5号館を出て

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教育再生会議は教育絶命会議だった 【追記 「出席停止」見送り】

 私の愛読ページのひとつになっている「世相」さんのサイトの今日のエントリー「そんなこと 出来るの?」で、衝撃的な文章に出会ってしまいました。

 元記事も探してみたのですが、見つからなかったので申し訳ないのですが孫引きさせていただきます。
毎日新聞(11/27)から
政府の教育再生会議(野依良治座長)が来年1月にまとめる中間報告の原案が27日、明らかになった。教員の指導力を適切に把握するため、保護者も評価に加わり、指導力不足の教員の研修や配置換えを徹底すること柱になっているようだ。
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教員評価に関し、政府の規制改革・民間解放推進会議は昨年12月の答申で「児童・生徒・保護者による教員評価」の導入を提唱。学校運営協議会制度でも教員の任用に保護者の意見を反映させる制度が実施されている。再生会議はこうした枠組みを念頭に、
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 私がショックを受けたのは、「『児童・生徒・保護者による教員評価』の導入」というところです。

 私達、大学教員も最近は学生による教員評価を受けています。大学による評価以外に、私は個人的にも学生に評価してもらうことを、ずっと前からやってきました。そして、その結果確信していることは、学生という存在が彼らと利害相反することのある教員を冷静に評価することなどできないということです。もちろん、中には非常に建設的でためになるコメントや批判があるのも事実ですので、それを授業・講義の改善に役立てようというときには、大変に参考になります。

 しかし、学生に教員の評価をさせてみると良くわかるのですが、講義をさぼりがちで成績が悪い学生が教員に対して極めて悪い評価をする傾向が強いのです。逆に、熱心に講義に参加して結果的に成績の良い学生は教員を高く評価する傾向があります。匿名でコメントをもらっても、その学生が講義にしっかりと参加しているか、そうではないかというのは意外とわかるものです。

 それでもなお、この評価やアンケートが教員の反省材料として使われているうちは、有益なものだと思います。しかし、いったんそれが教員そのものの「評価」に使われて、待遇や将来までをも左右しかねない力を持つようになったらどうでしょう。利害関係をもった、場合によっては被害者意識を持つことになった学生が下した教員の評価が、教員の待遇(それも褒める方ではなく、処分する方)に利用される可能性を考えてみると、よくわかると思います。

#もしも、大学で教員の講義にほんとうに問題があるのだとしたら、教員評価アンケートなどに「こんな先生は辞めさせてほしい」などと書くのではなく、学生自らが直接、教員と交渉すべきではないでしょうか。教室全員が同じ意見でまとまるくらい問題がある教員なら、そうすべきだと思います。大学生にもなったらそれくらいできないと困ります。

 さて大学生でもこうなのですから、いわんや児童・生徒(小中高生)に、教員の評価をさせるなどということは、冗談以外の何ものでもないことがおわかりになるのではないでしょうか。同じように保護者も教員とは時として利害が対立する存在ですので、同じ傾向の評価が出てくる可能性が高いと思います。成績のよい子の親は、教員を高く評価し、悪い子の親は、酷評する傾向が予想されます。

 ほんとうに教員を評価したいというのなら、教員と同じくらいの専門的教育を受けた人間を教室に派遣してください。大学の講義も、そんなにダメだというのなら、講義の内容を理解できるくらいの専門的知識を持った教育経験のあるプロを教室に送り込んでください。いつでも、受けて立ちます。

 世相さんが結論でおっしゃっているように、「私は親がまともな保護者になれるまでは(恐らく見通しは100年も200年も先かも知れない)教師の評価などさせない方が良い、と考える。なぜなら、今そのようなことを親にさせれば、学校は、教育界は、もっと荒んだものになることがはっきりしているからだ」に、強く賛成です。

 いじめをする子どもを登校禁止にする、などというワイドショーで良く見聞きする思いつきにすぎない意見を丸飲みしたような「緊急提言」する教育再生会議というのは、いったいどういう会議なのでしょうか。ここでも指摘されているように、今のいじめの実体を知っている人からみると、そんなことをしたら「学級閉鎖モードのところもでてくるでしょうね」ということになるのです。しかも、その再生会議で出校停止を言っているのは、生徒達の心を理解していると思われていたヤンキー先生こと義家さんだというのですから、この会議自体が壮大な冗談であることがわかります。

 つまり、この教育再生会議は日本の教育に引導を渡すための教育絶命会議ということなのでしょう。

【追記】2006年11月29日13時49分朝日コム
 思いつきで動いている再生会議のようですが、逆に考えるとワイドショーなどを参考にしたり、ブログなどをあさっている可能性も感じられます。どんどん書いたほうが良いかもしれません。

「出席停止」見送り 教育再生会議、いじめ問題緊急提言
 安倍首相直属の教育再生会議(野依良治座長)は29日、首相官邸で総会を開き、いじめ問題で8項目の緊急提言をまとめて発表した。
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 当初は「出席停止」処分の積極的な適用を盛り込むことも検討されたが、委員から「教育には愛情が必要だ」といった慎重意見が出たことや、1948年に「懲戒の手段として授業を受けさせないという処置は許されない」との当時の法務庁長官の見解があることなどから、見送られた。

Commented at 2006-11-29 00:42
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Commented at 2006-11-29 00:43
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Commented by kshojima at 2006-11-29 02:23
教員評価は結局人気投票にしかなり得ないのをいつも感じます。我々教員は成績という観点で生徒を評価指定はいますが、匿名ではもちろんありません。しかし教員の評価は往々にして匿名です。もちろんその中には参考とすべき意見もあるでしょうが、結局好き嫌いが現れてきます。そのような使えないデータで教員の良し悪しを判断され、処遇されたら人気者や人気取りの教員だけ残るでしょう。日本の教育をダメにしているのを加勢します。親子、生徒と教師の関係に友達感覚では教育は無理です。
Commented at 2006-11-29 03:37
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Commented by inoue0 at 2006-11-29 03:51
 検索かければすぐにわかることなのですが、教育再生会議のメンバーは、財界人、評論家(モノを言うだけで調べない人々)、大学学長、国立研究所所長などであって、教職者も教育臨床系の学者も存在しないです。
 つまり、現在、教育現場で何がおこっているかを直接知らない人たちが、どこかで仄聞してきたことをもとに想像で適当なことを言いっぱなして「提言」と称する場ですので、期待しない方がいいでしょう。
 司法制度改革の審議会に法実務家(法曹)がいなかったら、まともな諮問が出ますかね?
Commented by mamekichi at 2006-11-29 05:54
大学教員の授業評価については,最近の心理学分野における研究で,単なるアンケート形式のものは,何を測定しているか明確でないとか,授業の良さを的確に捉えているものではないという所見が報告されています.私見でも,あまり意味がないと考えるのですが,大学評価の項目に入っているからやるざるを得ない,という全くどうかしているような理由づけで継続しています.教育再生会議については,鳴り物入りで発足した割には,床屋の政談みたいな(その方がもっとマシかも知れません)提言ばかりで,全く意味がないどころか,むしろ有害だと思います.
Commented by inoue0 at 2006-11-29 07:54
>学生自らが直接、教員と交渉すべきではないでしょうか。

 直接交渉したら「君たちだけだろう?」、学生に調査を行った結果を持っていったら「このような調査は信頼できない」というわけで、聞く耳持たない大学教員が存在するんですよ。
 私は全教員の講義風景をLAN接続したビデオカメラで撮影して、HD記録すべきだと思う。今のネット帯域とHD容量なら、大して金かかりません。
 「遠き落日」(渡辺淳一)を読んだ程度の知識を披露して「細菌学概論」の講義を終えた気分になっている教員とか、自分の研究内容をプレゼンするばかりで学会発表と間違えてるんじゃないかと思われる人とか、90分講義を15分で終えて帰ってしまうような人が医学部教員には山ほどいるわけです。
Commented by inoue0 at 2006-11-29 08:01
 学生へのアンケートは、度を超した問題教員の排除には役立つと思います。その程度の効用で十分です。
 ほとんど学生に有用な情報を伝えることができないし、改善する気もない、教師としては失格な人が、何十年も居座っていられるのが大学というものなのですから。
Commented by Wisdom96 at 2006-11-29 09:25
TBありがとうございます。
今度はこの委員会の存在意義について文科省の方から意見が出ていますね。なんだか無駄なものに世の中全体が翻弄されていて、その水面下で大切な事がどんどん進められてしまっているように思います。
Commented by もも at 2006-11-29 09:35
高校生や大学生に評価をしてもらうのはまだしも、小学生や保護者にどんな項目で担任を評価をさせるつもりでしょうか。
評価というなら、まず評価する人の力量が問われるべきでしょう。現場で、状況をよく分析したうえで裁断できる人を厳選すべきでしょう。
教育再生会議のメンバーといい各地方の教育委員会といい、教育のプロフェッショナルがいない、と思います。
Commented by p-egg at 2006-11-29 11:10
私は、評価の導入そのものには賛成です。
確かに児童、高校生、大学生、保護者では偏りが出てしまうでしょうから、導入の仕方、評価の重要度の設定など、扱いを別にする必要があると思いますが、受け手からの評価がないと、提供する側の方が上の立場になるので、あぐらをかいてしまう人がいるのも事実です。
大学でも学生からの評価が始まっているようですが、なんら変わっていませんし、形骸的であるように思えます。
同じ立場や上からの評価だけでなく、下からの(受け手側からの)突き上げも必要だと思います。
Commented by stochinai at 2006-11-29 12:51
 評価について否定的なことを書くと、「抵抗勢力」と思われてしまう昨今ですが、私も人は評価されるべきだと思います。ただし、それが現在の待遇や、研究費の配分や将来までをも決定してしまうような評価である場合には、「能力のある団体(複数の人間)」が「責任を持って」行い、評価の後の対応も「目に見える形」で行って欲しいと思っています。そのためには、やはり利害関係のない「第3者機関による評価」と、「評価機関の評価をするシステム」が必要だと思います。今の日本を見渡すと、それをきちんとやっているところがほとんどまったく見あたらないというのは、私の偏見でしょうか。
Commented by alchemist at 2006-11-29 13:23
大学のお仕着せの評価アンケートよりも、学生サンに自由に書いて貰う方が参考になることが多いですね。ただ、それでは点数をつけることができないから、あんな評価アンケートにして点数つけて上位から下位まで並べてみるんでしょうね。ただ、それ以上はやらないというのが評価サイドの姿勢でしたが。
去年のアンケートの結果報告で「学生がやらなければいけない課題の量が適切であったか?」という項目で非常に点数が低かったんですが、課題を出したことのない私にもっと課題を出して欲しいと学生サンが要求していると解釈して良いものか、クビをひねっています。
Commented by alchemist at 2006-11-29 13:28
関連するようなしないような・・・でも不思議なこと。大学に所属する個人でその行動の影響する範囲がもっとも大きいのが学長だと考えられるのですが、でまたもって、学長のトップダウンが推賞されているんですが、そのトップダウンの結果をどう評価して、どう責任をもつか・・・というあたりが、全く欠落してるんですよね。何だか変ですね。
Commented by stochinai at 2006-11-29 13:33
>去年のアンケートの結果報告で・・・

 (笑)それは違うと思います。あのアンケートには、「該当せず」という欄が用意されていないので、該当するものがない時に学生は、「そうは思わない」というところにチェックkを入れてしまうのです。アンケート方法の不備だと思います。
Commented by stochinai at 2006-11-29 13:36
 学長の件ですが、おそらく学長の行動を評価できる唯一の機会が、再選時の選挙結果ということになるのだと思います。過去に再選されなかった学長さんがいらっしゃいました。まあ、要するに学長になったら誰からも評価されずにすむということなのでしょう。推薦者が責任をとったという話もききませんし、、、。
Commented by 「世相」の小言こうべい at 2006-11-29 13:46
トラックバックありがとうございました。
先生の「5号館のつぶやき」で取り上げていただいた反響で、嘗てない大勢の人の目に触れる機会を授かりました。少しでも昭和一桁の思いが伝わっただろうか、と不安も膨らみますが、これからも日本の行く末には、眉に唾つけて見つめて行きたいと考えています。
Commented at 2006-11-29 13:50
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Commented by oyajikamo at 2006-11-29 15:23
教育界とは無縁の者ですが、興味深いテーマなのでコメントをさせていただきます。

小中高と大学とを同列に論じるのは無理がありそうな気はします。
少なくとも教育再生会議で本件の議論は小中高を念頭においているように思いますので、私の意見は小中高限定ということで述べさせていただきますと自分も子を持つ親として教師の評価には一言言いたいと思っていますし、子供からの評判を聞くのも参考程度にはいいかもしれないとは思います。
しかしそれらは枝葉末節の議論であって、本筋の議論をもっとしっかりとするべきだと思います。(国の政策を決めるわけですから)

私は教師を評価する制度そのものを設けることは必要だと思います。
しかし重要なのは、各教師を評価する責任者は誰にするのか、という問題です。
私としては、その責任者は「上司」という立場でしかありえないと思います。
上司は部下を教育し、部下は上司から教えられ、その姿を見て育つ。
そしてそのシステムの中で評価され、成長を遂げた人物は出世し、また後輩の育成に当たっていく。
教師の世界にも一般の企業のようなそういうシステムを導入することは出来ないものかと思います。
Commented by stochinai at 2006-11-29 16:52
 教育システムの中に、企業のような「組織」を作るというアイディアは新鮮で検討に値すると思います。文科省も、上司というチームリーダーの中で、様々な仕事を分担するようなチームを作って教育にあたるということを真剣に考えて良いと思います。今は、ともかく教室にひとりしかいない先生に「全部やれ」って言っているだけで、できないと評価を落とすぞと言っても、それは無理というものでしょう。このままだと教師のなり手がいなくなると思います。
Commented by 小高英二 at 2006-11-29 20:38
「世相」の、こうべえさんのプログに共感している同年輩の初心者です。その関連で、辟易するプログが多い中、真摯な文言で論陣を張っていられる貴重なプログにお会いでき感謝しております。
今日、こんなニュースをテレビで見ました。
「教師の再教育を、学習塾において行えるシステム作る」、つまり民間の競争の激しい塾の先生のノウハウを、公務員の先生に学ばせて切歯琢磨してもらおう。というわけでしょう。
私は教育を論議する資格はない無知な門外漢です。
古い人間、年寄りとして、「先生は権威であり、知恵者であり、強者である。先生をバカにするな!」
と、単純に叫ばしていただきます。
Commented by stochinai at 2006-11-29 22:09
 わたしも、こうべえさんには共感するところが多い若輩(?)者です。
 確かに問題教師や問題教授もたくさんいるのですが、大多数の「先生」は敬服に値する「なにか」を持ちつつ、日夜がんばっておられます。ミソもクソも一緒に論ずる教育「再生」会議や政府の「対策」では、なにものも解決しないことを、すべてが崩壊してから知るということだけは避けたいと思うのですが、なかなか前途は暗い気もいたします。
 いま止めないと、戦争も始まってしまうかもしれません。なんとかできれば、良いのですが、、、、。
Commented by alchemist at 2006-12-02 16:58
職場でのイジメが増えているそうです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20061202-00000054-mai-soci
結局、学校だけの問題ではなくて、この国の人々がいじめるのが好きってことなのかもしれません。ならば、全員、職場に出かけたり学校に行ったりすることを止めて引きこもりましょうか?
Commented by stochinai at 2006-12-02 17:46
 悲しいことですが、子どもは大人の鏡に過ぎないということは、みんな薄々知っているのだと思います。
 今起こっている連鎖の事件は、そのことに完全に目をつぶって、子どもにだけ強権を発動しようという、文科省・教育委員会と一部の校長・教員に対する抗議だということがわからないのだとしたら、やはりこの国に未来はないと思います。
 しかし、ブログなどで、健全な意見を散見することができるうちは、希望を捨てないでいられそうな気もしていますので、よろしくお願いします。
by stochinai | 2006-11-28 22:51 | 教育 | Comments(24)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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