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どこまで続く論文ねつ造事件 【11日にも追記あり】

 9月1日のエントリーに書いた山口県の事件の容疑者が死体で発見されるという最悪の事態になり、被疑者死亡のまま送検という結末を迎えてしまいました。これでは迷宮入りと同じことになると思いますので、とても残念です。

 今日は、もう一件の悲しい自殺の話題に触れなければなりません。今月の1日に大阪大学の助手が研究室で死亡しているのが発見されたというニュースがありました。
そばに毒物の「アジ化ナトリウム」の空き瓶があり、遺書も残されていたことから、大阪府警吹田署は服毒自殺を図ったとみている。
 研究室で自殺を図ったということは大学がらみの問題が原因なのではないかと心配しておりましたが、とくに続報もなかったので忘れそうになっていました。

 ところが昨日になって毎日新聞の大阪版夕刊が報道したそうなのですが、今日になって朝日新聞も追随してきたように、どうやらこれは論文ねつ造事件へと展開していく気配をみせています。
 大阪大大学院生命機能研究科(大阪府吹田市)の研究室で自殺したとみられる男性助手(42)が、自分の研究データを改ざんされたうえ論文を米国の科学雑誌に投稿されたとして取り下げを訴えていたことが6日、分かった。論文は異例の取り下げとなった。同大学が論文取り下げの経緯などについて調査を行っている最中に助手は自殺しており、大学は事実解明に乗り出した。
  朝日の記事では、自殺した助手以外の共同執筆者からも疑義が出されていたと書かれています。
 阪大などによると、論文は責任筆者の教授と自殺した助手ら他の研究者4人が共同執筆した。酵母菌を用いてDNA複製の仕組みの一部を調べた内容で、7月12日に米国の生物化学専門誌「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー」の電子版に掲載された。

 しかし、8月2日に筆者側の申し出で論文は取り下げられた。関係者によると、助手を含む複数の共同執筆者が「オリジナルデータと論文のデータとの間に食い違いがある」と指摘。大学は同9日から調査を始めた。
 さらに、この助手の方は柳田充弘さんのお知り合いの方だったようで、柳田さんがブログで驚きのコメントを書かれています。

 伝統的に、研究者の世界では研究論文のことを「業績」と称しており、研究論文が有名雑誌に掲載されたり、世界的に評価されることが客観的な研究能力の評価につながることになっています。もちろん、運やコネやいろいろなことがあって、能力と業績さえあればこの世界で評価され有名大学や有名研究所で着々と昇進していくなどということにはなっていないのですが、汚名は確実に不利に働きますので、助手の方がねつ造論文の作成にかかわっていたなどということになると、その後の昇進はおろか転職さえままならないということになりかねません。つまり、研究者としての将来がまったくなくなってしまうと思っても不思議はありません。

 すでに安定した「最終職」である教授になってしまえば、大学内で自分が映っているわいせつビデオを進学相談相手の高校生に見せてしまっても、たった1週間ほどの出勤停止処分ですむのかもしれませんが、助手の方が汚名を着せられてしまうと、その先に可能性としてあったかもしれない講師・助教授・教授への道はほぼ閉ざされてしまうということになる可能性は高いのです。

 もちろん、その助手の方の自殺がそうした将来を悲観したことが今回の自殺の原因かどうかはわかりません。その前に、自分が知らない間に「ねつ造論文」の共同執筆者になってしまっていて、自分で抗議をしたとは言え取り下げ論文の共同著者に名を連ねていたということになると、もうこの世界で生きてはいけないと思ったのかもしれません。

 あるいは、自分の知らない間にデータをねつ造したばかりではなく、論文の共著者にされてしまったことへの抗議だったのかもしれません。大学がその件について調査をしていたということですので、その過程でデータねつ造を疑われたり、内部告発を非難されたりして、落ち込んでしまったのかもしれません。

 大阪大学と言えば、日本でも超一流の大学です。そんなところで、こんなお粗末なねつ造論文投稿事件が起こるということ、しかもここ数年はそういうことに社会の目が厳しく注がれているということもわかっていたはずなのにそんなことが起こってしまうという、この耐え難い緩さの原因が単に個人のレベルにあるものではないことは誰の目にも明らかなはずです。

 この件に関しては、文科省から我々ひとりひとりに至るまで、日本の研究体制すべてが責任を負わなければなりません。具体的なアクションプランは、学術会議など科学者側から出すべき時ではないでしょうか。

【追記】
 8日になって、柳田さんのブログに「なぜ、このようなことが起こるのか」という関連エントリーが追加されています。その中に、亡くなられた方の友人が柳田さんに宛てたメールが紹介されています。若い(年齢的にだけではなく、まだ独立を許されていないという意味で)研究者と、権力を持った研究者あるいは管理者との間の、ぬぐい去ることのできない不信の構造が感じられる悲壮感が感じられます。

【さらに追記】
 上の柳田さんのブログに、ある意味での内部告発とも言えるトラックバックが張られています。「正義を捨ててきたから生存している者から…」というエントリーで、「違法行為を見て見ぬふりをしてきました。耐えられずに、精神的におかしくなって逃げ出しました」と書いておられます。私の印象では、この方の言っていることは事実だと感じられます。同じような境遇に置かれている人の声を吸い上げることをしなければ、今日本の科学界を覆っている闇を晴らすことはできないのではないでしょうか。

【日曜日の追記】
 10日の柳田さんのブログ「DNA複製の分野での出来事」では、今回の件で学内に箝口令がしかれていると書いてあります。個人的には、そういう状況の中でこそ、内部告発(情報漏洩)によって不正は隠しきれないという現実をつきつけるべきではないかと思っています。内部の方々、匿名で情報をどんどん公開してください。その真偽については、関係者が告白する義務があると思います。

 参考:
もの言わぬ中堅研究者

【月曜日の追記】
 見落としていましたが、本件に関する重要なブログ記事があります。大阪大学OBの方と思われる人が書いた空念仏に終わった大阪大学総長見解は、是非とも読んでください。

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 大阪大学大学院生命科学研究科からの報告書
Commented by K_Tachibana at 2006-09-07 23:46 x
実験器具オーナーさん
今の若手研究者の方にも,JSTのさきがけのような「清潔潔白を貫きつつ,研究室のたこつぼから抜け出て自分のラボを構える」ことを可能にする制度があります.一部に科研費の若手研究Bあたりとの違いがみえないという方もみえますが,さきがけの場合は,研究費ごと研究者が持って出て行けるので,科研費とはまったく違うと思います.ただ,枠が小さいので,さきがけの研究費が当たる人はごくわずかの限られた研究者だけというのが問題だと思います.さりとて,科研費を減らしてでもさきがけを増やそうといった議論は出てきませんね.むしろ,間接経費が入ってこない研究費はなくしてほかの研究費に集約してという意見さえ聞かれる始末.
会社の中でも,最近の研究現場の話をすることがありますが,研究者を諦めて会社に入ってきた人たちは,移って来た理由を研究室で飼い殺しにされてしまうからということを言われます.
根本的に研究環境を改革しないと,どんどん現場がすさんでいくような気がしてなりません.
Commented by 実験器具オーナー at 2006-09-07 23:48 x
今の若手研究者には、「自分自身の良心に目をつぶり、売名/研究費獲得のため悪魔に魂を売る」か「あくまで清廉潔白を貫き、研究費なし/昇進なしでのたれ死にを待つ」か、二者択一しかありません(まるで政治の世界のようです)。偉い教授の方々には驚きかもしれませんが、そのような環境に身を置いている(いた?)私には「起こるべくして起こってしまった事件」と、受け取ってしまいました。アカデミックの現状は、「科学で真理を探求する」というよりも、「ボスの意向に沿ったデータをとにかく出す」というような、本末転倒なことがまかり通っているように思えます。お亡くなりになった方は、「科学に対する純粋な思い入れ」と「科学者の良心」をお持ちだったので、不正を見てみぬふりをする事に耐えられなかったのしょう。本当に惜しい方です。ご冥福をお祈りいたします。
Commented by 工藤 at 2006-09-08 00:14 x
なんとも残念です。
Commented by 乱破 at 2006-09-08 01:55 x
柳田さんクラスの人が他人事のようにいっているようでは事態改善は絶望的ですね。
Commented by hirokira1 at 2006-09-09 12:41
ろくに事情も知らない門外漢としては、正直「何も死ななくても…」と思ってしまいます。
 もちろん、こちらや柳田さんのブログなどで、現在の日本の研究環境についての問題提起を読ませていただいて、多少は知っているつもりですが、それでも死ぬほどのことなのかと。
 ただ、その助手の方についての話をいくつか読んだ限りでは、その方個人の問題とは思われず、やはり研究システムの「致命的欠陥」と判断せざるを得ません。
 で、その「致命的欠陥」を「やっぱり」と理解できる同業者の方々の反応に、「それが当たり前なのか!?」と改めて驚くわけです。
 最終的にはこのような欠陥を抱える研究システムの是正が必要だとしても、それが困難で時間のかかる作業であるならば、せめて「死なずにすむ」ようなシステムの微調整を優先させるべきかと思うのですが。
Commented by おが at 2006-09-09 16:09 x
関係者の死は厳粛に受け止めつつも、自殺と捏造問題を分けて考えたほうがいいでしょう。亡くなった助手は恐らく捏造問題のストレスが要因で鬱になって自殺に至ったのだと思われます。精神的に健康な人は一時的に死にたいと思うことがあっても実際に自殺を図ることはまずありません。苦痛の強い薬物を選んだことも正常な判断力の欠如を示しています。死を選んだのは病気のせいなので、苦悩の度合いを示すものではありません。また引越や結婚も鬱病のきっかけになるので、鬱になる程のストレスを受けたのだから想像を絶する苦痛やすさまじい圧力や軋轢があったといえるわけでもありません。結局、自殺者が出たという事実が問題の深さを示す情報を含んでいる訳ではないので、自殺により心情的に引きずられることなく捏造問題について客観的議論を進めるのが建設的か思います。
Commented by しがない田舎助手だが at 2006-09-09 16:18 x
だから業績主義、しかもその評価の根拠がインパクトファクターというのが、諸悪の根源なんだよな
そして、それに基づく研究費配分が、真に優れた研究を、正しく評価できる
研究者がいなくなりつつある業界全体の劣化の原因になってる
まともな研究計画をまともな実験手技でこなしていれば、あんなにポンポン
論文が書けるはずがない
科学の世界に、こんな市場原理主義的な評価法を導入した官僚に、
それを是とする納税者に、先見性がない
さらにいえば、そんな基礎的教養を育まない、国の教育方針が諸悪の
根源
Commented by stochinai at 2006-09-09 16:30
 おがさんのおっしゃることはもっともなのですが、この国の残念なことのひとつが、死者が出ることによってしかいろいろな問題についての議論が始まらないあるいは対策が出てこないという傾向が強いというところではないかと思います。確かにむやみに感情的になって犯人探しをしたところで将来に向けての改善策が出てくるとも思えませんのが、これをきっかけに日本全体が動き出すことになってくれれば、亡くなった方にも申し訳が立つような気がします。

 それにしても、この記事が書かれてから少なくとも2-3千人の方が読んでくださっているはずなのに、コメントやトラックバックの少なさを見ていると、この件に関していかに発言しにくい雰囲気があるのかと思ってしまいます。そこにも、この問題の根のひとつがありそうに思っています。
Commented by stochinai at 2006-09-09 16:46
 ことが重すぎて、なかなかコメントに対するお返事がかけません。

 こういう時こそ、ネットの匿名性を逆用していろいろな事例が報告されると良いと思うのですが、抵抗勢力としては「匿名の告発などなんの信頼性もない」ということで無視することが十分想像されます。

 やはり、学術会議のようなところが、そうした匿名の告発を真摯に受け止めて真剣に調査し、誠実なアクションをとるということでもしないと、日本の研究環境はズタズタになってしまいそうな気がします(もう、すでになってますか?)。いずれにしても若者に沈黙を強いる社会に未来はありません。
Commented by nanashi at 2006-09-09 22:56 x
業績主義、インパクトファクター、それらに基づく研究費配分。
官僚批判、制度批判は結構。でも代案なしに批判をしていても、研究者以外からは、哀れまれても、共感してもらえないと思います。匿名のネットにすら批判にあわせてなるほどと思わせる代案が書かれないのはなぜか。

また、現在の業績主義に変わる良い方法が提示できないのなら、業績主義がなければ不正はなくなるという議論はナンセンスではないでしょうか。

税金を払う側の見識が不足している? きっとそうなのでしょう。
でもその見識は研究の専門家でもない官僚が国民を教育するというかたちで高められるものなのでしょうか? 研究者は何をしてきたのでしょうか。何が出来るのでしょうか。
「コミュニケーション」は重要なキーワードだと思います。

語りにくい問題のようなので、問題提起のつもりでわざときついことを書いてみました(もし雰囲気が悪くなってまずいようでしたら削除していただいても構いません)。
Commented by at 2006-09-10 01:03 x
吹田署で自殺として処理されただけですよね.本当に自殺なんでしょうか?まだ信じられへんですは.
Commented by stochinai at 2006-09-10 01:37
 nanashiさん、コメントありがとうございました。
>業績主義がなければ不正はなくなるという議論はナンセンスでは
 まったくその通りだと思います。業績主義の欠点はありますが、利点もありますので、なくすることではまた新たな欠点を生み出すだけになってしまいます。
 私個人の意見ですが、教育・研究を守るために、教育者・研究者がそれぞれの教育観・研究観をスポンサーである市民に理解してもらい、サポートしてもらわなくてはならないと思います。そのための科学技術コミュニケーションだと、私は思っています。
 これからも、ご助言をお願いいたします。
Commented by stochinai at 2006-09-10 01:39
 xさん、おっしゃるように警察発表をそのまま事実として受け入れる必然性はないかもしれません。しかし、ひとりの人が亡くなったことだけは事実だと思います。
 今回は、そこから出発したいと思います。
Commented by 実験器具オーナー at 2006-09-10 02:04 x
「業績主義」が厳密な意味で機能すれば問題は起きないと思いますが、現状ではとても難しいですよね。特に論文の査読・研究費の配分の可否を仲間内で決めている限りは・・・いまさら言うまでもないことですがね。少なくとも今の「業績評価」の方法については問題点が多いと感じます。端的な例としては、東大や京大など大学院生が多く比較的研究環境が整った大学と、設備がなく4年生主体の教育負担の大きい地方大学を同じ尺度で評価している点など。
Commented by X at 2006-09-10 04:41 x
stochinai さん
彼は、とても尊敬に値する科学者でした.妙なことが起こるラボ(ご自分でチェックしてみて下さい)で、常に前向きに、時に周りにも鼓舞激励してくれていたし、また精神的にかなりタフで、ほんまナイスガイやった.自殺するやつちゃうねん、あの時と、同じ彼だったら.だから何かあると考えてしまった、科学する環境の想像以上の荒廃ぶりに起因する何かが.すいません.
Commented by Y at 2006-09-10 07:02 x
渦中の研究室は、3月でなくなる予定だと聞いていた。教授は、米国機関へ採用されるべく業績を必要とし頻繁に渡米していた。助手以下の処遇はどうなっていたのか。そんな中でのこの事件。
どなたかの「飼い殺し」という言葉は、この場合当てはまるか分かりませんが、ピラミッドのトップにいる人が自分の要求を通し下からの要求を無視する状況だった場合、やりきれないでしょうね。大小違えど、よく見受けられるこの構造。国が、科学・技術立国を掲げるなら、役所だけでなく、よりやっかいなこの世界にもメスをいれる時期が来たことを暗示している気がしてなりません。
Commented by ヨシダヒロコ at 2006-09-10 21:26 x
自殺の原因とかよく言いますけど、ひとつではありません。何段階のステップを経てぼろぼろになり、未遂または既遂になります。トリガは何気ないひと言だったのかもしれません。ベースに逃げられないストレスがあるのがどうも基本のようです。

隠れた未遂があったのかもしれませんしね。

ですから「なになにを苦にして自殺」という話はまったくの筋違いです。
Commented by 実験器具オーナー at 2006-09-10 22:58 x
>トリガは何気ないひと言だったのかもしれません。ベースに逃げられな>いストレスがあるのがどうも基本のようです。
それも一理ありますが、本人と直に接しておられたと思しき方々の一連の書き込みを読めばわかるように、ヨシダヒロコさんがおっしゃるような「何気ない一言」が自殺の動機になるような「やわな」方ではなかったように思われます(はっきり言ってその程度の軟弱さでは研究者としてやっていけません)。今回の自殺の動機を「捏造論文疑惑」と切り離してくさいものにフタをしてしまうと、同様の事件が続発する可能性があります。若手を使い捨てにして、業績を上げているひとにとってはまことに都合の良い言い分でしょうが・・・本当に「使い捨て」ですね。この世界に身をおいていない人には、若手研究者が現在日常的に受けている半端ではないストレスは理解できないと思います。理由はどうであれ、このような事件が二度と起こらないように願うのみです。
Commented by 山村雄一 at 2006-09-11 00:03 x
10年前阪大で起きたRIばらまき事件が同じ教授の下でおきている。
9月1日、助手の死亡が確認されたにも関わらず、阪大が記者会見を行ったのは9月6日。当初、箝口令をしいて秘密に処理しようとしたが、毎日新聞の記者が疑問を持ち調査して捏造疑惑が発覚。

以上の経過から、教授と研究科全体に問題があったことが明らかです。1人の人間を死に追いやるほどの非人間的異常さが阪大にはある。
Commented by stochinai at 2006-09-11 00:28
 山村さん、びっくりしました。「RIばらまき事件」は記憶にあります。お茶に毒物が入れられたり、同じような事件があちこちでたくさん起こった時期だったような気がします。結局、問題は放置されていたということですね。
Commented by K at 2006-09-11 04:40 x
ヨシダヒロコさんの意見は、問題の本質を言っているかもしれません。実験器具オーナーさんのおっしゃるように、一言で自殺するほど弱い人ではなかったと思いますが、積み重ねによって、そしてその時の状況・話の内容によって変わってきます。人は、体を傷つけられるより言葉で心を傷つけられる方が痛みが大きいのですから。
多くの人が、捏造だけで自殺したことには疑問を持っているようですし、私もその一人です。
JBCが撤回した直後でなく、研究科長に話した後でなく、内部調査結果の発表後でなく、なぜ9/1だったのでしょうか。また、一連の行為が進んでいる間、教授はどこにおられたのでしょうか。撤回した後、亡くなられた助手と直接話されたのはいつでしょうか。
どうして、教授と話し合ってから教授自ら論文を撤回するという方法をとらなかったのでしょう。助手が教授の目をくぐり抜けながら、独断で論文の撤回・調査依頼を進めていたように見うけられます。そうだとすると、論文捏造以前から、教授と助手との関係が良好であったのか考えざるを得ません。
とすると、別の問題も抱えていた可能性は大いにあります。
Commented by x at 2006-09-11 05:41 x
10年前のあの事件、逮捕されたあの技官さん、あの方も若手の研究者思いの良い兄貴分的存在でした。今回のKさんもDr.を持ったプロの研究者という違いはあるもののキャラはかぶりますね。お二人は一体何を訴えたかったのか?そこに何かがあるのではないでしょうか?
Commented by とーりすがり at 2006-09-11 06:09 x
> どうして、教授と話し合ってから教授自ら論文を撤回するという方法をとらなかったのでしょう。

教授の指示(または独断で)捏造していたら・・・?
Commented by おが at 2006-09-11 08:22 x
>死者が出ることによってしかいろいろな問題についての議論が始まらないあるいは対策が出てこない(中略)これをきっかけに日本全体が動き出すことになってくれれば・・・

全くおっしゃるとおりです。飲酒運転然り。子供に対する性犯罪や虐待に至っては犠牲者がコンスタントに出ているのに一向に満足な対策がありません。

>「何気ない一言」が自殺の動機になるような「やわな」方ではなかったように思われます(中略)自殺の動機を「捏造論文疑惑」と切り離してくさいものにフタをしてしまうと

タフな人はタフな人のままで自殺するのでなく、鬱病を経て自殺するのです。性格そのものが病気により変わってしまうのです。健常者が精神疾患患者の心情を外挿で忖度しても(鬱病の既往があれば内挿も可能かも)、そうかもしれないけどそうでないかもしれない憶測の羅列になって、議論に予断を与えてしまいます。助手から情報を得られなくなったという点で、自殺も事故死や急病死と同じであり、またそのように扱うべきだと思います。
Commented by Y. K at 2006-09-11 11:09 x
おがさんのおっしゃることは、鬱による自殺と捏造を切り離して議論を進めるべきとの考えには一理あると思います。
しかし、いま研究者の間で動揺が起きているのは、なぜ自殺に至ったかであって、どのような環境にあったときにこのような悲劇が起こるのかと、自分のことのように考えているからです。
単に、捏造だけの問題であればここまで個人個人が深刻に考えないでしょうし、議論もより建設的にできるでしょう。また、医学部のような派手なところで起こったわけではなく、複製という生物の基礎を研究し、かつ岡崎フラグメントの一役を担った弟子のもとで起こったことです。
様々な要因が絡み合った結果、もしくは続いた結果であり、自死と捏造は問題を明らかにするには切っても切り離せないのです。
鬱の状態悪化が死を招いた。教授の業績ほしさに捏造が起きた。事実はそうなのかもしれませんが、本質は全く別のところにあるのです。
人として生きている以上、「自殺者が出たという事実が問題の深さを示す情報を含んでいる訳ではない」ではなく、問題(捏造単一の問題だけでない)の深さを物語っているのです。
Commented by 山村雄一 at 2006-09-11 22:21 x
論文撤回の手続きはcorresponding authorである杉野明雄さんが行ったはずです。調査委員会が調査を始めてから亡くなったわけですから、調査委員長の近藤寿人さんが事情を知っているはずです。お二人に説明責任があります。
Commented by stochinai at 2006-09-12 00:39
 私は、事情が明らかになることによって、「犯人」が特定され、今回の「事件」が特異な例外的事例として片づけられることも恐れています。

 論文ねつ造にかかわる事件は次々と起こっています。それぞれの事件が起こった状況は、確かに少しずつ異なっていますが、これだけ次々と起こるということは、細部において違いはあったとしても、個々の事例の背後には、何か共通した問題点があるに違いありません。そういうことを明らかにすることは、我々「科学者」が得意とすることですから、本気で取り組めばできないはずはないと思います。できるはずのことをやらないということは、この場合犯罪を犯すことと同義になるのではないでしょうか。
Commented by 実験器具オーナー at 2006-09-12 14:45 x
>匿名のネットにすら批判にあわせてなるほどと思わせる代案が書>かれないのはなぜか。
私が考える代案としては、論文のIFを研究費で割り算して、コストパフォーマンスを評価に反映するようにしたら、従来よりもマシな評価が出来るかもしれません(100万円を1点と換算、その数値が1以上なければペナルティ。例えば、ある年1000万円科研費を獲得したら、その年に出した論文のIFの総和が10以上なければだめとか)。そうすれば、研究者は本当に必要な研究費しか申請しなくなりますし、さらに研究費の一極集中も防げるような気がします。もちろん分野によって、論文誌のIFは大きく異なりますから多少の補正は必要でしょうが・・・。
Commented by stochinai at 2006-09-12 15:56
 実験器具オーナーさん、提案をありがとうございます。ケチをつけるわけではありませんが、私はインパクトファクターと研究費を直結させるという提案には反対です。むしろ、そのことによってインパクトファクターの高い雑誌へのねつ造論文が増えそうにすら思えます。

 私がいま漠然と考えている代案は、教授から研究室の人事権を取りあげることと、大学院生をただで使える研究の戦力としている傾向がある現状を変えること、教育機関である大学であまりに大きなプロジェクトをやらないようにすること、などです。細かいところまで考えていませんので、あくまでも「妄想」の段階なのですが、、、、、。
Commented by 実験器具オーナー at 2006-09-12 16:52 x
先ほどの私の提案は実は誘導尋問みたいなもので、私自身もあまり良い案ではないと思っていました(私の期待通りの反論をくださいました。お許しください:汗)。つぶやき先生のご返事の前段部分で触れられている、研究者間でもお互いが信用できないほどの「モラルの低下」こそが、昨今の不祥事/不公平感の元凶なのは言うまでもありません。自浄努力ではもはやどうにもならないところまで、アカデミックが腐りきっているという事です。研究者が自ら進んでアカデミックの「負の部分」を世間にさらけ出し、外部の力を借りて現状を打破するしか方法はないようですね。アカデミックの研究者はエリート(=もともとの意味は「他人に奉仕する人」)だったはずなのに・・・「世も末」ですね。
Commented by stochinai at 2006-09-12 17:52
 はい、実験器具オーナーさんが不思議なことをおっしゃているといぶかりながら書いていました(^^;)。
 いま、千葉のかずさアークというところに缶詰になって学会中です。返事がとどこおるかもしれませんが、お許しを。
Commented by 実験器具オーナー at 2006-09-13 12:57 x
今朝、大学に出る前にテレビを見ていたら、コメンテーターが飲酒運転をする人々の「運転者としての自覚のなさ、危機感のなさ(=言い換えると、社会に対する責任感)」に腹を立てていました。同様に、教員、研究者としての「自覚と責任感の欠如」が、今回のような悲劇やそれに続く様々な欺瞞を生むのかもしれませんね。我々の大学でも学生さんの自殺者が時々出ますが(地方大学としてはちょっと異常な数)、大学としての結論は決まって「学生さんの精神が病んでいた」で片付けられ、さらに表沙汰にはなりません。当然、実効的な再発防止策は少しも議論されません。こうして悲劇が繰り返されるのです。これなども、学生/社会に対しての大学教員の「教育者としての責任感のなさ」を示しているように思われます。今回の大阪大学の事件に関しても、当事者は同じ手で幕引きを謀るつもりでしょう。外務省が一時「伏魔殿」と言われていましたが、大学は外部からの監視と圧力がより少ないですから、それ以上かもしれませんね。
Commented by X at 2006-09-22 21:59 x
研究そのもの価値を教授自らおとしめて・・・.一体全体、彼は何が望みで研究世界に足を踏み入れたんや?侮辱しとるは!これまでにの彼の研究生活に利用された資金、国税から捻出されてるだろうし・・・.彼は、研究者のみならず、スポンサーである国民みんなを愚弄した.もう怒り心頭.汚らわしい動機で研究者をやらないで欲しい.
Commented by stochinai at 2006-09-22 23:23
 Xさん、私も同じ意見です。新しいエントリーを書きました。
by stochinai | 2006-09-07 22:11 | 大学・高等教育 | Comments(34)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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