5号館を出て

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ガラガラヘビを脅すリス

 結構有名な話のようなのですが、私は今日のPNASを見て始めて知りました。こんなかわいらしいリスが、ガラガラヘビを怖がらせるのだそうです。
ガラガラヘビを脅すリス_c0025115_16592860.jpg

写真はCalifornia ground squirrel: flickrのpublic photoから引用

Published online before print August 17, 2007, 10.1073/pnas.0702599104
PNAS | September 4, 2007 | vol. 104 | no. 36 | 14372-14376
OPEN ACCESS ARTICLE

Ground squirrels use an infrared signal to deter rattlesnake predation

 オープンアクセスになっているので、どなたでも原文にアクセスできます。要するにこのカリフォルニアジリスはガラガラヘビに出会うと、尾の温度を5℃くらい上昇させて振り回すのだそうです。不思議なことに、ゴーファースネーク(インディゴヘビ)が相手の時には、この温度上昇が見られません。

 ガラガラヘビはマムシやハブと同じように目と鼻の間に左右一対のピット器官というものを持っていて、そこで遠赤外線(熱)を感じることで、暗闇の中でも高い体温を持った鳥類や哺乳類を確実に捕らえて食べることができることが知られています。一方、ゴーファースネークにはピット器官がありません。

 となると、このリスがガラガラヘビに出会った時に、尾の温度を上げて振り回すのは、そのピット器官を意識した行動という仮説が成り立つのですが、この論文はその仮説をロボットリスとガラガラヘビを使って実験的に証明したものです。温度の上がっていない尾を振るロボットリスが相手の時にはガラガラヘビの行動に影響を与えないのですが、高い温度の尾を振ったロボットに対してガラガラヘビは、逃げたり防御姿勢をとったりとすっかり怖じ気づいているような行動をとるのです。

 たかがリスごときに、ガラガラヘビがそんなに弱気になるのか不思議な気がしますが、謎を解くもうひとつのカギがあって、ガラガラヘビ生息地に住むカリフォルニアジリスの成体は血中にガラガラヘビの毒を中和する自然抵抗性(抗体?)を持っていて、噛まれても簡単には死なないのだそうです。一方、ガラガラヘビはこのリスの子供を好んで食べているという事実もあり、1948年の調査では、ガラガラヘビの食事の69%が子リスだったとのことですので、ガラガラヘビはもっぱら親リスを恐れているということになります。
Toxicon. 1987;25(7):767-77.
Resistance of California ground squirrels (Spermophilus beecheyi) to the venom of the northern Pacific rattlesnake (Crotalus viridis oreganus): a study of adaptive variation.
Poran NS, Coss RG, Benjamini E.

 毒があまり効かない相手が大型のリスだったりしたら、ヘビが逆にやられることもありそうです。そうなると、ガラガラヘビがビビるのもわかるような気がします。おもしろいことに同じ種のリスでも、ガラガラヘビの少ないところに住むものでは血清の抵抗性が低く、たくさんいるところに住んでいるリスの抵抗性は高いそうです。論文では「自然抵抗性」と書いてありますので、リスが毒にあたって免疫状態になったということではなく、ガラガラヘビの多い地域では先天的に血清の毒中和能力の高いリスが選択されたということになっているということだと思います。(1987年の論文に、「抗体」という言葉が使われていないのが、ちょっと気になりました。抵抗因子の実体が抗体だと確かめられていないのでしょうか?)

 たとえ血清中に抵抗因子を持っていたとしてもガラガラヘビを脅すほどの迫力があるという論文を読んで、リスに対するイメージがすっかり変わってしまいました。そういえば、UCLAのキャンパスでリスに噛まれて救急車で運ばれたという日本人がいたという話を思い出しました。

 お前はマングースか!

 National Geographic News でも、PNAS論文がオンラインで公開された時に、いちはやく取り上げていたようです。

 Squirrels Heat Their Tails to Fend Off Rattlesnakes
Commented by ぜのぱす at 2007-09-06 13:49 x
リスは、どうやって、ガラガラヘビとゴーファースネークなどの他のヘビを見分けて、尾の温度上昇を行ったり行わなかったりするのでしょう?子リスは、まだ、この業が出来ないので食べられてしまうのでしょうか?ピット器官を損傷させたら、ガラガラヘビは、リスを恐れなくなるのでしょうか?色々、面白い問題が山積みですね。
Commented by stochinai at 2007-09-06 14:02
 子リスはかなり良い餌として食べられているようですが、親リスが近くにいるとヘビが巣穴に入る確率はグンと減るようです。ヘビの種類をどうやって見分けているのかは興味深いですね。しかし、尾の温度があがるのを指標にすることで、ガラガラヘビを見分けるメカニズムは解析しやすそうです。確かにピット器官の破壊実験は必要だと思いますが、論文には書いていなかったような気がしますので、次の論文のネタなのでしょう。
by stochinai | 2007-09-05 18:11 | 生物学 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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