5号館を出て

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ポスドク問題が新しいフェーズに

 10月14日のエントリー「大学は、なぜ大学院生を増やしたいのか」には、現時点まででコメントが213付いています。以前は、コメントが100を越えたりすると「議論沸騰」という感じがしたものですが、今回は200を越えても、当然のように冷静に生産的な議論が続いているような気がします。

 その理由のひとつかどうかはわかりませんが、最近は深夜を越えると海外からのアクセスが多くなってくるというのが日常になっており、コメントの書き込みもそのかなりが海外におられる方からではないかという気がしています。というわけで、昼間は日本から、そして夜中は海外からという時間差を乗り越えながら、中味のある議論がされているようです。

 あまりのコメントの多さおよびその内容の厚さに、私ひとりではとても対応しきれるものではないのですが、私がいようといまいとコメンテーターの方々がどんどんとお互いに議論を深めていっていただけるのを「横から」頼もしく見ている今日この頃です。

 と、無責任なことばかりを言ってはいられないので、今日はコメントの中にあったちょっとだけ気になるシミュレーションを引用させていただきます。これは、apjさんの目にもとまったようで、「私のblogで、今日の通りすがりさんの試算を引用させていただきました。実感にも合っている数字だと思います」と書かれていました。

 その通りすがりさんの試算というこのがこれです。
例えば100人の博士取得者とします,アカポスの求人が30人分あります.倍率の期待値は3.3倍になります.果たしてそうでしょうか?

この制度を始めて1年目は
1年目(求職者)新卒100人 PD0人 →アカポス30人,PD70人
アカポス就職率(30/100): 30%
2年目(求職者)新卒100人 PD70人→アカポス30人,PD140人
アカポス就職率(30/170) 17.6%
3年目(求職者)新卒100人 PD140人→アカポス30人,PD210人
アカポス就職率(30/240) 12.5%
....
6年目(求職者)新卒100人,PD350人→アカポス30人,PD420
アカポス就職率(30/450) 6.6%
....
9年目(求職者)新卒100人,PD560人→アカポス30人,PD630
アカポス就職率(30/660) 4.5%

27歳で学位取得した人が33歳までポスドクを続けるとすると,毎年6.6%,36歳まで続けるとすると,毎年4.5%しか,アカポスに就けない計算です.これが現状なのです.
 「期待値」という用語の使い方に関しては、私は数字(数学?)に弱いのでこれでいいのかどうかはわかりませんが、この試算の意味するところはとても明快で、出口から出られる数よりもたくさんの人を毎年入り口から送り込まれている体育館の中に、だんだんと人が増えていく様子を思い浮かべるとわかりやすいと思います。

 で、このシミュレーションではっきりと出ているのですが、通りすがりさんは敢えてコメントしていなかったことが、PD数の増加です。PDもお金で雇われる職種である以上、その数に限りがあるのは明らかで、さらには状況が変化(たとえばポスドク1万人計画の見直しなど)がすると、その数が減ることすら考えられます。そうすると、この試算では増え続けているPDの数に、PDとして雇われることができない人が含まれてくることが、当然のごとくに想定されます。

 それに対して警鐘を鳴らして、vikingさんが新しいエントリーを書かれています。

 ドクター・ポスドク問題その後(6):そもそもポスドクの口すら足りない

 中味については敢えて引用するまでもありませんので、是非ともそちらをお読み下さい。

 さて私たちは、この新しい事態をどのように考え、どのように乗り越えていったらよいのでしょう。
Commented by enoki at 2007-10-26 23:27 x
いつも貴重な情報ありがとうございます。

似たような試算は文部科学省もやっていてい
http://www.mext.go.jp/b_menu///////shingi/gijyutu/gijyutu10/toushin/05072101/007/004.pdf

に図

国の研究機関等に任期付で採用された研究者が、
ある年齢までに任期を付さないポストに就ける確率

というのがでています。60歳を過ぎても10%の人が任期のない職につけないという試算で、10%ならまだましなのかなあと思いつつ、現状はこんなもんじゃないのかなと思ったりもします。
Commented by inoue0 at 2007-10-27 15:32
 分野別の博士就職率とか進路追跡調査はどこかにないでしょうか?管理人が生物学の人なんで、発言者が生物系に偏っている気がします。
 たとえば、化学分野であっても、物質を実際に合成する分野(有機合成系)だと、博士まで行っても、結構求人があるんですが、結晶解析だとか計算化学みたいな物理化学系だと就職に苦労したりとかありますよね。
 その辺の事情をきちんと学3とか学4程度で伝えていれば、職のない分野に人が集中することもないと思うのです。
Commented by stochinai at 2007-10-27 15:46
>管理人が生物学の人なんで、発言者が生物系に偏っている気がします。

 それは、まったくその通りだと思います。修正のために、皆さまのお力をお借りしたいところです。
Commented by enoki at 2007-10-28 00:30 x
データの基本は学校基本調査
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/index01.htm

だと思うのですが、経年のデータはないですね。博士の生き方
http://hakasenoikikata.com/

みたいに、このデータからグラフを作成すればいいかもしれませんが。

たとえば
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/06121219/004.htm

には

86 博士課程の進路別 卒業者数
87 博士課程の専攻分野別 入学年度別 卒業者数
88 博士課程の産業別 就職者数
89 博士課程の職業別 就職者数

といった資料が出ています。

そこまで詳しくはないですが、

新時代の大学院教育
-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-
答申
平成17年9月5日
中央教育審議会
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/05090501.htm

の資料がわりとまとまっているかなと思います。
Commented by enoki at 2007-10-28 00:32 x
それでも「化学」とか大まかなので、さらに詳細なデータはないですね…私も知りたいところですが…
Commented by 物理実験系 at 2007-10-28 00:36 x
新しいフェーズというけれど、私が大学院生だったとき(大学院重点化前)、博士とったあと、ポスドクになれるのは10人に1人もなく、ポストにつけないのはありふれていましたよ。いわゆるOD。昔の状態がよかった、というコメントをよく見ますが、そのよかった状態に戻ったので、覚悟なしに研究の道に進まなくて済んで、いいじゃないですか。若いうちなら就職口いくらでもあります。
 私も学位とった後、学振PDになれなくて半年間研究生やった後、大変心細い思いで外国へいきました。同じ研究室の先輩を見てもすんなり助手になったのは1人だけ、他は企業に就職したり、高校の先生(のちフリーター)になったり、別分野に転向したり、といった具合でした。
Commented by 門外漢 at 2007-10-28 01:08 x
科学技術政策研究所の報告書(2007/10/05up)に
「調査資料-103 博士号取得者の就業構造に関する日米比較の試み - キャリアパスの多様化を促進するために - 」

http://www.nistep.go.jp/index-j.html

というのがあります。
これによると、
「日本では、米国と異なり、博士号取得者の活動実態を把握するための体系的な調査(米国の「Doctrate Data Project」の相当するもの)は実施されていない」とのこと。enokiさんが挙げてくださった学校基本調査が一番詳しいもののようです。(しかし、この調査は平成15年のものです。その後の報告は見当たりません)。

Commented by 門外漢 at 2007-10-28 01:10 x
訂正「Doctrate → Doctorate」でした 
Commented by apj at 2007-10-28 01:12 x
 重点化前であれば、もともと博士を取る人が少なかったので、ポストに就けない人が居たとしてもかなり少数だったはずです。今度の問題は、絶対数が多いことと、ポスドクが増えて問題が先送りされたために、「若いうちなら」が成り立たないということが、昔と違うところです。
 なお、重点化前であれば、先輩にたくさん博士取得者が居るというのは旧帝大とごく一部の大手私大など、限られた大学だけだったはずです。さらに、博士の定員を満たせという圧力も無く、実際には定員割れしていたはずです。ですから、単純に昔に戻ったわけではありません。
Commented by A at 2007-10-28 01:49 x
大学院に関しては、あとは好きなように縮小でも統廃合でもすれば、どこかで国からの援助と大学院の規模の釣り合う所が見つかるでしょう(研究レベルは低下すると思いますが)。これで団塊の世代が抜けても教員数を増やさなければ、どこかでバランスするのではないでしょうか。
 残る課題は、今いるポスドクや職のない学位取得者の問題です。これが上手く解決しないと、いつまで経っても大学院は税金ばっかり使って社会に出られない若者(実のところ中年)を大量生産しているという誹りから逃れることは出来ません。
 これまでに試みられた(られようとしている)政策の中では、政府がお金を払って3ヶ月なり半年なりの間、博士を会社に通わせると言うのが、一番望みがあるんじゃないかと思います。本当にきちんと教育を受けた博士なら、即戦力は無理でも、2、3ヶ月で現場にキャッチアップできるでしょう。それで上手く社会に人材が広がっていけば、博士の価値も再認識されると思います(逆にどん底まで落ちるかも知れませんが)。
 このよう機会を積極的に作って、出来ることなら能力の高い博士からどんどん社会に送り込むのが、社会とのパイプ作りに重要になると思います。
Commented by 36歳PD at 2007-10-28 02:08 x
ところで、博士の価値について、この記事はどう考えるべきでしょうね。
http://www.asahi.com/science/update/1027/TKY200710270129.html
博士/ポスドクで「期待を下回る」人が少ないのは、単に母集団が少ないからでしょうか。それとも上澄みしか採用されないからなのか。「企業研究者としての自覚に欠ける」人は確かにいそうですが。
Commented by A at 2007-10-28 06:46 x
上のリンクにある、「企業ニーズに無関心など企業研究者としての自覚に欠ける」というのは確かに博士の弱点だと思います。博士の持つ問題、と言うか大学院教育の問題は、目的に適ったディスカッション能力というものを鍛えてないと言う点ではないでしょうか。
 博士の議論を見ていると、誰かの意見に対して、反例がひとつあるからダメ、そんなものは◯◯では当たり前、と言って議論が止まってしまう場合が多いです。それは確かに理屈で言うと正論かも知れませんが、これからシステムを変えたいと思っている人、理屈じゃなく利益を出さないと立ち行かない人から見れば、何の前進にもならないコメントで、ある意味妨害なわけです。企業に入っているのに企業ニーズを無視した議論をすれば、コミュニケーション能力がないと思われても当然でしょう。
 他の人の意見に反論があるなら対案を示すか、少なくとも、どこに問題があると思うが、こうすれば良くなるのではないか、と言う指摘の仕方をしないとディスカッションは成立しません。こういう所に弱い博士が圧倒的に多いと思います。これは大学教育でも改善すべきポイントではないかと思います。
Commented by 通りすがり at 2007-10-28 10:15 x
企業→社会、博士→マスコミと置換してもAさんの文章は違和感なく読めます。対案を示すことができなくても社会人として胸を張って活躍出来る場はあります。
結局、本人の資質、大学・大学院教育を通して身につけた能力やものの考え方と、就職先の職種・求人数とのミスマッチが拡大してしまったことが問題なのではないでしょうか。

Aさんの、政府がお金を払う企業への研修は効果がありそうですが、それを実際に政策として考える時には、大学院を出て就職出来ない人に対する支援策、就職氷河期の学部卒で正規雇用からあぶれてしまった人に対する支援策、中高年でリストラされた人に対する再就職支援策、等々の沢山ある社会的な課題の中でどれを優先させるかという議論を避けて通ることが出来ないと思います。財源にも限りがあるわけです。
大学院を出て困っている人が大量にいるのは事実ですが、もしその人たちを「政策によって」救うべきという議論をするのなら、議論をつめていくと他の問題との比較において優先的に取り上げるべき理由を明らかにすべき段階がいつかきますし、それを世間に納得させるための工夫が必要になってくると思います。私は世間から納得してもらことには悲観的です。
Commented by 通りすがり(試算をした人) at 2007-10-28 11:11 x
上記の通りすがりさんは別人です。

今多忙のため、あとから書き込みます
Commented by 通りすがり(試算をした人) at 2007-10-28 11:43 x
学校基本調査の数値を元に似たような試算をしたことがありますが、やはり同じような数値になりました。

私の試算は、ポスドク、研究生、非常勤講師のような形で、潜在的なアカポス予備軍がつみ上がります。その過半数が、不本意な形で社会にでて行きます。その数は、毎年数千人規模だと思います。(この点は試算の書き込みでは敢えて書きませんでした。)

NOVAがつぶれて、外国人講師が職を失い、国際問題になっているそうです。ポスドク問題では、ほぼ同じ数(数千人規模)の失業者が毎年生まれる計算です。10年続くと、数万人規模になります。

アメリカでは、ポスドク以外の職もすべて、任期付のような形で、ポスドクが職歴の上で不利にはなりません。しかし、日本は終身雇用でアメリカとは違うのです。

また、大学や研究所に企業会計を持込む動きがありますが、病的だと思います。大学や研究所は金儲けが目的ではありません。企業会計を持込んでも制度を歪め、活力をそぐだけです。
Commented by PDを応援する会団長 at 2007-10-28 12:01 x
>結局、本人の資質、大学・大学院教育を通して身につけた能力やものの考え方と、就職先の職種・求人数とのミスマッチが拡大してしまったことが問題なのではないでしょうか。

通りすがりさん、その通りです。企業と大学院(学術世界)では、議論の方向性・目指すべき地点(目標)が違うのです。ただし、今後、PDは、自分が信ずる研究の方向性に企業側を説得するだけの交渉力を訓練していく必要があると思います。たとえば、実験Aが必要であれば、大学院・研究所では「学術的に重要だ」で通っていたものを、企業には「実験Aは学術的に重要であるばかりか、結局は(まわりまわって)企業の利益にもなるのだ」と説明する術を学ぶのです。要は、内側からの(from within)改革です。
Commented by PDを応援する会団長 at 2007-10-28 12:01 x
>大学院を出て困っている人が大量にいるのは事実ですが、もしその人たちを「政策によって」救うべきという議論をするのなら、議論をつめていくと他の問題との比較において優先的に取り上げるべき理由を明らかにすべき段階がいつかきますし、それを世間に納得させるための工夫が必要になってくると思います。

そのための工夫の一案として、「社会学者(など文系研究者)に理系PD就職問題の現状を分析・公開してもらう」ことを私は提案しました(「大学は、なぜ大学院生を増やしたいのか」を御覧下さい)。この問題を放置しておくと、実はPD自身だけではなく日本社会全体の将来的利益を損ねることになるのだということを、広く一般に知ってもらう必要があります。下手なジャーナリストに歪曲された形で喧伝されるよりも、よほど効果のある宣伝(?)方法だと思います。

>大学や研究所に企業会計を持込む動きがありますが、病的だと思います。

元祖通りすがりさんに同感です。ついでに言うと、文系の学問の研究助成の応募や研究成果の報告に理系のやり方を持ち込むのも、病的かつ多くの文系研究の性質に合いません。
Commented by 通りすがり(試算をした人) at 2007-10-28 12:07 x
私は政策によって、博士を救済しろとまでは言いません。しかし、制度設計がまずいので、変更をすべきたと言うのです。

また、科学立国を目指すというのなら、それに相応しい待遇があるだろうと思います。
Commented by A at 2007-10-28 15:32 x
政策として博士を救済する、と言うと過保護に聞こえるかも知れませんが、職のない博士を社会で使って税金を回収するというのは理にかなったやり方だと思います。たとえ博士の就業支援に200万くらいかかったとしても、その後3〜4年働いて1000万も稼いでくれれば税金で帰ってきます。上の36歳PDさんの指摘した記事にあるように、実際に博士やポスドクを採用してみれば、期待はずれの率は学部生や修士よりは低いわけで、他の無職者と比べて全く使い道がないということはないでしょう。逆に彼らが職もなく納税もしなければ1銭のプラスにもならないばかりか、生活保護などを支払えば逆にマイナスになります。
 政策上の順位はどうであれ、500人程度は既に行われる見込みでしょうし、ここはチャンスと思っていい人材を送り込むべきだと思いますよ。これでうまく行けばまた優先順位も上がるでしょう。
 また、このような社会進出支援は国に限らず、大学もやった方が良いと思います(資金面だけでなく教育面でも)。博士が社会で活躍すればするほど大学院の価値が上がるのですから。
Commented by inoue0 at 2007-10-28 15:48
>職のない博士を社会で使って税金を回収するというのは理にかなったやり方だと思います。
 それが、学位を持たない人を押しのける結果になるのであれば反対です。「博士でなければできない仕事」を与えるなら賛成。
 博士を小中学校教師に優先採用させようなどという動きがありますが、教職免許状があれば、みな平等のはずです。博士だからっていい教育ができるとは思えない。
Commented by 元長期PD at 2007-10-28 18:11 x
文系-理系、物理系-生物系、35歳以上の重点化前の研究者養成型訓練を受けたPD-34歳以下の量産型PD、ひとくちにPDと言ってもさまざまです。当事者の意識も問題の大きさも違うのですから、解決策も別に考えなくてはいけないはずです。
別のエントリーでどなたかが書いていたように、自己責任が比較的大きく練度が比較的低い若手生物系PDは人数が多い分だけ解決するのが厄介ですが、中学でも高校でも特別枠でもいいから彼らを社会のどこかに収容することができなければPD問題は解決しません。
Commented by inoue0 at 2007-10-28 18:25
>中学でも高校でも特別枠でもいいから彼らを社会のどこかに収容することができなければ

 玉突き状態で、別の教員志望者が外れてしまいますが、それについては?現在、小中高の教員も就職難で、何年も非常勤をやりながら常勤採用を待っている人が多いことはご存知でしょう?
 よって、私は、ポスドク優先の職斡旋については、経済合理性だけを考えると賛成しがたいのですが、政治的に仕方がないと考えます。なぜなら、博士大幅増加が国策だったのだから、そのフォローをしなかったら、二階に上げてから梯子をはずすようなもので、文部行政の信用にかかわります。
 ポスドク問題を放置したら、博士を本当に大量に必要とする社会になっても、誰も大学院に入らないか、あるいは極端に博士の質が低下するでしょう。
Commented by あいうえお at 2007-10-29 23:10 x
何か、ここを読んでいるときっかけさえあれば企業が博士を採用すると思っている人が多いようだが、それは幻想だ。5年も社会で揉まれた人と勉強だけしていた人なら、よっぽどその勉強がポジションにフィットする場合を除けば、企業は社会で揉まれた人の方を取るだろう。というか、博士なんだから何をやらせても優秀なんだという根拠の無い自信こそが、企業が博士を避ける最大の原因のような気がしてならない。
Commented by 学校再生 at 2007-10-29 23:33 x
inoue0さま
モンスター親などという問題が世間で言われていますが、その遠因のひとつに親の高学歴化が挙げられています。教員免許をもっていたらみな平等と考えずに、修士卒で取れる専修免許やさらに博士卒で取れる別の免許(新設する)をもっている教諭を学校に多数配置することは、「親対策」にもなって学校再生につながるかもしれません。欧米のいくつか国では、教諭のほとんどがすでに修士卒だそうです。
Commented by かきくけこ at 2007-10-29 23:48 x
>博士なんだから何をやらせても優秀なんだという根拠の無い自信こそが、企業が博士を避ける最大の原因のような気がしてならない。

?  日本では、(研究以外のことに対して)そんな自信のある博士持ちって見たことありませんけど? 

外資系だと、逆に、「博士なんだから何をやらせてもそれなりに優秀(になる潜在力があるはず)」と博士持ちを少々買いかぶった見方をしてくれるので、そういうところに就職する海外Ph.D.は自信たっぷりな人もいるかもしれませんが。

日本だと、さしずめ、「博士なんだから何をやらせても駄目なんだという根拠の無い先入観こそが、博士が企業就職を躊躇する最大の原因のような気がしてならない」のほうが当たっているのでは? 
Commented by 40台海外ポスドク at 2007-10-30 00:15 x
 かきくけこさんも指摘されていますが、あいうえおさんの「博士は研究室に閉じこもって『勉強』だけしている」というのは実態を知らない方の典型的な偏見に聞こえます。不安定な立場のポスドクを続けるのは大変なことです。新しいテーマや職場にすぐに適応しないといけませんし、次の職を探すために周りの人にアピールしたり気を配っていなければいけません。何かあっても企業のような守ってくれる共同体はありません。おそらく、企業のような共同体に属している人にはなかなかこの厳しさは理解しがたいでしょう。
Commented by 通りすがり(試算をした人) at 2007-10-30 04:05 x
確かに、「博士は使えない」というのは、実態を知らないと思います。一匹狼で自分の仕事を看板に渡っていくのは、相当大変ですよね。

ただ、一つ、日本と米国で、賢い人の基準が違うと思います。

日本: よく勉強し、様々な知識を持っている人.

米国: 新しい分野に進んでも,素早く適応し知識やコツを学び取り
    成果を上げる人

米国流の賢い人なら,さまざな分野に適応できるでしょうが,日本流の知識重視の賢い人だと、分野が変わると厳しいかも知れません.こんな認識の違いもあるのかなと思いました.
Commented by らくーん at 2007-11-01 00:56 x
初めてコメントさせて頂きます。
こちらのブログを以前から拝見しておりました。

私は、30代の独身女性です。
博士課程の後に企業就職し、今は小さなメーカーで研究をしています。

こちらでの議論を拝見して、ふと疑問に思ったのですが、『博士の企業就職』を語る際の感覚に幅がありすぎる気がします。

有名どころで給料のいい大企業と、知名度の低い中小企業では、採用のポイントが違います。
私はコネなし一般で半年ほど就職活動をしましたが、あまり企業向けでない専門の博士の採用に意欲的だったのは、むしろ中小企業でした。
「博士と言うものは良く知らないが優秀なんだろう」と見ていることと、若い新卒を教育する制度が整っていないので中途採用のような感覚で博士を採ることが、その理由だと思います。
欠員が出ないと人を採らない会社が多いですが、数を当たれば、ちょうど人を欲しがっている所が見つかる確率は高いです。
Commented by らくーん(続き) at 2007-11-01 00:57 x
そういった企業は、無論小さいなりにデメリットもありますが、きちんとした経営をしているところもあります。
給料が安かったり残業手当がなかったりしても、毎月の給料は普通のポスドクくらいは出ますし、何より任期がありません。
落ち着いて働きながら新しい知識や物の見方を覚えられますし、実務経験を積んで転職を考えることも出来るようになります。

就職難を嘆いている博士たちは、そういった就職は嫌なのでしょうか?
少なくとも、私は今の生活に全く不満がないので、そういう道もあるよ、と参考までに書かせて頂きました。
Commented by 放言 at 2007-11-01 09:19 x
一番問題なのは、博士さん達のアカポス指向でしょ。ほとんどの人は、ここまで来ちゃったんだから、もう後には戻れないという感覚なのでは。
はっきり言って、第一線〜1.5線ぐらいのポスドクさんは、企業の研究員だろうが営業マンだろうが、どこに行っても通用しますよ。それ以外のモラトリアムさん達は・・・だけど。もう議論はやめてくれって声は、夢見てるんだから起こさないでくれって聞こえますけどね。
ここの議論が有意義に利用されると良いのですけど。
Commented by 40台海外ポスドク at 2007-11-06 01:47 x
はじめまして。
ラクーンさんはどちらの分野の方ですか?参考までに差し支えない範囲でおしえていただければうれしいです。なんんとなく工学系のような気がするんですが。
生物系では製薬会社は多少ポスドクを採っているようです。またヴェンチャーに行く人も多いですが、その間がないという感じがしています。
生物系だと大学でやっている研究と企業の活動の間に溝がある感じがします。
Commented by らくーん at 2007-11-08 22:25 x
>40台海外ポスドク様

お答えするのが遅くなってすみません。

私の大学での専門分野は、基礎生物学です。
工学・農学・薬学・化学系の専門知識は、一切なかったです。

リクナビ等には出てこない小さな会社を探して自力で連絡を取ってみると、意外に反応がありますよ。
メーカー子会社の他、特許事務所や翻訳会社なども好感触でした。
大手メーカーは無理でしたが、小さな所で、内定は3つほど貰ったと記憶しています。

「英語が読めて専門知識がある」の他にも、大抵の人が趣味関係の実績やバイト経験などがありますよね。
これまでの人生で得たものを総ざらいして、売れそうなものは全部売りこむ覚悟で当たると、意外に道は開けるのではないか、と感じました。

小さな企業では、「博士には何が出来て何が出来ないのか」を殆ど知らないことがあります。
応募書類や面接での売り込み方によっては、むしろその点を逆手に取って「とにかく博士ってのは優秀な人材なんだな!」と思ってもらうこともできるでしょう。
もちろん入社した後には苦労しますが、まずは採用してもらわないと始まりませんので、私はそうしました。
Commented by 40台海外ポスドク at 2007-11-08 23:03 x
ご返事ありがとうございました。
私自身は行き先は決まっているのでよいのですが、本当にポスドクに必要なのはこういう話ではないかと思っています。私も弁理士になろうかというのは検討したことがあります。たださすがにどこに行っても40超えているときついようです。
 年齢とか業界も気になるのですが、根掘り葉掘り聞くのもなんですのでやめておきます。
Commented by らくーん at 2007-11-08 23:40 x
それでは、参考までにさわりだけ。
就職活動当時で30代前半でした。
今は動物を使っています。

40台海外ポスドク様も弁理士をお考えになったことがあるのですね。
私も悩んだのですが、やはり実験したくて今の職場を選びました。

「本当にポスドクに必要な話ではないか」と仰って頂けて光栄ですが、今の私の環境は、人によっては嫌だと思うかもしれません。
論文を書いたり自由な研究をしたり、と言うことはないです。
収入も、同世代のサラリーマンと比べて多いとは言えません。

ただ、私は自分の実力ではアカデミアに残るのは間違いなく無理、と確信した上での選択だったので、後悔していません。

博士の就職は、当人が食べていけるならそれでいい、と考えているのか、ある程度の社会的ステイタスがなくては嫌だ、と思うかによって大きく変わってくるように思います。
妥協したくない、と考えて選んでいる人が多いのでしょうか?
それとも、私は運が良かっただけで、本当は博士の就職は私の感じている以上に厳しいのでしょうか?
色々と偉そうに書いといて恥ずかしいですが、そのあたりは断言できないようにも感じています。
Commented by 40台海外ポスドク at 2007-11-09 01:24 x
 らくーんさん詳細な情報ありがとうございます。
動物ということは薬理や毒性の試験を外注を請け負う会社かなと想像します。するとやはり製薬関連ということになるのでしょうか(答えなくても結構です)。まだまだ他の業界(食品・化学等)では難しいのかなと思いました。

>私は運が良かっただけで、本当は博士の就職は私の感じている以上に厳しいのでしょうか?

おそらく年齢というファクターが大きく、30台後半以上だと厳しいとは思いますが、いくつかあたってあまりの反応の悪さにいやになっても、あきらめずに活動するとあるのかもしれませんね。

>これまでの人生で得たものを総ざらいして、売れそうなものは全部売りこむ覚悟で当たると

ここらへんが重要ですね。
Commented by どうよ at 2007-11-10 20:09 x
http://d.hatena.ne.jp/mkusunok/20071110/itp
ポスドクにも当て嵌まるんじゃない?
Commented by 本が出たみたいですね at 2007-11-11 16:12 x
高学歴ワーキングプア
http://www.kobunsha.com/book/detail/03423.html

今朝の朝日の書評に紹介されてました。
この話題はもう出ましたか?読んだ方いらっしゃいますか?
Commented by stochinai at 2007-11-11 16:28
 今朝の朝日新聞に著者の方が写真入りで紹介されていましたね。私もこの本が出たことは知っていたのですが、今さらという感じであまり読む気がしておりませんでした。このサイトを訪れてくださる方の多くも、今さらあまり積極的に読む気がしないというところなのではないかと感じております。
Commented by 物理学会誌11月号 at 2007-11-11 21:31 x
物理学会誌11月号に、会長直々の立ち上げた調査委員会のような方々の手になる、ポスドク問題の論説がのってましたよ。私は図書館でちらと見ただけですが、物理学会らしく、博士やポスドク数の推移の数字やグラフをを上げて何やら分析してあったようです。もちろん解決の特効薬など何も書いてなかったようでしたが。
Commented by 物理学会誌11月号 at 2007-11-11 21:41 x
70年代にまず大幅に博士が増えて、理論物理の無職博士問題が有って(第一期ポスドク問題)、そのときはPD制度自体が無く、みな「OD」といって文字通り無職だったようです。そしてその問題は放置されたまま、90年代末期にさらに博士大増産とポスドク一万人計画があって、今の救いようの無い悲惨な状況(第二期ポスドク問題)になった、といった流れでした。

つまり発生した問題は放置、先送りされ、だれも何もしなくて、その後もっと大規模になって再来した、と。

なんか見てると、今の問題もこのまま半端にズルズルと行って、10年後に更にもっと大規模な「第三期ポスドク問題」でも発生するのか、と思っちゃいました。

Commented by ゑぶ at 2007-11-11 23:43 x
70年代ごろのアメリカでも、物理学の分野でポスドク問題があったようですね。
http://www.toyokeizai.co.jp/CGI/kensaku/syousai.
cgi?isbn=65360-0

でも、この本に書いてあったのは、行き場をなくした物理学博士たちが、新天地を求めて他業種にうつり、持ち前の数理的能力を活かして、金融工学というあたらしい分野を立ち上げるという成功物語でした。

この本にあるように、異分野に移ることは、並大抵のことではないのですが、日本にもどこかに博士の能力を発揮できるところがあるかもしれません。博士のひとりひとりが、自分が新しい博士のあり方を示すんだ、という気概を持って挑戦すれば、道が開けると思うのは、楽観的でしょうか。
Commented by 物理実験系 at 2007-11-12 07:13 x
ゑぶさんご紹介の「物理学者、ウォール街を往く」は物理学者『たち』の物語ではなく、転進が飛び切り成功したある一人の個別例であり、一般化できないように思います。
 一方、これは転進後の成功物語であるとともに、アカデミアでの挫折と諦観の物語でもあります。その点で、多くの分野の人に参考になるかも知れません。
 なお、別にアメリカの物理学のポスドク問題は解決したわけではなく、35歳ぐらいまでにテニュアトラックに乗れなければ、soft moneyで雇われて働くことになり、常に失職の可能性にさらされます。日本と違うのは、その年になっても正当な(家を建てて家族を育てられるだけの)報酬のある職が転進先として理系の元研究者に数多く開かれていることでしょうか。だいたい、物理研究者なら金融を含めいろいろな会社のIT部門やら研究所のプログラマなどでやっていけるようです。このように転進した人がアカデミアに戻ってくることもあります。
Commented by 物理学会誌11月号 at 2007-11-12 12:00 x
その意味では物理でも生物でもなく、むしろ数学ですが、グーグルなんてのが博士のベンチャーの代表ですね。アメリカを代表するIT企業今やがグーグルで、日本は。。。いまだにNTT(爆笑)、あ、ソフトバンク(爆笑)。アメリカと日本では雇用慣行が全く異なるので、博士の企業の成功なんて、実際上無理ですね。まそれぞれ社会のモデルですから、善し悪しじゃなく、違うということ。日本では博士は損なキャリアだったし、今後もそうでしょう。社会で成功したいひとは、学卒でお役人か大企業、じゃなきゃ医者か弁護士。昔からわかっていたこと。博士は酔狂のやる事というのが、研究費バブル、博士バブルを経て、また再確認されただけの事と思います。
Commented by bioman at 2007-11-12 13:28 x
生命科学系もジェネンテックやアムジェンといったベンチャーが成功を収めて既に日本の製薬を上回っていますね。官僚もそういうシナリオを書いていたんでしょうけど、お粗末な結果に終わりました。
Commented by totoro at 2007-11-12 14:24 x
>>biomanさん
> ベンチャーが成功を収めて既に日本の製薬を上回っていますね。
> 官僚もそういうシナリオを書いていたんでしょう....

確かにそうでしょうね。でも、
日本は、中小→大企業 
っていう例も、あまり聞かない社会です。だから、ベンチャーを作っても、上手く行くはずがないです。
Commented by 研究人 at 2007-11-12 15:39 x
既出かもしれませんが、『月刊 テーミス』11月号にも「 「博士」の就職難・大学院の失敗は当然だ‐「大衆化」の成れの果て」という記事が載っているようです。

私自身はまだ読んでいないのですが、御覧になった方、どうでしたか? ここで散々議論されたことばかり書いてあったのでしょうか。
Commented by BACA at 2007-11-12 23:40 x
ちょっと視点を変えてみれば、成功とか失敗とか言うより、単なる社会の流れの一局面と言う気もします。大学進学率が50%に達したのちには、何がくるのでしょうか。若年層の教育機関拘束期間の長期化は、平均寿命の伸び、退職年齢の先のばしを考えれば、低い失業率の維持と低い犯罪率の維持にとって欠かせない施策です。近々、大学院進学率35%なんていう世の中がくるのかもしれません。大学院の授業で分数の加算を教える時代がくるか?そしてポスドク20万人計画?!
Commented by ゑぶ at 2007-11-13 00:11 x
私が引用した本には、ファイナンスの分野には、複数の物理学者が移入して、今でもそれは続いていると書いてます。別に極端な例を引き合いに出したつもりはなかったのですが、私も、どれくらいの数の物理学者が金融にうつったか知っているわけではないので、物理実験系さんがいう通り例外的な話なのかも知れません。


また、確かに物理学者は、生物学者とか他の分野の人とは違って、数理的能力とか持っていて、そういうのは、なんにでも応用が利くから異分野でもそれなりの成功を収めるのは、当然とも考えられるわけですが、それは現在の視点からみるとそういう理由付けができるだけであって、当時の物理学者にしてみたら、どうしたらいいのか、見当もつなかったに違いないと想像します。

だから生物学者らにも今は誰も気づいていないけれど、異分野でも通用するような持ち味があるかもしれないと思うのです。もちろんこれは、ただの私の希望的観測で、実際はないかもしれません。でもあきらめたら、それでおわりです。(もちろん転職希望の場合の話。アカデミアをまい進したい人は、がんばってください)
Commented by totoro at 2007-11-14 11:41 x
私が米国にいた頃,米国の証券や銀行は,バイオ系の博士やポスドクも普通に採用していました。むしろ学卒よりも給料は良かったかも知れません。

日本は、博士卒を学卒としてすら採用しない雰囲気があり、随分違います。第2次大戦後、フルブライトで米国留学した後、日本に戻っても職が無い人が文系を中心に相当数居たそうですが、同じ心理かと思います。

現在も、その傾向は続き、例えば、自分の力で海外留学した学生が米国の大学を卒業し、日本で就職活動をしても、なかなか思うような職が得られないそうです。これは米国在住時代に現地誌に出ていました。

毛色の変わった経歴の人を排除する傾向があるのです。これには賛否のそれなりの意見があると思います。

たとえば、「xxx社は月給が30万,○○社では35万なのに,△△社は60万だから貰いすぎ.」みたいな,横並び意識が強く,趣味の悪い覗きの様な報道が,罷り通る社会では,毛色の変わった経歴の人の採用は難しいのでしょう。

普通とは毛色が違う,博士卒やポスドク後の就職は難しいと思います。

尤も、横並び意識は、雇う側だけではなく、働く側のポスドクや博士にもあり、こちらも問題ですが。
by stochinai | 2007-10-26 22:15 | 科学一般 | Comments(49)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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