5号館を出て

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日経を巡る2題: 不良無能記者と文科省情報の早さ

 朝日コムに、お粗末な日経記者の事件が報道されています。

 日経記者が「ばか者」メール NHK訴訟巡り市民団体に
 NHKの番組が放送直前に改変されたとして、取材を受けた市民団体がNHKなどに損害賠償を求めた訴訟で敗訴したことを受け、日本経済新聞社の記者が匿名で、この団体に「取材先の『期待』に報道が従うわけないだろ」「あほか」などとする電子メールを送っていたことがわかった。
 匿名の電子メールというのは、身元が明らかにできないもののはずで、どうしてばれたのか気になりました。

 同じ記事の中に、被害者が「電子メールのアドレスが日経のものだったため、日経に確認した」と書いてありますので、送信者のアドレスが相手に届いていたように読めますが、それなら「匿名」とは言えないと、不審に思えます。ところが、その後を読むと「記者はバウネットのホームページを通じて個人的な意見を書き送った、と説明し」ていると書いてありますので、「匿名」でありながら「アドレス」が割り出された経緯が納得できました。

 要するに、この記者は相手のホームページにある「メールフォーム」の中に匿名で相手を罵倒する失礼なメールを送ったのですが、日経の社内にあるコンピューターからその書き込みを行ったために、受け取った側に使ったコンピューターのIPアドレスが知られてしまったということだと思います。その機能さえサービスされていれば、IPアドレスが日経のものかどうかを調べることはとても簡単で、Wikipediaなどでは書き込みをした人のアドレスが機関のLANからのものである場合には、どこから書き込みがあったか公開されるしくみもありますので、新聞記者ともあろうものがその程度のコンピューター・リテラシーをもっていなかったということには、あまりにも馬鹿なメールを書いたこととともに、なんともあきれてしまいました。

 もっとも、この場合は記事を書いた朝日新聞の記者の方も事件の詳細を理解していないようにも思われ、実は日本の新聞記者のかなりの数がその程度のコンピューター・リテラシーしかないということなのかもしれません。一般人ならば、わからないでもないですが、新聞記者がこれでは日本の将来が不安になります。

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 それとは直接の関係はないのですが、2日ほど前の日経ネットに我々にとってはとてつもないニュースが載っていました。

国立大運営費、学部ごと評価し交付金に差 文科省方針
 文部科学省は国立大学の運営費交付金について2010年度から、教育や研究の実績を学部ごとに評価して交付金の配分額に差を付ける方針だ。交付金を一律に年1%削減する現行制度を見直し、大学ごとに削減率を変えることも検討する。
 いよいよ、国立大学の整理が始まるという、結構大きなニュースだと思うのですが、他の社から追随した記事がでてこないところをみると、日経の記者だけに特別にリークされた「文科省関係者」の情報なのかもしれません。

 現在、法人化の時に出した中期目標の中間評価(期間評価)が行われているところですから、評価に追われてひいひい言っていた国立大学の方々は、この話を聞いて背筋が寒くなっていることと思います。現在は、どこの大学も一律に毎年1%ずつ交付金が削減されていますので、このままいくとすべての大学が一様に立ちゆかなくなるのは目に見えていたのですが、それを「評価」の名の下に差を付けていくということは、早くつぶれる大学を決めていくということになります。

 こんな大きなニュースをリークしてもらえるということは、文科省など官庁内部に太いパイプを持っているのが日経ということなのでしょうが、上に書いたようなお粗末な事件を起こす記者と、日本の将来を左右する重大なニュースをリークしてもらう記者が同じ社にいるということはどのように理解したら良いのでしょうか。

 レベルの下がったいいかげんな記者にでも、重大情報が流されるのが「この世界」なのでしょうか。
Commented by K_Tachibana at 2008-07-06 03:47 x
文科省の委員会に日経の記者が委員として呼ばれているということが理由のひとつかもしれません.私が傍聴に行っていた科研費関係の委員会でも,以前お茶大で科学報道の講義を習った日経の科学部の記者が呼ばれていました.

ある程度の話は,まめに霞ヶ関に通っていれば取れると思います.あとは,そこまで手間をかけるかどうかだけ.官庁でもっとも読まれているのは日経だと思うので,逆に手間もかけるのだと思いますが.
Commented by ひで at 2008-07-06 10:42 x
意味不明の「科学記事」が横行する日本ではないものねだりになりますが、NY Timesの科学記者はScience/natureと兼任していたりして、科学雑誌レベルの素晴らしい記事を書きます。

ところで、医療問題や食品問題について声高で感情的な反応を煽るマスコミ報道が常日頃目立ちます。以前は、政治的な意図があって大衆を煽動しようとしているのだと裏読みしていました。しかし記事のレベルやこういった記者のチョンボを見ていると、政治的意図以前に、彼らの科学リテラシーが恐ろしく低く問題の本質を読み取る能力がないのだということが分かります。煽動者というより、衆愚の先頭集団です。
Commented by K_Tachibana at 2008-07-06 16:52 x
ひで様
NY Timesのような科学雑誌と兼任の科学部記者は日本では皆無でしょうね.せめてNewScientistを和訳して国内用にmodifyするだけでも違うのでしょうが,記者の方は二言めには「忙しい」と言い訳されて,それ以上話がすすむことはありません.

せめて,中村桂子さんのように日経の「経済教室」の連載や朝日の「私の意見」といったところに,積極的に志のある研究者の方がもっとオピニオンを出されるのが望ましいと思うのですが,いかがでしょう.

ブログよりも読者が多い分,社会的影響力も大きく表れる可能性があると思います.
Commented by XP at 2008-07-06 17:54 x
> どのように理解したら良いのでしょうか
「組織の教育がだめ」と「組織の人間は均質ではない」のいずれか、あるいは両方というところでは。データ捏造するバカ者がいても全研究者がインチキ研究者ではないですから。

「日経だけ掲載」の事実からは以下の2×2の可能性があるのでは?
「日経だけにリークされた」か「日経が頑張って取材した」
「他社は大事だと思わないから記事にしない」か「他社はこれが観測気球だとわかっていて記事にしない」
役所が採用したくない方針をわざと出して当事者の反論をとりつけるという作戦もあると聞きます。新聞社も全社横並びで記事にすると既定路線になり文科省も大学も困るので記事にしないのでは?
逆に大学のニュースバリューがないせいかもしれませんが。財務省の審議会がきっかけのようですが、記事になっていないようですから。
http://www.mof.go.jp/singikai/zaiseseido/siryou/zaiseia/zaiseia200603/zaiseia200603_00.pdf
37ページ
① 国立大学法人運営費交付金の配分方法の見直し等
学部・研究科ごとの水準と達成度の相対評価が明確になるよ
う厳格に実施・公表すべきである
Commented by ひで at 2008-07-06 18:08 x
マスコミ批判の一点で重なっているもののこのブログ記事の内容とちょっとずれたコメントでした。stochinai様ご容赦下さい。

K_Tachibana様
読者が科学を求めてないんでしょうか?そもそも需要がないなら新聞記事のレベルの低さを責めても仕方ないのかもしれません。志のある研究者が積極的に発言していくのは重要だと思います。同時に、記者の方にはせめてまともな研究者とそうでない者の見分けがつくようになってもらいたいものです。科学についての記事でトンデモ科学関係者のコメントを見かけ唖然とすることがあります。
Commented by K_Tachibana at 2008-07-06 18:55 x
ひで様
需要はないとは思っていないと思います.少なくとも大新聞は.週に一度は科学面で科学の話題を載せますし.新聞記者も科学部と社会部でかなり違うときいています.わけて考えた方がよさそうです.
問題は,新聞社内で科学部よりも社会部のほうが立場が上で,社会部がトンデモ記事を書いたとしてもチェック機能が働きにくいということではないかと思います.
必要なことは,社会部記者の科学リテラシーをトンデモかどうか判別がつくていどに向上することではないかと思いましたがいかがでしょうか.
Commented by K_Tachibana at 2008-07-06 19:03 x
XP様
> 逆に大学のニュースバリューがないせいかもしれませんが。
社会における大学の位置づけは,それほど高いとはおもえないです.もちろん,地域差はあるでしょうが.
大学の運営費交付金の話に興味をもつ人は,大学関係者もしくは大学と取引をしている会社に勤めているなどに限られるように思うのですが,いかがでしょう.私はぎりぎり運営費交付金の話に興味をもつカテゴリにはいると思いますが,さまざまなニュースがとびかっているなかで,優先順位は必ずしも高くはありません.
Commented by K_Tachibana at 2008-07-06 22:30 x
ブログ「独り言つ」に天野郁夫著『国立大学・法人化の行方:自立と格差のはざまで』が紹介されていますので,参考にどうぞ.
Commented by K_Tachibana at 2008-07-07 05:43 x
今朝の日経には,東大先端研の宮野所長が「大学附属研究所の役割 新たな学問 創造の場に」と題した,ほぼ一面にわたるオピニオンを載せています.
科学研究に対する大学の役割について,これだけの紙幅を割くのは制度面も含めて読者の「需要はないとは思っていない」からだと思います.

こういう寄稿記事,オピニオンには珠玉の言葉がしばしば見られます.ネットには載らないので日経読者以外には,なかなか知られることが少ないのでしょうが.
Commented by at 2008-07-08 11:15 x
需要というのは相対的なもので、コストに見合う需要があるかどうかが一番重要な点です。科学ニュースは残念ながら日本においてコストに見合う需要はほとんどない、といってもいいかと思います。あるあるのような派手な記事なら別ですが、ホラ交じりになってしまいます。
Commented by 未来への不安 at 2008-07-08 13:52 x
日経の記事は、科学云々の話ではなく、大学の学部レベルでの評価の記事。

問題は評価の目的だろう。予算を配るためや新しい大学教育を打ち立てるための評価ではない。おそらく、駄目な点を上げ、一部の大学に不的確の烙印を押し、落とすための評価だから問題だ。自民党の政治家が、国立大学を民間に売り払えば30兆円のお金が作れるとコメントしていた。地方大学への支援を絞り、骨抜きにして、民間に払い下げ、私大化を目指すのだろう。しかし、本当にそれをすると、日本の教育レベルは相当下がり、戦前に逆戻りする気がする。国力は相当落ちる気がする。
Commented by ゑぶ at 2008-07-12 00:28 x
そもそも論として、4月2日にでた中央教育審議会の「教育振興基本計画」(答申)にものっていますので、新規性ということでは、特段ニュースバリューは無かったのでしょう。
by stochinai | 2008-07-05 22:48 | つぶやき | Comments(12)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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