2008年 07月 10日
大学生の就職活動: 1年生から始めさせてはどうでしょう
昨日、国立大学協会、公立大学協会そして日本私立大学団体連合会が(1)卒業学年当初や3年以下の学生に対する実質的な採用選考活動を慎む(2)採用活動は可能な限り祝休日や長期休暇に行う(3)正式内定日は卒業学年の10月1日以降にして欲しい、と日本経団連や全国銀行協会、リクルートなど137団体・企業に対し、採用活動早期化の是正を求める要請書を提出したという記事が報じられました。(例えば、産経ニュース「授業にならない! 「青田買い」是正を 大学3団体、企業側に要請」参照)
たしかに、新卒大学生の就職活動(企業側から見ると採用活動)は年々早期化しており、3年目の冬からというのは当たり前になってきているようです。さらに、通年で採用をしている外資系の存在もあって、新卒採用の「開始時期」というものの存在があいまいになってきて、今年などはすでに3年生の夏頃から動き始める学生も出ているとのことです。
大学院の修士では就活開始が1年生の秋頃というのが普通で、最近は夏頃から始める学生も出てきているようで、来年になるとおそらく修士入学と同時に2年後に働くための就活が開始されるようになるのは、(笑い事ではなく)現実化するでしょう。
学部の3年生というのは、ようやく大学らしい授業が始まる時期で、理系だと実験なども多くなりもっとも忙しいのが3年生です。その時期に就職活動で時間が取られるということは、就活をする学生も採用する側の企業も「就職のためには大学での学問は必要ない」と判断しているということにもなります。しかし、大学教育のもっとも充実したところをスキップするというのは、今の大学カリキュラムのままだと、学生も企業も「損をする」ことになると思います。
長年、就活する大学院生を見ていると、就職活動というのは学生にとって苛酷な試練でありますから、逆にそれが社会人として成長する非常に有意義な契機になっていることも認めざるをえません。半年から1年、そうした活動をしてその間研究者としての成長や実験データの蓄積という面ではマイナスになったとしても、社会人としての成長があったのだとしたら、長い就活期間そのものが、必ずしも否定的なものとして非難されるべきだけのものではないのだと思います。
同じように、学部生も長い期間就活をすることになっているのだとしたら(私の周辺では、ほとんどの学生が大学院進学をするので、あまり実際に就活している学部生の例は知らないので、間違っているかもしれませんが)、それは単に「大学の教育の機会を失っている」だけではなく、「大学では得られない貴重な教育の機会を得ている」という側面もあるのかもしれません。
また、学生を社会人として育てるという意味において、現在の大学はあまり評価されていないという声も良く聞きますので、単に企業側に採用活動の自粛を求めるだけでは事態は解決しないと思います。
そこで、どうでしょう。ちょっと荒療治ですが、大学生も1年生から就職活動をカリキュラム化して、授業の一環として行うようにしてしまうということを検討しても良いのではないでしょうか。
もちろん、単なる「模擬就職活動」ではなく、そのカリキュラムの中で良いマッチングが得られたら企業へ就職が「内定」しても良いと思います。ただし、あくまでもそれは「仮の内定」であり、その後、企業と大学が協力してその学生をより企業に役立つ存在へと成長させていくための教育を行うのです。その結果、学生が「内定」に安住して成長が見込まれないということになったら、3年生か4年生の段階で大学と企業が協議の上、「内定取り消し」もありうるというシステムにしておきます。
いろいろと細かくつめなければならないところもたくさんあるとは思いますが、大学と企業(社会)が協力して学生を教育するというシステムをうまく作ることができれば、大学も企業も納得できる高等教育になるのではないかと夢想してみました。
無理でしょうか?
たしかに、新卒大学生の就職活動(企業側から見ると採用活動)は年々早期化しており、3年目の冬からというのは当たり前になってきているようです。さらに、通年で採用をしている外資系の存在もあって、新卒採用の「開始時期」というものの存在があいまいになってきて、今年などはすでに3年生の夏頃から動き始める学生も出ているとのことです。
大学院の修士では就活開始が1年生の秋頃というのが普通で、最近は夏頃から始める学生も出てきているようで、来年になるとおそらく修士入学と同時に2年後に働くための就活が開始されるようになるのは、(笑い事ではなく)現実化するでしょう。
学部の3年生というのは、ようやく大学らしい授業が始まる時期で、理系だと実験なども多くなりもっとも忙しいのが3年生です。その時期に就職活動で時間が取られるということは、就活をする学生も採用する側の企業も「就職のためには大学での学問は必要ない」と判断しているということにもなります。しかし、大学教育のもっとも充実したところをスキップするというのは、今の大学カリキュラムのままだと、学生も企業も「損をする」ことになると思います。
長年、就活する大学院生を見ていると、就職活動というのは学生にとって苛酷な試練でありますから、逆にそれが社会人として成長する非常に有意義な契機になっていることも認めざるをえません。半年から1年、そうした活動をしてその間研究者としての成長や実験データの蓄積という面ではマイナスになったとしても、社会人としての成長があったのだとしたら、長い就活期間そのものが、必ずしも否定的なものとして非難されるべきだけのものではないのだと思います。
同じように、学部生も長い期間就活をすることになっているのだとしたら(私の周辺では、ほとんどの学生が大学院進学をするので、あまり実際に就活している学部生の例は知らないので、間違っているかもしれませんが)、それは単に「大学の教育の機会を失っている」だけではなく、「大学では得られない貴重な教育の機会を得ている」という側面もあるのかもしれません。
また、学生を社会人として育てるという意味において、現在の大学はあまり評価されていないという声も良く聞きますので、単に企業側に採用活動の自粛を求めるだけでは事態は解決しないと思います。
そこで、どうでしょう。ちょっと荒療治ですが、大学生も1年生から就職活動をカリキュラム化して、授業の一環として行うようにしてしまうということを検討しても良いのではないでしょうか。
もちろん、単なる「模擬就職活動」ではなく、そのカリキュラムの中で良いマッチングが得られたら企業へ就職が「内定」しても良いと思います。ただし、あくまでもそれは「仮の内定」であり、その後、企業と大学が協力してその学生をより企業に役立つ存在へと成長させていくための教育を行うのです。その結果、学生が「内定」に安住して成長が見込まれないということになったら、3年生か4年生の段階で大学と企業が協議の上、「内定取り消し」もありうるというシステムにしておきます。
いろいろと細かくつめなければならないところもたくさんあるとは思いますが、大学と企業(社会)が協力して学生を教育するというシステムをうまく作ることができれば、大学も企業も納得できる高等教育になるのではないかと夢想してみました。
無理でしょうか?
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habichan
at 2008-07-11 00:02
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「就活スーツ」なんていうものとか
「男女機会均等法」も無かった時代に就職活動しましたが。
内定もらうまで、なかなかツライひびでした。
当時は4年生の10月1日解禁で、ほんの1ヶ月程度のことでしたけど
面接うけては落ち・・試験を受けては落ち
女性というだけでうけられない会社だらけで。
今時だと表向きは女性OKとなっていても
本音は男性しかとる気がない会社などもあるでしょう。
さらに企業にとっては
大学1年生の学生に内定を出したとして、
4年後、予定人数を採用できる状態かどうか?
もっと言えば、会社自体が存続しているかどうか??
内定をだせる会社も、とても限られてくるのではないでしょうか?
さらに内定出した人間へのフォローも必要でしょうから
人事の採用担当の忙しさは、今の比ではないでしょう。
さらに大学で勉強するにつれて興味の分野がかわれば
内定もらった会社へ就職する気がなくなる事も考えられます。
ちょっと空論すぎると思います。
「男女機会均等法」も無かった時代に就職活動しましたが。
内定もらうまで、なかなかツライひびでした。
当時は4年生の10月1日解禁で、ほんの1ヶ月程度のことでしたけど
面接うけては落ち・・試験を受けては落ち
女性というだけでうけられない会社だらけで。
今時だと表向きは女性OKとなっていても
本音は男性しかとる気がない会社などもあるでしょう。
さらに企業にとっては
大学1年生の学生に内定を出したとして、
4年後、予定人数を採用できる状態かどうか?
もっと言えば、会社自体が存続しているかどうか??
内定をだせる会社も、とても限られてくるのではないでしょうか?
さらに内定出した人間へのフォローも必要でしょうから
人事の採用担当の忙しさは、今の比ではないでしょう。
さらに大学で勉強するにつれて興味の分野がかわれば
内定もらった会社へ就職する気がなくなる事も考えられます。
ちょっと空論すぎると思います。
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ミスマッチ
at 2008-07-11 06:19
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> また、学生を社会人として育てるという意味において、現在の大学は
> あまり評価されていないという声も良く聞きます
大学が学生に与えようとしているものと、企業が大学に求めているものが
あまりにもかけ離れています。
いくら議論しても絶対にかみ合うことはいでしょう。
> あまり評価されていないという声も良く聞きます
大学が学生に与えようとしているものと、企業が大学に求めているものが
あまりにもかけ離れています。
いくら議論しても絶対にかみ合うことはいでしょう。
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なにしろ
at 2008-07-11 08:41
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日本には企業以外の社会が存在しないので、中立な批判的精神など持たない方がいいんですよ。
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123
at 2008-07-11 10:38
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私はあえて賛成です。habichanさんのご指摘は正しいと思うので、企業にも学生にも新たな痛みが生じますから、今とは違った判断基準が生まれそうです。早く決めたい企業/学生と、遅く決めたい側に分かれるかも知れません。多様性が生まれることは、変わるチャンスではないでしょうか?
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10年前の理学部博士課程修了
at 2008-07-11 11:09
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なにしろさんへ
「企業以外の社会」という観点よりは、大学(アカデミック)内部と外部(企業も含まれる)との温度差が問題だという気がします。で、アカデミックはアカデミック外から(税金などの形で)流れ込む資金で食っているわけですし生産物(学生さんや研究成果の一部)も外部に買ってもらわないと商売上よろしくないわけでして、昨今ではそうそう孤高ではいられないと。
大学で養成される(?)「中立な批判的精神」が高値で売れる社会だとよいのでしょうけどねえ。
個人的には就職(就社)してから大学あるいは大学院へ進学すれば合理的なような気がしますけど、一般的にそうするのは難しそうな。
企業からの紐付き奨学金(その企業に就職すれば返却不要)ってのが
昔からありましたけど(私は応募して落ちました^^;)、こういうのが増え
れば多少はstochinai先生のご要望に近くなりますかね。
「企業以外の社会」という観点よりは、大学(アカデミック)内部と外部(企業も含まれる)との温度差が問題だという気がします。で、アカデミックはアカデミック外から(税金などの形で)流れ込む資金で食っているわけですし生産物(学生さんや研究成果の一部)も外部に買ってもらわないと商売上よろしくないわけでして、昨今ではそうそう孤高ではいられないと。
大学で養成される(?)「中立な批判的精神」が高値で売れる社会だとよいのでしょうけどねえ。
個人的には就職(就社)してから大学あるいは大学院へ進学すれば合理的なような気がしますけど、一般的にそうするのは難しそうな。
企業からの紐付き奨学金(その企業に就職すれば返却不要)ってのが
昔からありましたけど(私は応募して落ちました^^;)、こういうのが増え
れば多少はstochinai先生のご要望に近くなりますかね。
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holy
at 2008-07-12 00:18
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これを見て思い出したのが、昔、隣の研究室にやってきた、韓国人留学生との会話です。ある日のことですが、「明日からしばらくは、就職活動で大学にはこれない。」と伝えたところ、不思議な顔をされました。詳しく聞くと、韓国では、「指導教官から卒論完成が言い渡されるまで、就職活動をしてはいけない」とのことで、就職先を決めるために研究がおろそかになる日本が不思議で仕方ないとのことでした。通常は学部修了半年前、彼女は3ヶ月前にOKが出たそうですが、一度(海外への留学準備を含めた)就職活動をしてみて、再び研究室に戻って研究を始めるようなことも結構あるといっていた気がします。かなり昔の話なのでうろ覚えの部分もありますが、「日本の就職活動は、異色なのかなあ?」と気づかされた出来事でした。
流行のインターンシップは学部3年生で参加しましたが、「大学で、何を学ぶことで社会の要請にこたえられるのか?」という意識が身についた点で、後の大学生活に生きてきましたし、在学中に経験できてよかったと思います。そういった意味で、一年生で就職活動をしてしまうstochinai先生のご意見に賛成しています。
流行のインターンシップは学部3年生で参加しましたが、「大学で、何を学ぶことで社会の要請にこたえられるのか?」という意識が身についた点で、後の大学生活に生きてきましたし、在学中に経験できてよかったと思います。そういった意味で、一年生で就職活動をしてしまうstochinai先生のご意見に賛成しています。
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ひとこと
at 2008-07-12 01:04
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大学の先生が就職活動を重視するのには賛成です。しかし、1年生の段階で、企業は何を選抜の基準にするのでしょう。
大学はピンキリで、企業は明確に序列化し評価しています。例えば、就職説明会の申し込みも、学校別に期限が違います。東大は締切りが最後で、マスプロ教育の私大は、締切りが早いです。1年生からの就職活動は、有名大学の学生の囲い込みの口実を企業与えるだけかも知れません。
学生の就職活動は推奨していますが、日本は企業の態度がでかすぎると思います。
院生に対して傲慢な発言を繰り替える会社員(しかも大抵はうだつの上がらない奴)を見ると、何様のつもりかと、言いたくなります。
大学はピンキリで、企業は明確に序列化し評価しています。例えば、就職説明会の申し込みも、学校別に期限が違います。東大は締切りが最後で、マスプロ教育の私大は、締切りが早いです。1年生からの就職活動は、有名大学の学生の囲い込みの口実を企業与えるだけかも知れません。
学生の就職活動は推奨していますが、日本は企業の態度がでかすぎると思います。
院生に対して傲慢な発言を繰り替える会社員(しかも大抵はうだつの上がらない奴)を見ると、何様のつもりかと、言いたくなります。
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いちエンジニア
at 2008-07-12 16:26
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さすがにこの提案はナシだと思いますよ。
理由は簡単で、企業側も学生側も4年後のことは保障できない点につきます。企業の4年後の業績もわからないし、学生だって留年とか退学とかありえるでしょうし、大体大学院に行きたくなったらどうするんだろう。
双方にとって、これらのリスクを負ってまで1年次に内定を確保する意味はないです。
それに、
>その結果、学生が「内定」に安住して成長が見込まれないということになったら、3年生か4年生の段階で大学と企業が協議の上、「内定取り消し」もありうるというシステムにしておきます。
これってもはや「内定」とは呼べないのでは。
学生の立場に立って考えるなら、holyさんも言及されていますが1-2年の時期にインターンシップを経験しておくのは有意義だと思います。
理由は簡単で、企業側も学生側も4年後のことは保障できない点につきます。企業の4年後の業績もわからないし、学生だって留年とか退学とかありえるでしょうし、大体大学院に行きたくなったらどうするんだろう。
双方にとって、これらのリスクを負ってまで1年次に内定を確保する意味はないです。
それに、
>その結果、学生が「内定」に安住して成長が見込まれないということになったら、3年生か4年生の段階で大学と企業が協議の上、「内定取り消し」もありうるというシステムにしておきます。
これってもはや「内定」とは呼べないのでは。
学生の立場に立って考えるなら、holyさんも言及されていますが1-2年の時期にインターンシップを経験しておくのは有意義だと思います。
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いち大学教員
at 2008-08-06 22:19
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国立大学協会,公立大学協会,日本私立大学団体連合会は何を的外れな要請をしているんだ,というのが正直な感想です。
うち(東京の私大の文系学部)のゼミの学生は全員が3年生の冬頃から4年生の4月までに内定を得ているので,むしろ以前より,4年生の一年間,勉強に専念させやすくなっています。
うち(東京の私大の文系学部)のゼミの学生は全員が3年生の冬頃から4年生の4月までに内定を得ているので,むしろ以前より,4年生の一年間,勉強に専念させやすくなっています。
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試験は?
at 2008-08-07 08:12
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by stochinai
| 2008-07-10 21:32
| 大学・高等教育
|
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