5号館を出て

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不正経理は官僚に教わった

 論文のねつ造と似て非なるものに、研究者の不正経理問題があります。

 今日、北大の地震火山研究観測センター長だった島村さんが、地震計をノルウェーに売却して現金化したことが詐欺罪にあたるとして、懲役3年、執行猶予4年の有罪判決を受けました。

 その「代金」が約2030万円だったということですが、その後島村さんは北大に約1850万円を支払い和解しているそうです。さらに、告訴されたときに所長だった国立極地研も辞職して社会的制裁を受けているということで、執行猶予がついたようです。

 私はこの件について、ニュースで報道される以上には、まったく何の内部情報も持ち合わせていないのですが、ひょっとすると島村さんが北大から極地研に移る時に、お金を北大地震火山研究観測センターのプール金として置いていっていたならば、この騒ぎが起こらなかったような気もしております。

 まあ、ものを売って換金するということは、めったに見られないことですが、昔の大学では今ならば絶対に許されない不正経理は組織ぐるみでやっておりました。そもそも、研究費が単年度決算で、旅費は旅費、研究費は研究費で、それらの間で融通することすら許されず、さらにお金を余すことも許されなかったのです。使い切れないから返還したいということも許されなかったと思います。

 お金が残りそうな時にどうするかというと、もっとも「安全な」使い方が、近くにいる他の研究者に使ってもらうということです。実際にそういうケースはたくさん見聞きしました。しかし、もともと少ないお金ですから、なんとか翌年の研究に使えないかと考えた結果なのか、もっとも普遍的に行われていた方法が「カラ出張」と「預かり金」という方法です。

 カラ出張は文字通り、出張せずに出張届だけ出して旅費を現金で受け取ることです。現金になってしまえば、研究に使おうと私的に流用しようとわからなくなりますが、大学では大多数のお金は公金として、研究や教育に使われていたと思います。私も大学院生の頃、学会発表の旅費を現金で頂いたことがありますが、おそらく先生のポケットマネーから出ていたのではなかったと思います。

 それから、預かり金というのは、業者から実際には何も買わずに、形だけものを買ったことにして請求書をもらい、それに対してまずお金を支払ってしまい、翌年以降にゆっくりとそのお金を研究費として使うというものです。こちらは、業者がお金を預かっていますので、結果的には研究に使う試薬や消耗品、備品などを買わざるを得ないため、ほとんどの場合、「正しい」研究費になっていたと思います。

 もちろん、どちらも完全な不正経理ですので、今ではまず行われているところはないと思いますが、こんな頭の良い単年度決算の予算の使い方を研究者が思いつくはずはありません。

 すべては、大学の事務系の官僚に教わったものだと思います。事務系の職場では、研究者に負けず劣らず柔軟に利用できるお金がありませんので、事務職員の福利厚生や自主学習などにかかるお金を捻出するために、カラ出張、購入品の品名替え、預かり金などのテクニックが日本中の国家・地方の役所で行われていたと思います。私企業でもやっていたのかもしれませんが、柔軟に使える予算がある場合には、そんなややこしいことをする必要はないでしょう。

 もちろん、今ではカラ出張や預かり金などはほとんどまったくと言って良いほどなくなっていると思いますが、場合によっては同じような手法で自由に使えるお金(もちろんほとんどの場合、研究費です)を手に入れたくなる誘惑はあちこちにあるのではないでしょうか。

 特に、今回の島村さんの場合や、早稲田の先生の場合などは、そのままにしておくと寄付になったり、返還しなければならなくなかったはずのものが、ちょっと「頭を使う」ことで、翌年以降の研究費として使える1000万単位のお金が手に入るという誘惑に負けたのではないかという気もします。

 もちろん、そのように正しい経理からはずれてしまったお金は、しばるものがありませんので、研究以外の私的流用へとささやきかける誘惑もあるでしょうし、人によってはその誘惑に負けて研究費の一部で、飲み食いしたり、異性とおつきあいしたりというような結果になってしまった方もいるかもしれません。

 弾さんが使った意味とは違うのかもしれませんが、持ちつけたことのないお金を持ってしまった時のお金の使い方に関して、「商人の目で見ると学者の脇というのはずいぶんと甘く感じる」ということになってしまうのかもしれません。

 もともと、研究者にそれを教えてくれた官僚はもっと賢く、やばくなりそうになる前に、いつの間にかカラ出張や預かり金などということはやらなくなっているようで、気がついてみたら教えられた研究者の一部の社会の動きに疎い連中が血祭りに挙げられているように見えることもあり、なんだか哀れにも見えてきます。
Commented at 2007-01-13 22:50 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2007-01-14 20:43 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by それは at 2007-01-18 02:32 x
違うと思います。現在でも事務系職場の不正経理が摘発されています。大学はまだまだ少なく、まさに象牙の塔で守られていると思います。研究者とて、国民の税金を使用していることに変わりはありません。そんなに研究者は特別なのですか?何か特権意識を感じますし、批判を浴びている官僚・事務系職員と同じ目で国民から見られているとい自覚がないだけだと思います。昔は役所の世界でカラ出張などが行われていて、世間から批判をあびてなくなったのは事実みたいですが、いまだに行っていて摘発されている研究者は、今でも摘発されている事務系職員と同じで、ただ単に意識が低いだけの話だと思います。哀れともなんとも思いません。政治の世界と同じで、これらの不正経理の発覚の発端は内部告発(タレこみ・リーク)に起因しているものも多数あると思います。それも正義感というよりは、仲の悪い研究者、恨みをもった研究者(落ちこぼれた人、退職して責任がなくなった人)が人を陥れようとしてタレこみを行った事例もあるかと思います。(表ざたにはならないので確かな証拠もありませんが・・)昔の一億総中流と違い、格差がはっきりしてきて、人間の心が殺伐としてきたという意味では哀れに感じます。
Commented by stochinai at 2007-01-18 17:05
 「それは」さん、コメントありがとうございます。
>違うと思います。
 というのは、今も大学の不正経理は全然減っていないということでしょうか。大学における不正経理が少ないのは、おそらく「象牙の塔」で守られているせいではなく、不正をするだけの大きなお金がないせいではないでしょうか。
 研究者に批判されているという自覚がないとか、単に意識が低いだけ、というのはおっしゃる通りのところがあることは、中から見ていても事実だと思います。
 おっしゃっていることはよくわかりますが、心が殺伐としてきているのは大学のことだけではないと思いますし、逆に大学も普通の会社などの組織と同じ状況になってきていると考えさせられました。格差も大きくなってきていて、非常勤の派遣社員や、すぐ首になるポスドクなどが内部告発をするというケースもありそうです。

 ひとつだけ蛇足を付け加えておきますと、研究および研究者をある意味において「特別(特殊でも良いと思いますが)」扱いしないと、おそらく教育とか研究は滅びると思います。日本はそれを実践しつつあるのではないでしょうか。
Commented by それは1 at 2007-01-19 18:14 x
> というのは、今も大学の不正経理は全然減っていないということでし>ょうか。
→発覚しているのは氷山の一角ではないかと意味です。減っているとは思いますが、まだまだ追求が他に比べ甘いのかなという印象をもっているから述べました。科学技術予算が潤沢になる一方で、管理部門の人員・インフラ的なお金は減らされ、また、大きなお金をもったことがない研究者が増えたことで不正経理が増えたという事情は認識しております。
>心が殺伐としてきているのは大学のことだけではないと思いますし・・  確かにそのとおりだと思います。大学に限ったことではないと思っています。近くの人間にさえ脇を固めなければいけないと思うと少し寂しい感じもします。言葉足らずでした。
(続く・・)
Commented by それは2 at 2007-01-19 18:15 x
(続き)
>ひとつだけ蛇足を付け加えておきますと、・・・・
 配慮は必要だと思いますが、変な特別扱いはやめたほうがいいと思います。特に、官僚・事務系職員と同じ目で国民から見られているという意識は持つべきだと思います。経済的な価値がすべてではないと思っていますし、お金に換算できない価値を提供していくのが教育者や研究者の役割であると思います。ただ、国民から集めた税金を使っている以上、そういった価値を説明する責任はあると思います。当然、頑張っている方も大勢いますが、疑問を呈したくなる方も多いのでコメントしました。
生意気なことを言いましたが、悪意はないのでご容赦下さい。
Commented by stochinai at 2007-01-19 19:23
 「それは1」さん、「それは」さんの追加コメントをありがとうございました。
>科学技術予算が潤沢になる一方で、管理部門の人員・インフラ的なお金は減らされ、また、大きなお金をもったことがない研究者が増えたことで不正経理が増えたという事情は認識しております。
 非常に的確なご指摘だと思います。お金を与えていただくのはありがたいことなのですが、欲を言えばそれを処理する組織・システムも一緒にいただけなかったものかと思っております。事務の方々は、大学へ配分されるお金が増えるほど、仕事量と苦労と悩みが増えています。冗談ともホンネともつかぬ「先生、もうお金を取ってくるのはやめてください」という声を聞いたことがあります。
Commented by stochinai at 2007-01-19 19:33
 「それは2」さん、もちろん悪意がないことは十分伝わっております。
 最近は大学にいる研究者も「普通の人」が多くなってきましたので、「変な特別扱い」をするのは良くないのは、その通りですね。正直に申し上げますと、個人的には、もう大学も普通の会社と同じような経営をしてもらったほうが楽だと思うことがあります。つぶれるならつぶれてもいいのではないかと思うこともあります。その後で、国民の方々が、やっぱり必要だと思うのなら再建すれば良いと思います。しかし、再建するために最低限継続しておかなければならないことがありますので、それを守っていくのが現在大学にいる我々の過去と未来のそして今生きている人類全体に対する責任ではないかと思っています。

 「それは」さんには、これからも忌憚のないご意見をいただけるよう、よろしくお願い申し上げます。
Commented by 通行人 at 2007-01-22 01:47 x
「不正経理は官僚に教わった」・・・確かにそうかもしれませんね。しかし,ほとんどの場合は,研究者自身がルールを把握できてないのが原因ではないでしょうか?(私の周り(特に上司)では「私が獲得してた研究費なのだから私の(自由にできる)お金」と言い切る方もいます。)
 国からの競争的資金だけでなく,財団法人等の研究助成金にもルールがあります。そのルールを守ることが条件で配分される研究費ですから自分自身で把握しておくべきです。
>冗談ともホンネともつかぬ「先生、もうお金を取ってくるのはやめてください」
私の大学でも同じことを笑いながら言っていた会計事務さんがいました。10年前に比べ獲得研究費が倍増しているのに事務員さんは半減しているので「ぼやきたくなる」のもわかりますが。
by stochinai | 2007-01-12 22:59 | 大学・高等教育 | Comments(9)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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