5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

自殺対策基本法に対する違和感

 一ヶ月ほど前に、参院の超党派議員でつくる「自殺防止対策を考える議員有志の会」が議員立法で「自殺防止対策基本法案(仮称)」の成立を目指すという記事があり、初会合の席で自殺対策に取り組むNPOなど全国22団体が対策の法制化を求める要望書を提出したと書いてありました。

 その時にも、法律で自殺を防止するという発想にとてもついていけないものを感じていたのですが、なんとわずか一ヶ月足らずで、自殺対策を国や自治体などの責務とした「自殺対策基本法」が15日の衆院本会議で可決、成立してしまいました。

 確かに、この国は、8年も続けて自殺者が3万人を越えるという異常な国であることは間違いないのですが、それを法律で防止できると考えるところに大きな違和感を感じるというのは私がおかしいのでしょうか。

 最初に「自殺防止法」みたいな話を聞いたときに、「自殺をしたら死刑にするぞ」というブラック・ユーモアが頭をよぎったのです。

 自殺をする人の多くは、もはやこの国では生きていくことができないと絶望したから自殺するのではないでしょうか。それを、「自殺をするな」とはなんともむごい法律を作るものだと思った私の印象は誤解だったようです。新聞には次のように書いてあります。

 基本法は、自殺対策を国や自治体の責務と明記した。自殺は「多様かつ複合的な原因及び背景を有するもの」と定め、自治体や事業主には国などと連携し、地域や職場で対策を進めるよう求めた。

 具体的な対策の柱として▽自殺防止の調査研究、分析▽自殺予防の啓発や人材育成▽医療体制の整備▽自殺未遂者や自殺者の遺族、民間団体への支援―などを挙げている。
 つまり、国や自治体が自殺防止などの対策を講じるようにと求めている法律です。

 あえて調べるまでもなくこの8年間に急増した自殺の原因のひとつが、経済的貧困であることは間違いないのですから、もしも国にこの法律の精神を実現する気があるのなら、貧困にあえぐ多くの国民の経済状態を救うことが、自殺防止に最大の効果を上げることは間違いないと思います。

 しかし、現総理大臣が「私は、貧富の差があることは悪いことだとは思わない」というようなことを言っているということは、自民・公明の政府は自殺増加の根本的なところにメスを入れる気はないと言わざるを得ません。

 一方で、自由競争の格差社会を奨励しておきながら、もう一方で自殺対策基本法などというものを作っても、今の国の政策から考えると単なるアリバイ作りと思われても仕方がないでしょう。

 こんな実効性のない法律を作るよりも、本気で国民の生活を何とかするという政治を行うことが、自殺を減らす最大にして唯一の方策だと思います。

 建前だけの言葉遊びの政治は、もういい加減にしてください。

#週間金曜日な日々さんから「格差社会、どこが「米百票か」!」というエントリーをワールドカップ第2戦のエントリーにトラックバックしていただきました。こちらからはその記事に、このエントリーをトラックバックさせていただきます。
Commented by mamekichi at 2006-06-17 06:47 x
いつも拝読しております.
ところで,今日のエントリーについて,基本的には同じように考えますが,若干,私見をコメントさせていただくなら,経済的な背景などさまざまな要因があると思いますが,直接的には,うつ病やうつ状態になって自殺するという方がかなりあるだろうと推測しています.かく言う私自身も,うつの経験者です.うつ病などで,不幸にして自殺してしまわれる方々にとっては,やはり国としての対策や援助は必要だろうと思います.
Commented by Hiroko Yoshida at 2006-06-17 08:03 x
>mamekichiさま、

現在、「障害者自立支援法」ということで、精神保険法32条の適用がきつくなりました。ということで、うつ病の患者さんに限らず、病院に来られなくなっている人が出ています。

地方自治体が自殺に取り組んで数が減った秋田県のようなケースもありますが、うちの県はまだまだですね。

患者さんはなんとか近くの人の力を借りながら生きている状態だと思います。
Commented by mamekichi at 2006-06-17 10:13 x
Hiroko Yoshida様
おっしゃるとおりで,うつ病に関しても,きちんと受診している人は,患者の半数くらいだという推測もあります.また,ある精神科医の著書によれば,「治る力のある人が,薬の助けを得て,勝手に治っている状態だ」そうです.
秋田県の事例のように,きちんとした対策が必要だと思います.
Commented by stochinai at 2006-06-17 14:10
 mamekichiさん、Hirokoさん、コメントありがとうございます。統計として自殺率を下げることは国が責任をもってやればできることですが、自殺防止法というような対症療法ではなく、文字通り「住みやすい国」を作るということです。それは法律があろうがあるまいが、政府の義務です。
 また一方では、自殺しそうな方々の自殺を阻止できるのは、身近にいる方々だけだと思います。それも法律でうんぬんするというよりも、本人を含め身近にいる人々が医療やカウンセリングの組織を簡単に利用できる制度と雰囲気を作っていくしかないと思います。
 おそらく今の世の中は、自殺しようと考える人だけではなく、本来ならばそれを押しとどめる人も、余裕のない生活に追いまくられているという状況が多いのではないかと推察されます。
 あまり表に出てはいないと思いますが、大学生の自殺も景気変動に連動するように1996年から増えています。
Commented by Hiroko Yoshida at 2006-06-18 18:15 x
大学生、確かにいそうですね。

親しい人にすら「死」を語ることがタブーな文化がまずいと思うんですけどね。

売り切れちゃった南山堂の薬剤師のための雑誌「レシピ/ うつ病」では、自殺未遂をした患者さんには「死」という言葉を避けないこと、とあります。

未遂者の既遂例は多いはずなのですが、そのあたりのフォローも、医師多忙のためまったくでしょう。
by stochinai | 2006-06-16 23:37 | つぶやき | Comments(5)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai