5号館を出て

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献体が増加していることをどう考えたら良いのか

 しばらく前のニュースになり、もはやニュースソースだった読売オンラインの記事も消えてしまいましたが、医学系の学生の人体解剖実習に使われる遺体の献体が増えているのだそうです。孫引きになりますが、読売オンラインからの引用を転載します。
大学の医学部に、献体を申し出る人が増えている。解剖実習は医師免許を得るために欠かせない課程の一つ。大学はかつて献体集めに大変な苦労をしたが、最近では希望者が多すぎて登録の制限を始めたケースもある。世の中、何が変わったのか。
 私が学生の頃は、解剖実習のための献体が集まらず、医学部解剖学教室の助手の主要な仕事のひとつが遺体の手配だったと記憶しています。医師は、自分たちが教育を受けることができた献体事業に感謝の意を表明するために、白菊会という献体のための組織に入会することが義務づけられているという話も聞いたことがあります。

 実は、私が大学院にいた頃の理学部動物学教室出身者の主な就職先のひとつが医学部の解剖学教室でした。私の友人や知り合いも多数、あちこちの医大や大学医学部の解剖学教室の助手になったのですが、彼らから解剖用の遺体集めの苦労話をたくさん聞かされたものです。どこまでほんとうの話なのかわかりませんが、ほんとうに困っていた頃は、警察に行って身元不明の遺体や、絞首刑の遺体などももらい受けてきたという話もたくさん聞きました。(絞首刑の遺体は、頸部が破壊されているために頸部の解剖ができずに困ったという話も、まことしやかに聞かされた記憶があります。)

 それまでは、学生4人に1体の遺体を使っていたものが、8人で1体という時代もあったようです。

 献体の増加は全国的な傾向のようで、北海道大学の献体組織である北海道大学白菊会のホームページに詳しく書いてあります。
 昭和50年代は医学部では学生8人に対して1体という状況でした。

 白菊会の会員数は徐々に増加し,その結果献体数も増加しました。総会員数が1,000名を越えた昭和61年には,白菊会札幌支部から独立して北海道大学白菊会として活動をはじめました。平成6年5月には存命会員数1,800名,総献体数400柱を越えるまでになりました。平成6年から,解剖学実習は両学部とも全て白菊会会員からのご献体によることとなり,現在,学生4人に1体の解剖が可能となる状況が続いております。

 その後,新規入会者はさらに増加し,平成8年6月には総会員数2,600名を越えるに至りました。一方で,この急激な会員数の増加は,献体から遺骨返還までの期間の延長化(3年ないし4年)という新たな問題が生じることとなり,平成8年に会員の新規登録を停止しました。献体から遺骨返還までの期間が2年以下に復帰した平成14年より、会員の新規登録を再開しました。しかし,その後の総会員数の増加により遺骨返還までの期間が再び延長する状況に至り,平成19年10月から新規登録を再び停止することにいたしました。
 と、言葉は悪いですが、遺体確保に関しては「嬉しい悲鳴」状態のようです。

 この状態は、世の中の人が医学教育に理解を示しているということだけではなく、この高齢化社会と貧困ということが背景にあるような気がします。これも、同じ読売オンラインの記事からの孫引きです。
 「申込者はほとんどが60代か70代。自分の死を思い描ける年齢になって、世のために何か役立てたら、と思われるようです」。こう話すのは、千葉大学の窓口団体「千葉白菊会」会長の丸山武文さん(70)。同会には年約300件もの相談が寄せられる。

 中には、懇願するように頭を下げる人も。「両親や兄弟、子どももいない。だから死後の面倒を見てほしい、というのです。本来の趣旨と外れているので、お断りしたいのですが」。大学は慰霊を行い、遺骨の引き取り手がない場合、納骨もする。千葉大には戦前に作られた納骨堂があり、今でも年に数体が納められる。
 これも、昔から知られていたことですし、北大のホームページにも書いてありますが、献体する場合には特別な葬儀をしないのであれば費用もかからず、大学が火葬・納骨までしてくれます。

 老後を見てくれる家族がいなかったり、家族にいろいろな意味で負担をかけたくないと思う老人が、もちろん医学の発展にもなることでもあり、きちんと火葬まで面倒をみてくれることが保証される献体に頼っているケースが意外と多いのではないかと思えます。

 後期高齢者医療制度やゆきずりの老人殺害など、政府を含めて社会全体が老人を虐待する社会の現実が、献体過剰という皮肉な状況を生んでいるのではないかという思いは、また例によって私のひねくれた発想の結果生み出された妄想なのでしょうか。
Commented by Kay at 2008-04-17 17:32 x
いつも楽しく拝見しております。
長寿医療制度にも絡んでくるのですが、医療財政の崩壊についてはどうお考えになりますか?高齢者に新たな負担増で気の毒だとは思いますが、ない袖は振れないと思いますが、、
Commented by steelpony at 2008-04-17 17:52 x
こんにちは。
毎日楽しく拝見させていただいております。
今日は献体のお話でした。
私の親父も11年前、ある大学病院に献体しました。
遺族としては、葬儀当日に火葬場に行って、もろもろの宗教的行事がなかったので大変楽でした。
遺骨返還に3年ほどかかっていましたので、相当余剰気味だったのかも分かりません。
それから間なしに新規献体受付はなくなりました。

献体過剰気味ということですが、おそらく葬儀自体の宗教的行事に辟易している人が増えているのではないかと思います。
葬儀の簡素化をして、たとえば遺灰の引き取りは後日にするとか、宗教的講釈をして骨壷に入れるとかの手間を省けば、献体を申し込む人は少なくなると思うのですがねー。如何なものでしょう。

それと納骨のときは、ある有名な寺で法要していただきましたが、私のところはキリスト教なので、ちょっと違和感を感じました。
大学側も慰霊祭などは適当にされるほうがいいのではないかと思いました。

Commented by stochinai at 2008-04-17 19:20
Kayさん、コメントありがとうございました。

 医療財政の崩壊は基本的には政府の責任であり、とりあえず失敗した自民(公明も?)党政府には一度退場してもらったほうが良いと思います。

 しかし一方で、政府が変わっても状況が大きく変わることはないと思われますので、それとは別になんとかしなければならないとは思っています。

 無い袖は振れないといっても、家族制度が崩壊し、孤立化して貧困化した老人を医療から遠ざけるのは、やはり姥捨て山となり、これまで日本を支えてきた人達に対する仕打ちとしてはひどすぎると思います。

 私個人としては、道路や戦争などは二の次にして、老人保護と子供の教育は最優先にすべきだと思っていますが、そのためならば消費税が10%になっても仕方がないと思っています。

 また医療に関しては、しばらくはすべてを国家経営にすることも検討してみてはどうでしょう。

 今の日本は、あまりにもひどくなっているので、国民が一丸となって知恵を出さなければ、この国難は乗り越えられませんよね。
Commented by stochinai at 2008-04-17 19:27
steelponyさん、実際の体験をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 そうですね。確かに、日本の葬祭制度に辟易している人が増えているというのは、納得できます。

 ただ、日本自体が貧困化していることもあり、冠婚葬祭にどんどん価格破壊と簡素化が起こっていることもあると思いますので、やはりそれとは別に献体をしたいという「本人」が増えていらっしゃるという現実はあるのではないかと推察しています。

 献体希望者が増えているのに、臓器提供希望者(こちらは若くないとダメ)があまり増えていないところを見ると、やはり死生観の変化というようなものではないように思えます。
Commented by Kay at 2008-04-17 22:36 x
お返事ありがとうございました。
ご意見もっともだと思います。税金を上げないで国債を発行して、というご意見でないのでほっとしました^^
欧州並みに消費税を上げないとどうにもこうにも追いつかないと思います。でも消費税を3倍近くまであげてしまうと今度は景気の後退が心配です。
とにもかくにも増税ありの方向で無駄を切り捨てつつ教育と弱者保護にお金を遣うのが大事だなと思います。
by stochinai | 2008-04-16 21:32 | 教育 | Comments(5)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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