5号館を出て

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我々はどうしてもザトウクジラを食べなければならないのか

 日本が今年の調査捕鯨で昨年までのクロミンククジラ(850頭)と少数(10頭)のナガスクジラに加えて、今年からナガスクジラ50頭とザトウクジラ50頭の「調査捕鯨」を開始するということが発表されたため、このところ世界中のメディアが騒然としている感じです。(例によって、日本では「冷静」に報道されていて、知らない人が多そうですが、プレスリリースはこちらです。サイトは日本鯨類研究所です。)例えば、ナショナルジオグラフィックは動画入りで伝えています。

 Video: Japanese Hunt Humpback Whales

 グリーンピースはもちろんのこと、オーストラリアは環境相が自ら抗議声明を発表しています。この調査捕鯨というものはわかりにくいのですが、それで捕獲されたクジラの肉がスーパーマーケットに並んで我々の口にはいっているという事実を見れば、単なる調査を越えて商業捕鯨に近いところまできていることは感じます。

 もちろん、我々は昔からクジラを食べてきた国民ですし、私は子供の頃にはクジラが大好物でした。最近、時々口にできるものは、正直に言うとそんなに美味しいとは思いませんが、漁業産物として資源が枯渇しない程度であるならば、クジラを捕ることはマグロを捕ることと本質的に違いはないと思います。

 ただ、JANJANに書かれたこの記事「ザトウクジラ本当に捕るの? 調査捕鯨船団出港」に引用された、農水省の統計データによると、国内でのクジラ肉の在庫が右肩上がりに増えており、明らかに余り気味になってきているにもかかわらず、捕獲するクジラを増やそうというのが今回の「調査」の目的になっているところに不信感がつのります。(この記事は、是非ともお読みになることを、お勧めします。)

 あるいは、もうミンクはいいからナガスクジラやザトウクジラといった新味のクジラをとって市場に流そうという下心が見え隠れしているように思えるのは私だけでしょうか。

 現在の日本において、必須の食料としてクジラが必要とされているとはとても言えないと思います。食文化としてクジラを守りたいと言うことは、わからないでもないですが、ただでさえ水銀などの蓄積が心配されるクジラを好んで食べる必要があるとはとても思えないのです。

 さらに、ザトウクジラと言えばホエールウォッチングの目玉商品であるだけではなく、世界中の科学者のネットワークによって個体識別され、移動の様子がリアルタイムで公開までされている、いわばアイドルです。そんなふうに愛されているクジラを、条約には違反していないからという理由で殺して我々が食べるという強い動機があるでしょうか。

 クジラを食べること自体を非難されるいわれはないと思いますが、このグローバル時代に愛玩動物になってしまったザトウクジラを捕獲するということ自体を(しかも、その様子は世界に動画で報道されることは間違いありません)、放棄しても我々にはそれほど失うものが大きいとは思われません。

 ここは、ひとつ日本の首相か農林水産大臣が記者会見をして、「ザトウクジラの捕獲は中止することにしました」と言って、事態を沈静化させるのが「大人の外交」というものではないでしょうか。
Commented by 原 拓史 at 2007-11-21 11:44 x
僕も水産庁の決定は頭が悪いと思いました。
むしろ、増加しているミンククジラの捕獲に専念して、
安定性がたかいかどうか不定なザトウやナガスは少数のサンプルか、非致死的なサンプルによる調査にとどめるべきです。
また、調査捕鯨でえられたサンプルや情報を、もっとオープンにして、調査の有効性を広報するのも重要だと思います。

もしかしたら、日本政府公報による、「クジラが魚を食ってるから魚が減っている」という主張を裏付ける/反証するためにクジラを捕る気なんでしょうか?
しかしそれなら頭数が足りないし...
Commented by 原 拓史 at 2007-11-21 16:38 x
クジラをたべれば、海の汚染に気をつけたくもなります。
高次捕食者には汚染が濃縮されるから、
クジラ、マグロ、さらにはそれを食べるシャチには高濃度の重金属、塩素化合物が検出されることがあり、それも調査捕鯨の研究対象です。
野生動物をくわないのならば、マグロも食えません。
マグロの養殖は、現時点では未成熟魚をとってきて太らせるだけなので、成魚をとるよりもさらに卵の供給を減らし、個体群に悪影響をあたえている可能性すらあります。
Commented by complex_cat at 2007-11-21 22:45
初めまして。この分野,エントリーを書いたことがあります。
基本的にエントリーの主旨に賛同いたします。
 鯨を有害鳥獣扱いする理屈は,彼らの魚食量がそこそこの量であっても特に欧米諸国にはあまり訴求しないでしょう。戦略的に反感を買うだけのような気がします。なぜならば,そもそも自然植生撹乱により増えたこと自体に人間が関与している鹿のように,人間が獲らなかったから増えたと鯨の増加を同じ理屈で語れないからです。ほとんどの陸棲哺乳類の絶滅に関与してきたと言われる人間ですが,進化的なスパンで考えれば人間からの捕獲圧が鯨の個体群変動に寄与した時間は瞬間に等しく,個体群への人間の干渉そのものがあってしかるべきものと考えるのには無理があります。養殖魚を食い荒らしているなら,まだしも,あいつらが食わなければ,人間はもっと魚を捕れるはずだという主張は,過度の搾取に対する反省の視点が欠落していますので,理屈として特にEUからは簡単には賛同して貰えないでしょう。
Commented by complex_cat at 2007-11-21 22:49
長文失礼します。続きです。
 米豪の牛肉輸出国が国策として日本に捕鯨させないように動いているとしても,各国から金で食料を集めてその内の1/3を棄ててというイメージの日本にあっては,悪者になるだけです。
 平均的な家庭の食卓に鯨が上がるなんてめったにない状況で,手順としては,まずは摩擦が少ないミンクでの安定供給による既成事実作りをするなら,まだ分かります。
 ディープ・エコロジーのアイドルも魚同様,例外なく食卓に上げるという事実を作って・・・なんてのは,人権弁護士が凶悪事件を死刑に持ち込ませないようにして,死刑廃止のために利用するようなあの最低の戦略を連想して,頭がよい方法とは,私にも思えません。
 最後にマグロを食べても海の汚染を気にする人などほとんど見たことがありませんので,鯨食が海洋保全意識に寄与するという期待はあまり現実的ではないと思います。
Commented by 原 拓史 at 2007-11-22 12:12 x
鯨類研究所の資料によれば、(pdf以下の頁のAppendicesより)
http://www.icrwhale.org/03-A.htm#s2
ザトウをとりたい理由は、ミンクのバイオマスに対してザトウのバイオマスが逆転して増加し、ミンクの増殖率、個体の太りかたが減少しているから、のようです。個体数でみると、ザトウの方がはるかにでかいので、この関係は?ですが...
なんだかだんだんザトウ少々とってもいい気がしてきました。
しかし、こんな性急なやりかたではなくて、たくさんのお話し合いをもちつつ...


繁殖までのスパンの長い生き物では、インパクトから復元するのにより時間がかかることはよくあります。
もっとも効率よく捕獲され、かつ最大の生き物のシロナガスクジラの復元により時間がかかることは想像できるかもです。
まずシロナガスの増殖に寄与しそうなことはなんでもやってみて、失敗したらやめるのがよかろうかと。
ほっとくと絶滅しうる、という議論は、あながち無根拠でもないとおもいます。

Commented by 原 拓史 at 2007-11-22 12:15 x
すいません、僕も長くておこられました。
うちのブログでかいてTBしたかったのですが、
exciteさん外部ブログからTBできませんよね?

今の人が意識していない事を永久に意識しないなら、
この世界はだめだめだとおもって活動しております。
ゆえに、「マグロを食べても海の汚染を気にする人をみたことがない」のは、マグロやクジラが海の汚染にさらされやすいことを啓蒙する理由になりこそすれ、啓蒙をあきらめる理由にはなりませぬ。

だから、マグロもクジラも絶滅しないように、感謝して食べましょう。そして、海もきれいに...
Commented by ky at 2007-11-22 18:15 x
英国でポスドク中の身ですが、今日この件でいきなり知人に詰め寄られました。鯨肉などどうでも良いくらいにしか思っていなかったので不意を突かれてうまく応えられませんでしたが、これはどうもかなり危機感を持って受け留めるべき深刻な国際問題のようですね。日本国内では持続可能な消費を唱える方がおられてその説の是非自体は判断吐き兼ねるのですが、何よりも手続的に問題で、国際政治的判断として最低の暴挙で、ナショナリズム昂揚を利用した安易な国内向け人気取り政策なのではないか、と言う彼の指摘はもっともで、それは限定的ながらも戦争の構図と重なるものです。他国の言い分に聴く耳を持たず自己正当化し、IWC脱退を散ら付かせるなど、日本のキレた横暴ぶりはかっての国際連盟脱退前夜を彷彿とさせるもののようです。全世界を敵に回して喧嘩を売ってまで鯨を食べたい人などいるのでしょうか? 日本の官僚組織が近視眼的なナショナリズムに異を唱えられない圧力の下で選択された挙句の悲惨な末路ではないでしょうか? とりわけ「科学」の名を偽って消費のための捕鯨をすることに日本の科学者は沈黙するのかと怒られました。
Commented by complex_cat at 2007-11-22 23:51
原 拓史 さん,失礼しました,仰るとおりです。すべきことと,戦略的な効果や方向性は勿論分けて考える必要があります。
 さて,この戦略の無さと日本ではついぞ例のない国際世論に対する強引さは,何に起因するのでしょう。そのこと自身が,とても気になります。
Commented by 感想 at 2007-11-23 11:03 x
ザトウクジラの捕鯨再開ですが、ミンク鯨を中心に、鯨肉が余り始めているので、市場に
「新製品の投入」
の様な消費刺激をねらう商業的な色合いが強い気がしました。私もつぶやきさんと同意見です。
Commented by k at 2007-11-26 00:25 x
ザトウクジラの件は確かに国際戦略的にどうかと思いますが,しかし,私はこういう流れになった背景には,昨年の沿岸捕鯨に関するIWCの態度が影響しているのでは思います。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/54862/
水産庁の担当者や捕鯨関係者はIWCに絶望したのでしょう。絶望した人間がどういう行動に出るかは想像に難くないと思います。日本のキレた横暴っぷりと自己正当化を批判される方もいますが,他方,反捕鯨国の横暴も事態をより複雑にしていることを忘れてはならないのではないでしょうか。
まあ,だからと言って今回のような反捕鯨国に完全に喧嘩を売る戦略に出るのは愚策とは思いますが。喧嘩のやり方を知らないのは日本の不幸ですね。
Commented by toripan at 2010-02-12 16:28 x
以前もkkneko氏の件でお邪魔しましたtoripanです。

この度、kkneko氏が私toripanを告訴されるんだそうで↓

ttp://kkneko.sblo.jp/article/35211430.html

氏が鯨肉生産の環境負荷だけを不当に高く見積もり、逆に比較対照である牛肉LCAを小さく見せかけるような嘘と誤魔化しをネット中に撒き散らしておりましたので、氏のまやかし㌧でもブログ記事・嘘で固めた捕鯨悪宣伝を各論逐一全て覆してあります↓
ttp://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=552019607&tid=ja7dfa4ha5afa58a5ijdd8n&sid=552019607&mid=62970

↑の投稿から全18投稿分で氏の「鯨肉はエコじゃない」を事細かに潰しましてみました♪
↓はその概略です。

ttp://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=1834578&tid=a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa&sid=1834578&mid=41948
(↑とその次の投稿)

捕鯨問題に関しては愛護反捕鯨さん達による嘘出鱈目が罷り通ってる現状がありますので、今回の裁判沙汰の背景にあるその様な『膿』の存在を広く知らしめ、健全な方向へ導く一助にしたいと思っております。

この「告発の行方」に御期待下さいw
Commented at 2010-03-06 22:24 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 名無し at 2023-11-21 04:10 x
内外問わずあんなに騒いでいたのに、今となっては話題にすら挙がらない……当時がいかに平和な世の中だったのかを改めて感じました。
Commented by STOCHINAI at 2023-11-21 12:17
そもそも、日本人もあまりというかほとんど、クジラを食べなくなったのも理由の一つかもしれません。増えてきているようでもありますし。
by stochinai | 2007-11-20 21:33 | つぶやき | Comments(14)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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