5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

これは殺人事件ではないのだろうか

 昨日の読売新聞で、大阪大学の「論文ねつ造・取り下げ・助手自殺事件」について、調査結果が出たと報道されていました。記事によると、大阪大生命機能研究科の研究公正委員会は、論文責任者の男性教授が単独で論文のデータを捏造(ねつぞう)、改ざんした上、共著者4人に無断で投稿していたと断定した、とのことです。
 委員会の調査では、論文のデータの捏造、改ざんは教授が単独で行い、共著者の関与はなかった。また、教授は共著者から、本来必要な原稿の確認や投稿の同意を取らず、無断で論文に名前を加えていた。不正行為があった論文は、酵母の染色体DNAの複製に関するもので、教授と助手、過去に研究室に在籍した3人の計5人の連名。7月12日に生化学の専門誌「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー」電子版に発表されたが、教授名で8月2日に取り下げられた。
 今日になって続報があり、「杉野明雄教授らが米国の専門誌に発表した2本の論文について、教授が単独でデータとなる画像などを改ざんしていた」ということが、発表されています。

 要するに、この教授は論文ねつ造の常習犯だったということなのでしょう。100歩譲って、ねつ造がこの2本の論文だけだったとしても、科学の世界からは永久追放にする必要があります。それが科学の世界を守るために、科学者が自ら下すべき制裁だと思います。それができないということは、彼を含む科学の世界が死ぬことを意味します。

 科学の世界における処分としては、それでいいのではないかと思います。

 そして、次は権力者として彼が助手を死に追いやったことの責任を問う必要があると思います。

 報道によると、大学院の研究科長である近藤さんは、「論文と自殺を結びつけるものは把握していない」と発表しているようですが、この件に関してはほとんどの人がねつ造論文と教授が助手の自殺に大きく関係していると感じていると思います。

 少し調べればわかるように、教授は酵母のDNA複製研究における日本の第一人者ですし、近々大阪大学の研究室をたたんで外国で研究を続けることになっていたようです。明らかに研究者の未来を決める力を持った人です。

 つい今し方、朝日コムでも記事が上がりました。
 22日記者会見した同委員会委員長の田中亀代次教授によると、杉野教授は2本の論文について、共著者らが実施したたんぱく質の解析などをした実験の画像データを、パソコンのソフトを使って改ざんしたり、まったく実施していない実験データを付け加えたりしていた。こうした不正が少なくとも八つの実験結果について認められた。杉野教授が認めていない捏造、改ざんについても、「十分な証拠に基づき、捏造という結論に達した」と説明した。

 田中教授は「共著者たちの努力と成果を踏みにじるもので、名誉と将来を甚だしく傷つけた」と述べた。助手の自殺との関連は認められなかったというが、「積極的に調査に協力してくれた助手が亡くなったことは委員会として痛恨の極み」と話した。
 この記事から推測すると、調査委員会による調査が始まったことが助手の方を死に追いやることに関係しているような気もします。

 あくまでも推測ですが、調査委員会とねつ造教授の間にはさまれて、自分の科学と正義を守ることが、自分と家族の未来を守ることにならないことに絶望したのかもしれません。もちろん、一番悪いのはねつ造教授に決まっているのですが、ねつ造を調査する委員会に協力した助手が正しい行動をしても(あるいはすればするほど)、研究者としての将来が閉ざされていってしまうという信じがたい現実が彼を押しつぶしてしまったような気がしてなりません。

 この国では、力のない者が権力の悪を告発して痛手を負わせたとしても、告発した者も回復不能なダメージを負ってしまうということが良くあります。

 こんなことを繰り返していては、ねつ造もなくならないし、告発者も増えてこないような気がします。

 勇気を持って告発した助手の身分ならびに将来を保障するような対応ができないのであれば、調査委員会にも責任があると言われても仕方がないのではないでしょうか。

 とりあえず、大阪大学が全力を挙げて遺族の方々の未来を保障してあげて欲しいと思います。

トラックバック送信
 大阪大学大学院生命科学研究科からの報告書
Commented by 工藤 at 2006-09-23 09:10 x
まず考えられない犯罪事件と言わざるを得ないのですが、アカデミズムの脆弱性を露呈したものですね。ますます大学のステータスが無くなる事件、いや大学ってこの程度という事件です。慚愧にて堪えないとはこのことです。
Commented by K_Tachibana at 2006-09-23 12:09 x
11月に行う「サイエンス・アゴラ」でも研究不正に関するセッションを運営することになっています.いまだにこの問題が科学技術コミュニケーション関係者のごく一部でしか話題にならないところに危惧の念をもっています.
Commented by nanashi at 2006-09-23 18:13 x
救いようのない悪行ですね。
助手さんの件は、一組織や研究者コミュニティの問題に留まらず、社会全体の問題という気もします。

問題を知ったときに正直に申し出ると損する可能性が高いのが現実だと思います。製品の不具合をメーカーが公表するとします。会社によっては、広報戦略を慎重に練って、ユーザーへの道義と会社の信用を守っていますが、ノウハウの無い会社が単に正直に事実を公表するだけでは、感情的な批判に晒されて誰かのくびを飛ばさざるを得なくなります。

事件が起きた時、「責任者は責任を取って辞職しろ」とよく言われますが、「責任者は状況を改善する策を講じるまで辞めるな」の方が構造的問題を解決することに繋がるのでは?
管理者、研究者に関わらず、自ら悪事に手を染めていないけれども問題に関与してしまった場合に、そういう人々に立場に伴う責任を問うということは、仕事を辞めさせるということではないと思うのです。

悪者探しだけして原因追求や対策の議論をしないことを許してきた、関係者が辞職すればうやむやにしてしまってきた世間(私も世間の一員ですが・・・)の雰囲気にも問題がある気がするのです。
Commented by XX at 2006-09-24 00:09 x
明らかに犯罪ですね.まず、科学界と国に対しての詐欺罪はもちろん.本当に自殺なのかな?っていうところもね.そのように捜査を撹乱させる商売もあると聞きますしね.吹田署や阪大はもちろんのことマスコミも含めて徹底して真実を明らかにして欲しいね.
Commented at 2006-09-24 02:48
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by osumi1128 at 2006-09-25 23:50
stochinaiさん
学会お疲れ様です。阪大の件、調査報告書がHPに載りましたので、関係エントリーを致しました。
Commented by K_Tachibana at 2006-09-26 00:10 x
stochinaiさん
私もosumiさんのブログにTBを張る形でエントリーしました.
会社でも今回の「自殺」とされている事件の顛末の生々しい話を伝え聞いたので,ちょっとショックを受けています.
Commented by stochinai at 2006-09-26 00:18
 ありがとうございました。osumiさんのおっしゃるとおり、自然科学者に研究室内ハラスメントの調査・処分までもさせるということには無理があるように思えます。しかし、そうした第3者機関を組織するところまでは、大学・研究科の責任で行わないと、訴訟や刑事事件が起こるのは時間の問題だと思います。やはり、そうなるまで大学は動かないのでしょうか
Commented by X at 2006-09-26 12:18 x
第3者機関を組織するところまでは、大学・研究科の責任で行わないと・・・・・ 
同感ですstochinaiさん.この事件こそ、その時でしょう!
それと、pdfから伺われたこのPI像、自分の仮説および生き様(フィロソフィーとでもいうのでしょうかね)こそ正当だと思い込んでいて、またそれを刷り込まそうとする現役PIは、悲しいかな憤死した正義のKさんの様な人より実際、日本では多いと思う?人としての大らかさを失ってる、せっぱ詰まってる方を拝見する方が多いもの.少なくとも初めは自然科学を理解するために研究の道に進んだはずが、いつのまにか自分本位の仮説を証明したいがために初心を忘れ、挙げ句には、その誤仮説のために自らデーターをクリエイトしてしまう、捏造までは行かないまでも、その道程を歩んでいる予備軍こそが(僅かの良心か小心なだけが幸いしてるか知らないが)多いと思う.そういった方々の突如としての変貌とそれがもたらす悲惨な結末から、我々の良き文化の一つである科学を守るためにも研究機関の方から積極的に対策していかねばならないはずですよ.
Commented by stochinai at 2006-09-26 18:41
 調査報告書をざっと読みましたが、なかなかしっかりしたものだと思いました。研究室の人間関係についても同じようなメスを入れることができたら、日本の大学も変われそうな気がするのですが。
Commented by ちょっと知的なぷーたろー at 2006-09-27 09:41 x
TBさせていただいたので、連絡もかねてコメントさせていただきました。報告書はしっかりとしたものでしたね。これからは、研究者の集団としてこの問題をどう考えていくかがポイントになりそうですね。
Commented at 2006-09-30 12:22 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
by stochinai | 2006-09-22 23:22 | 大学・高等教育 | Comments(12)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai