5号館を出て

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大停電

 8月の最終日曜日は恒例になった全学大停電の日です。朝8時から午後6時までの10時間という長時間で真夏ですので、冷凍・冷蔵関係がもっとも大きな影響を受けます。各研究室では昨日の午後に大量のドライアイスを受け入れ、停電が始まる直前までディープフリーザーに保存しておき、今朝の停電開始とともにフリーザーや冷蔵庫に投入して、一日をしのぐというわけです。密閉された冷凍庫の中ではドライアイスは意外なほど持つもので、停電が終わった時点で確認してみると、いつも半分くらいは残っています。

 停電の間は、大学にいてもひなたぼっこくらいしかできませんので、ほとんど人がいなくなり学内にいるのは観光客だけという感じです。

 研究室の冷凍・冷蔵関係や連続運転している機械の再立ち上げに関してはすべて私がタッチしなくてもきちんとやってくれるのですが、私が管理しているウェブサーバーとメールサーバーに関しては、やはりちょっと気になりますので立ち上がりを確認するために停電が終わる頃に大学へ出かけました。

 ウェブサーバーは昨夜遅くにリモートでダウンしておいたのですが、メールサーバーはギリギリまで落とさずにおきたいという気持ちもあって、早朝に落とせばいいかと思って夜には落とさずにおいたのですが、なんと気が付いた時には学内ネットワークにアクセスできない状況になってしまっていました。サーバーが動いている最中に停電が始まってしまうと、最悪の場合にはファイルシステムが壊れることがあります。実際、なんどかそういう経験をしたことがありますので、今日はそれが一番の心配事でした。

 というわけで、ちょっとドキドキしながら通電再開を待っていましたら、ほぼ6時ぴったりに回復しました。この恒例行事が始まった当初の頃は、なかなか時間通りに始まらなかったり、時間前に始まったりということもあったのですが、ここ数年は時間通りに再開しているようで、技術も停電に関するソフトの面でも進歩していることを感じさせられます。

 さて、問題のメールサーバーの方ですが、電源投入してみたところ驚くほど何事もなく立ち上がってくれ、ちょっとびっくりするほどでしたが、ホッとしました。

 思えば、このメールサーバーもウェブサーバーも、大学はインターネットとつながった学内ネットワークを張り巡らせてくれただけで、後は何もしてくれなかった時代にこれでは世界に取り残されると思った我々が学科単位で勝手に立ち上げたものなのですが、今や情報基盤センター(旧大型計算機センターなど)や理学部がメールサービスやホスティングサービスをやってくれる時代になり、無理をして維持し続ける必要はないと思うのですが、サービスの移行をするためにはユーザーに対する教育及びケアをしなければならず、それをやるかサービスの維持をするかという選択を迫られるくらいなら、このままサービスを続けた方が楽という私の個人的判断で続けているというのが実情です。

 それにしても、このサーバーの管理はまったくのボランティア(無償)で無期限委託されている業務であるというところが、いかにも大学らしいですね。もちろん、いやならやめれば良いのですが、私がやめるといわゆる「情報弱者」の方々だけが被害者になってしまうという構造も、いかにも日本的だなあと思いつつも、ズルズルと10年以上もボランティアサービスを続けている私なのです。とは言っても、いつまでも続けていると私が辞める時にいきなりサービスがなくなってしまうということになりますので、ゆっくりと縮小させながら廃止しようと思っております。

 電気のなくなった大学を眺めながら考えたことがひとつあります。ほとんどの理科系の研究は電気なしにはできないかもしれないけれども、教育ならば電気がなくてもできるような気がしました。このあたりに教育の本質を考える鍵がありそうです。

 停電ひとつでも哲学的(?)にさせてくれるのも、大学の雰囲気というものかもしれません。
Commented by さなえ at 2007-08-27 06:38 x
先生、質問です。なぜ、真夏に10時間もの大停電を毎年行っているのですか?災害に備えた演習ですか?それとも省エネ?何かの点検?演習だとしたら、前日から大量のドライアイスを購入しておくのだから、突発的な事故の演習にはなりませんし、省エネとか節約であれば、ドライアイスの大量購入で、差引勘定はどうなんだろうと思いますし、点検であれば、支障の大きな真夏ではなく冬休みにすればいいのにと、とても不思議なんですが。
Commented by alchemist at 2007-08-27 12:01 x
どこの大学でも同じだろうと推測しますが、電気関係の点検のための年一回の停電の時期は「昔からこの時期にやっている」という以外の合理性はないか、と。でもstochinaiさんの大学、冬は雪の中でしょうから、外に非常電源を設置しての点検は殆ど不可能ではないでしょうか。春は予算がないだろうし、可能性があるのは秋。

ところで、昔から〜で不合理な時期に平気でやっていることもあります。北国では冬季はコンクリートの建物を立てるべき時期ではないというのは常識ですが(建築基準法に定める最低の基準を満たす程度の工事はやっていますが、コンクリートは温度が下がると良い製品にはなりません)、昔から国からの予算が決まるのが夏前で入札とかでたっぷり時間をかけますので、工事は冬になります。
他の公共建造物も似たようなことやってるんじゃないでしょうか。
Commented by stochinai at 2007-08-27 12:55
 さなえさん、alchemistさんがお答えになってくださいましたが、大学側からの説明では「本学自家用電気工作物保安規定に基づく定期点検」です。また、この時期にやるのは、もっとも停電の影響が少ないからということではないかと思います。最近は手際が良くなりましたので、春や秋の冷房や暖房が必要のない季節にやっても良いとは思いますが、初期の頃は復旧が予定どおりにいかず、数時間の遅れが良くあったので、もしものことがあってウィークデーにまで影響を持ち越す危険が予想されたので、休みに時期にしたということなのかもしれません。
Commented by さなえ at 2007-08-27 15:06 x
alchemistさん、つぶやきさん、丁寧に答えてくださってありがとうございました。予算の関係なら、ドライアイスが少なくて済み、雪があらかた消えた春休みがいいのにと、国立大学の予算に思いを馳せる納税者、さなえです。これまでは北海道は涼しいから夏でもよかったのでしょうが、温暖化が進んで現在の北海道の夏は数十年前の新潟辺りと同じ平均気温にまで上昇しているそうですので(北海道米が美味しくなり、コシヒカリが衰退している理由だそうです)、夏の点検は難しくなる可能性がありますね。早晩、エアコンを満載した大型電気店の攻撃が始まるかも。東京で10時間エアコンを止めて電気の点検をしたら、袋だたきどころか、死者が出るでしょう。北海道が涼しいままでいることができればいいですね。
Commented by alchemist at 2007-08-27 16:46 x
春休みは無理でしょうね。予算がありません。概ね、の話ですが、会計年度を締める3月から会計年度始めの6月くらいまで大学には予算が降りてきませんので・・・。
今はまだ良くなったのですが、かつては研究費がやって来るのが9月、で継続の場合は10月には翌年の継続申請書を書かなければならず、そこには初年度の成果を書く欄がありました。9月まで予算がなく10月に翌年3月までの成果を書く・・・って面白いですね。
Commented by Takao NAMIKI at 2007-08-27 18:08 x
十数年前は5月の連休と10月頃にやっていたと記憶しています。赴任してすぐroot、環境を一通り把握したところで突然の停電通知だったので泡を食ったことを思い出しました。その翌々年くらいには、停電の翌日、月曜10時頃の不慮の停電という事件もありました。

今日から始まった国際会議の参加者の一部でしょうが、停電の中でもゲストに割り当てられた研究室で議論している姿を見かけました。電子ジャーナルやデータベースを調べるわけにはいきませんが、世界から集まった同志と集中して議論する貴重な時間に余計なものは不要ともいえます。教育も同じことかもしれません。
Commented by stochinai at 2007-08-27 20:15
 そういえば「不意の停電」というのは、自宅を含めてほとんど経験しなくなりました。

 「教育」に電気はいらないと思ったのは、まさにこの対話や議論のことを思っていました。最近の我々の業界の学会では難しくなってきましたが、サイエンスカフェなどのことを考えてみると本当に大切なことは、補助器具なしに伝え合えるものなのだと思います。
by stochinai | 2007-08-26 23:54 | つぶやき | Comments(7)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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