5号館を出て

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イギリスでアフリカツメガエルの売買禁止提案

 Scienceに、結構ショッキングなニュースが載っていました。

 Proposed Frog Ban Makes a Splash

 イギリスのDefraと呼ばれる役所 Department for Environment, Food and Rural Affairs が、環境に悪影響を及ぼす可能性のあるもののうち、在来種ではない動植物の売買や取引を禁止するリストを11月に発表したのだそうですが、そのリストの中になんと過去60-70年間にわたって発生学の標準的実験動物として世界中で使われているアフリカツメガエル(Xenopus laevis)が含まれていたということで研究者達は大きなショックを受けているようです。
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 Defraによると、アフリカツメガエルは世界の両生類を危機に追い込んでいると主張されているツボカビのキャリアでもあるし、野生に放された場合には地元の両生類と競争したり、場合によっては食べたりすることで減少させる恐れもあるので、リストに載せたということです。

 日本でも昨年の今頃に同じようなことが言われて、我々アフリカツメガエルを実験に使っている人間はかなり危機感をもったものですが、日本では野生の両生類がツボカビで深刻な被害を受けているという事実が出てこなかったこともあり、現時点ではアフリカツメガエルの実験や飼育、売買に対して特になんらかの制限は加えられてはおりませんが、イギリスでは核移植で有名なガードンもいますし、アフリカツメガエルを使った発生学研究の伝統がありますので、とても他人事には思えません。最近では、遺伝子を使った実験発生学で広く使われているので、影響はとても大きなものになることが予想されます。

 もしも、売買・取引禁止ということになると、実験用のアフリカツメガエルはすべて自給自足でまかなわなければならなくなるので、人手もお金もかかるようになり大変だということで研究者はかなりあせっているようです。もちろん、イギリスの研究者達はこの決定に異議を唱えて闘っており、売買・取引禁止ではなく、なんらかの許可制になることが予想されています(10月に決定があるそうです)。

 Defraは研究者からのリアクションに驚いていると書いてありますが、日本の環境省・農水省にあたるところが、基礎研究で広く使われている実験動物に対してそれほど無知だったということに、私は逆に驚いています。(日本でも、同じかもしれないですが・・・・・)

 ただし、科学者達もDefraが外来生物に対して持っている危惧には同意しているので、イギリスの在来両生類を守るために協力すると言っており、飼育しているアフリカツメガエルが逃げ出すことがないようにするばかりではなく、ツボカビをもっているかどうかを調べたり、あるいはツボカビを持っていないものを実験に使うことを考えているということです。

 もちろんツボカビの危険性は充分に考慮しなければならないことではありますが、確たる根拠もなくツボカビを持っている可能性があるというだけで、今回のDefraの決定がなされた節もあり、お役所が「お役所仕事」をするのは日本だけではないのかもしれないと思わされるエピソードでした。
Commented by ぜのぱす at 2008-03-14 23:42 x
噂では聞いておりましたが、(英のNatureではなく、米の)Scienceで記事になったんですね。

確固たる証拠があった上での処置なら仕方がないですが、実際はどうなんでしょう?

英では、"Sir" John Gurdonが居るからどうにかなると思いますが、外国での慣例を盲目的に真似る某国がいきなり極端なことをしないことを祈ります。

Xenopusの研究者も、ツボカビの有無の確認等、責任を持って対応して行く必要がありますね。
Commented by A at 2008-03-15 00:03 x
ツメガエルは一般的な実験動物だと思っていたのですが、決める方からすれば、そんなことは知らなかったんでしょうね。知らないことは仕方ないですが、意思決定の際に誰にも相談しなかったのでしょうか。それほど研究者はあてにされていないのか、コミュニケーションが足りないのかはわかりませんが、どこかの国も似たようなものものなのでしょうかね。

今回のリストはリストとして受け止めて、研究者側は反論すべきですね。実際には、もっと危険なウイルスや、倫理的に問題があるES細胞などの研究は承認されているわけですから、正当な理由を伝えれば、制度は変わるはずです。

これからの研究者は、他人の無知を嘆くだけでなく、自ら声をあげて自分たちの研究しやすいように状況を変えていくことも必要だと思います。今後の動向に注目です。
Commented by x at 2008-03-15 08:38 x
 実験マウスは、「特定外来生物被害防止法」や「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の 確保に関する法律」などで 実験方法、拡散防止措置等が厳しく規定され、計画の書面での申請が義務化されてます。我が国では、ツメガエルは、これらの法令にはかからないのでしょうか?
 マウスを使った実験では、これらの規制が行われている現状からすると これらへの変更は 当然では無いのでしょうか?
 ただし、先のScienceの記事はこれから読んで さらに再考してみます。
Commented by 他人に厳しく自分に甘い私 at 2008-03-15 14:07 x
> 確たる根拠もなくツボカビを持っている可能性があるというだけで、
> 今回のDefraの決定がなされた節もあり、お役所が「お役所仕事」を
> するのは日本だけではないのかもしれない

それを融通の利かないお役所仕事と解釈するか、危険の可能性に事前
に手を打ち不作為を許さない役所と解釈するかは立場によるでしょう。

確たる根拠がない、とは、多くの公害や薬の害や事故の予兆の回避策
を導入する際に国・企業・大学の先生たちが対策を先送りを求めてい
つも口にしてきたセリフです。
自分の専門外の出来事に対しては厳しい規制を求め、自分の専門につ
いては規制が強められることを批判する。それが人のさがというもの
かもしれませんが、感情に振り回されずに自分の言っていることを客
観視してみることは、(企業や国の役人にとってどうなのかは知りま
せんが)研究者としては大切なスキルではないかと思います。

自分たちのやっていることを一般の人に理解してもらおうと思ったと
きに、他人に厳しく自分に甘く、では信頼を勝ち得ないと思うのです。
と、自戒をこめてコメントさせていただきました。
Commented by STOCHINAI at 2008-03-15 14:32
 ツボカビに関しては、昨年の今頃新聞やテレビを通じの大騒ぎを覚えていらっしゃるでしょうか。それから、1年いろいろな調査・研究がされたと聞いています。そして、今どうなっているでしょうか。否定的な結果が出たのだったら、それを公開して騒いだマスコミを通じて報道するべきだと思うのですが、マスコミは乗ってこないのかもしれませんね。

 もちろん、「他人に厳しく、自分に甘く」は、もっとも警戒すべき落とし穴だというお言葉には同意いたします。
by stochinai | 2008-03-14 22:43 | 生物学 | Comments(5)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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