5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

日本の博士課程が定員割れしたのでベトナムから学生を呼ぶということなのだろうか

 昨日の夕刊の記事にこれが出ていて、最初は意味がわからずしばらく呆然と記事を見ていた記憶があります。

 博士養成、ベトナムから1千人 政府、ODAで受け入れ
 政府は08年度から20年度にかけて、途上国援助(ODA)を使ってベトナムの若者1000人以上を日本の大学院に入学させ、博士を養成するプロジェクトを始める。

 外務省などによると、ベトナムが求めているのは主に理系の分野で、情報技術(IT)、機械工学、素材、ナノテクなどの先端技術をはじめ、全般にわたる。ベトナムから国費で受け入れている博士課程の留学生は現在年25人程度だが、この枠を08年度から徐々に拡大し、3年後をめどに大規模な受け入れを目指す。

 受け入れに前向きな主な大学院は東京、京都、早稲田、慶応、立命館、長岡技術科学など。日本側は200億円以上の費用が必要とみられる。

  日本側としては、優秀な若者を日本で育て、両国の関係を深めたい思惑がある。
 一般的には、日本が東南アジアの学生を育てるというのは良いことだと思います。ポスト中国として、日本の経済を支えてくれる基盤としてベトナムに期待しているということもあるでしょう。しかし、日本の学生がそっぽを向き始めた博士課程をベトナムの学生で埋めることで根本的な問題は解決するのでしょうか。

 この記事と並べてみると、ため息が出るのではないでしょうか。

 日本で博士課程定員割れ、就職難が背景=日経
 日本で博士課程修了者の就職難が広がり、大学院博士課程で、2007年度の入学志願者数が定員割れを起こしていることが分かった。日本経済新聞が27日付で報じた。

 文部科学省が学校基本調査などの結果を基にまとめた統計によると、07年度の博士課程の入学定員は約2万3400人だったのに対し、志願者は定員の89%に当たる約2万773人にとどまった。数字上は博士課程に志願すれば誰でも入れる「全入状態」になっている。特に工学系で定員5503人に対し、志願者数が65%の3560人、理学系でも定員2070人に対し、志願者数が69%の1419人に低迷するなど、理工系を中心に「博士離れ」が進んでいる実態が浮き彫りとなった。
 とりあえず、この二つには直接の関係はないのかもしれませんが、余った博士の定員をとりあえずベトナムの学生で満たしておくことが、外務省・文科省それに定員割れを起こしそうな大学という3者の利害が一致するところで、こうした方針が「名案」として出てきたのではないかと危惧しています。

 今までも、この手の名案は結果的に「迷案」となって、ものごとがどんどん悪い方へ動いていくという歴史が重ねられてきた気がしてなりません。

 こういうことが、どんどんトップダウンで進行していくのでしょうか。

 大丈夫か、ニッポン!
Commented by S at 2008-03-03 00:58 x
戦略的パートナー作りも結構ですが、それに200億出せるなら、せっかく育てた日本のポスドクが国内で安定した職を持てるよう、雇用を創出せよと言いたくなりますね。

それとも、ポスドク○万人計画は、国内で育てた博士を安くて高性能の知的労働者としてアメリカに売り込む「戦略」だったのでしょうか?
Commented by 〆切に追われる者 at 2008-03-03 01:01 x
この二つはショッキングな記事でした。結果的に迷案になる可能性のご指摘にも同感です。
けれど、これを迷案にするか名案にするかを左右するのは、外務省でも文科省でも大学当局でもなく、大学の先生自身です。
これで大学の先生が変わるとか何か新しい対策を考えるとかしなければもう終わりだと思います。
わずかですが部下をもつ立場で仕事をしていると、部下が仕事を続けられるような環境をつくることの難しさに頭を悩ませることになります。部下はそういう苦労を判ってくれませんが。

トップダウンのどこが悪いのか?と考えてみると、たしかに悪いところもあります。
でもトップダウンが悪いというのであれば、ボトムに居る人間がリアルタイムで改善策を出す必要があります。
管理者は、リアルタイムで判断を求められます。大学の先生は、研究そのものは寝食を忘れて真剣に取り組まれていると尊敬していますが、このような仕組みを変えるとか制度論に対しては、空理空論を述べるだけだったり、今決めないといけないことに対してすぐに案を出せなかったりするのではないですか?
Commented by 〆切に追われる者 at 2008-03-03 01:02 x

日頃から具体的な案を考えていないと、適切な時期・タイミングに適切な案を提示することは出来ません。結局、大学の先生は、研究の専門家であって、組織をつくったり自分の研究を安定して続けるための金銭的・制度的なことについては素人です(頭が良いので自分を素人だと認めたくないのかもしれませんが)。
最近企業が某大学に寄付金を大量に積み上げて奨学金等に充てるという話が出ていましたが、大学の外に居る人間ですら大学に対して危機感を持っていて当事者として行動しているのに(まぁお金を出すだけだと非難いわれたら身もふたもないですが)、大学の先生自身が当事者能力や当事者意識を書いているのだとすれば、とても危険だと思います。
若者は、そういうことをきちんと見透かして進路を決めているのだと、どうして気づかれないのでしょうか。
Commented by ポスドクX at 2008-03-03 03:51 x
誰がこのような政策を決定するのですか?
これは、本当に大学側が望んでいる政策なのでしょうか?
ポスドクの私からは、誰のための政策なのか、全く分かりません。
Commented by A at 2008-03-03 09:43 x
大学院の教育問題が片付いていないのに、積極的に留学生を受け入れるというのは、不誠実で時期尚早だと思うのですが、行政サイドははあまり認識していないようですね。この辺に関してトラックバックさせていただきました。

それから、いつも不思議に思うのですが、政府や省庁と大学はどのようなつながりがあるのでしょうか。今回の件では、幾つかの大学が受け入れに応じるらしいですが、そういった受け入れの打診があったのはどのくらいの大学で、それを拒否した(拒否できる)大学などはあるのでしょうか。

結局、全部トップダウンで、大学サイドの一部の人間(天下り学長など)にだけ打診があるとすると、大学のあり方を考えるには大学と対話しても無駄で、違う相手を見つけるべきということになると思います。こう言った意思決定の不透明さも、学生が寄り付かない一因であると思います。
Commented by ひとこと。。 at 2008-03-03 19:58 x
> 結局、全部トップダウンで、大学サイドの一部の人間(天下り学長
> など)にだけ打診があるとすると...

この通りでしょう。

独法化以降、国立大学や研究所、博物館、美術館などは、官僚の天下り機関のような扱いです。国立だった頃は、有力大学の教授や有力研究所の部長などの幹部は、本省のキャリアと渡り合って、意見を通すことが出来ました。

しかし、独法化以降は、官僚統制が非常に強まり、上意下達です。官僚は、高等教育は殆ど素人同然で、問題が多いです。独法化前なら、大学の反対で潰れたと思います。

この種の政策は、官僚がたたき台を作り、有識者を集めた会議(省庁や政策ごとに名称が違う)を開き意見を聞き、政策を作ります。推測ですが、上記の会議に、ベトナムへの投資を強力に勧める人が居たのでしょう。

最近ベトナム関連の報道が多いですが、それもマスコミ対策の一環でしょうね。上記の「〆切に追われる者」さんも、そんなマスコミ関係者の一人かなと思いました。
Commented by 北欧 at 2008-03-03 23:36 x
ベトナムから学生をという新聞記事の話からほかの新聞記事の話にふらせてください。(話がそれすぎと不愉快に思われた方がいたらすみません)

フィンランドの義務教育についての記事が昨日(3月2日)の朝日新聞に載っていました。抜粋すると、「結論や正解を覚える勉強はさせない。先生は子どもに勉強を強制せず、答えではなく教え方を教える。クラスは平均十数人。…先生は修士号を持ち、良い授業を徹底的に研究するため、大学教授並の研究室をもつ小学校もある。」

日本の小学校から高校までの教師の数を増やし、修士号保持者以上に博士号取得者をその増員にあてる。悲しいかな、日本で唯一覚えることではなく思考力とコミュニケーション力が重視されていると言えるのは大学院(さらに言えば博士課程)だけ。博士号取得者の雇用問題にも光が差し込むかも。

一部の企業を除き、議論することが「面倒臭い」と考えられしまう企業社会そして日本社会を変えていくにもよい案だと思ったわけだが。
Commented by S at 2008-03-04 00:39 x
北欧さんの書き込みと記事抜粋を読み、ポスドク・大学院の問題も小・中・高の教育の問題も、根は同じなのだなあと改めて思いました。すなわち、社会における教育や知への信頼感および敬意の欠如です。

『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で著者の堤未果氏は、アメリカの医療・教育機関における過度な競争の弊害を指摘し、「命、暮らし、子どもの未来をつくる教育など」は国が責任を持つ領域であり、市場原理主義を導入してはいけないと警告しています。

教育・研究機関に携わる者は、教育や知への社会の信頼感と敬意を取り戻すべく努力することはもちろん必要ですが、同時に、国も教育・研究費の出し渋りや過度な競争原理の導入はやめてもらいたいものです。それにしても、どうやったらこうした国への要望を実現化させていけるんでしょう・・・? こちらでの議論は素晴らしいのですが、いつもここで考え込んでしまいます。

Commented by 中山 at 2008-03-04 03:42 x
理系が主な受け入れ先ですから、教育や研究自体は英語でやるのでしょう。いまでもベトナムからの留学生で日本語がしゃべれない人はけっこういます(買い物くらいはできますが)。博士号を取った後にベトナムなり他国で就職口があるのであればいいのですが、日本行きを希望する人の多くが日本での就職を期待する状況になった場合、あとあとかなり面倒なことになりそうです。
Commented by 北欧 at 2008-03-04 20:58 x
Sさんと同じで実際にどうしたら国への要望を実現させられるのかと考えこみます。私は大学教員ではないので、大学入学試験の内容をありかたを変えたりという方向にも動けない。国への距離は遠いので、まず地域の活動から何かやっていけないものかと、細々ながら自分でやれる活動に参加していくほかないと参加しています。

私の昨日のコメントですが、小中高の教師の増員を政府の指導でやってしまっては、おしきせになってしまいこれまでと何も変わらないんではないかとも思えてきました。フィンランド式の学校も現在の日本式の学校も両方あっていいのかもしれません。
Commented by A at 2008-03-11 13:07 x
総合科学技術会議(http://www8.cao.go.jp/cstp/)から、科学技術外交の強化に向けての取り組みについてと、これに対する意見募集が行われているようです(3月25日まで)。

『総合科学技術会議は、内閣総理大臣、科学技術政策担当大臣のリーダーシップの下、各省より一段高い立場から、総合的・基本的な科学技術政策の企画立案及び総合調整を行うことを目的とした「重要政策に関する会議」の一つです。』ということですので、文科省などよりも発言力があるかもしれません。意見を送ってみるのはどうでしょうか。

(ちなみにポスドク支援は5年までと言っているのも総合科学技術会議です。)
by stochinai | 2008-03-02 23:59 | 大学・高等教育 | Comments(11)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai