糞の中のＤＮＡ

　IT Media News でおもしろい記事を発見しました。

　犬のふん対策にDNA分析、イスラエルで

　今週始まった6カ月間の試験プログラムの下、テルアビブ郊外のペタチクバ市は、飼い主らに犬を獣医に連れて行くよう呼び掛けている。獣医は犬の口から綿棒でDNAを採取する。

　同市はDNAデータベースを構築して、ふんと登録済みの犬を照合し、飼い主を特定する。

　飼い犬のふんを拾って、ペタチクバ市街の特別なマーク付きのゴミ箱に捨てた飼い主は、ペットフードのクーポン券と犬用のおもちゃをもらえる。

　だが、路上に放置されたふんがDNAデータベース照合で登録済みの犬と一致した場合、市が飼い主に罰金を科す。

　翻訳前の英語の原文はこちらなどにあります。

　動物の糞の中には、腸の細胞やそのかけらが混入しています。糞の中に含まれるＤＮＡを分析することで、その糞がどんな動物のものなのかばかりではなく、個体を識別することもできるので、発見や捕獲が難しい野生動物の生態調査や行動追跡などに利用されるようになってきています。もちろん、糞の中には自分のＤＮＡばかりではなく、餌になった動植物のＤＮＡや、腸内細菌のＤＮＡも含まれているので、それらを調べると何を食べているのかとか、場合によっては健康状態を推定することができることもあります。

　ニュースになった糞を調べて犬を特定し、それを放りっぱなしにしていた飼い主を罰するということは、そうした動物学研究を人間の社会生活に応用したものと言えますが、生態学的研究の応用として、「これはスゴイ」というほどのものではありません。

　最近、日本では犬を飼う人が多くなっているようにも思えますが、私が子どもの頃に比べると路上に落ちている犬の糞は激減していますので、日本ではこういう話は持ち上がってこないような気がします。パリでは路上にたくさんの犬の糞が落ちているという話を聞いたことがありますが、今回のニュースはイスラエルです。ちょっと調べてみると、ドレスデン（ドイツ）ではすでに３年前に同じ技術を利用したものが条例で制定されていることがわかりました。

　ＤＮＡで飼い主割り出し罰金　平成１７年４月１４日（木）産経新聞

　この作戦は、飼い犬すべてのＤＮＡを登録したデータベースがなければ実行できませんから、最初に強制的にＤＮＡを採取するところをどのように保証していくかが成功の鍵になります。すべての飼い犬がペットショップを経由しているならば、そこを押さえておけば良いのかもしれませんが、あちこちで勝手に生まれた犬がさまざまな方法で広がっていきますから、完全なデータベースを作るのは難しそうです。日本だと犬には狂犬病の予防注射が義務づけられていますから、注射に来た犬のお尻を綿棒でふき取ることでほとんどの個体を網羅したＤＮＡデータベースを作ることは比較的簡単にできそうですが、それほどまでにお金をかけて糞の落とし主を罰するという声が高まりそうには思えません。

　いずれにしても、これは犬のことですし目的も糞をした犬を特定して罰するということに限られるようなので、あまり反対が出ないのかもしれませんが、同じようなデータベースを人間で作ると、とてつもなく強力な国民管理体制を作ることができます。もちろん糞や髪の毛だけではなく、汗や唾液、フケ、場合によっては指紋の脂の中にもＤＮＡが含まれることがありますので、いつどこに誰が居たのかということを確実に把握することができます。犯罪操作という観点からはとてつもなく強力なツールとなるのですが、個人の行動のプライバシーというものもすべてなくなるということにもなりかねません。

　たかが犬の糞の話ですが、いろいろなことが次々と連想される恐いニュースだと思いました。