5号館を出て

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二人の「山さん」を弁護してみる

 ひとりは言わずと知れた山本モナさん。まあ、これだけあけすけに事実があっさりと認められるのも、彼女ならではのことでしょうが、それならばそれでそういうキャラであるとして彼女を使いこなせないテレビという媒体の窮屈なことに、今さらながらですが失望します。彼女は同じ事例の「前科」があるわけですから、テレビに復帰させるに当たって、使う側にその覚悟がなかったということが、あっさりと暴露されてしまいました。

 まあ、我々のような小心者であるならば、一度熱湯を飲まされるような思いをしたならば、次には萎縮してしまうものなのですが、モナさんの場合はまったくそのようなことがなかったということのようで、びっくりするほどの同じことを再現してくれました。うがちすぎなのかも知れませんが、モナさんは自分を使う側の人達に敢えて挑戦的に同じことを繰り返してみせて、彼らを試したということのような気もします。

 事務所やテレビ局は、彼女の「前科」のほとぼりが冷めたと判断し、さらに彼女のタレントとしての才能が欲しくて仕方がなかったので、今回レギュラーのキャスターとして再登板させたのだと思います。彼らにとっては、彼女がそういう彼らの思いという「空気」を読んでくれて、しばらくはおとなしくしてくれるのではないかと期待していたのだろうと思いますが、どっこいそんな玉ではなかったようです。

 しかし、彼女の周辺にいる人間ならば、彼女という人間を知っているはずで、今回のようなことは「絶対に起こる」と見ていたのではないでしょうか。

 すごいなあと思うのは、彼女は新しい仕事をもらっても、それを守るために自分の生活を変えるなどということは考えもしなかったと想像されることです。我々などは、もしも認められて新しい仕事や役職をもらったら、途端に自分らしくもなく変に高尚な人間を演じてしまいがちだと思います。モナさんの行動は、そんな我々の小市民的性格を笑い飛ばしてくれたような気もします。

 というわけで今回も、彼女はたった1回の出演で降板させられても、あまり落ち込んでいないのではないかと想像できます。

 そんなスケールの大きなタレントを活躍させることはテレビ業界にも大きなメリットがあると思うのですが、彼らはそのメリットよりも小さな「安定」を望んだようです。滅び行くメディアとしては仕方がないのかもしれませんが、モナファンの私としてはせっかく多くなってきた彼女を見る機会が減ることが残念でなりません。

 ・・・

 もうひとりの山さんは、ヤマダ電気電機の山田昇会長さんです。読売によると、公正取引委員会の排除措置命令に反論したそうです。

 「納入業者にもメリット」ヤマダ電機会長、公取委に反論

 池田信夫blogでも「ヤマダ電機にも一分の理」というエントリーが書かれておりますので、私が敢えて書くまでもないのですが、メーカーの販売員が小売店で営業を手伝うなどということは、あまりにもどこででも行われていることで、この時期にヤマダ電気電機だけが挙げられるということはどういうことなのか、と不思議な気がしました。

 まあ、年商が2兆円にも達しようという超巨大小売り店ですので、独占的になってはいけないと牽制しようという政治的判断があったのかもしれないということはわからないでもないのですが、会長が「納入業者側にも販路拡大のメリットがある。大手などは『お金は不要だ』と言っている。(派遣は)相手からの要望で、いなくてもいい」と言っていることはほんとうのその通りだと思います。

 コンビニや酒屋、あるいはスーパーマーケットなどにメーカーの販売員が日参して製品の陳列などを手伝うなどということは普通に行われている営業活動の一部でもあり、それが現在問題になっている派遣社員と同列に問題にされるようなニュースの扱いにはとても違和感を感じました。

 もちろん、タダでよその会社の社員を使うということは正しくないという議論は間違いではないと思いますが、派遣社員をタダで使っていたというわけではなく、メーカーから給料をもらっている社員がいわばメーカーの正式業務としてヤマダ電気の店番をすることが、公正取引委員会によると「優越的地位の乱用」になってしまうというのは、ちょっと笑ってしまいたくなるような裁定だと思いました。

 おそらく、山本モナさんと山田昇会長さんにはかなりの数のサポーターもいると思いますので、不条理な弾圧に屈することなく、支持者のためにがんばっていただきたいというのが、本日のつぶやきなのであります。
Commented by もしかして皮肉で書かれている? at 2008-07-12 06:56 x
ヤマダ電機の件、池田さんのロジックは「優越的地位の乱用はボトルネック独占の結果に過ぎないので原因(ボトルネック)をなくすべき」という話だと理解している(そもそも地上波テレビ局の独占体制批判への枕話というだけですし)のですが、stochinai先生の書き方だと「優越的地位を(乱用であろうと)有効活用するのは当然」という風に読めてしまったのですが。もし皮肉でなくそう書かれているのであれば、大学関係の話題については政府(の大学に対する)や大学教員(のポスドクや学生に対する)「優越的地位の乱用」に批判的なstochinai先生が、他業界については評価基準が異なるという、ちょっと意外な一面を拝見した気分です(別にそれが悪いとは思いませんけれども)。

Commented by stochinai at 2008-07-12 07:54
 チクリとご批判いただき、ありがとうございました(笑)。

 たった4畳半くらいしかない場末の酒屋さんでさえ、「優越的地位」を利用して(?)、メーカーの販売員にビールなどの陳列をさせていることがよくありますので、ヤマダ電気だけを取り上げてこの件を攻撃していることはおかしいのではないかという風に思ったわけです。さらに、このケースでは、ヤマダ電気よりメーカーの方が「力(金?)がある」存在と思えただけに、見逃しても良いのではないかと思いました。もちろん原理的には、そうしたことにただ乗りしていることが良いことだとは思いませんが、その程度の「役得」は日常生活で我々もついつい享受してしまう程度の「微罪」だと考えています。
Commented by steelpony at 2008-07-12 09:02 x
おはようございます。
毎日楽しく拝読させていただいています。
山本モナさんのニュースは本当に笑っちゃいますね。
stochinaiさんは昼間のテレビは見られないでしょうが、どこのチャンネルでもこのニュースについて延々と報道しているのを見ると可笑しかったです。
他に報道しなければならないことが山ほどあるのに、テレビ局も余程暇なのでしょう。
山本モナさんも神妙に謝罪文を発表しなくてもよろしい。堂々としておればいいことです。

二岡選手も野球場と違うところでバットを振り回したかっただけの話です。放っておけばよろしい。
Commented by stochinai at 2008-07-12 09:43
 この上の上のコメントでも、「ヤマダ電機」を「ヤマダ電気」と書いていますね。お詫びして、訂正させていただきます。
Commented by 鶏肋37歳PD at 2008-07-12 12:50 x
基本的にはメーカーの販売員にビールなどの陳列をさせることも禁止されている筈なのですが。同じ「どこでもやっていること」であっても、遵守すべきことを守っていないのに、食品偽装と扱いが違うのはなぜなのでしょう。
不倫も文化ではないんですがねえ。どこが不条理なのかも、なぜ堂々するべきなのかも分かりません。個人的にはモナさんはどこがいいのかわからないし、不倫ニュース自体興味はないのですが。
Commented by moorhen at 2008-07-12 13:38 x
初めて書き込みいたします。いつも拝見させていただいております。

私は、stochinai先生は寡占状態のもたらす弊害について十分認識しておられると思っておりましたので、もしかして皮肉で書かれている? さんと同様、今回のご意見はいささか意外に感じました。

また、池田信夫blogの記事に関しても、やはり優越的地位の乱用自体は問題であるという趣旨だと私も理解しました(私は池田氏の意見に全面的に賛成というわけではありません、念のため)。ヤマダ電機の「理」は所詮「一分」にしか過ぎないのであって、決して「ヤマダ電機のほうが理がある」と言っているわけではありません。
Commented by moorhen at 2008-07-12 13:38 x
stochinai先生は場末の酒屋の例を持ち出してヤマダ電機を擁護しておられますけれども、家電小売の2割を占め、かつ2位の倍以上規模を持つ寡占企業が零細企業と同じことをするのを許さないという理由で「不条理な弾圧」とおっしゃるのは適切ではないと私は思います。
公取委の役割は市場での公正な競争を確保し促進すること、つまり企業の機会平等の促進であり、その目的のために企業の規模に応じた規制を加えるのは当然のことです。
もちろん企業活動に制限を加えることによってかえって競争が阻害される面も考慮する必要があるので、具体的にどのくらいの規制が適切かは判断が分かれるところです。今回の件について、そのようなバランスも考慮した上でなお専門的組織である公取委の判断に対して「ちょっと笑ってしまいたくなる」とまで軽侮しておられるのならば、私の批判は撤回いたします。

Commented by stochinai at 2008-07-12 14:23
 結局、ヤマダ電機が好きか嫌いかで、意見が分かれそうな気もするのですが・・・。

 公正取引委員会がヤマダ電機の寡占状態を憂慮するのは当然で、何らかの方法でそれを改善するとための指導などをするということは、彼らの役割として正しいと思いますが、それならばもっと正面から寡占を禁止するような措置をとるべきではないかと思います。私は経済のことはあまり良くわかりませんが、今回のやり方は市場経済の健全化を守るやり方としては、ちょっと姑息(政治的?)だし、判断基準があいまいなのでわかりにくかったのではないか、というのが私の感想です。

 蛇足ですが、我が国の公正取引委員会は健全に機能していると言えるのかということも、常々感じていることでもあります。
Commented by moorhen at 2008-07-12 16:55 x
> それならばもっと正面から寡占を禁止するような措置をとるべき

問題なのは、寡占状態そのものではなく、寡占状態によってもたらされる公正な競争の阻害です。したがって「正面から寡占を禁止するような措置」というのは、例えば大男であるというだけで「何するか分からないから繋いでおけ」というようなもので、本来は正しくない措置だと思います(他に競争を保証する手段が無ければ仕方ないですが)。

なお、排除措置命令を出されたことによってヤマダ電機は企業イメージを損なったかもしれませんが、罰金や業務停止など直接のペナルティを科されたわけではないことも申し上げておきます。したがって、業界全体の商慣習を是正する目的で、業界トップとして公取委が命令を出した可能性も否定できないのではと私は思います(素人の勘ぐりかもしれませんが)。
Commented by moorhen at 2008-07-12 17:24 x
今回の件で、メーカーからの社員の派遣という商慣習が公正な競争を阻害しているのは(私は詳しい実態を知らないので断言はできないのですが)メーカーとヤマダ電機との力関係を考えれば、少なくとも十分にありうることと思います。強いブランド力のあるメーカーならともかく、業界3, 4位以下のメーカーにしてみれば、ヤマダ電機との取引が停止になれば少なくとも短期的には売上の2割を失います。であれば、メーカーはヤマダ電機の要求を多少無理でも呑まざるをえないことは容易に想像できます。
したがって、ヤマダ電機会長の主張(強者の論理)に対して全面的な支持を表明されるstochinai先生のご意見の真意は私には測りかねます。

また「結局、ヤマダ電機が好きか嫌いかで、意見が分かれそう」とは、残念なご意見です。
私は自分の感情は一応脇に置いて書いているつもりですので、個人的な好悪を根拠にしていると受け取れる箇所があればお詫びいたします。
Commented by stochinai at 2008-07-12 20:53
 今回の件では、私はヤマダ電機を「全面的に支持している」つもりはまったくありませんし、その私を批判なさっておられる方々も、公正取引委員会のやり方を全面的に支持しているわけではないと思います。私としては、こうした議論を引き出すために多少の誇張は覚悟の上で「弁護してみる」と書いたわけですので、そういう意味では書いた意義があったと満足しています。

 食品偽装などでもそうなのですが、我々消費者は同じ品物ならば少しでも安い方を選びますし、まったく同じ工業製品を安く売っているヤマダ電機を支持しているのは消費者なのだと思います。そのヤマダ電機が不正をした上で、安い価格を維持しているということであるならば当然是正させなければならないわけで、その是正を支持するかしないかも我々国民に委ねられた判断です。もし不正があるならば、公正取引委員会の登場を待つまでもなく、我々が告発できる仕組みも必要なのではないかと思います。
Commented by moorhen at 2008-07-12 22:16 x
> 私はヤマダ電機を「全面的に支持している」つもりはまったくありません

そうですか。その点は安心いたしました。
ただ、私が「ヤマダ電機会長の主張(強者の論理)に対して全面的な支持を表明される」と表現したのは、

> 会長が「(中略)」と言っていることはほんとうのその通りだと思います。

という箇所に基づいてのことでした。上で私が指摘してきたように、弱者たるメーカー側には表に出せない不満がくすぶっていることは十分予想できます。にも関わらず、なぜ強者である会長の言い分は「ほんとうのその通り」で何の疑問も挟まれないのかが不思議だと申し上げたつもりでした。

> こうした議論を引き出すために多少の誇張は覚悟の上で「弁護してみる」と書いたわけです

了解いたしました。では、書き込みを許していただけたことに感謝しつつ、私はこの話題から撤収することにいたします。

Commented by もしかして皮肉で書かれている? at 2008-07-13 11:27 x
そういえば、大学のような高等研究教育分野でも、もし「公正な競争」がなされないようであれば、公正取引委員会のようなものがあってもよさそうですね(まあそうなれば古典的な「学問の自由」観的には敗北でしょうけれど)。自律的に「公正な競争」がなされるという暗黙の前提があったので昔はわりと(良い意味で)治外法権な扱いだったのだと思うのですが、昨今は(世知辛い世情なためか)そうでもなくなってきたような気が。
Commented by stochinai at 2008-07-13 12:11
 moorhenさん、生産的なご議論をありがとうございました。毎日短時間で書いているので、(私の?)ブログ記事はどうしても議論に穴があいていたり、緻密な内容検討がなされていないことが多いので、コメントでいろいろなことを指摘していただくことがあってはじめて意味のあるものになりますので、特にmoorhenさんが書いてくださったような批判的なコメントはとてもありがたいと感謝しております。これからも機会がありましたら、叱咤激励をいただければ幸いです。
Commented by stochinai at 2008-07-13 12:22
 上に書いたことと同じ理由で、「もしかして皮肉で書かれている?」さんのコメントにも、とても助けられています。ありがとうございます。

 大学や研究者の世界では、文科省が「公正な競争」を監視するということになっているのだと思いますが、お金を配るのも、評価するのも同じ文科省であるというのはとてもまずいシステムだと思います。その状況の下で、人事の面で公正な競争がなされていないと、ポスドクなどの多数の候補者が思っているとしたら、いずれシステムは崩壊することになると思います。というか、もうすでに壊れかかっていることを、どのくらいの数の関係者が自覚しているかというところを考えると、あまり明るい展望はないのですが。
by stochinai | 2008-07-11 22:21 | つぶやき | Comments(15)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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