとしていること、ことが表沙汰になる前の3月18日に退職願を提出しており、諭旨解雇通知を受けたことで北大が義務として再調査を行っている間の4月1日には法律によって退職が承認されることになり、そうなると北大としては彼を処分することができなくなるなどと、かなり巧妙に次々と処分を無力化する手を打っていることに関しては、あまり良い感じがしません。

 処分が記録されなければ、彼ほどの有名人ですから私立大学などで再就職も簡単だろうという読みなのでしょうか。あまりにも法律に明るい自然科学者などというものをうさんくさく感じるのは、私の偏見というものでしょうか。

 それにしても、これほどまでに見事に処分を無効化させる法的手段を取るとは、やはりやつはただものではないようです。

 科学関係者のお二人のブログにトラックバックを送ります。

またセクハラ教授解雇、今度は実名報道
また北大教授解雇
Commented by inoue0 at 2006-04-01 08:40
 退職の形式が、自己都合退職か、諭旨免職か、懲戒免職かで、そんなに再就職が違うものでしょうか?無名の市井の人ならともかく、業界なら誰でも知ってる有名人なんでしょ?
Commented by MY at 2006-04-01 08:56
教授(もう元教授となるのでしょうか)は、脳に関する著作をするいわゆる脳文化人の中では、科学者としての実績がある方だと思います。ただし、その一般向けの著作などに見られる言説は、もちろんわかりやすくいうこともあるのでしょうが、科学としてこんなこと言ってもいいのか、という面がしばしばあったのではないかと思います。科学コミュニケーションの立場から、いわば「科学ハラスメント」ともいうべき発言もあったような気もしますが、どうでしょうか。(もしそうでないという反論で説得していただければ、この発言は撤回します。)
Commented by stochinai at 2006-04-01 10:36
 inoue0さん。再就職に関しては、彼あるいは代理人のコメントにあったものなので、履歴書を「汚したくない」という気持ちがあったことは事実だと思います。

 MYさん。彼の一般向けの本は専門あるいは準専門向けのものと大きなギャップを感じさせるもので、最近私は読むことを拒否していましたので正しく批判することができないのですが、おっしゃるとおり似非科学臭的な断定によって読む人の中には傷つくこともある表現もあったと記憶しています。不思議なことに、政府の少子化対策や道徳対策と呼応するような提案も感じられ、必要以上に(スポンサーに対する)サービス精神が強すぎるのかと思ったこともあります。そういう彼を利用しようとした人達がいたことも事実なのではないでしょうか。
Commented at 2006-04-01 13:10
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2006-04-01 17:41
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2006-04-02 19:18
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2006-04-02 21:24
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 通りすがり at 2014-07-04 08:11
魚〇さんも訴えられたのに大物を使って圧力でもみ消したというし、北大理は病んでいますね。
Commented by stochinai at 2014-07-04 20:29
その「大物」の名前を、是非ともオープンな場で教えてください。
Commented by ほえ~ at 2014-07-06 23:07
某私大学長ね。
Commented by 通りすがり at 2014-07-07 10:26
現在はそうですね。
Commented by 通りすがり2 at 2015-01-04 15:58
U崎の人柄の悪さはセクハラ事件を筆頭に昔から有名。圧力と攻撃で敵とみなした人間をすべて叩き落とす、団塊の世代の最も醜悪な姿をさらした悪人。電池の世界はヤクザが多いがこいつがその典型。本人は自身の成果を吹聴するし、バカ丸出し。半島の血を引いているんでしょ?
Commented by sayumist_twitt at 2016-10-29 23:47
NIMSは貧乏くじを引いた
Commented by 774 at 2024-02-12 23:21
Uサキ許すまじ
by stochinai | 2006-04-01 03:00 | 大学・高等教育 | Comments(14)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai