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授業料をタダにすると優秀な学生が集まるか

 日経ネット:東大、博士課程の授業料「ゼロ」・頭脳流出歯止め狙う 
東大によると、博士課程の授業料は年52万800円。在籍する約6000人のうち約3500人はすでに各種の奨学金や研究奨励金を得ており、残る約 2500人から休学者を除いた約1700人の支援財源として約10億円を経費節減などで工面。1人当たりの支給額は約58万円で、授業料を賄える計算だ。
 記事を読むと、授業料「ゼロ」は授業料が無料になるというわけではなく、授業料に相当する金額を何らかのかたちで大学が支給すると制度のようです。

 これは、「国立大では初の試み」と書かれていますが、私の記憶では北海道大学の工学部ですでにかなり前に発表されているものと同じ「仕掛け」と思われます。北海道新聞の2005年4月14日の記事です。
 助成の対象は博士課程のうち、企業や国から給与が支給される社会人学生、研究員らを除く学生で、本年度は新一年次七十一人のうち三十五人程度。研究補助員として採用し、その報酬の形で、北大にいったん納めた授業料相当分を支給する。
 まったく同じアイディアだと思われます。

 まあ別に、こんなものに特許や著作権もないでしょうから、どんどんやれば良いと思うのですが、この制度によって目論見どおりの結果が得られるのでしょうか。

 授業料をゼロにすることの大学側の狙いとしては、研究の後継者や企業の期待に応えるような「優秀な人材」の確保だと思われます。北大の記事を見ると、それがわかります。
 工学研究科では工学部生の約六割が進む修士課程(二年で修了)が一学年四百人程度なのに対し、博士課程(三年で修了)に進むのは毎年、定員百十二人の半分前後と低迷。企業就職で博士修了と修士修了の待遇に大差ない一方、教職員が過剰で研究者として大学に残る道も険しいことが背景にある。

 中山研究科長は「博士課程の就職率は100%だが、企業や国立研究所の縁故採用が大半で、多様な分野へ人材を輩出しているとは言いがたい」と停滞感を認める。

 このため、通常だと二十七歳で修了する博士課程学生の経済負担を軽減して修士からの進学を促し、リーダー役となる技術者を養成する。
 要するに、現在博士課程に進学している学生は、彼らの期待から見るとちょっと不足であるようなので、彼らの「期待」に応えてくれる「優秀な」学生を確保することを希望しており、学費を無料にすればそうした「優秀な」学生が残ってくれるだろうと思っているようなのですが、この判断は正しいでしょうか。

 私は間違っていると思います。

 学生が博士課程に進学しなくなったのは、授業料が高いからではなく、その先の進路に希望が持てないからだと思います。そこのところには手をつけずに、授業料を無料にすることで進学を決めた学生が彼らの期待に応える人材だと考える根拠が理解できません。

 むしろ、単に社会に出ることを嫌うモラトリアム人間を増やす効果の方が大きくないでしょうか。そうなると、状況はますます悪くなるような気がします。

 北大工学部もそうですが、東大も目を覚まして欲しいと思います。
Commented by inoue0 at 2007-10-01 11:10
同感です。学費タダにする金があるなら、その金で、就職斡旋センターを作って欲しい。企業と院生が個別に順列組み合わせを延々とやるよりも、大学が情報を集約して学生と企業をお見合いさせた方が、楽になります。
Commented by 大学院と似てますね at 2007-10-01 20:01 x
日本相撲協会から部屋には、1人の力士につき年間計186万円が支払われている。部屋から逃げ出した時太山を無理に引き戻し、悲劇が起こったのもこういう背景があると思われる。
Commented by 違うだろ at 2007-10-01 21:16 x
相撲と全然違う。大体,院生1人を受け入れて、配算される額なんて、微々たるもの。
Commented by stochinai at 2007-10-01 21:23
 基本の配当額がどうなっているのかは知りませんが、我々のところだと最近では修士学生ひとりが年間7万円くらい、博士でも10万円くらいだったような気がします。
Commented by stochinai at 2007-10-01 21:25
 最終的に研究室に配当になるお金のことです。
Commented by 駆け出し at 2007-10-02 08:49 x
6000人のうち3500人が何らかの奨学金類を得ているとしたら,かなりの数字ではないかと思いますが,これに有利子の絶望21プランは含まれているのでしょうか。もし含まれていたら,苦しくて有利子でも借金せざるを得ない人を救済せず,家が裕福なために奨学金など借りなくても構わない学生の学費を免除するという,ねじれが生じるでしょう。救済策としては極めて不完全なものではないかと思いますし,やるなら絶望21プランを借りなくてよくするくらいでなければ駄目でしょう。
記事には世界的な学生確保の競争といったことも書かれていますが,外国から日本に来る優秀な学生は国費なり何なりの奨学金を得ているでしょうから,主には日本から学生が出て行かないようにという配慮なのでしょう。でも年間58万円くらいで学生流出を防げるはずもないと思います。海外に出て行って通用するのは,日本国内でも十分な資金を獲得できるレベルの学生でしょうから。いずれにせよ中途半端です。
Commented by ポリ at 2007-10-02 16:59 x
こういうことを唐突に行なう前に、現場の学生・院生・指導教官のサーベイをしてみようとは思わないのでしょうか?授業料負担により、自分の進路に対する考えがどう変わるか、どうしてそう変わるのか、アカデミア以外の職につく強力なモチベーションとなり得るか等等。
 
おそらく上の人たちの予想とは異なる答えが返ってくるんじゃないかと思うのですが。
Commented by 大学院の奨学金 at 2007-10-03 00:40 x
>苦しくて有利子でも借金せざるを得ない人を救済せず,家が裕福な
>ために奨学金など借りなくても構わない学生の学費を免除するという,>ねじれが生じるでしょう。

大学院の奨学金って博士課程は成績順だったと思うけど、
最近は違いますか?
Commented by Bamboo at 2007-10-06 23:18 x
奨学金の割り当ては成績順で一種・二種が決まりますが、記事によると
東大は奨学金借金をしていない人のみに支援を行うようですね。
奨学生が借金をし、その他の学生が授業料免除というのは
駆け出しさんのご指摘通りねじれが生じていると言えるでしょう。
by stochinai | 2007-09-30 20:53 | 大学・高等教育 | Comments(9)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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