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気になるニュース: 生ワクチン事故

 日本で使われているポリオ(小児マヒ)のワクチンは、生ワクチンといって生きたウイルスをシロップに溶いたものを飲む方式で投与されています。もちろん生きたウイルスといっても、毒性が弱く投与されてからからだの中で増殖したとしても、脊髄に損傷を起こすことはほとんどない「弱毒株」ですから、そんなに心配することはないのですが、それでも「副作用として約四百五十万回に一回程度、まひが出現するとされ」ているようで、今回もその宝くじのような確率で不幸にあった赤ちゃんが出てしまいました。北海道のことですので、北海道新聞を引用しておきます。

 ワクチンでポリオ発症 男の子の乳児 下肢にまひ、治療 上川

 たとえ弱毒株といっても、生きたウイルスですので投与された子ともの体内で増殖し、免疫ができて体内から排除される前に突然変異を起こして毒性を増したり、さらに子供の母親に感染してそちらを発症させたりという事故がまれに起こってしまうのでしょう。

 ウイルスの進化速度はヒトの数百万倍という計算がされているほど、急速に遺伝子が変化するので、やはり「生きた」状態で扱うと危険が伴うことを意識している必要があります。

 今回の男の子は、1歳未満だった昨年の11月中旬にワクチン投与を受けて、12月に発熱や下肢のマヒが出て、入院していたところ、今年の2月に便からポリオウイルスが確認されたということです。野生株の危険なポリオならば、感染から数日でマヒが出るそうなので、この場合は子供のからだの中で排除されずにじわじわと毒性を増してきたのかもしれません。注意はする必要がありますが、日本人の多くはワクチン投与によりポリオに免疫になっていますので、この子の中で突然変異が起こったウイルスが外へ出たとしても、それほど脅威になるものではないと思われます。

 欧米では「生きた」ウイルスの生ワクチンではなく、遺伝子の複製作用を失った「不活化ワクチン」が主流になっているのだそうですが、複数回生ワクチンよりも多数回投与しなければならないとか、免疫の確立が遅いとかいろいろと面倒なことが多いので、日本では未だに不活化ワクチンへの移行が進んでいないというのが現状のようです。

 投与された人の大多数が感染するというわけでもないので、薬害というのはどうかと思いますが、ワクチン投与が原因で発症してしまったことはほぼ確実なのですから、不運な事故にあったということで国がケアしてしかるべきケースだと思います。

 病気というのは、患者さんの数が少なすぎるとなかなか対応されないのがお気の毒ですね。
Commented by js at 2008-02-27 12:08 x
こういう時のために「医薬品機構」http://www.pmda.go.jp/ があるはずなんですけどね。この組織、前身は「医薬品副作用被害救済基金」だったはずが、だんだんとふくれあがってきて、いまでは医薬品や医療機器の審査も行う機関になっています。一時は研究振興事業も手掛けていました。多分天下り先として無限に規模拡大していくんでしょうね。本来の使命を忘れず、きちんと被害救済に尽力してくれればいいのですが・・・。
Commented by stochinai at 2008-02-27 12:35
 その存在について、まったく知らず、無知を恥じております。貴重な情報をありがとうございました。C型肝炎被害者救済の給付金もここから支給されるのですね。
 こういうところがしっかりと前面に出て活躍してくれれば、国民も安心できるのでしょうが、所詮は厚労省の出先機関にすぎないということなのかもしれませんね。
Commented by ポリオは at 2008-02-27 13:24 x
国が定めた定期接種ですから、予防接種法による救済措置があるはずです。
また、生ワクチンも複数回接種ですよ。不活化ワクチンの回数は知りませんけれど。
Commented by なお、 at 2008-02-27 15:18 x
↑に書いたようなことは、育児経験者だったら当然知っている、いわば常識です。
しかしながら、実際に重篤な副反応が出たことは衝撃でした。
親にしてみれば、子どもを病気にさせないために、予防接種を受けるわけですから、逆の結果になってしまって、どれだけショックを受けているだろうかと思うと、胸が痛みます。
今後、ポリオワクチンはどうなるのでしょうね。日本脳炎と同じく、積極的勧奨を差し控えるということもあるのでしょうか。
ポリオは、通常は春と秋に集団接種という形で一斉に行われますが、この春はどうなるのかが気になるところです。
Commented by stochinai at 2008-02-27 16:11
 情報ありがとうございました。子育てしたつもりでしたが、「常識」が身に付いておりませんでした(^^;)。

 予防接種法第11条より 当該疾病、障害又は死亡が当該予防接種を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認定したときは、(医療費・年金・一時金などの)、給付を行う。

 「100万回に1回とか、450万回に1回マヒが出る」と言われても、出た人にとっては1回の投与で1回マヒが出てしまうわけですから、不安になるのは無理はないと思います。遺伝子診断などで、それが予測できるようになると良いのですが、ここでも珍しい症例は研究されることが少ないという法則が出てきてしまいますので、なかなか難しいかもしれません。
Commented by 迷い人 at 2008-02-28 03:38 x
ワクチンにも良いところと悪いところがある、などという話題を研究者の視点から一般の人にうまく伝えることが出来たらとても歓迎されるのではないでしょうか?

専門家があてにならないな、と思うのは、病気が流行ったときにはワクチンを積極的に使わない日本は遅れた国だといったりする一方でこのような出来事が起きたときに黙ってしまうからです。逆にワクチン批判をする人は、病気が流行ったときにどうするのか説明してくれません。結局、専門家なんて責任は負わずに都合の良いことだけ言って、あとは国やつるし上げやすい人を批判して、普通の人が知りたいと思うことは語ってくれないような気がします。自分の子どもにワクチンを使うかどうか本気で悩んでいる親からすれば、厚労省批判なんて何の役にも立たないです。どんなに素晴らしい政府でも(遠い未来なら判りませんが)今年ワクチンを使う時の被害をゼロに出来るわけじゃないですから。

ワクチンも科学が生み出したものですが、その功罪をどう考えればいいのかを普通の人に伝えることは科学者はあまり興味がないのでしょうか。
でも、普段科学者を冷遇してる世間も悪いのかもしれませんね。
まとまりのないコメントでごめんなさい。
Commented by stochinai at 2008-02-28 07:57
>自分の子どもにワクチンを使うかどうか本気で悩んでいる親からすれば、厚労省批判なんて何の役にも立たないです。

 おっしゃるとおりだと思います。もちろん科学者といえども、こうした問題に結論を出せるわけではないですが、親が決断をするための参考になるはずの情報なら持っているはずで、それを提供するのは「興味」があろうがなかろうが、科学者の義務だと思います。連帯したいですね。
Commented by 123 at 2008-02-28 10:39 x
自分の見た教科書によれば不活化ワクチンのあとで生ワクチンをするという2段階方式で95%の麻痺を防げると書いてあります。しかし、全ての人が2段階でやる手間と、何百万に1回という1段階での事故の確率をてんびんにかけると、なかなか2段階にはしないでしょうね。その一方で、日本では感染そのものがほとんどないので、打たないという選択もあってもいいと思います。海外に行くとか、ポリオのある国から来た人と接する機会が多いという場合を除いて、狂犬病のワクチン並みに意味がなくなっているのではないでしょうか。
Commented by 123 at 2008-02-28 11:04 x
話は少しそれますが、こういう事故の後でしばしば思うことは、私達日本人と欧米人の性格の違いについてです。日本人は慎重で、try & errorの気持ちが少なめではないでしょか、特に命に関わることに関して。それはいいことかも知れませんが、臓器移植や新しい薬を導入する時にも、海外でさんざん(人体実験で)試された後でようやく安全そうだから、取り入れてみようかという姿勢があるような気がします。欧米人の虎穴に入らずんば虎児を得ずという性格が好きか、あるいはなるべくおとなしく無難にという方が好きかということでしょうけど。
by stochinai | 2008-02-26 23:13 | つぶやき | Comments(9)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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