5号館を出て

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論文捏造:村松秀講演会

 先日、日本科学技術ジャーナリスト会議から、「科学ジャーナリスト賞2007」の【科学ジャーナリスト大賞】をもらった、NHK科学・環境番組部 専任ディレクターの村松秀さんの講演会が、理学部5号館の大講堂で開かれました。こちらにも予報があります。

 村松さんは、CoSTEP特任教授のK本さんのNHK時代の後輩なのだそうですが、1968年生まれということで、ウェブなどの写真と比べるとはるかに若いという印象を受けました。

 講演の中心は、BSドキュメンタリー『史上空前の論文捏造』(2004年放送)の内容の要約で、その番組をもとに書いた『論文捏造』(中央公論新社・中公新書ラクレ)に詳しく書いてあることの他に、最後にちょっとだけ韓国のファン・ウソク教授のヒト・クローンES細胞捏造事件と、日本の捏造事件の代表として東大の多比良・川崎事件にも言及がありました。内容としては、特に目新しいことはなかったのですが、実際に番組を作った人の話は、それなりに説得力があり興味深く聞かせていただきました。

 彼の話の結論は、「科学は『日本橋』だ!」というもので、要するに東海道の起点にもなっていて日本の中心ともいうべき存在だった「日本橋」が、時代の流れとともに、高速道路に埋もれてしまって、昔のままの「日本橋」は残っているにもかかわらず、そこにかつての面影を見ることができなくなっていることと、昔は人々に尊敬される存在だった科学も、それをとりまく社会がすっかり変わってしまっているにもかかわらず、科学自体が変わっていけなかったことによって、昔の権威も高い倫理観もなくなってしまっているということを言いたかったのかもしれません。

 まあ、それはそれでわからないこともないのですが、ではどうしたら論文捏造のような科学の不正がなくなるのかということについては建設的な提案は出されなかったような気がします。

 それは我々科学者コミュニティの責任であるということなのかもしれませんが、科学はもはや科学コミュニティだけで維持されている存在ではありませんので、科学のことは日本中いや世界中で考えていかなければならないテーマだと思います。彼もちょっとだけ言っていましたが、ポスドク問題も論文捏造問題も「根はひとつ」だと私も思いますし、それを根本的に解決するには、とてつもない「社会全体の改革」が必要になると思います。

 また、今日の話を聞いて、前に私が提案した「論文ねつ造をなくする決定打」は、依然として有効であることも再確認できました。シェーン事件もファン・ウソク事件も多比良・川崎事件も、その他の最近の論文捏造事件のほとんどは3年くらい前のねつ造が発覚することで問題が明らかにされているようですので、発表から5年間は論文の真偽が不確定な期間として、それを業績にカウントしないというルールが作られれば、かなりの捏造はなくなるのではないでしょうか。

 それともうひとつ、村松さんは触れられていませんでしたので、あえてコメントさせていただいたのですが、捏造をあおる存在としてのマスコミ(言い忘れましたが、それに有名学術雑誌)の問題をやはり指摘しておきたいと思います。どちらも、科学における新しい発見(それも、経済的インパクトの大きなもの)を扱うことで、視聴率や売り上げを上げ、高収入を得るという存在です。そして、それに取り上げられることが、同時に研究者にとっても名声と研究費あるいは高いポジションを得るためのパスポートになるという構造があります。そう考えると、マスコミと学術雑誌も捏造と無関係ではいられないということは自覚して欲しいと感じました。

 科学の世界の問題を解決するには、科学者だけの力では無理だと思いますが、それにしても第一番目の関係者が科学者(研究者)であることは間違いありません、その第一関係者である大学の研究者の参加がかなり少なかったことは、予想通りとは言え、ほとんどの大学研究者にとって、論文捏造問題は「自分の問題」として深刻に考えられていないことを示しているように思われ、この問題が近い将来に解決することはないだろうと思わされるものでした。

 しかし、一方で大学院生や大学生が意外にたくさん参加していたようで、こちらに関しては頼もしく感じました。彼らが研究者になるころには、少しは事態に変化が起こっていることを期待したいと思います。

 とは言え、あの若者たちのうち、どのくらいが研究者になれるのかを考えると、、、、、。
Commented by Salsa at 2007-05-18 00:44 x
TBありがとうございます。今日の講演会が終わって、聞いていらした多くの研究者の方、研究者の卵の方の感想が聞いてみたいと思いました。後で、若い研究者の卵さんに聞いてみたところ、「捏造はいくらでもやろうと思えばできるけれど、それをしないのは良心からだけなのでは」。とか、別の方は「捏造が発覚するのは先進的な研究だからで、マイナーな研究は追試もされないから捏造も発覚していないだけなのでは」。また、「真理を知りたいと思って科学者になったのに、自ら真理を曲げたら自分自身を否定することになるからやらない」。などなど、お話を聞きました。
by stochinai | 2007-05-17 22:54 | 科学一般 | Comments(1)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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