5号館を出て

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ヘルメット装着で自転車に乗ると車が接近してくる

 日本人ではまだヘルメットをかぶった普通の自転車乗りはあまりいませんけれども、道を2台の自転車で走るモルモン教徒の方々は、ほとんど例外なくヘルメットをかぶっているのは、どうしてなのでしょう。

 数日前に届いたサイエンティフィック・アメリカン(翻訳したものが「日経サイエンス」)10月号の最後のページに載っているコラム FACT OR FICTION? に、「自転車乗りがヘルメットをかぶると自動車が引き寄せられるか?」という記事が載っており、そんなことを思い出しました。
Walker's findings, published in the March issue of Accident Analysis & Prevention, state that when he wore a helmet drivers typically drove an average of 3.35 inches closer to his bike than when his head was not covered. But if he wore a wig of long, brown locks in lieu of a helmet--appearing to be a woman from behind--he was granted 2.2 inches more room to ride.
 イギリスのBath大学の心理学者が自分でヘルメットをかぶったり、女性用のカツラをかぶったりして自転車に乗り、追い越していく2300台の自動車との距離を超音波センサーで測定したところ、ヘルメット着用の場合にはかぶっていない時よりも3.5インチ(10センチ弱)車が近寄る傾向があり、女性用のカツラをかぶっていた場合には2.2インチ遠ざかるという実験結果が得られたということです。

 もとの論文(Drivers overtaking bicyclists: objective data on the effects of riding position, helmet use, vehicle type and apparent gender.Accid Anal Prev. 2007 Mar;39(2):417-25. Epub 2006 Oct 24.)は、約1年前にオンラインで発表され、今年の3月に出版(印刷)されたものなので、ネットで関連記事が見つからないかと探したところ、まったく同じような内容のブログ記事を発見しました。6月20日の医学都市伝説に「自転車ヘルメットが危険を招く?」があるばかりでなく、そのブログ記事が参考にしている記事がなんとサイエンティフィック・アメリカンのようです。

 調べてみると、今年の5月11日に今回のコラムを書いた同じ著者が書いた「Strange but True: Helmets Attract Cars to Cyclists」という記事がサイエンティフック・アメリカンのウェブサイトに載っていました。中味もほとんど同じです。

 この論文の結果を見ると、ヘルメットをかぶることで自転車と車の接触事故が減るかどうかは疑問(というか増えるかもしれません)だとしても、ニューヨーク市での事故では明らかにヘルメットをかぶっていない自転車のほうが死亡率が高いという報告もあるので、いざぶつかった時には命を守ってくれる効果はあるようです。
New York City released a report on bicycle deaths and injuries: 225 cyclists died between 1996 and 2005 on New York streets; 97 percent of them were not wearing helmets. Of these deaths, 58 percent are known to involve head injury, but the actual number could be as high as 80 percent.
 これって、シートベルトをしていないと、事故で死ぬ確率が高いという話にそっくりですね。事故で死んだ人のうち97%はヘルメットを装着しておらず、死亡理由のうち58%(おそらく80%)は頭の負傷によるものだということです。

 それにしても、ヘルメットをかぶっていると近寄ってくるという自動車ドライバーの心理というのはどういうものなのでしょう。女性のカツラだと遠ざかるというのは、老人が自転車でよたよた走っていると大回りして避けて走るのと同じ理由のようにも思え、要するにいつふらふらと自動車に近づくかもしれないという女性や年寄りに比べて、ヘルメットをかぶっ自転車乗りは運転がうまいと思われているということなのでしょうか。たとえ運転がうまくても、接触すれすれで自動車に追い越されるのは恐いものです。

 ポニーテールをぶら下げた安全ヘルメットを作ると、事故も減り、頭も守られるかもしれませんね。どこかで売り出さないでしょうか。
Commented by Salsa at 2007-10-12 00:48 x
売り出したら買って付けますか?(笑)
Commented by stochinai at 2007-10-12 06:40
 いや、自分はいいです(-_-)。
Commented by min at 2007-10-12 12:02 x
ソースがすぐには見つかりませんが、自転車と自動車の接触事故で一番多いのが歩道を通って自動車が駐車場などに出入りする時と交差点で、だそうです。統計の解釈に注意する必要はありますが、ヘルメットをかぶって車道の左端を走るときより、なんとなく歩道を走っている方が実はリスクが高いかもしれない、という話でした。

ちなみに、5月にはCNN ニュースで興味深い記事がありました。元記事が消えているので孫引きになりますが、
http://blog.cycleroad.com/archives/50793436.html
アメリカの大学院生がトラックに頭を轢かれたが、ヘルメットのおかげで大きな怪我をしなかった、というエピソードです。
Commented by stochinai at 2007-10-12 20:18
>歩道を走っている方が実はリスクが高いかもしれない
 それは、私の実感とも合います。どこかで実証的研究が行われることを期待したいです。

 あの「穴あき」のヘルメットがそんなに丈夫だとは知りませんでした。今度、実物を見てみることにします。
Commented by winter-cosmos at 2007-10-12 21:21 x
その状況で当てられたことがあります。(^^;
駐車場には警備員さんがおられ、車を制止して私が通るように手で誘導されました。
右側から来る車しか見ずに、その車は発進し、当たられた私は車道に転げました。打撲で通院した分の治療費等は実損填補で補償されたものの、そのときは本当に死ぬかと思いました(怖)。
Commented by NJWindow at 2007-10-13 09:46 x
> モルモン教徒の方々は、ほとんど例外なくヘルメットをかぶっているのは、どうしてなのでしょう。

安全のため教会が決めているからです。しかし、自動車が接近してくる傾向があるということであれば再考されるかもしれません。(上のminさんのコメントではやはりヘルメットの効用が確認されていると受け止められます。)
Commented by max at 2007-10-18 23:58 x
 かなり昔(10年以上前)から,欧州・北米では,自転車での通勤・通学時のヘルメットや蛍光ストライプの着用率は,かなり高かったように思います.やはり,命は自ら守るものという意識が高いからではないでしょうか.また同様にそのような人達は,交通ルールに対する遵守意識も高かったように思います.民主主義の一つの到達点のようにも感じました.日本の大学のキャンパスや街角を「ママチャリ」で傍若無人に走りまわる学生さんにも見てきて欲しいなあ,とつくづく思います.
by stochinai | 2007-10-11 20:33 | 科学一般 | Comments(7)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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