5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業連絡協議会

 BTJ /HEADLINE/NEWSというメールマガジンを購読しています。内容はほとんどが、いかに生物科学を金儲けにつなげるかという話しが多いので、それほど真面目に読んではいないのですが、今日配信された第864号の巻頭にある宮田満さんのルポはとても興味深いものでした。

 19日に東京で開催された「科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業連絡協議会」の報告です。今年度から始まったキャリアパス多様化促進事業の報告と意見交換の会だったとのことです。事業に採択されたのは北海道大学、東北大学、早稲田大学、名古屋大学、大阪大学、山口大学、九州大学、そして理化学研究所です。いずれも、大量に生み出されたポスドクの「本当の」就職をどのように確保していくかということを目指すプロジェクトのはずです。

 そのルポの中に、非常におもしろいことがたくさん書かれています。宮田さんには申し訳ないのですが、たくさん引用させていただきます。これをおもしろいと思った方は、是非ともメールマガジンを購読なさってください。(ということで、宮田さんにはお許しをお願いします。)

 まずは文科省の他人ごとのようなお言葉で、ぶっ飛びます。
「国のプロジェクトは未達が多いのだが、『ポスドク1万人計画』だけは5年も前に達成してしまった」
 えーっ、この目標達成は文科省が自身で推進したんじゃないですか。これに対する宮田さんのコメントです。
 実際には、文部科学省は大学院重点化を推進し、大学院を一時的に水ぶくれさせながら、一方で学生の減少に対応して、大学のポストの調整と国立大学法人化による運営交付金のカットを進めていたのです。この合い矛盾した政策の狭間で
ポスドクが苦しむことになったのです。
 ・・・・・
 驚いたことが2つありました。
 今回の事業を始めるまで、どこの大学も何人、ポスドクを擁しているか、大学当局がまったく掴んでいなかったということです。
 ・・・・・
 教官の研究を進めるために挺身したポスドクの身の振り方に冷淡な教官が多かったのです。ポスドクが例えば研究者以外のキャリアに興味を持ち、経営や知的財産などの教育を今回の事業で受けようにも、実験が疎かになると快く思わない教官がごろごろいるだろうことは容易に想像できました。

 ポスドク問題には教官に温度差があり、絶対零度に近いと嘆く大学もありました。
 ・・・・・
 来年3月に「たんぱく質3000」プロジェクトが集結、一挙に200人のポスドクを放出しなくてはならない理研は、任期制研究員の問題を深刻に認識していました。後継プロジェクトでは、せいぜい100人しか雇用できず、しかも政府の新規予算の執行にタイムラグがあるため、幸運にも再雇用されても、半年は霞を食べなくてはなりません。
 ・・・・・
 もっと深刻だったのは、わが国ではポスドクがそれ以降のキャリアをどう辿るのか?誰も実態を知らなかったことです。
 文部科学省ですら把握しておらず、今回の9つの大学や研究機関で実態調査を行う計画を発表したほどです。
 確かに事態がこうなってしまった以上は、宮田さんのおっしゃるようにポスドクの「自助努力」がまず基本であることは間違いないところですが、言われるまでもなくみんな自助努力はしています。そんなことより、このような状況を招いた国や大学がやったことはある意味で未必の故意による犯罪であり、今その責任が問われないとしたら、同じことがまた起こると思います。

 宮田さんのルポを読んでみて、まずは責任者の処罰から始める必要があると感じました。
Commented by 院生1 at 2006-07-22 13:01 x
国が無責任なのは知っていましたが、ここまで他人事だとは思いませんでした。今後一切国の科学振興策は信用しません。
Commented by stochinai at 2006-07-22 15:50
 あるいは、政府を交換するというアイディアはどうでしょう。
Commented by alchemist at 2006-07-24 10:55 x
ここしばらく、日本の政策は官僚主導から政治家主導という流れになっているようです。その政治家の中にスポーツが判るヒトは居ても、科学が判るヒトが居ません。結果として、判らない科学に対しては非常に総論的な対応しか出来ないということになるのではないでしょうか?例えば、戦略的に研究を進めなければいけないという総論に対しては、特定の研究室だけに対する集中豪雨的な研究費の投入;人事を流動化するという総論に対しては、何が何でも任期制(首相がある大学を訪問した時の質問はただ一つ「ここは任期制を導入しているか?」だけだったそうです);大学院を重点化するといえば、院生が重点的に研究に専念できる体制を作るのではなく、ひたすらに院の定員を水膨れさせ、定員管理を厳重に行う・・・とまあ、そんな具合ですね。
有権者が科学を身近に感じられるような理科教育から始めるなければ、科学無智の政治家や科学無視の政治は修正できないような気もします。
Commented by stochinai at 2006-07-24 14:27
 まさにおっしゃるとおりだと思います。しかし、科学コミュニケーションや理科教育が成功して、「有権者が科学を身近に感じられるよう」になったら「困る」官僚や政治家がいて、「とりあえずは愚民政策をやっておくか」などと考えていないことを祈ります。
Commented by alchemist at 2006-07-24 18:19 x
科学が身近になって困る役人はいないでしょう。歴史教育なら我田引水したがるヒトは多いかもしれませんが、自然科学なんて本来がいくらでも悪用できる倫理規範とは無縁の代物ですから。
科学政策や大学教育の政策がコロコロ変わるのは、担当課長やらが自分の任期中に何らかの目立った手柄を立てたがる(ところが、ド素人だから変にネジまがったことになる)結果みたいなモノで、それに政治主導とやらが乗っかって余計に捩じれてるだけのことのように見えますが。
Commented by stochinai at 2006-07-24 19:45
 市民が科学に強くなると、政府のやっている「科学政策」のお粗末さがバレバレになってしまって、困るかなと思ったのです。
 生物関連でいうと、アメリカ牛肉輸入問題とか、GM作物問題とか、クローン人間問題とか、先端医療問題とか、考えれば考えるほど難しい問題に、市民が首を突っ込むことを歓迎してくれますでしょうか。
Commented by alchemist at 2006-07-25 11:59 x
牛肉輸入再開問題にしても、市民が普通に理解して議論する環境なら、ああいう強引な政策は決まらなかったでしょうし、別にそのことで政治が失うモノはなかったのではないでしょうか?自然科学を理解するということは、基本的には理性的な行動ですし、政治的な立場によって解釈が変わるわけでもないハズです。科学を悪用することは誰にでも簡単にできますが。
by stochinai | 2006-07-21 23:15 | 科学一般 | Comments(7)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai