5号館を出て

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大学入学まで専攻分野を決めない

 昨日は朝刊が休みだったので、夕刊に載っていたのかもしれませんが、国際基督教大学(ICU)で入学の時点では文系・理系すらも決めないで入試による選抜を行うというニュースを読みました。ネットにもありました。

 文系・理系、選択は入学後 ICU、来年度から新制度

 現在は、入試の時に学科が決まる方式だそうです。
 ICUは、学部は教養学部の一つだけで、1学年の定員は620人。現在は人文科学、理学、語学など六つの学科があり、各学科に定員がある。入学試験は教養学部として一本で実施しているが、受験生は第1志望と第2志望の学科をあらかじめ選んでおき、合格時に所属学科が決まる仕組みになっている。
 新制度では、入学時に所属を決めずしばらく勉強してから選ぶ制度になります。
 新制度では学科を廃止して文学、経済学、法学、物理学、心理学、言語学など31の専修分野に再編する。入学時には所属を決めず、様々な分野の基礎科目を2年間学んだ後、自分に合った専修分野を決める。分野ごとの定員はなく、学生は希望通りの分野に進むことができる。
 私はこの制度には大賛成です。

 私が北海道大学を受験した時には、北大には医学進学課程と水産類は別として理類と文類しかなかったと記憶しています。入学後、教養で1年間あるいは1年半勉強して、自分のやりたい学部・学科へと分けられるシステムになっていました。もちろん文理を越えての選択は基本的にはダメなのですが、同じ理類とはいっても数学から物理、宇宙から生物までと水と油くらい違う分野を選べるのです。ただし、学科には定員があるので、人気学科に進学するためにはそれまでの教養教育の成績で振り分けがあり、場合によっては競争が激しいために単に大学入試が1年後にずれただけというような学科もあったように記憶しています。我々の時には、どこにも受け入れてもらえなかった学生は生物にはいったというくらい、生物や獣医は不人気でした。就職が悪かったということが、理由だったような気がしますが、その後両者は最高の人気学科になっていますので、はやりなどというものはまったく予測ができないものです。

 普通の生徒ならば、高校までは自分が何をやりたいのかとか、何に向いているのかなどということよりも先に、自分はどこの大学のどこの学科に入れる偏差値なのかということで受験大学・学科が決めてしまい、ひいてはその先の就職までもが決まってしまうということがままあるように思います。そうした「非人間的」な制度も、大学に進学できる人が少なかった時代には、大学にはいり就職できるだけでも贅沢ということで、なんとか維持されていたのかもしれません。

 今は、大学進学率が5割を越えて、大学を選ばなければ誰でもが大学へ進学することが可能になってきています。こういう時代ですから、せっかく大学に進学するのならば、無理をせずに自分にあった学問を専攻するのが良いのではないでしょうか。

 今でも高校までの学習は、昔と同じように進学のための振り分けの手段になっているケースが多いと思いますので、大学へはいってようやくそのことを離れて「好きな学問」を選ぶことができる機会に出会えるのではないでしょうか。そういう状況になってから出会う学問は、それまでの「良い点を取れる」科目を選ぶという行動パターンから「好きな」科目を選ぶことへとシフトできる可能性があります。そうなってから出会った「自分に合う」学問を選べる、しかも文理の壁さえも越えて「やり直し」「選び直し」ができるICUの制度は、是非とも他の大学でも採用していただきたい英断だと思います。

 がんばれICU!
Commented by Peeper at 2007-10-17 09:56 x
「5号館のつぶやき」さんは「大隅典子の仙台通信」と同じあるいは近い研究室の方ですか(上司と部下)?
両者のBlogを愛読させていただいておりますが、微妙に見解が相違され、相互牽制されているような気がします。
ご発展を祈念いたします。
Commented by stochinai at 2007-10-17 11:59
 はははは、こちらは札幌、向こうは仙台です。もし、私が大隅さんの部下だったら、どうなるでしょうね(^^;)。

 お互いに牽制し合っているかどうかはさておき、別人格なのですから「微妙に見解が相違」しているのは当然だと思います。「あわせて読みたい」を見ると両方を読んでいらっしゃる人が多いようですし、私も「仙台通信」の愛読者ですので、敢えて違う見解もあり得るというスタンスを取ってエントリーを書くことはあるかもしれません。

 これからも、よろしくお願いします。
Commented by Peeper at 2007-10-17 12:50 x
間違えてすみませんでした。
たまたま高校生の勉学や入試が話題になったり、ポスドク問題、研究費問題がblogのテーマになったりで勘違いしました。しかもリンクポスターによるとosumi先生も5号館らしいです。 両者のご意見は大変 啓発的で興味を感じています。 今後ともよろしくお願い致します。
Commented by ぜのぱす at 2007-10-17 12:55 x
私もこの制度には大賛成です。

アメリカの大学のArts & Sciences学部なんかだともっと自由度が大きくて、例えば、(本人に能力があればですが)音楽と生物と云ったような全く異なった分野を専攻して2つの学位(日本で云えば学士)、所謂、double majorとなることも可能です。日本も、そう云う専攻があり得るような大学が増えると良いと思いますが。

只、個人的には、この大学で気になることが。

最近、この大学であった公募の書類をたまたま見たのですが、応募資格の一項目が『キリスト教信者であること(宗派は問わない)』。

国際『基督教』大学なんだから当り前だろう、と云われればそうかもしれませんが。これが、精々『本学の建学の理念とキリスト教に理解を示す者』くらいなら分かるんですがね。どうも、宗教が限定されてしまうと、学問の自由度が下がるような気がします。

Commented by 一言 at 2007-10-18 09:04 x
ICUの試みは大変良いことだとは思いますが、気になるのは、記事の

>分野ごとの定員はなく、学生は希望通りの分野に進むことができる

という部分です。特定の分野への偏り(分野によっては希望者ゼロ)にどのように対応する(不人気分野の予算削減?教員リストラ?)のでしょうか。新聞記者はそのあたりもきちんと取材して報道してほしいと思います。
Commented by inoue0 at 2007-10-18 15:49
>私が北海道大学を受験した時には、北大には医学進学課程と水産類は別として理類と文類しかなかったと記憶しています。

これって、「動物のお医者さん」の連載が始まった頃の状況でしょうね。高校生時代のハムテルが、北大入学予定ではあるけれども、
「獣医学部に行けるかどうかわからないけどな」
と話してました。
>生物や獣医は不人気でした。就職が悪かったということが、理由だったような気がしますが、その後両者は最高の人気学科になっています

「動物のお医者さん」の影響もかなりあったと思います。とくに女性がどんどん獣医学部に入るようになった。
Commented by ぜのぱす at 2007-10-18 18:49 x
> inoue0さん、

北大は、その後、理類、分類が、それぞれ理I(物理学)系、理II(化学)系、理III(生物学)系と文I(文学)系、文II(経済学)系、文III(法学)系に細分されていた時期があります(その後、更に細分され、今に至っていると思いますが。その後のことは良く知りません)。

獣医学部には、理II系と理III系から進学出来たはずです。『動物のお医者さん』が始まったのはこの時代だと思います。また、当時(連載開始以前に)、既に、獣医学部は進学するのに超難関学部になっていました。
Commented by inoue0 at 2007-10-18 19:20
ええ?そうなんですか?
 獣医学科といっても、大学によって、人気はずいぶんと違っていて、同時期の東大農学部獣医学科(正式名称はちょっと違う)は底抜け寸前の不人気学科だったと聞いています(獣医の教授に聞いた)
Commented by stochinai at 2007-10-18 19:34
> その後、更に細分され、今に至っていると思いますが

 あまりにも目まぐるしく変わるので、私もよくわからなくなっているのですが、理学部に関して言うとその後、学科単位での募集となっていたのですが、2年前から学部単位での募集へと単位を大きくしています。さらに、近い将来にはもっと大きな単位の「大くくり入試」になることが計画されており、自分の大学のことながらその迷走ぶりはお恥ずかしい限りです。
Commented by stochinai at 2007-10-18 19:36
 獣医学部は人気上昇とともに女子学生の比率が高まり、それとともにペット医師を志望する学生も増え、酪農などで必要とされる大型動物の医師を志すものが減って困っているという話を聞いたことがありますが、今はどうなっているのか良くわかりません。
Commented by papa:その1 at 2007-10-18 21:47 x
工学部に勤務してる経験からひとこと言わせていただきます.私としては,これに対しては,懐疑的です.理由は3つです.このような心配が杞憂なのかどうか,お教え頂けると幸いです.文字数が多いので分けて書きます.
1)文系,理系を問わず幅広く進路を選べるようにする文理融合まで行くと,入学後,文理共通の教養部に所属し,その後,希望と成績により,振り分けることになると思います.文理融合の教養教育の場合,果たして,数物系の基礎が共通で1年ないし2年行うことが可能なのでしょうか.確かに,文理ともに,両方の基礎はある程度勉強するのが望ましいと思いますが,数物系がネックになりそうな気がします.数物系は,その後,理系に進んだ場合の基礎までやっておくことが必要だと思いますが,文系志望の学生がついていけるのでしょうか.結局,教えるレベルを落とさざるを得なくなり,専門教育に進んだ段階で,やり直す必要が出てくる心配があります.結局,4年間で学べる内容が少なくなり,Jabeeのようなアクレディテーションに対応できないのでは,と思います.ただ,学部教育が教養教育のみでよいという考え方を全大学でとるのなら,話は別かもしれません.
Commented by papa:その2 at 2007-10-18 21:48 x
2)学生によっては,入学前に,やりたいことがはっきりしている学生がかなりいる場合,逆効果もあるのではないかと思います.やりたいことははっきりしているのだけれども,入学前の学力不足で,本来であれば,入学時に不合格となる学生がいたとします.新しい制度で入学してきて,がんばれば希望の分野にいけるといって勉強しますが,やっぱり,そういう学生が1年程度勉強しても,順位があがらずに,結局,希望の専門分野にいけずに,学校をやめていく心配があります.あるいはやめなくて,不人気分野に回されたとします.その場合には,ある程度の率で,やる気の起きない学生がその専門分野に集中してしまい,そのクラスは著しく雰囲気が悪くなります.結局,定員割れ対策のために,入学させられた学生ということになってしまいかねないような気がします.ただ,ICUは,希望通りに進めるようなので,この心配は,あたらないといわれるかもしれませんが,あまりに集中しすぎると,教育のキャパシティの問題から人数を制限せざるを得ないことはありえると思います.
Commented by papa:その3 at 2007-10-18 21:49 x
3)文系希望の学生の方が偏差値が高い傾向があります.文理融合の場合には,入試科目を統一せざるを得ませんから,結局,文系指向の学生の方が多く入学してしまう可能性がかなりあります.こうなると,希望分野に進めるようにすると,理系は有名大学以外では,惨憺たる結果になってしまうかもしれません.
Commented by stochinai at 2007-10-18 22:03
 papaさん、コメントありがとうございます。現場におられる方ならではと思われる、現実的なご意見だと拝読いたしました。おっしゃることはとても良くわかります。

 ICUのように文理融合を大学だけでやっても、おっしゃるとおりの不都合が出てくることは予想できます。ですから、当面はすべてを文理融合するということではなく、そういう大学もあるという状況で選択肢を増やすということでいくしかないし、またそれで良いのだと思っています。

 もしも、将来的にすべての子供達に大学にはいってから文理を含めた専門を決めさせる制度にできるのならば、高校までの教育では子供達全員に文理を分けない幅広い教育をやることが必要になると思っています。今は理科系でさえ、高校で理科4教科を学ばない生徒がいますけれども、私は高校までは文理を問わずあらゆる教科を幅広く学ばせ、大学入試はなくして全員を希望の大学に進学させ、その後に教養教育で徹底的にしごいて、それでもなおかつ学問をしたいという学生だけを専門に進ませるという制度を夢想しています。

 あくまでも夢ですが、、、、。
Commented by peach at 2007-10-18 22:40 x
大学は4年で卒業するものという思い込みをなくせばいいんですけどね
Commented by papa at 2007-10-19 18:51 x
stochinai様

ご返事ありがとうございます.
>そういう大学もあるという状況で選択肢を増やすということでいくしかないし

:記事の真意を取り違えていたようで,失礼しました.

>私は高校までは文理を問わずあらゆる教科を幅広く学ばせ、大学入試はなくして全員を希望の大学に進学させ、その後に教養教育で徹底的にしごいて、それでもなおかつ学問をしたいという学生だけを専門に進ませるという制度を夢想しています。

:私もそのような教育システムになることを期待しています.そのためには,どこかが問題提起するということも必要なのかもしれません.
Commented by 現役教員 at 2007-10-19 19:11 x
・高校までは幅広く学ばせ、大学入試はなくして〜
ゆとり教育見直しで少しは以前のようには戻っても、大学ユニバーサル化の時代に高校に期待することはできません。そのうえ入試を完全になくしてしまっては、生徒はほとんど勉強してこないでしょう。
・教養教育でしごいて〜
大学教員は高校教師や予備校教師と違ってしごく形の教育訓練ができない場合がほとんどです。ここは改革する余地があります。しかし、全入の時代ですから、やはり歩留まりは悪い。能力別クラス編成を導入することも一手ですが、現在は英語ですら抵抗が大きくてできません。
・学問をしたいという学生だけ専門に〜
これは学部が教養相当、修士が学部相当になるという方向で現実化しつつあります。この問題は、日進月歩の先端的な知識を学ぶまでに長大な年月を要することです。社会で使い物になるのが20代半ば、専門知識を身につけるのが30代直前というのでは、社会が老け込んで疲弊してしまうかもしれません。
おそらくこれらの問題の解決のためには、15歳からは、年齢で輪切りにする低コスト教育をやめて、能力別に個別教育するという手間と時間とお金のかかる教育システムを作るしかないように思います。
by stochinai | 2007-10-16 23:22 | 大学・高等教育 | Comments(17)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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