5号館を出て

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運営費交付金:財務省シミュレーション

 つい先頃、文科省が科研費の配分をもとにした国立大学への運営費交付金の傾斜配分シミュレーションを出して、私は「先生が競争に負けたら学生が飢え死に」という、少々エキセントリックなタイトルでエントリーを書きましたら、たくさんの方からコメントをいただき、この問題に関する関心の高さがわかりました。

 実は、その時はあまりのショックであえて書かなかったのですが、文科省の試算(pdf)では北海道大学の運営費交付金が40%くらい減少するとなっていたのです。運営費交付金が50%以上減少する48法人に匹敵するくらいの位置にいました。もしも、それが実行されたら北海道大学は間違いなく破綻します。

 今日のニュースで大々的に取り上げられていますけれども、昨日になって財務省が同じような競争原理に基づいて運営費交付金の配分方式を見直すシミュレーション(pdf)を提示しています。さすがはお金のことが得意な財務省ですので、今回は科研費の配分だけではなく、特別教育研究経費の配分割合による傾斜配分のシミュレーションも出しています。

 特別教育研究経費の配分割合によって交付金を算定した場合には、ドンケツながらも北大は交付金額が増加する34法人の中にとどまっています。52法人が交付額減少です。

 ところが、科研費を元にした算定の結果を見て、驚きました。文科省の試算では40%も減ることになっていた、我が北海道大学はなんと40%以上も交付金が増額されるという結果になっているのです。どういうことかと両者を見比べてみると、文科省のシミュレーションは17年度の科研費配分を元に18年度の交付金を試算したものであり、財務省のものは18年度の科研費配分を元に19年度の交付金を試算したものだということがわかりました。

 傾斜配分とは、こんなにいい加減なものだということがとても良くわかります。

 もともと競争的資金というものは、競争しているわけですから毎年結果が変わってこそ本来の姿です。それを元に安定して運営すべき大学の運営基盤となる運営費交付金が計算されるということが、いかにバカげているのかということが、これで証明されたと言っても良いのではないでしょうか。

 科研費は、いろいろな要因があって、もらえたりもらえなかったりしますし、そもそも大学の構成員が変わるとそれに従って変わるものでもあります。科研費配分を運営交付金の算定基準にするという噂が流れたとたんに、科研費を取れる教員をリクルートしようなどというアホな動きを示した大学もあったようですが、話が逆ではありませんか。

 しっかりと教育するための運営交付金は、浮き沈みの激しい競争的資金から隔離して確保してこそ、教育の場である大学の責任が果たせるのだと思います。

 そろそろ目を覚ます時だと思います。大学において責任ある教育をするるためにはどうしたら良いのかを、政府主導ではなく考える場として、国立大学協会をまず再生させてください。その中で、大学の統合や再編を自主的に考えましょう。運営費を削られて、じり貧になって滅びていくような事態になった場合も、やはり学生が最大の被害者になります。

 学生のためにあるはずの大学で、学生のことが中心に議論されない大学経営論はやはりどこかおかしいのではないでしょうか。
Commented by 一研究者M at 2007-05-23 08:37
まったくもって正論ですね。
おっしゃるとおりだと思います。
最近、つくづく感動しながら読んでいます。

わたしの居場所も、「アホな動き」を見せている一つです。
このところ感じるのは、40代以下ぐらいの若い教員は、
「競争」ということばに、非常に迎合的なんですね。
革新的・民主的な物言いをする教員でも、自分が「能力主義」のなかを勝ち抜いてきたという妙なエリート意識が強くて、
その点で、平等とか「全体の奉仕者」といった観点がスツポリ抜け落ちているんですね。
困ったものです・・・
Commented by chikkenndo at 2007-06-25 15:17
残念ながら考える力は無いでしょう。
文科系、特に社会科学系の研究者は
完全にカルテル化してしまっているので
どう運営して言っていいのかと言う能力に
掛けている人で占められているからです。」
by stochinai | 2007-05-22 23:21 | 大学・高等教育 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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