5号館を出て

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天然ハエ取り紙の上に暮らすカメムシ

 これは研究室の廊下で育てているムシトリスミレです。
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 葉にとまった小さなハエが、そこに貼り付いてしまい、だんだんと溶かされて、ムシトリスミレの栄養となります。すでにかなり消化されている、たくさんのコバエが見えます。
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 ムシトリスミレの葉に虫がくっつき消化されるのは、ネバネバとした消化液を含む小滴が葉の表面にびっしり分泌されているからです。
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モウセンゴケなども同じしくみで、虫を捕らえて「食べ」ます。

 ところが、世の中には不思議な植物がいるもので、食虫植物ではないのに同じような粘着性の小滴を分泌して虫を吸着するロリズラ (Roridula) という、南アフリカ産の植物があって、現地では家の中にその葉をつるして天然の「ハエ取り紙」として利用されているとのことです。ロリズラの粘液は食虫植物のように分解酵素を含んでいない、ただのネバネバの樹液なのだそうですが、ロリズラの葉の上には、トラップされた虫を食べる虫が共生していることが知られていました。

 おもしろいことにというか、この葉のネバネバの上に共生しているくらいなので当然とも言えるのですが、この虫(mirid bug:Pameridea roridulae カメムシの仲間のようです:)は、ロリズラの粘液にトラップされずにスイスイと葉の上を歩き回り、動けなくなった虫を食べます。そして、このカメムシの排泄物がロリズラの栄養として利用されるという、驚くべき栄養物のサイクルが成立しているのです。つまり、ロリズラは捕らえた虫をカメムシに消化させて栄養とする、間接的食虫植物なのです。

 これが、Wikipediaに載っているカメムシの写真です。
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 このカメムシがなぜロリズラの粘液にトラップされないかということを調べた論文が発表されました。

An insect trap as habitat: cohesion-failure mechanism prevents adhesion of Pameridea roridulae bugs to the sticky surface of the plant Roridula gorgonias
Dagmar Voigt and Stanislav Gorb
Journal of Experimental Biology 211, 2647-2657 (2008)
doi: 10.1242/jeb.019273

 答はとてもシンプルなのですが、他の虫に比べてこのカメムシの体表には大量の油脂の層があり、他の虫のようにロリズラの粘液に強く粘着するクチクラ層が露出した場所がないということでした。論文の模式図を引用させてもらいます。

天然ハエ取り紙の上に暮らすカメムシ_c0025115_20111249.jpg

 なんだあとおっしゃる方もいるかもしれませんが、この技術は工業的に応用すると、意外におもしろい製品ができるような気もします。

 こういう基礎研究のシーズを産業に結びつけていくには、かなり基礎研究寄りの人材が必要だと思うのですが、いかがでしょうか?

 モトネタは ScienceDaily の How Non-stick Bugs Evade Natural Fly Paper でした。
Commented by wisdom96 at 2008-08-14 22:43
「へ〜」と感心して読ませていただきました。本当にうまく生きていく生物たちの関係には驚かされますよね。
生物の生き方をうまく製品化するというのは色々なところにありそうですよね。これも何だか使えそう。
今話題の水着もNASAの研究者が茹でる前のパスタと茹でた後のパスタの水の中の振る舞いからひらめいたとか・・・。柔軟な発想と地道な基礎研究がうまくリンクして、すばらしい製品ができるのかなとおもいました。
by stochinai | 2008-08-14 20:25 | 生物学 | Comments(1)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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