5号館を出て

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輸入・移動を禁止される外来生物

 一週間ほど前に、環境省が「特定外来生物」として、規制する第一陣に37種指定というニュースがありました。輸入と移動が禁止されるということのようで、すでに国内にいるものを殺戮せよ、という法律を作るということではないようです。しかも、まだ決定したというわけではなく「同省が国民の意見を聞いた後、閣議で決定され、6月までに予定される同法施行時から適用される」とのことですので、国民ならば意見を述べるチャンスがあるようです。

 特定外来生物に指定が見込まれる生物として、挙げられている哺乳類としては既に駆除が始められているタイワンザルやアライグマがいます。特に駆除されているという話は聞きませんが、戦時中に政府が輸入・飼育が奨励されて「ブタのように大きなネズミ」として時々騒ぎになるヌートリアもいます。キョンなどは、八丈島の名物になっているので保護されていると思っていました。

 ガビチョウ、ソウシチョウなどは、どれもペットの小鳥とでもいうべきもので、もう野外で増えているのなら、まあ仕方がないかと思えてしまいそうなものです。

 カミツキガメ、グリーンアノール、ブラウンアノール、ミナミオオガシラ、タイワンスジオ、タイワンハブなどの爬虫類。トカゲ・ヘビは野生にいたらあまり歓迎されないでしょうね。

 オオヒキガエルは、戦後アメリカの進駐軍が持ち込んだと言われているもので、沖縄など南の島で繁殖しています。英語ではマリントード(海ヒキガエル)と呼ばれるように、海岸などの開けたところに住んでいるようですが、もちろん海水の中を泳げるわけではありません。そんな両生類はいません。(このことからも、サカナが両生類になって上陸したのは、海ではなく淡水だったと考えられています。)
 
 大きな問題になっているオオクチバス、コクチバス、ブルーギル、チャネルキャットフィッシュについては、在来の淡水魚を圧迫しているので、輸入・移動だけではなく駆除という方向に動いている自治体も多いようです。タイミング良く、今日のニュースで、琵琶湖・外来魚の再放流訴訟:原告の訴え却下「リリース禁止」と出いうのがありました。清水國明さんは負けてしまったようです。滋賀県の制定した、琵琶湖ではブラックバスやブルーギルなどの外来魚を釣り上げた場合にリリースを禁止するという条例は適法であるという判決です。まあ、このサカナはどれもどう猛で肉食であり、積極的に日本在来のサカナを食べていることもわかっているので仕方がないとは思います。

 こうして見てみると、輸入や移動を禁止したところで、すでに国内で自然に繁殖しているものが多いようなので、積極的に減らすためにはまた別の条例や、政策が必要です。特に大反対という意見を持っているわけではないのですが、私は動物や植物の分布を人為的にコントロールしようという思想には、諸手を挙げて賛成とは言えない立場です。もちろん、専門的に生態学などの研究をしている方々が、在来の生態系を保護すべきであると主張する意見も理解できます。

 しかし、その「在来の自然」と言ったところで、せいぜいが数十年から数百年前のものではないでしょうか。人類が誕生してからは、この地球上の生物分布は人類の営みによって変化させ続けられてきたと思います。食糧として捕獲・採取・減少させたものはもちろん、家畜やペット・農作物として移動・増殖させたり、あるいは意図せずして運んでしまったものなど、人間による生態系の「攪乱」は何万年も続いてきたのだと思います。

 もちろん、ごく最近になって明らかに人がかかわって分布域を変えただけではなく、在来種の存在が脅かされていることが明らかな場合に、その「失敗」を補うための政策を取ることには反対しません。根絶と旧生態系の回復はとても無理かな、と思っても止めろとは言いません。ただちょっと気になるのは、人間の浅知恵で「こういう生態系が理想的なのだ」などと短絡的な結論を出して、突っ走ることをやってしまわないかということです。

 たとえ、人間が介在していたとしても、地球生態系というものは「なるようにしかならない」部分が大きいのではないかと思います。それを、管理しきれるという思想があるとしたら、それこそが人間の傲慢かもしれないと思います。たとえ外来生物がはいっていたとしても、まずは研究すること、そしてどのくらいまで人間が手を出していいのかをみんなで検討しながら、少しずつ手を入れていくというのが、「自然」とのつきあい方ではないかと思っています。

 ご意見をお聞かせ下さい。
Commented by ぐうねこ at 2005-02-07 22:19 x
なかなか難しい課題ですね。
学部のころ故S先生に環境について習った頃、僕は人間も自然の一部だからこのままでよいと安直な考えをしてましたが、自然界における人間の影響力の大きさをその先生に教わりました。
外来種が入らなくとも環境の変化で(もちろん人為的なものもりますが)人間の生活利益に支障をきたすことがありますから、是が非でもこの環境がベストというのは難しいですね。人間の生活も生態系も常に変化していますから、管理するのは不可能でしょう。
人間の利己的な考えが先行してしまいがちですが、我々も自然の一部なのですからその環境の中で共存の道を図っていくのがベターかなと思います。まとまりませんが・・・。
Commented by stochinai at 2005-02-08 10:10
 日本の淡水魚の代表と言われているメダカは、稲作(つまり水田)とともに東南アジア方面から分布を拡げてきたという説を聞いたことがあります。そうだとすると、メダカも人為的に分布を拡げられた外来生物ということになってしまいます。
 そうなってくると、なにがどうなっているのかという話の出発点すらあやしくなってくるのが、この話の特徴かとも思います。
 元に戻すと言うより、どういうふうにするのかと議論するのが生産的なのかも知れませんね。
Commented at 2005-02-12 05:41 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by stochinai at 2005-02-12 16:33
 水辺の人さん。情報をありがとうございました。
 今朝の朝日新聞にも関連記事が載っていましたが、生物学と言うより、政治の話のことがたくさん書かれていたように思いました。
 学問というものは、政治とは関係ないものなので、ほんとうに学問的な議論をすると政治家は困るのだと思います。政治に荷担するのは、学問の自殺行為だと思います。
Commented by stochinai at 2005-02-12 16:35
 そういえば、池田清彦さんって、いつから早稲田に移ったんでしょう。
Commented at 2005-02-15 02:53 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by stochinai at 2005-02-15 14:34
 自分のエントリーですが、関連のものをトラックバックしておきます。
by stochinai | 2005-02-07 20:40 | 生物学 | Comments(7)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai