5号館を出て

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学会発表要旨

 つい先日、発生生物学会広島大会が終わったばかりですが、来週には動物学会島根大会の申し込みの締め切りが迫っています。

 最近はどこの学会もそうなのですが、締め切りまでに参加申し込みをした場合には、参加費や懇親会費が安いことが多く、申し込みの締め切りを忘れてしまうと、当日参加と同じくペナルティの料金(だいたい1000円くらい割高)になってしまうので、締め切りは厳格に守るようになってしまうのは貧乏人の性ですね。

 学会というものは研究発表の場ですから、発表するためには講演の申し込みをしなければなりません。そのために、ほとんどすべての学会で講演要旨というものの提出が義務づけられています。講演要旨の提出は学会期日の3ヶ月くらい前ということが多いのですが、学会での発表というのは最新の研究発表のことが普通なので、申し込みから発表までの期間が3ヶ月もあると現時点で持っているデータと比べると比べものにならないくらい多くのデータが得られることが多く、学会要旨ではこれから3ヶ月かけて取るデータのことも織り込んで要旨を書くことが多いものです。

 ところがこれがなかなか難しく、予想を上回ってたくさんのデータを持って学会に乗り込んで行ければ言うことはないのですが、このくらいは確実に出るだろうという想定で要旨を書いたものの実際にはなかなか思ったような結果にならないことが多いものです。それでも、予想していたほどデータが取れなかったというような程度だとまだ良いのですが、場合によっては要旨を書いていたときに思っていたことと、まったく逆の結果になってしまうというようなことも時々起こります。

 そういう経験を何度かすると、講演要旨の書き方もだんだんと経験に裏打ちされたしたたかなものになりがちです。

 書く方としては、多少予想と違ったデータが出てもそれほど恥ずかしい結果にならないような玉虫色の要旨を書くこともあるのですが、講演要旨というものはある意味で講演を聞きにきてくれたりポスターを見に来てくれる「お客さん」を引き寄せるための勧誘ビラにもなりますので、曖昧なことだけを書いていては宣伝効果が薄く、さりとて結果的にウソを書いてしまうことになると、恥をかくだけではなく科学者としての資質を問われることにもなりかねず、いろいろと悩むものなのです。

 というわけで多くの場合、実際に実験をやっている学生は申し込み締め切りのギリギリまで実験を繰り返して、なんとか「ウソ」をつかずに済むように努力しますし、その要旨をチェックするこちらとしても、あと3ヶ月でこの学生ならどこまでできそうかをにらみながら要旨を作り上げるというギリギリの調整を行うのです。

 動物学会に関しては、あと数日の攻防戦の最終段階に入ってきました。なかなか要旨が出てこないのを待つ身もつらいのですが、実際に実験をやりながら結果を検討し要旨の原稿を書く学生はもっと追いつめられた心境にいるに違いありません。

 でもまあ、3ヶ月後の華やかな発表の成功を夢見ながら、大風呂敷にならないように、さりとて何の魅力も感じられないようなものにもならないように、推敲に推敲を重ねて魅力的な要旨を書い欲しいと思います。

 これからの実験計画とそこから出てくる結果の見通しと、それらを織り込んで人を惹きつけられる(つまり、他人が読んで興味をそそられる)要旨が書けるかどうか、さらに当日どのような発表をするのかということのすべてが総合的に判断されて「あいつはできる」と思われるか、「なんだかねえ」と思われるかというのは、非常に厳しい審判になります。

 学生でさえ、これだけ厳しい状況に置かれるのですから、科学者は怠慢だからもっと激しい競争にさらさなければならない、などと簡単に言ってしまうようなお偉いさんとは、なかなか気持ちが通じないものです。科学の世界は、けっしてぬるま湯などではなく、昔から厳しい状況に置かれていたことをわからない人が「科学政策」などを決めてしまっては、ほんとうに迷惑します。

 まあ、愚痴はともかく、最後の追い込みですから、みんなで頑張りましょう!
Commented by blue at 2006-06-11 13:50 x
今度の私の発表は半年前のエントリーです。忘れた頃に発表OKとなり、古いデータを一生懸命掘り起こしました。管理が悪いンです。あとは、多分新しいデータが追加されるだろと予想範囲でエントリーするもの。ところが想定外?の追加データだと無様な発表となります。
Commented by stochinai at 2006-06-12 00:56
 半年もすると結論までも変更を余儀なくされる可能性も高そうですね。想定外のうれしい展開があったときには胸を張って行けますが、逆の場合も同じくらいの確率で起こり得るので、発表直前にあたふたすることになる事情はいずこも同じと理解しています。
 それにしても、要旨投稿前の1週間と、発表前の2週間はいつになっても同じことを繰り返していています、私は(苦笑)。
by stochinai | 2006-06-09 23:52 | 科学一般 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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