5号館を出て

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市民セミナー

 21世紀COE 「新・自然史科学創成」総合博物館・市民セミナーというものをやってきました。総合博物館は旧理学部の建物であり、この部屋からは屋外へでることなくたどり着ける場所です。

 日頃、講義やセミナーや学会で人前で話すことに関しては、いちおうプロのつもりでいたのですが、今回はかなり勝手が違いました。正直言うと、満足できるものではなかったと思います。せっかくの土曜日の午後に、降雪の中を集まっていただいた皆さまには、お詫びを申し上げたい気持ちです。すみません。

 これはやる前からわかっていたのですが、失敗の原因のひとつはお客さんというものを把握しきれなかったことです。普段の発表で相手にしている、学生(大学1年生、4年生、大学院生)とか、研究者とか、研究室メンバーとかだと、相手のレベルや使える専門用語がだいたい予想できるものです。多少、読み違っていても話を始めてからでも、相手の反応を見ながら調整ができます。

 それが、今日はちょっと参りました。前側の席を占めておられるのは、どちらかというと年齢が高めで、博物館の方の話によると「常連さん」で、どんな話でも興味深く聞いて質問もしてくださる方達だそうです。ところが、だんだんと人が入り始めてみると、学部の学生から、大学院の学生、大学の先生(しかも、専門はバラバラ)から、中学校・小学校の先生、高校の先生もいました。もちろん、家庭の主婦の方、検査技師の方、外国人の語学教師の方までも聞きにきてくださいました。

 正直言いまして、このメンバーを見て最初は完全にあがってました。久々に、レーザーポインターを持つ手が震える自分を見て、さらにまた平常心を失いました。さて、ここからどうやって体勢を立て直したらいいものか、、、、。

 そういう時の私のいつものパターンは、弁解おじさんになることです。あっちの人にはこの説明を、こっちの人にはこれについての小話を、そこの人にはちょっと高度な専門用語もちりばめた玄人っぽい話を、さらに寝そうになった人が出てきたら、アドリブで時事話などを、、、、。こういうことを全部やろうとすると、とてつもない早口になってしまうのです。私が早口の時は、形勢不利を意味してます。

 私のいつものやり方なのですが、ある程度たくさんの量の話を準備していって、お客さんの状況に応じて、はしょったり膨らましたりをやるのですが、今回のような場合には、あっちにもこっちにもサービスしようとやっている間に、前置きだけで予定の時間を使い切りそうになってしまいました。

 まあ、準備が悪いと言われてしまえばそれまでなのですが、この現場に出てから微調整しながら話をするというのも、それなりにスリリングで楽しい部分があることと、うまく言った場合にはお客さんにもエキサイティングな結果を生んでくれることがあるので、なかなかやめられません。

 聞きに入らしてくれた方々は、優しい方ばかりだったので、親切にいろいろと質問もしてくださいましたが、やっぱり合格点はあげられない発表でした。

 でも、なかなか得難い経験をさせてもらいました。いつもは、慣れた集団を相手にいわばこちらが優位に立って話すことが多いのですが、現実の社会というものはそんなに均質なわけはないし、社会を相手にするということは、そういう多様性を相手にするということなのです。

 いつも多様性こそが大事と言っていながら、いざ多様性を前にするとなかなか簡単に行かないものだということを身にしみて勉強させてもらいました。まあ、失敗も経験ですし、そういう意味ではおもしろかったことも事実です。

 博物館の方には、そのうちにまたリベンジで市民セミナーで話させてください、とお願いしておきました。何か、新しい企画を思いついたら、やらせてもらおうかと思っています。その時は、またよろしくお願いします。
by stochinai | 2005-01-22 17:54 | 教育 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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