2008年 04月 26日
ヒトの性比が妊娠前の女性の栄養状態で変わる
私が iPod で良く聞いているポッドキャスティングのひとつに、Scientific American の 60-Second Science という番組があります。4月24日に配信されたものがとても興味深い内容だったので、ご紹介します。
番組のタイトルは Diet May Influence Sex of Baby です。
イギリスの750人の初産の妊婦さんを調べた調査結果で、妊娠する前と妊娠してからの食生活について詳しく聞き取り調査して、妊婦さんを3つのグループ(カロリーの摂取量が多い、中くらい、少ない)に分け、その人達の子供の性を調べたところ驚くべき結果が出たというものです。
これは統計的にも明らかに有意な結果で、大変にセンセーショナルです。あまりにも驚いたので、原著を探してみました。上のポッドキャスティングの中で、According to new research published in the Proceedings of the Royal Society と言っているので、簡単に見つかりました。
論文は Proceedings of The Royal Society B という雑誌にありました。オンライン版がすでに読めます。
You are what your mother eats: evidence for maternal preconception diet influencing foetal sex in humans
Fiona Mathews, Paul J. Johnson & Andrew Neil
ISSN: 0962-8452 (Paper) 1471-2954 (Online)
確かにその通りのことが書いてあります。この図を見ると納得するのではないでしょうか。
縦軸が男の子が生まれた比率(%)で、白、灰、斜線の順に妊娠する前に女性が摂取していた栄養量が多くなる3つのグループの結果が示されています。左側が計算によって得られたエネルギー量、右側が朝食にどのくらいの量のシリアル(コーンフレークみたいなもの)を食べていたかが示されています。
そして、妊娠してからの栄養状態は子供の性比にはまったく影響しないとも書いてありました。栄養状態で子供の性が転換するということはないということです。さらに、最近の若い女性はダイエットをしている人が多いことと、イギリスやアメリカでは男の子が生まれにくくなっているという傾向とも一致していると締めくくられています。
欧米で男の子が生まれにくくなっているということは初めて知りましたが、社会問題化しているという風にも読めました。日本ではどうなんでしょう。日本では、そもそも子供を生まなくなっているので、男女比どころではないのかもしれませんが。
そのうちに、どうして栄養状態の良い女性が男の子を生みやすいのかという生物学的研究もされるでしょうが、ヒトの場合男と女を決めるのは精子ですので、子宮の中でY染色体を持った精子がX染色体を持った精子よりも卵に早く入りやすいという選択が働いていることの理由が説明されなければなりません。そちらの結果も興味深いことになりそうです。
というわけで、ポッドキャスティングでびっくりするような生物学ネタを拾ったということだったのですが、この論文を読んでいて気になったことがひとつあります。
こういう学術論文というのは、投稿した日と、論文の内容が審査されて雑誌に掲載されることが決定された日が記録されているものなのですが、それがちょっとした不安のもとになりました。これです。
論文の原稿が受け取られた日が、今年の1月23日は良いのですが、掲載が決まった Accepted の日がなんと2008年4月1日(エイプリル・フール)なんです。まさか、、、、、大丈夫ですよね。
番組のタイトルは Diet May Influence Sex of Baby です。
イギリスの750人の初産の妊婦さんを調べた調査結果で、妊娠する前と妊娠してからの食生活について詳しく聞き取り調査して、妊婦さんを3つのグループ(カロリーの摂取量が多い、中くらい、少ない)に分け、その人達の子供の性を調べたところ驚くべき結果が出たというものです。
For the women who consumed more calories and received a wider range of nutrients, 56 percent had boys. This group was also the most likely to eat breakfast. Among the women with the lowest caloric intake, only 45 percent had boys.妊娠前に栄養状態のもっとも良く、朝食もしっかり食べていたお母さんからは56%の男の子が生まれ、栄養状態のもっとも悪かったお母さんからは45%しか男の子が生まれなかったというのです。
これは統計的にも明らかに有意な結果で、大変にセンセーショナルです。あまりにも驚いたので、原著を探してみました。上のポッドキャスティングの中で、According to new research published in the Proceedings of the Royal Society と言っているので、簡単に見つかりました。
論文は Proceedings of The Royal Society B という雑誌にありました。オンライン版がすでに読めます。
You are what your mother eats: evidence for maternal preconception diet influencing foetal sex in humans
Fiona Mathews, Paul J. Johnson & Andrew Neil
ISSN: 0962-8452 (Paper) 1471-2954 (Online)
確かにその通りのことが書いてあります。この図を見ると納得するのではないでしょうか。
そして、妊娠してからの栄養状態は子供の性比にはまったく影響しないとも書いてありました。栄養状態で子供の性が転換するということはないということです。さらに、最近の若い女性はダイエットをしている人が多いことと、イギリスやアメリカでは男の子が生まれにくくなっているという傾向とも一致していると締めくくられています。
欧米で男の子が生まれにくくなっているということは初めて知りましたが、社会問題化しているという風にも読めました。日本ではどうなんでしょう。日本では、そもそも子供を生まなくなっているので、男女比どころではないのかもしれませんが。
そのうちに、どうして栄養状態の良い女性が男の子を生みやすいのかという生物学的研究もされるでしょうが、ヒトの場合男と女を決めるのは精子ですので、子宮の中でY染色体を持った精子がX染色体を持った精子よりも卵に早く入りやすいという選択が働いていることの理由が説明されなければなりません。そちらの結果も興味深いことになりそうです。
というわけで、ポッドキャスティングでびっくりするような生物学ネタを拾ったということだったのですが、この論文を読んでいて気になったことがひとつあります。
こういう学術論文というのは、投稿した日と、論文の内容が審査されて雑誌に掲載されることが決定された日が記録されているものなのですが、それがちょっとした不安のもとになりました。これです。
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ナオサン
at 2008-04-26 20:12
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>子宮の中で、、、
母体のコンディションということであれば、着床率の違い(無自覚流産)というのもあるかもしれません。
母体のコンディションということであれば、着床率の違い(無自覚流産)というのもあるかもしれません。
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stochinai at 2008-04-26 21:51
なるほど、確かにそうですね。あと、人種による差なども知りたいですし、いろいろな展開が楽しみです。
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生態屋
at 2008-04-26 21:58
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シカの性比が環境条件によって変動することと類似した結果ですね(シカでも栄養状態が悪いとメスに偏ります)。お茶部屋で冗談交じりに会話されることは、生態学の研究室ならよくありそうですが(少なくとも私は実際にこのような会話を交わしたことがあります)、実証データが出たのですね。さっそく元ネタにあたらせてもらって、良さそうなら、行動生態学の講義で紹介させてもらおうかしら。
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123
at 2008-04-28 11:25
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今夜は焼き肉を食べて男の子を目指して頑張ろうというのもまんざら嘘ではないかもしれません。ちなみに男性側の栄養状態に対する依存性は否定してあるのでしょうか?
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stochinai at 2008-04-28 14:06
シカの例は知りませんでしたが、面白いですね。マウスなどでも実験できそうですので、今後が楽しみです。
焼き肉を一回くらい食べてもダメかも知れません(笑)。男性側の状態については、調べてないと思います。
焼き肉を一回くらい食べてもダメかも知れません(笑)。男性側の状態については、調べてないと思います。
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アステロイド
at 2008-04-28 17:43
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結婚する前から、結婚し長女が着床するまでの期間、朝食はいただいていたし栄養状態も悪くなかった。次女の時も、朝ごはん命、だった。でも、女の子だったよ。朝ごはんの質が悪かった??
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stochinai at 2008-04-28 18:08
いやいや、たかだか56%のことですから、ほとんどのケースで男の子になるか、女の子になるかは「ランダム」と考えても良いのだと思います。何百人、何千人と足し合わせた時に初めて見えてくる「差」ですので、決して個々のケースで男女の産み分けに使える理論とはなりません。そういう意味ではちょっと罪作りな結果をご紹介してしまいました。
スミマセンm(_ _)m。
スミマセンm(_ _)m。
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ophiacodon
at 2017-02-26 18:43
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先日奈良に行った時にメスの鹿が多いので、性比はどうなっているのかと思って人力車のおじさんに尋ねてみました。
「生まれた時から4:1だよー」というので、本当かしらんと思って調べてたらこのページを見つけました。
結果「産まれた時は1:1で事故に遭うのは雄が多く寿命も短い」とのことでした。
栄養状態で性比が変わるというのは非常に興味深いですが、生理的な要因には言及されていなかったでしょうかね。
「生まれた時から4:1だよー」というので、本当かしらんと思って調べてたらこのページを見つけました。
結果「産まれた時は1:1で事故に遭うのは雄が多く寿命も短い」とのことでした。
栄養状態で性比が変わるというのは非常に興味深いですが、生理的な要因には言及されていなかったでしょうかね。
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STOCHINAI at 2017-02-27 20:48
栄養状態がどのように性比に反映されるのかという生理的解析はむずかしそうで、この後現在まで聞いたことがありません。
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ophiacodon
at 2017-02-28 08:49
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10年近く前の記事へのコメントにお返事いただけて嬉しいです。
その後進展はなかったんですね。
エイプリルフールといえばこちらの記事が面白いです。
http://science-cafe41.jp/news/2016/
その後進展はなかったんですね。
エイプリルフールといえばこちらの記事が面白いです。
http://science-cafe41.jp/news/2016/
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STOCHINAI at 2017-02-28 20:52
確かに上に紹介していただいた記事おもしろいですが、1年前には見逃しておりました(笑)。写真があったら本気で読んでいたと思いますが、どんなにきれいでも絵だとちょっとテンションが下がります。とはいえ、全体的になかなかの力作で感心させられました。ただ、ちょっと専門的すぎて一般の「お客さん」を引きつけるのには成功できなかったのかもしれませんね(笑)。
by stochinai
| 2008-04-26 18:26
| 医療・健康
|
Comments(11)