5号館を出て

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新しい進化系統樹

 動物が進化したのは地球47億年の歴史の中で、最後の5億年くらいのことです。地球上のすべての動物はただ1種類の祖先動物の子孫だと考えられていて、それが次々に新しい種を生み出して現在のようなたくさんの動物種が生まれた(進化してきた)と考えられています。ダーウィンの進化論に刺激されたヘッケルは、あらゆる生物が同じ先祖から分岐して出てきたというアイディアを1本の樹が枝分かれしている図で表現した系統樹を作りました。

 ヘッケルの書いた図には大きな枝が3本あり、それぞれが植物と原生生物と動物のグループを示しています。(図はWikipediaからお借りしました。)
新しい進化系統樹 _c0025115_1841121.jpg
 一番右の動物の枝を拡大したものが、下の図です。
新しい進化系統樹 _c0025115_18423311.jpg
 これによると太い枝の一番下から出ている枝の先には腔腸動物(クラゲ・イソギンチャク)がいます。今でも、クラゲなどは原始的な動物だとされていますが、それよりもさらに海綿動物(カイメン)が原始的だと考えられています。ヘッケルの系統樹にカイメンが見あたらないのは、この時代にはカイメンは動物ではなく原生生物(真ん中の枝)に入れられていたからです。

 しかし、最近の教科書ではすべてカイメンがもっとも原始的な動物とされており、カイメンを解剖するとその内壁には襟細胞という細胞があり、その細胞は単細胞で生活する立襟鞭毛虫にそっくりなので、単細胞の立襟鞭毛虫が集まって最初の多細胞動物になったのだというストーリーがかなり広く浸透しています。この辺の話は、NHKスペシャルなどでもアニメを使った説明がされているため、信じている人は多いと思います。私もかなり信じておりました。

 ところが、ところがです。昨日出たNatureの表紙には、たくさんの怪しげな無脊椎動物が泳ぎ回っており、中には「実はカイメンがもっとも原始的な動物ではない」、という衝撃的な結論を出した論文が載っております。

 もちろん今の時代ですから、動物の分類も遺伝子を調べることで説得力を持つことになっているのですが、今回の論文では実際に働いている(DNAからRNAに転写されている)遺伝子をかなりたくさん比較することで、いろいろな動物群の進化的関連を洗い直したものです。

広汎な系統ゲノミクス的サンプリングによる動物系統樹の分解能の向上
Broad phylogenomic sampling improves resolution of the animal tree of life
Nature 452, 745-749 (10 April 2008) | doi:10.1038/nature06614; Received 10 September 2007; Accepted 20 December 2007; Published online 5 March 2008


 それによると、カイメンよりも原始的な動物は有櫛動物(クシクラゲ)ということになっています。
新しい進化系統樹 _c0025115_17585784.jpg
 現在生きているカイメンとクシクラゲを比べると、どう見てもカイメンの方が簡単なからだのつくりになっていますので、遺伝子で比べるとクシクラゲが原始的だということを説明するためには、いろいろな可能性が考えられます。昔いた、クシクラゲとカイメン共通の先祖はカイメンのように単純なからだの構造をしていたという可能性がもっともありそうな話ですが、そうなるとクシクラゲのからだがクラゲに似ているのは収斂進化の結果ということになり、それはそれで不思議です。もちろん、カイメンが複雑な構造から退化して今日のような姿になったという可能性もあります。

 カンブリアの化石よりも古いエディアカラの化石に、クシクラゲがあるという報告もあり、クシクラゲがかなり古くからいた動物であることは間違いないところなのですが、カイメンよりも祖先に近い遺伝子を持っているという今回の報告はかなり衝撃的なものなのです。もちろん、もっとたくさんの動物を、もっとたくさんの遺伝子で比較すると、またちょっと違った結果が出てくる可能性がないわけでもありませんが、とりあえず最新の系統進化学の結果としてしばらくは論議の的になるものと思われます。

 まあ、クシクラゲとカイメンのどちらが祖先の形に近いとしても、お金がもうかったり、ヒトの病気が治ったりするわけではありませんので、なんの経済効果も生まないのですが、私にとってはiPS細胞と同じくらいエキサイティングなサイエンスのお話しです。これを読んでいる方の中に、もし同じように興奮した方がいらっしゃったら、是非とも生物学者になっていただきたいと思います。

 これが、生物学です!
Commented by おそらく at 2008-04-12 05:23 x
”これ「も」生物学です!”のほうが適当なのかもしれません。

毎回拝見していますが、終盤のセンテンスはいい意味でも悪い意味でも挑戦的ですね(笑)。
私も”これが生物学”ですに賛成ですが、気を悪くされる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
まあ、細かい事なので、どうでもいいことなんですが。
Commented by stochinai at 2008-04-14 00:02
 おそらくさん。アドバイスをありがとうございます。おっしゃるとおり、ついついキーボードで暴走するのが私の「癖」です。「これが生物学だ」というのは、マイアの「これが生物学だ―マイアから21世紀の生物学者へ」からのパクリです(^^;)。
http://books.yahoo.co.jp/book_detail/30560259
by stochinai | 2008-04-11 19:19 | 生物学 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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