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大学院共通授業科目 科学コミュニケーション

 明日から、北海道大学全学の大学院共通授業科目「科学コミュニケーション」が始まります。

 CoSTEPの教員を中心に、いわば on the job training 的に、現実に今目の前にある大きな問題のひとつである「バイオ燃料と地球環境問題」をテーマに、文理を越えて分野を問わずにというか、積極的に異分野の人々が交流しながら、日本人はあるいは人類はバイオ燃料とどうつき合っていくべきなのかということについての調査・研究をし、討論を重ねてグループごとに最終提案を作成するという作業を行ってもらう、演習形式の授業になります。

 最終提案は洞爺湖サミットの直前にまとめる計画でいますので、あわよくば世界の首脳に向けてバイオ燃料問題の「解答」と提示したいという野望も持っています。

 授業の形式から、6-7人からなるグループを6つ作って作業することになりますので、たくさんの方から履修の希望がありましたが、できるだけヘテロな専門や背景を持った人を組み合わせてグループを作るというポリシーで人選した結果、34名の方だけしか履修できないということになってしまいました。せっかく申し込まれて履修できないことになった数十名の方には心からお詫びを申し上げます。皆さんには、履修を拒否される資質的な問題は一切ありませんでした。

 さて、この授業を受けるといろいろなことをやったり考えたりしなければなりませんので、確かに科学コミュニケーション力を初めとして、調査力・質問力・論理展開力などはもとより、自分の専門以外の人達とのコミュニケーションを通じて社会的合意を形成する困難をいかに克服するかということが、この授業の核になると予想しています。

 なかなか大変な作業になることと思いますが、それを乗り越えて得るもののは大きいはずです。

 シラバスに書いてある到達目標は、次の通りです。
* 専門分野によって、考え方・手法・表現法などが異なることを理解する
* グループ・ディスカッションを通して、<意見の違いを理解しあい、合意を見いだしていく>というプロセスを体験し、コミュニケション・スキルを身につける
* 授業の全体を通して、プレゼンテーションやライティングのスキルを身につける
【老婆心ながらの蛇足】

 よく、大学院で科学コミュニケーション力をつける指導を受けると、就職に有利になるかのような話を聞きますが、そんなことはないと思います。大学院を出ていようがいまいが、大卒以上で自分の専門分野を持っている「科学者」は、その専門を専門家ばかりではなく非専門家に伝える能力があるのは当たり前のことです。逆に、その能力がないせいで就職が不利になるということならあり得るかもしれません。専門の勉強をしていながら、その内容を非専門家に伝えることができないのだとしたら、それは専門家として一人前にならなかったという証明に過ぎないのですから。

 たとえ、今までの大学や大学院でそうしたことに特化した授業科目がなかったとしても、卒業生にはそういう能力が求められていたはずですし、逆にそういう授業を履修したからといって、コミュニケーション能力が身に付くことが保証されているわけでもありません。

 科学コミュニケーション能力の養成が専門学校化することは危惧しますが、実践をしながら身につけていくことがひとつの有効な教育手段であるということは、CoSTEPの3年が証明してくれています。

 さて、明日からよろしくお願いします。

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 大学院高度化カリキュラム 科学コミュニケーション論
Commented by bloom at 2008-05-17 11:31 x
グループディスカッションという形式は斬新だと思います。
科学コミュニケーションの授業はジャーナリストなどを招いた講義形式が多いですが、複数人数で合意を形成していく作業は大学になるとぐんと減る機会なので、貴重ですね。

ちなみに面接のネタ話が増えるので、こういう授業を取ることは就職活動に有利になると思います。

それと、専門家というのはどのレベルなんでしょうか。大学院を出たくらいで専門家というのはちょっと抵抗があります。
Commented by K_Tachibana at 2008-05-17 13:07 x
CoSTEPのつよみで大きいのは社会人の再教育だと思っています.
大学院生の科学コミュニケーション能力の養成は,東工大などでも行われていますが,社会人は蚊帳の外に置かれています.

私もbloomさんと同じく,大学院を出たての「専門家」というのは抵抗感をもちます.社会から受け入れられてナンボでしょう.
Commented by stochinai at 2008-05-17 18:35
 「専門家がすべきコミュニケーション能力」は本当のプロの専門家になってしまってからでは遅すぎるので、大学院生を「専門家」と位置づけた教育はとても意義があると思っています。次回は、「本当の専門家」の方にに来ていただいて、「見習い中の専門家」から鋭い意見が出てくることを期待しています。
by stochinai | 2008-05-16 21:51 | 教育 | Comments(3)

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