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真夜中の緊急記者会見とタミフル関係官僚の天下り

 昨日(日付は今日ですね、昨夜?、寝る前)、深夜0時過ぎから厚労省がタミフルに関する記者会見をしました。

 こんな時間に緊急の記者会見をするのは、突発的な大事件が起こった時、あるいは大事件が発覚した時に限られるのが普通ですから、当然ながらタミフルと関連して新たな死亡事故が起こったのではないかと思いました。

 ところが、事故は事故なのですがいずれも生命にかかわるほどのものではなく、10歳代の少年がタミフル服用後に2階から飛び降り、足などを骨折した事例が報告されただけだったのです。

 さらに不思議なことに、タミフル服用後の死亡事故が起こったときには頑として使用禁止などを拒絶した厚労省が、今回はいとも簡単に10代への使用中止を求める緊急安全性情報を出すよう、輸入・販売元の中外製薬に指示したということなのです。しかし、記者会見の席で厚労省は、タミフルと異常行動の因果関係については「否定的」との見解をとり続けているのです。不可思議と言わざるを得ません。記者会見の席には中外製薬も同席していたようですが、もしも私が中外製薬関係者だったとしたら、因果関係がないと言われながらも使用中止を求められるということにはとうてい納得できません。

 というわけで、どうしても深夜の記者会見、タミフルと異常行動の因果関係の否定、10代への使用中止を求める緊急命令が結びつかないと悩んでおりました。

 我が家に配達された朝日新聞のどこを読んでも、思い当たるようなニュースを発見することはできなかったのですが、ネットをうろうろしているうちに昨日の参院厚生労働委員会で共産党の小池晃氏が「厚生労働省の元課長が医薬安全局安全対策課長や医薬局審査管理課長などを務めた後03年8月に退職、財団法人に2年1カ月勤めた後、中外製薬に天下った」ということを質問していたというニュースを発見しました。(2年以上冷却期間をおくと、天下りとして罰せられないという法律があるようですので、これは「合法」ということになります。)

 タミフル販売元に天下り 新薬担当の厚労省元課長
 厚労省課長、中外製薬に天下り 医薬品担当 国会で質疑
  (なぜか、北海道版の朝日新聞には出ていなかった?)
 タミフル販売元へ天下り 厚労省医薬局の元課長

 それにしても、国会で質問があったのは昼です。天下りの件は、先日明らかになった「タミフルと異常行動の因果関係を調べている厚生労働省研究班の主任研究者や研究班員が、タミフルの輸入販売元の中外製薬から奨学寄付金(研究費)を受けていた」というニュース(研究者の鈍感力)とそれほど大きな差があるようには思われませんし、厚労省の見解も変わっていないわけですので、やはりその裏に隠された大きな「もの」があると考えるのが素直だと思います。

 つまり、委員会で質問のあったその日の真夜中に緊急記者会見が行われたということは、ここでタミフルを止めておかなければ、何かとんでもないことが起こる恐れがあると厚労省が判断したからではないかと推測されます。

 ここからは、完全な推測にすぎませんが、厚労省の中でタミフルが10代の患者に異常行動を引き起こすという確実なデータが発見されたのではないでしょうか。前に薬害エイズ事件の時にも厚生省の中に薬害の証拠がたくさん隠されていたことが明らかにされていますが、今回の件でも同じようなデータの存在があり、将来それが表に出てくると大変な事件になる可能性が予想されることから、厚労省としての「緊急避難」として緊急記者会見を行い、とりあえず10代の患者がタミフルを使ってこれ以上事故を増やすことを阻止しようとしたのではないかと思われてなりません。

 つまり、厚生省には10代の患者にはタミフルが黒であるという証拠のデータがある、ということではないかというのが私の仮説です。

 そして、もう一点。多くの新聞社などがこの件について、敢えて触れていないように思えるのも不思議な気がしています。それに関しては、仮説1) 彼らも大スクープとしてかなりのデータを握っているが最後のつめのデータがないので書けない、あるいは、仮説2) 政府や大企業からこの件をニュースにしないように脅迫されているか、お金などで買収されている、という可能性も考えられます。

 いずれにせよ、私のような素人にこれだけ疑惑を持たせるのですから、何もないということはあり得ないでしょう。数日中に、何か出てくるのではないでしょうか。

【参考】
 この記事(タミフル狂騒)は、ちょっと示唆的です。
Commented by ひで at 2007-03-22 08:37
>タミフルと異常行動の因果関係については「否定的」との見解
>をとり続けているのです。不可思議と言わざるを得ません。

因果関係が明らかになるのを待っていたのでは、もし本当に
タミフルが原因だった場合、水俣病や血液製剤によるHIV感染の
二の舞になるからじゃないですか。元々健康な人ならタミフルを
服用しなくても治癒が1日遅れるだけのことだし、「まさかタミ
フルのせいだとは思わないけど万が一そうだったらいけないから
とりあえず中止しておこう」という判断は官僚の保身の為にも
妥当なものだと思います。
Commented by rabbitfootmh at 2007-03-23 00:47
拙ブログにご紹介&TBさせていただきました。
「タミフル狂騒」の記事は、なんだか不気味ですね。
Commented by いろいろ at 2007-03-23 01:47
考え方はありますね。
因果関係が確定する前に予防的に対策するのはまともな対応と見ることもできます。それを官僚の保身とみる人も、国民のためとみる人もいるだろうし、陰謀論を考える人もいるでしょう。価値観や社会的立場が違えば、考え方が違う方が自然です。

一方で、似たような作用のリレンザだって単に処方数が桁違いに少ないから問題が目立っていないだけかも知れません。原因が判らない以上、タミフルがだめでリレンザが大丈夫だと言い切れません。
たかがインフルエンザ、治療など不要という人もいるかも知れません。
こういうとき、もし目の前にインフルエンザに罹った子どもを抱えたお父さんお母さん達がいたとしたら、科学者はまず何を語るべきなのでしょうか。陰謀論を語ることでしょうか。副作用の因果関係でしょうか。私はかなり迷います。タミフルで命を落とす子もいれば、インフルエンザで命をおとす子どももいるわけで。

もう一つ。科学は陰謀論に負けるのでしょうか。
因果関係を調べるためには、どういう調査をしなければならないか、それがどれほど難しいことかを一般の方に判りやすく説明している科学者はどれほどいるでしょうか。私の回りには、居ません。
Commented by black at 2007-03-23 07:19
でも、もっと単純な構造に見えます。あまりにもいい加減な対応で、今朝のニュースを見ると、疫学や医学の専門家がいないような感じです。じっさい、厚労省のことを多少なりとも知っていますが、政治家志向が強く、医系技官でも専門知識は心もとなく、外部に頼る体質ですから、こうなるんでしょう???
Commented by stochinai at 2007-03-23 07:40
 私もblackさんとだいたい同じ意見です。いろんなことが、いいかげんにできなくなって、このままではやばいということになって深夜の緊急記者会見になったのだと感じています。
 ただ、今回の件では研究班の医者(という科学者)がデータ隠しやあやしげな非科学的判断に荷担したという点で一連の「ねつ造事件」に近いものを感じています。医療の世界にも「科学コミュニケーション」が必要だということではないでしょうか。
Commented by いろいろ at 2007-03-23 08:09
確かに疫学や医学の専門家は居ないでしょうし、医療の世界にも科学コミュニケーションが必要だということにつきると思います。

ところで、今朝の読売に「インフルエンザ14歳男子、タミフル服用せず飛び降り」「服用していない患者の飛び降り例はこれまであまり報告がないという。」と書いてあります。当たり前と言えば当たり前です。
薬を飲んで異常行動を起こしたら薬メーカーが厚労省に報告する義務がありますが、薬を飲んでいないインフルエンザ患者が異常行動を起こしたときにはそれを厚労省に報告する制度などないからです。
実験系の科学者が観察研究が引き起こすバイアスをご存じなくても不思議ではないのですが(そういうバイアスがあるとか、白黒がはっきりつけられないところが、実験系の研究に比べて観察研究が格下に見られる傾向に繋がるのでしょうけれどね)。

それと、薬メーカーからの副作用の報告は、厚労省だけでなく、アメリカのFDAやヨーロッパの関係機関にも同時に提出されるルールになっていたはずです。このままではやばいというデータがあるののなら、FDAも日本と同様にダメですね。アメリカには日系人が少なからずいて放置できないはずなので。
Commented by stochinai at 2007-03-23 12:05
 薬や医療(それに食品)に関しては基礎科学と違って、いろいろな「雑音」がはいりやすい上に、マスコミの扱いが大きくなりますので、難しいことがありますね。今回の件が、BSAに飛び火しないといいのですが、、、、。
Commented by black at 2007-03-23 21:19
医療関係者とたまたま話しましたが、厚労省の対応は余りにも稚拙だと。素人しかいないのでしょうか。研究班にも国民の安全を左右するという視点がないと言わざる得ないですね。
Commented by stochinai at 2007-03-23 22:26
 そういう連中が、罰せられたり更迭させられたりしないのだとしたら、いつまでたっても、この国は変わりませんね、残念ですが。
Commented by kuma at 2007-03-24 07:14
タミフルを飲んだ人と飲んでいない人の間で異常行動の率がかわらなかったという横浜市大の横田さんの研究報告書をぜひ読んでみてください。厚生労働科学研究のデータベースで全文が手に入ります。
中身はインフルエンザ脳症の前兆を捉えようと(特有の前兆があるはずという思い込みにしたがって)調べたものです。
単にうわごとをいったという程度の「異常」と、走り回るという「異常」を一緒に集計して、タミフルが処方された子どもとタミフルを処方されなかった子どもの間で、統計上の差がないとしています。
でも考えてみてください。調査した患者の10%に異常が出ているということは、それは「あたりまえ」「よくあること」であって「異常」という言葉があたらないということではないでしょうか?記者会見でそれを突っ込めない記者たちは不勉強ですね。
いま問題になっているのはおそらく数万人に一人の割合で起きる「本格的な異常行動」「譫妄」の率が、タミフル服用後に高まるかどうかということが問題であって、そのようなまれな副作用は、もともと2800人患者を調べて検出できるものではありません。
つづく・・・
Commented by kuma at 2007-03-24 07:15
こういうまれな副作用は、企業に市販後調査をしっかりやらせて、国も副作用情報の収集に熱心に取り組むことによってのみ明らかになるものです。厚生労働省はそれを知っていながら、横田さんの研究のおいしいところだけ利用して責任逃れをしようとしたのですが、どうやら今回失敗したようです。
横田さんの研究は、薬を飲んだあとに異常行動が出たのか飲む前に出たのかわからないとか、医師を通じて患者のアンケートをとっているなど調査手法にも問題があり、なぜか神奈川県と岡山県の患者ばかり(つまり横田さんと森島さんの息のかかった医者ばかりが協力している)のデータであることなど他にも変なことがたくさんある内容です。もし私が研究者ならメーカーから1000万円もらっていても恥ずかしくて公表するのはためらうような内容です。そしてそれがタミフルの副作用対策を遅らせる効果を持っていることを十分承知した上で公表し主張しているのは、もう専門家としての責務を放棄しているというしかありませんね。
来年度の授業でこの問題を取り上げるつもりです。
Commented by いろいろ at 2007-03-25 05:27
kumaさんのお話は是非学生さんにも伝えて頂きたいです。医療に関わるものとして切に願います。
その場合、数万人に一人以下という出来事についてどういう市販後調査をすると良いのかについても(kumaさんが研究報告の査読者だったとして、批判のしようのないしっかりした研究計画についても)、説明してあげてください。砕いて言うと、何人の人を、どのようなサンプリング方法で、どういう調査項目で調査するのか、ということです。
そのためには、医療関係者はもとより患者の協力が必要です。過労死も出るような小児医療の現場にどういう風に理解を求めるのか考える必要があります。患者さんも調査はなかなか協力して貰えません。

同時に、タミフルの代わりにリレンザがあると書いている新聞もありますが、これ自体無責任な言説であることはおわかりだと思います。リレンザが安全であることだって調べてないんですから。それに対して、専門家は、今何を言い、何をするべきでしょうか? あとになって厚労省を批判してみても「専門家としての責務を放棄している」と今度は専門家が批判されると思います。
Commented by いろいろ at 2007-03-25 06:04
タミフルの能書は「重大な副作用」に異常行動、譫妄等の精神症状を注意するよう書いてあります。たしか2~3年前の時点でそう書いてあったと記憶しています。
当時は、これは「予防原則」そのものだと思いました(なお、FDAは昨年11月に、ヨーロッパは先日これに追従することになったとニュースになっていました。両者因果関係を否定しています)。

その予防原則で重大な副作用の注意がされても、医療者、患者、マスコミにその重大性が認識されないこと、多くの人が亡くなられるまで厚労省だけでなくそれ以外の人たちも動き出さないことも見過ごせない現象です。

厚労省の外郭団体のWebに全ての薬の副作用報告が公開されています。タミフルの異常行動もだいぶ前から掲載されています。隠しているわけではないようです(私はたまに見るようにしてます)。

数万ある殆ど全ての薬に命に関わる副作用があり、多くの方が副作用で亡くなっていますが、薬を使わないというわけにもいきません。問題が大きくなる前に、事前に、どのように数万の薬のリスクを伝えるべきでしょうか?
この辺にも科学コミュニケーションとの接点があると感じます。
by stochinai | 2007-03-21 22:13 | 科学一般 | Comments(13)

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