5号館を出て

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権力としてのグーグル

 遅ればせながら、忘れないうちに佐々木俊尚さんの「グーグル Google 既存のビジネスを破壊する」の感想などを書いておきたいと思います。巷では梅田望夫さんの「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる」と並んで、今をときめくグーグル論の2大教科書と位置づけになっているようです。

 私もいちおう両方を読んでみましたが、「ウェブ進化論」は口当たりも良くとても読みやすい空からみた解説本という印象を持ったのに対して、「グーグル Google」はルポルタージュのような現場から見上げたドキュメンタリーという感想です。

 「ウェブ進化論」は、非常に楽天的にグーグル礼賛をやっているので、読み終わる頃には眉につばをつけたくなったのですが、「グーグル Google」の最後に出てくる「グーグル八分」の話を読むと、グーグルが国家を越えた権力としてまさに我々の生殺与奪権を獲得する可能性を感じて、かなり恐ろしい気分になりました。

 「グーグル Google」の中に出てくる、羽田空港周辺の駐車場の話や、メッキ工場のロングテールの話は「ウェブ進化論」と同じようにグーグルの『光』についてのとてもわかりやすいルポです。つまり愛されている限りグーグルは、弱いものの見方になってくれるという話です。

 ところが『光』にはかならず『影』があるもので、「ウェブ進化論」では「まあ影もあるけど、そんなに心配することないよ」という能天気な思考をしていたのですが、「グーグル Google」ではすべてを把握しデータベース化し、独特のロジックで選別し提示するグーグルに、もしも愛されなくなったとしたら、どんなことになるかというホラー映画のような結末が待っているのです。

 もしも、地球上のすべてのものがグーグルという巨大なデータ空間に取り込まれたとしましょう。実際、今グーグルで検索をしてみると、自分の知らない自分や忘れていた自分が蘇ってくるような錯覚を覚えることすらあります。このまま進むと間違いなく「すべて」が取り込まれることでしょう。

 そうなると、世界中の人が「すべてのデータはグーグルにはいっている」と考え始めることでしょう。しかし、中国の例で明らかになっているように、グーグルは「持っているすべてのデータをを出すわけではない」という権利を持っているのです。実際に日本国内でも、グーグル検索では出てこないデータというものがあるのだそうです。そして、何が出てきて何が出てこないのかはグーグルだけが知っているのです。

 たとえば、日本のようにほぼ100%の人が戸籍というものに登録されている国を考えてみます。日本人はすべての日本人は戸籍を持っていると信じていますから、もしも戸籍がないということが発覚したら、それは日本人ではないということの証明になってしまいます。戸籍を持っているのは政府です。もしも政府がある人の戸籍を消してしまったらどうなるでしょう。ほとんどありえないことですから、もしもそういうことが起こったら非常に強くその人は日本人ではないという結論を人々に与えることになると思います。

 それと同じように、グーグルがすべてを持っていると人々が思い出すようになった段階で、グーグルがデータを選別しだしたらどういうことになるでしょう。それでデータが出てこなくなるという状態が「グーグル八分」です。グーグルで出てこないものは、この地球に存在しないものである、と判断される可能性は決して小さくないと思います。いとも簡単に、あなたの存在が消されてしまうのです。

 地球上のすべてのデータをグーグルに委ねることは、結果的にグーグルにとてつもない権力を与えるということでもあるのです。「グーグル Google 既存のビジネスを破壊する」は、そういう危険性に警鐘を鳴らしてくれたという意味で、私にはとても有益な本でした。

 できれば、両方の本を読むことを、おすすめします。
Commented by M姫 at 2006-05-09 22:28 x
この記事を読んで、サンドラブロック主演の「ザ・インターネット」という映画を観て、とても恐くなった事を思い出しました。この映画は人付き合いの少ない主人公がコンピューター上で公的情報を書き換えられ、犯罪者にされてしまうというストーリーです。ネット社会の現在、あり得ない話ではないと思いました。
Commented by mm at 2006-05-10 10:13 x
実存を離れて、付加価値が一人歩きする社会ですね。
頭でっかちで身体のない、大昔の宇宙人の想像図に人間が近づいている気がします。
Commented by hal at 2006-05-11 23:21 x
「ザ・サーチ」ジョン・バッテル著(日経BP)という文春新書の「グーグル 既存の・・・」にも引用されている本(というかタネ本?)も併せて読むことを推奨します。
ヤフーの検索との違いを、ヒューマンvsアルゴリズムという志向性の違いに求めるなど非常に面白いと思います。しかもそう考えたとき、この先必ずしもグーグルが一人勝ちするとは限りません。「グーグル・・・」で感じた恐怖(?)をとりあえず消すこともできます(笑)。
by stochinai | 2006-05-09 21:41 | コンピューター・ネット | Comments(3)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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