5号館を出て

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ノーベル化学賞: 生物現象のわかりやすさ

 化学賞とはいうものの、主に生物学方面で使われているGFP(緑色の蛍光を発するタンパク質)を発見した下村脩さんと、それを実験に適用することを思いついたマーティン・チャルフィー(Martin Chalfie)さん、それにタンパク質を改造して光を強くしたりいろいろな色を作ったりして応用範囲を拡大したロジャー・Y・チエン(Roger Y. Tsien)さんの研究は、昨日の物理学賞と比べると明らかにわかりやすかったはずです(笑)。これが、生物学の強みのひとつだと思います。

 そして、何よりも広く世界中で利用されているということが、大きな受賞の理由になりました。なにせ、私たちのような場末のラボでも使っているのです。参考までに、昨年修士を卒業したM本さんが作った、GFP遺伝子を組み込んだアフリカツメガエルの写真をお見せします。
ノーベル化学賞: 生物現象のわかりやすさ_c0025115_20273142.jpg
 上にいるのがGFPを組み込んだもので、下が普通のオタマジャクシです。

 青い光を当てると緑に光ります。わかりやすくないですか?

 ところで下村さんは、現在アメリカ在住ですが国籍は変わっていないようで、アメリカのAP通信社の記事にも、きちんと日本人であると書いてあります。

 1 Japanese, 2 Americans win Nobel chemistry prize
 Japan's Osamu Shimomura and Americans Martin Chalfie and Roger Tsien shared the prize for their research on green fluorescent protein, or GFP, the Royal Swedish Academy of Sciences said.
 下村さん、現在はウッズホールの研究所も退いているようですが、まだ向こうにいて悠々自適の研究生活でも送っておられるのかもしれませんね。

 物理学賞の南部陽一郎さんはまだ現役のようでしたが、いずれにしても年老いた研究者にとって(年老いていなくても?)アメリカという国が住みやすいところだということなのかもしれません。

 昨日の物理学賞受賞を受けて、官房長官が巨大粒子加速器の誘致に前向きなどというニュースも出ていました。それも悪くはないですが、数千億円あったら大量に生産した博士をなんとかできるのではないでしょうか。科学者が住みよい日本にすることのほうが、今後のノーベル賞受賞者のためには大切だと思いますが、そういう「地味」なアイディアは選挙前には使えないということなんでしょうね。
 河村官房長官は8日午前の記者会見で、日米欧などが進める巨大粒子加速器「国際リニアコライダー」(ILC)計画について、「政府として本格的に取り組むときが来た。関係府省で検討する仕組みをつくる必要がある」と述べ、日本国内への誘致に前向きな姿勢を示した。
 物理学賞にしても化学賞にしても、日本では科学研究にあまりお金が使われていなかった時期に行われたものであることも再確認しておきたいものです。もちろん、学生の数も少なかったし、大学院生はごくごく小数だったし、日本にはポスドクなどというものもなかったし、大学も法人化していなかったし、益川さんみたいに「教科名と名前だけ書けば単位をくれる」というので有名な先生もたくさんいた時代の話です。

 さて、ノーベル賞をたくさんとるためには、大学はどうなったらいいのでしょうか??
Commented by M姫 at 2008-10-08 22:26 x
>さて、ノーベル賞をたくさんとるためには、大学はどうなったらいいのでしょうか??

究極は、ノーベル賞をとりそうな研究者をヘッドハンティングする。
高いお給料と研究環境を用意して。
でしょう。

そのための目利きが出来る経営者と、人事権とお金が必要です。

と、夢の無い事を言って申し訳ございません。
Commented by stochinai at 2008-10-09 00:00
 まあ、確かに夢はないかもしれないですが、それがおそらく今文科省がやりたいと思っていることなのかもしれませんね。そうだとすると、やはり大学はこんなにたくさんいらなくて、東京大学**校とかいうものを10個ほど作り、他はつぶすのが経営的には正解ということになりそうです。
Commented by M姫 at 2008-10-09 01:06 x
でも、日本はそんな夢のない国になって欲しくないと思ってしまいますね。
たとえ経済的に非合理性であっても。
Commented by 【な】 at 2008-10-09 02:12 x
その「夢のない」ことで一時的に成功しても長い目で見ると成功しないでしょうね。人を育てることができなければ結局じり貧でしょう。
Commented by ひとこと at 2008-10-09 06:13 x
下村先生の研究室は、Woods HoleのMBLのLilieという建物の1階にありました。ハリケーンが来たら水が来るかもしれない環境でMBLの中では必ずしも良い場所ではありませんでした。奥様と先生、テクニシャンくらいの小さなラボでした。GFPがブレークし始めた2002年に予算と年齢の関係かと推察しますが75歳前後で引退し、ラボを閉めたと思います。

もし、下村先生が日本にいてGFPの発見をしていたとしても、老害扱いで75歳までは研究できなかったと思います。同様のことは、神経の生理学で有名な田崎一二先生も言われていました。
Commented by まず最初に at 2008-10-09 10:12 x
ノーベル賞を取るためにお金を使うのがいいのかどうか考えてもらいませんと。
Commented by shousiminjp at 2008-10-09 11:17 x
あんまり均等化しないことじゃないかな・・
Commented by てけてけて at 2008-10-09 12:24 x
私も、shousiminjpさんに同意します。

特に小学校での思い出ですが、課題が人より早くできて、暇だから課題より先の部分を見ていると、「余計ないことをしないで、待っていなさい」と言われ、待っていた子がやっと出来上がると、「えらいねえ」と褒められる。他人を邪魔していないのに、自から先の課題に取り組んでいることを、恒常的に分かりやすく否定しておきながら、大学生になった途端に「自ら、学ぶ…」と言われても、しっくりきません。その変化に適応するのが大学生の役割なのでしょうが、余りの反応の違いに戸惑ってしまいました。

新卒採用で学生を早期選抜していると会社には、「こういう均一化に長い間さらされる前にいち早く抜け出して、天井を感じずにのびのび育ってほしい」という意図を持っているところもあると聞きます。そういった企業から、「大学で天井を感じずに伸び伸びと育って、伸びきった姿で評価をしたい」と、ギリギリまで任せてもらえるような大学になればと願っています。小学校の想い出のような都合のいい二枚舌はいたるところで感じますし、そのことが能力ある人の居心地を悪くしているのではないでしょうか?
Commented by くねくね at 2008-10-10 13:01 x
自由にのびのびやるには広く資金や時間の余裕が必要ですよね。
Commented by M at 2008-10-10 17:19 x
まったくです。今日も自費で買ったXXX を使って実験しました。
あー医学部行くんだったと激しく後悔、、。
Commented by sue at 2008-10-11 15:34 x
釈迦に説法ですが、ノーベル賞でしか科学・技術の成果を測れないというのもいかがなものかと。。。うちの業界がノーベル賞の範囲外だから言うわけではないですが。
※平和賞をカウントすれば一つありますけど(^^;
Commented by stochinai at 2008-10-11 15:43
 まったくです。実は「生物学」というのもないので、生態や分類などの生物学分野はほとんど無視されることになります(例外的に行動学者のローレンツたちが医学・生理学賞でもらってます)。今回のGFPも「化学賞」ですし、科学(だけじゃないし)全体からみると歪んだ表彰の仕方なんですよね。
by stochinai | 2008-10-08 20:52 | 科学一般 | Comments(12)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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