2008年 06月 18日
続くシリアルズクライシス
一般の新聞にも出るようになったのかと感慨深いものがあります。読売オンラインから。
大学が学術雑誌買えない 値上がり、予算減で 研究に影響懸念
もちろん、ご存じの通り法人化によって「大学の図書館の予算は削減傾向」にあるわけで、その結果が上にある山口大学のような結果を招いてしまいます。
それに危機感をもった、世界中の大学や研究所では、所属する研究者が出した論文の公開許可を出版社からもらい(我々が書いた論文の著作権は出版社が持っているという現実があります)、機関リポジトリとして無料でアクセスできるようにしようとしているのですが、とてもとても日々増加する新着雑誌に載っている論文の増加には追いつかないのが現状です。
それに、そもそもポピュラリティの高い論文は我々のような場末の研究者が書いた論文ではなく、新聞の一面を飾るような論文であり、そういうものはなかなか機関リポジトリで公開されることは少ないのです。
その結果、起こることは研究者間に生じる新しい情報へアクセスすることの貧富の差です。
昔からそうなのですが、裕福な研究室では自分のところで高価な学術雑誌を購読しています。彼らにとっては、学術雑誌の値段が高いなどということはほとんど気にもならない、ささいなことです。
最近は、オンライン雑誌が多くなってきましたので、北海道大学のような大きな大学では学内一括のアクセスを可能にする単位で出版社と契約していますので、私のような貧乏研究室では北大の中に居候させていただいているというだけで、たくさんの学術雑誌へ自由にアクセスできるという恩恵を被っています。逆に、山口大学のようなそれほど大きくはない大学では、私と同じような貧困度あるいはもっと裕福な研究室でさえ、学術論文へのアクセスが制限されてしまっているのです。
そもそも世界中、ほとんどの国において学術研究は税金によってまかなわれているところが多いので、研究の成果は納税者さらには世界中に無料で公開すべき性質のものであると、私は思います。ところが、それが「著作権保護」の名の下に出版社の保護が優先され、研究のスポンサーである納税者が自由にアクセスできないという状況は、とても納得できるものではありません。
アメリカでは、国家予算を使って行った研究成果の論文は、強制的に機関リポジトリに登録して無料でアクセスを可能にすることを義務づけられるようになってきていると聞きます。こうしたことは世界的に連帯して行うことで、商業主義の結果、研究成果が金持ちだけにアクセス可能になるなどという暴挙から科学を守るべきではないかと思う日々です。
もちろん、出版者側にも言い分があって「我々が勝手に雑誌を創刊しているのではなく、研究者が新分野を開拓し、論文を量産して」いるのであって、研究者が自分で自分の首を絞めているのだと主張しています。
著作権問題は、音楽業界だけではなく学術業界でも重大なイッシューなのです。
大学が学術雑誌買えない 値上がり、予算減で 研究に影響懸念
山口大の図書館は昨年末、雑誌を扱う出版社シュプリンガーとの購読契約を打ち切った。千数百万円の経費削減となったが、約1300の電子雑誌が読めなくなり、研究者の個人購読に切り替えた。理系、文系を問わず、過去の成果や最新の動向を知ることは研究の第一歩。学術雑誌が読めなくなれば、その基盤が損なわれかねない。丸本卓哉学長は「買いたくても買えない。研究の根幹にかかわる」と危機感を募らせる。学術雑誌が、どんどん少数の出版社に吸収され寡占化が進み、とてつもない高騰を続けています。学術雑誌というものは、もともと読者が少ないこともあって高いものだったのですが、それが数を増やしていると同時に、「価格は毎年5~8%のペースで値上がりを続けて」いるという現状があります。
もちろん、ご存じの通り法人化によって「大学の図書館の予算は削減傾向」にあるわけで、その結果が上にある山口大学のような結果を招いてしまいます。
それに危機感をもった、世界中の大学や研究所では、所属する研究者が出した論文の公開許可を出版社からもらい(我々が書いた論文の著作権は出版社が持っているという現実があります)、機関リポジトリとして無料でアクセスできるようにしようとしているのですが、とてもとても日々増加する新着雑誌に載っている論文の増加には追いつかないのが現状です。
それに、そもそもポピュラリティの高い論文は我々のような場末の研究者が書いた論文ではなく、新聞の一面を飾るような論文であり、そういうものはなかなか機関リポジトリで公開されることは少ないのです。
その結果、起こることは研究者間に生じる新しい情報へアクセスすることの貧富の差です。
昔からそうなのですが、裕福な研究室では自分のところで高価な学術雑誌を購読しています。彼らにとっては、学術雑誌の値段が高いなどということはほとんど気にもならない、ささいなことです。
最近は、オンライン雑誌が多くなってきましたので、北海道大学のような大きな大学では学内一括のアクセスを可能にする単位で出版社と契約していますので、私のような貧乏研究室では北大の中に居候させていただいているというだけで、たくさんの学術雑誌へ自由にアクセスできるという恩恵を被っています。逆に、山口大学のようなそれほど大きくはない大学では、私と同じような貧困度あるいはもっと裕福な研究室でさえ、学術論文へのアクセスが制限されてしまっているのです。
そもそも世界中、ほとんどの国において学術研究は税金によってまかなわれているところが多いので、研究の成果は納税者さらには世界中に無料で公開すべき性質のものであると、私は思います。ところが、それが「著作権保護」の名の下に出版社の保護が優先され、研究のスポンサーである納税者が自由にアクセスできないという状況は、とても納得できるものではありません。
アメリカでは、国家予算を使って行った研究成果の論文は、強制的に機関リポジトリに登録して無料でアクセスを可能にすることを義務づけられるようになってきていると聞きます。こうしたことは世界的に連帯して行うことで、商業主義の結果、研究成果が金持ちだけにアクセス可能になるなどという暴挙から科学を守るべきではないかと思う日々です。
もちろん、出版者側にも言い分があって「我々が勝手に雑誌を創刊しているのではなく、研究者が新分野を開拓し、論文を量産して」いるのであって、研究者が自分で自分の首を絞めているのだと主張しています。
著作権問題は、音楽業界だけではなく学術業界でも重大なイッシューなのです。
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ひで
at 2008-06-18 23:21
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著者にメールすれば大抵ファイルを送ってくれますが、自由なアクセスとはほど遠いですね。Googleと出版社が結託したんでしょうか、違法公開状態のPDFが見つかりにくくなったのも痛いです。一方、オープンアクセスの雑誌が増えてきたのはありがたいことです。PLoS ONE以下のインパクトでアクセス制限のある雑誌はもはや存在意義がないと思います。
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長神風二
at 2008-06-19 00:08
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以前もここで議論させて頂きましたが、12月の学会(BMB2008)で、本件も含む問題を議論する場をつくることにしました。周囲の若い院生やPDに聞くと、機関リポジトリって言葉すら知らない人が主流です。
比較的に大きな大学だから危機感がないのか、わかりませんが。
比較的に大きな大学だから危機感がないのか、わかりませんが。
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素朴な疑問
at 2008-06-19 01:33
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学術論文の査読はボランティアだと聞いたのですが、さらに学術雑誌でも広告が載っていることがあるようですが、それでも高い料金が必要なところは不思議ですね。
もちろん、雑誌なり電子ジャーナルなりを作って世に出していることに対して、完全に無料でというのは私個人としては行き過ぎかな、とは思います。雑誌社に対して対価を払うべきと思います。ただ、国立大学ですら講読が継続出来ない価格設定は素人目にはいびつに映ります。
ところでもし、
> 「我々が勝手に雑誌を創刊しているのではなく、研究者が新分野を
> 開拓し、論文を量産して」いる
のなら、世界中の専門を同じくする研究者が共同歩調をとればいいのでは?
ネイチャー、サイエンスみたいな様々な分野の人が投稿する雑誌は無理にしても、専門領域に特化した雑誌なら、研究者がそろって意思表示をすれば相当のインパクトがあるのではないでしょうか?
もちろん、雑誌なり電子ジャーナルなりを作って世に出していることに対して、完全に無料でというのは私個人としては行き過ぎかな、とは思います。雑誌社に対して対価を払うべきと思います。ただ、国立大学ですら講読が継続出来ない価格設定は素人目にはいびつに映ります。
ところでもし、
> 「我々が勝手に雑誌を創刊しているのではなく、研究者が新分野を
> 開拓し、論文を量産して」いる
のなら、世界中の専門を同じくする研究者が共同歩調をとればいいのでは?
ネイチャー、サイエンスみたいな様々な分野の人が投稿する雑誌は無理にしても、専門領域に特化した雑誌なら、研究者がそろって意思表示をすれば相当のインパクトがあるのではないでしょうか?
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余市
at 2008-06-19 01:50
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それができないのが研究者という生き物。
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at 2008-06-19 01:53
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
> 裕福な研究室では自分のところで高価な学術雑誌を購読しています。
裕福な研究室は、確かに『学術雑誌の値段が高いなどということはほとんど気にもならない、ささいなこと』かもしれませんが、そういう場合でも、恐らく、個人購読の形を取っているでしょうから、図書館が購入する値段より格段に安いのではないですか?
全国の大学の図書館を(制度上)一体化して、そこで一括購入して、あとは全国どこでもPDFをdownload出来るようにするなんて、無理でしょうね、やっぱり。
裕福な研究室は、確かに『学術雑誌の値段が高いなどということはほとんど気にもならない、ささいなこと』かもしれませんが、そういう場合でも、恐らく、個人購読の形を取っているでしょうから、図書館が購入する値段より格段に安いのではないですか?
全国の大学の図書館を(制度上)一体化して、そこで一括購入して、あとは全国どこでもPDFをdownload出来るようにするなんて、無理でしょうね、やっぱり。
関連する話題を紹介します。
安く読んでもらえる雑誌は投稿料が高い,高価な雑誌は投稿料が安いという傾向があります。
下記ブログの記事では雑誌の購読,論文の投稿に際してどうお金が循環するのが科学界のためになるか,という視点が提起されていて参考になりました。
kennyonice.blogspot.com/2008/02/journal-subscription.html
kennyonice.blogspot.com/2006/05/electric-journals.html
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kennyonice.blogspot.com/2008/02/journal-subscription.html
kennyonice.blogspot.com/2006/05/electric-journals.html
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はすさ
at 2008-06-19 14:12
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「学術研究は税金によってまかなわれているところが多いので、研究の成果は納税者さらには世界中に無料で公開すべき性質のものであると、・・」
結論には大賛成です。
ただ、理由として上げてある税金については、
日本の税金で研究した成果を、米国にタダで見せるのか?とか
企業の研究成果は、税金とは直接関係ない とか
タダで公開された成果を企業はその利益のために無料で使うことなるのは問題ないのか?など
反論も可能かと思います。ですので、他の理由も加えて必要かと。
結論には大賛成です。
ただ、理由として上げてある税金については、
日本の税金で研究した成果を、米国にタダで見せるのか?とか
企業の研究成果は、税金とは直接関係ない とか
タダで公開された成果を企業はその利益のために無料で使うことなるのは問題ないのか?など
反論も可能かと思います。ですので、他の理由も加えて必要かと。
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かずさ
at 2008-06-19 14:37
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日本の税金で欧米の機器を購入して欧米の雑誌に投稿料を払って成果を発表した上に大金で購入、ってどれだけ奴隷なんかと。
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あ
at 2008-06-19 22:57
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最後の一文は知的ですね。
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ありゃま
at 2008-06-20 12:18
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私も著者に頼んで別刷りPDF を送ってもらうことがあります。あれも厳密には、著者が出版社に申し込んだ別刷り数を越えると著作権法違反に問われるそうですね。
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stochinai at 2008-06-20 19:05
そうなるようですね。別刷りというのも買うとかなり高いものです。雑誌によっては、かなり高い投稿料を払った上に、著作権も出版社に差し上げるのが、従来の学術雑誌のしくみです。それでいて、レフェリーは完全なボランティアなのですから、やはり冷静に考えると「変な世界」でした(です)。
by stochinai
| 2008-06-18 22:27
| 大学・高等教育
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Comments(12)