5号館を出て

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教員という選択 【関連記事追加】

 (理系の)大学院を出ても、なかなか大学院で身に付けた専門性を生かせる職につけない時代になりました。私は個人的には、専門性を生かせる職業のひとつとして、小中高校の先生は悪くないと思っています。私が大学院にはいった頃は、大学院に進学して研究者(大学教員)になれなかった人のセカンドチョイスとしては高校の先生が一般的でした。その後、現実的には教員になることも難しい時代が訪れ、サードチョイス(?)として予備校や塾の先生になる人がたくさんおりました。

 教育職というのは、給料はそれほど高くはないのだと思いますが、理科の先生などは日々進歩し続ける科学の話題を織り交ぜながら、子どもたちに教えていくことができるので、飽きることもなく充実した日々を送ることのできる「商売」だと、昔から思っていました。ほんとうの職場の姿をを知っているわけではありませんが、私の知っている何人かの小中校の理科の先生は、ほんとうに楽しそうに日々教材開発をしておられ、これなら自分も職業にしてみたいと思わせられます。

 自分の思い出を振り返ってみても、中学校や高校の理科準備室というところは、なんだか科学の研究室っぽくてあこがれていました。職員室以外にそこに居場所を持っている理科の先生はなかなかカッコ良く見えたものです。ということで、自分が選ぶべき将来の職場の選択肢の中に理科の先生はしっかり入っていました。

 ただ、教員養成系教育学部ではないところ(の大学院)を卒業して教員になろうとすると、免許を取ること自体が高校の教員を除くと極めて難しく、小学校に至っては不可能というのが実情だと思います。そういうわけで、小中高校の理科の先生には、大学院卒の方が少ないという現状があります。

 私は個人的には、子どもたちは「理科離れ」などしていないと思っているのですが、世間では理科離れしているということが共通認識になっているようで、マスコミの記事のタイトルには常にこの言葉が出てきます。 

 朝日コム: 理科離れ対策に「博士」の先生増員を 学術会議が要望

 この記事は、22日に発表された学術会議の要望「これからの教師の科学的教養と教員養成の在り方について」をまとめたもののようですが、実際にこの要望書(資料を含め42ページの大著)を読んでみると、朝日の記事のタイトルはかなりミスリーディングなものだと言わざるを得ません。記事を読むとそうではないことはわかるのですが、タイトルだけ見るとなんとなく学術会議が「現場の理科の先生では力不足なので、資格を無視してでも理系の博士を採用せよ」というようなことをごり押ししようとしているような印象を受ける人もいるのではないかと思われ、ちょっと危ない気がしました。

 同時に、この博士余りの時代ですから、「余剰博士」を小中高校の先生に押し込めようとしているのかという誤解も招きそうだと思いました。

 学術会議の要望書を読んでみると、極めて冷静に現状が分析されており、理科が苦手な小学校の先生が多いことや、逆に教員養成課程ではない大学院に進学すると、小中の理科の先生になることが極めて難しい現状を解決するための建設的な提言がされていると思いました。

 ただ、今回の要望の中には文科省に制度を変えるように要求するものもありますが、大学がみずから自分たちができる大学院生や現職の教員の教員に関して積極的にやれることもたくさん含まれておりますので、大学側がこの要望を真摯に受け止めできることはどんどん実行しているということも必要だろうと感じました。

 政策の提言や要望というものは、ともすれば政府に責任を丸投げしてしまうものになりがちですが、大学の教員が多い学術会議なのですから、政府に対して要求するだけではなく「自分たちもこのようにします」という姿勢がないと、話はまったく先に進まないと思います。

 学術会議の要望を受けて、政府よりも前に大学が動いてくれることを望むとともに、それよりも先に個々の先生や学生が動き始めないとこの国の状況は打開できないと思う今日この頃なのでした。

 ともかく、できることはどんどんやってきませんか。>すべての皆さん

【追記】
 京都府では、今年から教員採用に大学推薦制が導入されたそうです。
 京都府教委は3日までに今年の教員採用試験で、京都市を除く府内の小学校教員と中学校数学、理科教員に大学推薦制を導入する方針を決めた。「団塊世代」の大量退職に伴う新規採用増で学生や若手教員の争奪戦が自治体間で激化する一方、景気回復で企業の新規採用枠が拡大し、理系学生を中心に「教職離れ」が進んでいる。

 府教委は大学推薦制を人材確保につなげたい考えだ。府教委によると、東京都と神奈川、愛知両県が昨年、大学推薦制を導入したが、中学校数学、理科教員では全国初という。


「理科離れ対策に博士の先生増員を」はチャンスととらえたい
 ボストンの島岡さんが関連エントリーをポストしてくださいました。是非とも、ご覧下さい。
Commented by Jun at 2007-06-25 02:05 x
>教育職というのは、給料はそれほど高くはない
校長の給与は国立大学教授よりも高額ですよ。
小学校〜高校の教員は郵便と同様に既得権益を守るためのシステムが極めて発達した職域なので、政府レベルのトップダウンが必要でしょうね。でも一票も取りこぼせない今の内閣では無理だろうなぁ。
Commented by 蜘蛛巣人 at 2007-06-25 06:28 x
 英語の学科を卒業していないのに、外国で仕事をして(2,3年か)札幌に戻り、英語のジャーナルを一人で出して道内高校に配り、食べている若手がいます。ベンチャーを起こすことにも関係しますが、理科教育を素材にした一人か数人の企業や理科教育寺子屋だって可能かも知れない(失敗するほうの確率が大きそうですが)。ベンチャーの難しいところは、他の例のないところに起業の芽を育てていくことで、研究も同じところがあって、他人が成功してことを真似るのは比較的簡単です。でも真似は皆思いつくので企業化は難しい。大学(院)教育は方法論(それも教員自身が得たもの)を教えて、それにしがみついている学生を輩出するシステムになっているので、頭で理解できることから先が見えないところに踏み出すことが出来ずにいるのだろうと思います。
Commented by もも at 2007-06-25 08:56 x
 大学院を出ても、なかなか教員採用試験に合格しない学生や浪人も、たくさんいます。理科ばかりでなく、英語教師も留学して通訳すらできるのに、教員試験にパスしない人もいます。それは厳しくいえば「社会に適応できないから子ども相手に教師でも」という態度がミエミエの人もいるからです。
 学識と、教育者になれる資質、というのは全く別ものです。とくに小中学校では、教師が子どもに及ぼす影響は多大なものがありますので。

 ただ、高い学識を持った人が、教育者としての訓練を受け人格を磨いて子どもの前に立たれ、ともに学ぶ姿勢を示されるなら、大きな成果があるでしょう。
そ のためにも、教員養成のあり方、免許の取得方、採用のやりかたなど、さまざまなシステムを見直す必要があるのでしょう。
 子どものために、深い学識と広い視野をもった、子どもへの思いの深い人材が教育に携ってくださることを祈ります。
Commented by デモ鳥 at 2007-06-25 09:38 x
>もも様
>ただ、高い学識を持った人が、教育者としての訓練を受け人格を磨いて子どもの前に立たれ、ともに学ぶ姿勢を示されるなら、大きな成果があるでしょう。
 その通りだと思います。
 が、同時に。
「社会に適応できないから大学で教員でも」という態度がミエミエの高い学識を持った博士」

 がかなりいることはご存知ですよね。

 高度な専門知識、高い語学能力などをもっていても、その人が「教師に適しているか」は別次元の話です。逆に、学部しか出ていなくても、本当に学生のためを思って教育に情熱を持っている人にこそ教職についてもらいたいものです。
 私は教員には、少しでも多くの学生から「この先生みたいになりたい!」と思わしめるような、人間的魅力がもっとも必要だと思います。あとは、最低限の知識と教える能力だけがあればいいかと。学ぶ場での主体は教員ではなく、あくまでも学生ですから。学生に自ら学ぶ意欲を与える事ができる人にこそ、教員の適正があると私は思っています。

 小中高の先生にしても大学の先生にしても。
「一般社会に適応できないひと」を排除する仕組みくらいは備えてもいいと思う昨今です。
Commented by chikkenndo at 2007-06-25 15:14
初めましてよろしくお願いします。
chakinさんのブログにリンクが貼ってあったので
飛んで参りました。

>ももさん
言われるのは全くその通り。

>それは厳しくいえば「社会に適応できないから子ども相手に教師でも」>という態度がミエミエの人もいるからです。

確かにその通りですが、一番その種の人間が
多いのは教育学部出身の方ですね。
社会のことがわからない、関わりたくない、なにか怖い
という方が。他学部で教員を目指す方もそういう人は
多いですが、一度他の世界に行く友人と触れているので
自身の力を自覚している分まだ良いとおもいます。
Commented by katsuya at 2007-06-25 20:17 x
高校の先生はともかく小中学校の先生に高度な科学の専門性は必要でしょうか?それに大学全入が言われているとはいえ、実際は18歳人口の半分位しか大学に進学しないことも考えると、学位持ちの高度な学識が役に立たないことも少なくないと思います。底辺校でも教育に情熱を傾けられるのであれば学位は邪魔にはなりませんが、覚悟がないと大変な職業だと思います。
Commented at 2007-06-25 20:48 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by taketombow at 2007-06-25 23:31
junさん。
> 校長の給与は国立大学教授よりも高額ですよ。
ほう。そうなのですか。

資料の在処を教えてください。
どこかで、小中学校の校長は行政職の課長待遇と聞いたことがあります。大学の先生はそんなに安いのですか。
Commented by Jun at 2007-06-26 03:56 x
>taketombowさん
「教育職というのは、給料はそれほど高くはない」とは一概に言えないことをお伝えしようとしましたが、用語の使用が適切ではありませんでした。
「校長の年収は旧国立大学教授よりも高額となるケースもあった。」
とするべきでした。
確かに校長の「給与」(=基本給)は給料表により規定されており、行政職の課長とほぼ同等の様ですが、各種手当を加算した「年収」ベースでは様々なケースがある様です。
平均値を入手出来ないので、僕の一文も一般論化できませんが、エントリーにある「教育職というのは、給料はそれほど高くはない」というのも一般論化出来ないと思います。
なお、元国立大学の教授職についても独立行政法人化によって独自に給料表が決められるようになったので、今後はどうなるかわかりません。
Commented by Motomu Shimaoka at 2007-06-26 08:29 x
stochinaiさん
「「理科離れ対策に博士の先生増員を」はチャンスととらえたい」でトラックバックさせていただきましたが、システムにはじかれた場合を考えてお知らせいたします。

Motomu
Commented by alchemist at 2007-06-26 09:49 x
>>高校の先生はともかく小中学校の先生に高度な科学の専門性は必要でしょうか?
一般化できるかどうかは判りませんが、中学校の教員が人手不足だったので地元の国立大学の数学の先生が手伝いに来ておられました。妙なことを考えて質問すると喜ぶひと味違った講議で、中学生ながら考えるということの原形を示されたような印象が残っています。中学校の教員が科学者としてのトレーニングを受けているのも大事なことではないでしょうか?
>>小中学校の校長は行政職の課長待遇
大学の教授も本庁の課長待遇です。
Commented by stochinai at 2007-06-26 17:18
 たくさんの方がさまざまなご意見をお寄せ下さいました。ありがとうございました。その中で、私は小中学校の理科の先生に理科系の修士や博士がいてもいいのではないか、あるいはそれはそれで有意義なのではないかという意見に注目したいと思います。
 もちろん、小中学校の先生はある意味で特殊な、高い教育技術とコミュニケーション能力を必要とされますので、そうした中で科学教育を補完する形で、あるいは修士や博士から初等・中等教育を目指す人間にはそうしたスキルを教育するカリキュラムを整備しながら、将来へ備えていくということは悪くない選択肢のひとつだと思います。

 いかがでしょうか。
Commented by yxt at 2007-09-11 14:19 x
学際系の学部・大学院には教職課程が存在せず、小中高の教員への道が狭くなってしまうことがあります。
Commented by stochinai at 2007-09-11 14:34
 コースがなくとも、あちこちで単位を取ることで可能になっているところも多いはずです。教務などで訊いてみてはいかがでしょうか。場合によっては、他大学での履修もできなくはありません。
by stochinai | 2007-06-24 23:33 | 教育 | Comments(14)

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